夜明けは過ぎて陽射し入る 4
上から、下から、剣刃が接触してすぐ互いは火花を散らしながら剣を引く
刃の闇が床へ数滴垂れ落ち、まるで液体だが纏う闇が減るわけではない
ノレムは次の一撃へ、剣を左脇下に通すと手首を捻り刃の向きを縦から水平に変え一気に横斬りを
黒紫の4つの斬撃と共に、モトキは剣で剣を止めることはせず右手の盾で防ぎながら光属性エネルギーを波動として盾から放出
4つの斬撃は黒炭となり崩れてしまい、光の波動は壁や天井、壁に亀裂を生ませる
「壊さないが為に細心の注意ってやつか?」
左の掌にヘドロでも塗りたくった闇を、闇は掌中心に透き通る波状に拡がり光を押し返す
拡がった波は天井をも、壁、床を切断し、博物館に切れ目を入れ消えてしまう
「俺には関係のない場所だからな、お前もだろ」
床を殴る。一瞬揺れた後に博物館は闇の拡がりで入った切れ目より2つに僅かだが分かれ開き、境界間には深く見えない底が
幅は10センチほど、物を落とせば二度と拾うことはできないだろう
天井からは空の景色が開いた。幅範囲で
「お前も気にせず闘うことだ。気にするのは他者がいないかだけ。ジョーカー様より、目的人と関してきた者以外はなるべく傷つけるなど。なるべくだから、しょうがないもある」
「この博物館で済ませるさ」
手紙にあった季節における体を壊さない心配といい、ジョーカーはもしかしたら気づかいのできる方なのだろうか
噂では冷酷残忍なる他の五星があちら側の光ならば彼だけは影、手を汚すことも躊躇いないやつ。もしかしたら自ら汚れ役を買っているのかもしれないとモトキの勝手な解釈
「済ませることができるならば」
床を蹴り、距離を一気に詰めて仕掛けてきた
両手で剣を握りながら最初は大振りも、隙のつけにくい素早い手数で攻める。荒さを感じるものの、基本をしっかりと習ったであろう剣術
盾を主に、防ぎつつも盾で殴り、剣を振るも剛から柔へ移し攻撃を流し剛なる防御も行う
(己の我流を押しつけない、良い師か先生の元で教えられたか?)
盾で受けた剣を押す。僅かに、余分に引きをされてしまったところを左手の剣を一度回転を加え、防御する剣刃へわざと叩きつける
床を削りながら後退させられ、剣先を刺すことで停止
(手を抜かれている気がする)
腑に落ちなくなってきたノレムは、左手で剣を引きずり、走りは最初ゆっくりからスピードを上げ、右拳を握りしめ殴りかかる
だがモトキはいた場所から姿を消し、彼の両手剣を握っていたはずの左拳が先に腹部へ
(わかりやす過ぎたかな・・・)
めり込んでいき、このまま力をいれ殴り飛ばされる前に、左手の剣をモトキの首へ叩きつける
右手に装備されていた盾が跳ね、間へと入り迫る刃を両手剣が防いだ
そのまま殴り飛ばされてしまい、いくつかの展示物にぶつかりながら最後に壁を突き破る
外へと出た。馬車が出発した直後であり、突如壁の崩壊する轟音にミナールの視線がそちらへ。広場まで届いたのか人々の悲鳴する
彼は背中から落ち滑り、止まった場所はミナールの真下
「くそ・・・舐められたことを」
「なっ!?」
スカート中の白いものが見えるが彼は慌てもせず、興味が微塵もなく、顔も変わらず冷静だった
彼にパンツは映っていない。思い返すのは剣で刺すこともできたのに拳でやられたことが気に入らない。ついさっき直撃した一撃も致命傷を負う馬鹿力ではない
彼は顔を踏みつけられたが、すくに滑り抜けメイド服を着る者のところへ
彼女が糸をノレムの胴に巻きつかせて引っ張り出したのだ
「お兄様、破廉恥」
「拭くものをくれ」
黒いハンカチを渡され、鼻血を拭ってから鼻をかむ
血塊が付着し、その面を閉じ畳んで返すと顔へ投げつけられた
小さな声で謝りハンカチを自分の懐へ
(あいつは?倒されたわけではないよね・・・)
「1人増えたとしていいのか?あれは」
いつのまにか自分の横にいた。モトキの瞳に映るのはノレムより長く同じ髪色だが配色が逆のメイド服を着た少女
お兄様と発していたので彼女は妹なのだろうか?剣は盾の鞘に納められており、柄を両手で持ち剣先を下へ
「あの御人と戦っていたのですか?エトワリング家の御令嬢を優先せず」
「俺の任はエトワリング家の御令嬢ではないことにした。どうでもいい・・・ジョーカー様からも好きに選べと、だからあいつを選んだ」
自分も捕らえるようとはせず逃がしたくせにと現場を目にしたミナールは物申したい顔
それに気づいたノレムの妹は彼女へウィンクを送る。兄は首を傾げた
「お前、妹がいたんだな」
「まぁ・・・な。俺とは違うとだけ告げておく、気をつけろよ」
妹の肩を叩く。ならばこちらもMaster The Orderの彼女であると、向こうに同じく肩を叩き自慢する形をしようと企んだがミナールが凄い形相で睨んできたのでやめた
顔を逸らし、3歩距離をおく
「勝手に戦うことになってるけど、元より彼女と触発寸前でしたので」
兄と同じく闇のゲートより、剣の柄とは違うなにかが現れ、それを掴み引き抜くと正体は針
彼女の身長を半分は越える縫い針
「お兄様は貴方に名乗られた?名乗られるはず・・・ならば私も。私はソニーム・グリンター、きっとお兄様は価値のない姓と仰られていたでしょう。けど価値は無くとも兄妹には大切な姓」
「正解だな、グリンター兄妹。ジョーカーからの刺客も共通としていいのか?」
「共通としましょう、私達はジョーカー様の命より・・・」
針と闇に覆われた刃を2回ぶつけ合い、兄妹揃ってそれぞれの先端を向ける
モトキは一層に柄を握る力を強く、身構えた
「ジョーカーのことよ、あんた達は事態が悪ければ捨てられる駒かもしれない。利用とだけしか・・・」
戦闘前の最後の確かめ。五星の中でも冷酷とされているジョーカーのこと、きっと部下など容易に切り捨てる。遊び半分やからかいだけとしても
だが、ノレムの言葉がミナールの言葉を遮る
「たとえ使い棄ての駒と扱われたならばそれでもかまわない!!一回でも一瞬でもジョーカー様が役に立ったと思われていただけたならばこの身に余る喜!!ジョーカー様の為なら軽く命など必要もない、当たり前だ!!救われてからの決め事!!ジョーカー様とあの時出逢うことがなければ俺達兄妹、お前ら側の奴隷だ・・・」
「奴隷・・・?」
ジョーカーに騙されているではない、目の当たりにしたと訴える哀愁滲む顔が物語っている
妹の方は顔を見せないよう正面を向かず、兄は口走ってしまったと反省に変わっていく
「もういいだろ。お前に、モトキ・・・耳にしてから戦ってほしくなかった」
「そうか・・・」
これ以上何も言わない、質問しない。言わないでただ挑むと瞳で伝える
ノレムの表情はモトキのそのような顔を見ることで戻り、剣をちゃんと両手で握りしめて
「礼を言う・・・」
ノレムは黒紫の斬撃をモトキにではなく、振り向き残されたもう一台の馬車へ
馬2頭と馬車を切り離し、逃がす
街で暴れる危険もあるが、馬に罪の巻き添えをさせるわけにはいかない
「2人仲良し離れずをしてあげましょうか?」
縫い針を手首のピンクッションから一本、青い糸を通して投げるとモトキとミナールの間を抜けて
小さい針なのでどこに落ちたのか、探すのが面倒になりそうだ
狙っている様子もなかったので避けはしなかったが、意味があってなのか、ただのからかいのつもりなのか?
「お嬢さんには悪いがモトキに集中させてもらう」
両手で握られた剣で、突きから入っあ。突き迫る刃先、盾で防いだ後に猛攻をしかけてくるだろうと柄を握り下へ先端を向けたそこから振り上げ、鞘から剣が抜けると同時に相手へ盾を投げつける
突きの型をやめ、盾の面へ剣を打ちつけ地に押しつけすぐに斬りかかりへ戻る
モトキは動かずその場で構え、迎え撃つ準備を
ミナールは光と水で独鈷杵の刃にリーチを補い、横からモトキに襲いかかるノレムへ攻撃を
「おっと、こちらにじゃなくてお兄様に。えいっ」
左手人さし指を動かす。剣を振る兄であるノレムの目前にいた彼の姿は消え、横からの彼女も止まり、急に体を引っ張られてしまいモトキとミナールの両者は激突
「ちょっと!どうなってるのよ!?」
「身体が引っ張られたような・・・」
空振りした、ノレムは舌打ち
起こったことがわからず2人ははすぐに体勢を戻そうとするが、ふとした異変に気づく
両者離れることがでず、モトキの左腕とミナールの右腕がくっついてしまっている。ここでいきなり滲んできた痛み
くっつく腕と腕の隙間より肉に縫いつけられた青い糸が覗く
「えー、ちょっと笑えない悪戯なんですけど」
「薄い刃すらいれる隙間がないほどくっついて、というより無いわね。つくることもできない。ちょっぴり覗いてる青糸を切ってみたけど無意味だわ」
「二人仲良し離れず」はこのことか、ソニーム自身はお上品に笑うも眼は笑っていない
余計なことをと思う兄だが、戦い方はそれぞれの活かし方法の持ち味なので咎めはしない
モトキの状況でも容赦なく剣で斬りかかる。盾を手に戻す間もなく、剣はいつもの左手とは逆の右手に出現させながらしゃがみ、横振りを躱す
不意なことでミナールも身を低く、だが尻から着いてしまい何故か反射的に左手でモトキを殴ってしまった
ノレムは身を低くしたモトキの脳天へ剣を振り下ろすが、やはり右手の剣で防御をしてきた
下ろすのを刃の部からフェラー部に切り替え叩きつけ、一瞬で剣を引き、突きからの素早く重い猛攻を
最初の突きを避けはしたが左肩を掠め、ノレムの猛攻を受け防ぎ避けながらも反撃を出すことが難しい。
剣を振るタイミングを見計らい、一度下へ放ち一瞬にして真上へ突き上げる攻撃で顎下を狙う
モトキへも刃が首に触れる寸前であるがこのまま紙一重自分の剣の方が到達は速い
ノレムは後退した。そして剣を薙ぎ払い広範囲なる黒紫の斬撃を放つ
空振りしたモトキの剣は空気を貫き、旋風を起こすだけ
「しょうがないわね」
水刃を纏う独鈷杵を軽く振ると前方の地に水の切れ目が横線に刻まれ、静かに薄い水壁が張られる
闇の斬撃を受け黒紫色の火花を生ませるが、ミナールは水壁に手甲で叩くと壁全域から激水となり斬撃を呑み込み消滅させる
「ふん、さすがMaster The Orderといったとこか」
剣の柄を掌で一回転させ、持つ右手を引き襲いくる水へ風をも貫き消す突き
闇が螺旋となり水を捻り開く
「お兄様頑張れー」
「応援どうも」
お前も戦えとは言わない、妹は自分よりも強いからもあるが、だから戦ってくれは違うのである
開かれた水、水飛沫が舞う中で寒気が兄妹を不意に襲った
(気温の低下?)
まずは水粒から一気に膨大なる激水は凍ってしまい、足元は元より、胴や腕にもわずかな水から繋がって凍りほぼ全身へと渡り拘束されてしまう
「寒い、わりと」
「でしょうね」
凍りつかせるだけでは倒せる甘さではない、体に力をいれ氷を砕く前に耳に割れる音が通る
前に美しくも鋭い氷壁より光が、亀裂が刻まれ砕け散ったそこより繋がれた腕の掌で光を握り締め両者は殴りかかる
「これが!」
「半分やけくそだ!」