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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
破天を突くは闇
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闇の裁き 3

森は陽光によって朱へと顔色を見せ始めてくれるだろうという刻、ノレムの捜索に出た5名は森林の手前に広がる野原に一度、集合していた

個々で手分けしてノレムを捜すが、今日も収穫はなく。また無駄な1日となってしまったが、そうなった原因でもあるジョーカーは気楽に鼻唄を奏でながら、棺桶を背負い、鍋や調理道具の用意をしている

「何をやっているのか、このお方は・・・」と、彼の呑気さに少し羨ましさを覚えるカラスの頭に、一羽の銀色の(カラス)がとまった


「お、食材が自ら」


「そんなお約束のジョークはいいから」


クアンツの軽い冗談を軽くあしらい、空から広範囲にノレムを捜してくれた鴉を腕にとまらせ、労うように指で撫で、朝に作っておいた茹でとり肉を食事として与える


「んで、ジョーカー様。お尋ねしますが、どうしてここで料理する気満々なのですか?」


「そりゃあ、この中で一番料理できるのは私だろうからさ、たぶん。ハオンを無理矢理にでも連れてくるべきだったかもな」


「そうじゃなくてですね!ここから見下ろす先にすぐ、街もあるというのに!そこで食事と宿の手配をすればよいのでは!?」


「これから宿を探し、急に押しかけたとて迷惑になるだけだ。今夜は、ここで野宿をする」


そんなもの、宿代の倍の値段でも払えば急な客だろうが黙って歓迎されるものをと、カラスは思ったが、あのジョーカーのことだ、思いつきの適当な理由を並べて、単に今宵は野宿をしたいだけだろう


「いや、ジョーカー様!俺だけならともかく!スペード様をこんな野原と土の上で寝させるつもりか!?」


「え?」


カラスの主を思っての訴えとは裏腹に、スペードは焚き火用に薪を組み、今夜の野宿を楽しもうとしていた

その様子にカラスは目を細め、口をへの字に曲げ、なんとも言えない表情に


「安心するがいい、カラスよ。学生の頃に校外授業でこういった類の習いは受けている。ベッドと机に伏せて眠る以外は久しぶりのことだ」


最近は机に伏せて、眠ってしまうことが多い

そんなスペードに忙しい身なのだなと、ジョーカーは哀れみながら、今回とは別に彼には多く休みを取り、自分を労わって欲しいと願うばかりである


「うーむ。作りたい料理があるのに足りないのがあるな。ちょいと、街に食材の買い出しに行ってくる。すぐには戻りますのでその間、火番と棺をお願いします。ついてこい、クアンツ」


「アイアイサー!」


ジョーカーとクアンツは街へ食材の買い出しに向かったが、あの御二方だけ行かせるのに、一抹の不安は残るのは何故だろう?

街で騒ぎを立てないことを祈り、カラスは置かれていった棺桶をコンコンと叩いた

反応は、やはりない。というか、発してから中にいる者が動いてる姿を見ていない


「やめておけ。起こしてしまい、不機嫌ならば手がつけられぬぞ」


「では、見張るだけに留めておきましょう。スペード様なら対処できますでしょうが、俺なら死んでしまいますからね」


買い出しに出たジョーカーは、1時間ちょっとで戻ってきた

ついていったはずのクアンツはおらず、代わりに女性2人を侍らせている


「お待たせしました。暗くなる前に、料理を始めましょう」


「ちょいと待て!クアンツはどうしました!?」


さすがにジョーカーと呼ぶわけにはいかないので、注意を払って訊ねる


「あいつはトイレに用を足しにね。待っていたら寂しくなってきたのでつい」


「何が寂しくなってつい、ですか!何で置いてきたのですか!?」


「だって、このお嬢ちゃん達が早く行こうと急かすもので・・・」


連れてきた女性の2人は、機嫌が良いようには見えない

街からここまで来させられたのだから、無理もないだろう

方や髪と化粧の具合を気にし、方やあくびをする

こいつらをどうするのだろう?と、カラスが疑問に思う傍ら、お構いなしにスペードとジョーカーは調理の準備に取り掛かっていた

いつのまにかクアンツの姿がそこにあったので、カラスは思わず二度見する


「誰かワインをご所望?馬鹿みたいにチーズを買ったら、店主からおまけでくれたんだが。僕はお酒がダメなのでな」


「ご存知かもしれんが、私も酒は得意ではないぞジョーカー。好き好んで飲まなくてよいなら、飲みたくはない」


「そうだよなー・・・カラスはどうだ?」


「俺、まだ14なのですけど・・・」


しょうがないので、これは妻に譲ろう。ジョーカーの正妻はワインとビールが大好きな酒豪なので


「ほら、おたくらはさっさと帰りな。最後に抱きしめてくれるかい?」


自分で連れてきた2人の女性に、この場から立ち去るよう促す。抱きしめられたいのか、ジョーカーは両手を広げ、女性を迎え入れる体勢

しかし、当然であるが自分から連れてきておいて、すぐに帰れと言われ、あわよくば抱きしめてやれるほどに人間とはお人好しではないので、思いっきりビンタをお見舞いしてやった

彼の顔を隠す女能面が飛んでいき、生い茂る草の上に落ちる

女性らは、怒りを隠しきれない様子で去っていった


「あとで覚えてろよ・・・」


自業自得である

女能面をクアンツが拾い届け、それを顔に付け直していたら、スペードが包丁を手に尋ねてきた

刺されるわけではなさそうだ


「ジョーカー、頼まれていたトマトと水牛のチーズが切り終わった。サイズは不揃いではあるが、こんなものでよいか?」


使われた2つのまな板にはそれぞれ、半分に切られた小さめトマトと、一口サイズほどにカットされたモッツァレラチーズが並べられていた

慣れないことをしたせいか、半分に切るだけのトマトはともかく、チーズの方はサイズや形がバラバラである


「そんなグルメだと通ぶる馬鹿共じゃないのだからさ、サイズの大小や均一にこだわりなんてありませんよ。グルメなのは得をしないですよ」


トマトとモッツァレラチーズを5枚の皿に盛り付け、オリーブオイルに塩と黒胡椒で味付けをし、最後にバジルを添えればすぐに完成

インサラータ・カプレーゼなのか、もどきなのか曖昧であるが、モッツァレラチーズをこうして食べたかっただけである


「さてと、パスタのソースはスペードさんへご機嫌とりの為にカルボナーラにいたします。もちろん、生クリームは不使用で」


「それは嬉しいな」


クアンツが茹でてくれていたパスタに卵黄とペコリーノチーズを加え、よく和える

それに入れるグアンチャーレという、豚トロを塩漬けにして数週間熟成させたものだけは、スペードが調理を行う

これをフライパンに多めにひいたオリーブオイルで、少しフライドしたのがスペードの好みである

黒胡椒はお好みで

4枚のランチョンマットをテーブルに敷き、そこに皿に盛りつけたサラダにパスタ料理、デザートにチョコプリンも並べる

飲み物には、とてつもなく冷えたミネラルウォーターの瓶を各1本ずつ

そして、盆に乗せた料理を棺の前に置き、ジョーカーは街を見渡しやすい位置へ少し歩んだ


「ではでは、食事の前に・・・」


右手人さし指を立て、先端には蛍光の黄緑色をした雷撃が生じる。その雷光は、一気に増大した

嫌な予感がしたので、スペードが背後から羽交い締め、抑止する


「そなたが呟いていたあとで覚えてろとは、このことか!?」


「そうです。彼女らにフラれ、良いビンタを残暑見舞いされたのは特に恨みもないが、顔を思い出すと、なんだか消えて欲しくなってきたので」


振りほどこうという抵抗もせず、羽交い締めにされているジョーカーは大人しかった

まだ急に行いはしないなと判断し、拘束を解き、こちらに正面を向けさせる


「ジョーカー!我らが意図し、事を荒立てるのは避けよう!当たり前のことだ!解っていてやろうとするでない!」


「いや、なんだか、ついな」


昔から、こういうやつだというのは知っているので、慌てふためき、怒ったりはせずに溜め息が出る


「連れてきた女性だけではなく、無闇に関係のない者達を・・・目の前で大量に滅するつもりであるのならば、事が荒立つ前に、私も実力行使にて、そなたを止めることになろう」


スペードの右腕から侵食していくかのように、身体の半分を黒い稲妻が覆った


「私とスペードが小競り合いしたら、被害があの街1つどころじゃなくなりそうだな」


「うむ、それもそうだ。いい加減、食事にしよう。せっかく、そなたがカルボナーラを作ってくれたのだ。がっつきたくてたまらないぐらい好物なのは知っているだろう?早くいただきたい」


息を呑んでいたカラスは、スペード様がいてくれて本当によかったと、心から思う

街を消そうとする狂気の気配と、女能面に長い黒髪を靡かせ、エプロン姿で調理する姿は、今夜の夢に出そうだ

やっと食事だと、各自フォークを手に取る

ジョーカーのパスタ料理だけ、見間違いや気のせいでは済まされないぐらいの量であった

パスタの量が多いせいで、味が薄くなってしまったのか、女脳面を被っているので表情は見えなくとも、落ち込んでいるのはわかる

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