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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
195/217

地をいく傭兵団 34

その身、全てを覆った白き光はやがて影を纏ったかの如くドス黒く濁り、姿を形成していく

長き髪となり、尾が伸び、手足の指先は鋭く、両眼に位置する部分は円状で白く不気味な眼光を発した

目撃した者が教えなければ、モトキとはわからない程に別の異様な生物へと変貌した


「グルォォォォォォォーーーーーーッッッッ!!!!」


轟く獣じみた咆哮は大気も地殻をも震撼させる

苦しそうで荒い息遣いから、地面に着く両手は大地を掴んだ


「モトキ!!自分の意識はあるか!?邪心に囚われるな!!」


どう見たって近づくべきではない状態のモトキに、危険など顧みずつもりなく、なんとか平常心を取り戻させようと声を送るタイガを尾の一振りによる強打で、遥か空の彼方へと撲り飛ばした


「そなたもどうやら、バケモノの類だったようだな」


その通りである。誰も擁護も否定もすることはない

ただ前にある現状にアオバもクローイも言葉が出ず、恐怖で静観することしかできない

あれはモトキである真実をまだ、呑み込めずにいるのだ


「グルルルル・・・!」


苦しそうで荒い息遣いに、その姿の内で何を思っているのかは解らないが、殺意だけは明確に伝わってくる

これまで何度も幼少の頃に遭ったイジメや、親友の死、自分の至らなさでエトワリング家の件、他等々、今日(こんにち)にまで助けられもしてきたが、どこにぶつければいいのかわからない負の感情は残り続け、己の知らぬところでずっと溜め込まれ続けてきたこと

そして、先に目の前で起きた酷い死に、ただでさえ亀裂だらけの何もかもが砕け散ったこと

もう、我慢の限界である


「自らを静止できず狂った生物は、どれほどに生態系に影響が起ころうともに狩らなくてはなら・・・」


言い切る前に、モトキが目にも留まらぬ速さで強襲する

ランベの腹部に拳が入り、肉を貫いた


「ゴアハッッ!!ぐっ!!」


腹を貫かれるも、接近しているモトキの背に、上からランスを突き立て反撃

そのまま一度、自身の周りを一周させるように引きずり回してから円錐槍を振り上げ、その勢いに任せて遥か上空へと放り投げた

そしてすぐ槍には雷撃がより強く走らせ、右腕を引き、狙いを定め、構える


雷煌迅(らいこうじん)・ギルガデカ(ホーン)!!」


自身が稲妻と化し、遥か上空へ放り投げたモトキへ一瞬にして接近すると、膨大な量の雷の力を帯び、特大な角となったランスを突き放つ

それに対しモトキは、光の力を握った右拳を迫る雷撃の角へと真正面から打ち込んだ

閃光から、大空広域に雷撃が流れ走る


「手ごたえはあった・・・」


確かに手ごたえはあったが、今の彼から常時発せられている迸る殺意はまだ消えてはいはい

手にする円錐槍の先に、胴体の右半分近くが抉れたモトキの姿があった

灰すら一切残さずつもりでいたが、あの拳の一撃で予定していた軌道が逸れ、外したようだ

しかし、本来ならば掠っただけで普通の生物ならば致命となるが、顔色が変わる様子もなく、抉れた部位は黒い繊維が絡み合い、修復されていく

その最中、爪を立て掴もうとする形にした片手を突き出し、モトキが強襲してきた


「技もなく、ただ目の前にある他生物を襲う獣め!」


稲妻化することで超スピードによる回避から背後に回り込み、攻撃しようとしたが、モトキがより速く、黒き光の一閃とも言うべき、全身を使っての体当たりを行なう

それによりランベは遠く弾き飛ばされはしたものの、再度稲妻と化して接近してきた

体を貫き抜こうとランスの強力な突きが自身に向け放たれるも、寸前で躱す

しかしその直後、急な方向転換から再度迫ってきたので、躱した際の勢いから身体を捻らせ、尾をランベの頭上めがけて振り落とした

彼は尾を上から叩きつけられ、地面へ真っ逆さまに落下する


「おのれ!」


落下の最中、左手に出現させた盾の面を向け、その縁から幾多もの多方向に広がる稲妻を一斉に放ち、モトキに集中攻撃するも、雷撃が一点に到達する間をすり抜け、一瞬にしてランベに接近

顔に右拳を一発叩き込み、間を置かずに左拳は胸部へボディーブローを入れ、身体の中央縦線上の部分を重点的に拳による猛攻を繰り返す

荒々しく、凶暴性もあるが狙いはしっかりしている攻撃から、最後に大きく蹴りを入れようとした次の瞬間、巨大な円錐槍が容赦なく、モトキを撲打し、薙ぎ払った


「いくらかパワーアップしたからとて!そなた一人ぐらいわけないのだぞ!」


モトキを退けたランベは瞬時に体勢を整え、地面に衝突する寸前で、状況に似合わず静かに着地

そこからすぐに反撃に移ろうとしたが、先程薙ぎ払ったはずの彼がもう目と鼻の先まで、飛びかかってきていた

防御も避けることも追いつかず、胴体を掴まれ、捕らえられた

そのまま勢いあまって両者は数メートル激しく転がり、モトキはランベを横転状態で組み伏す

腹部に押しつける膝に力を入れ、抑え込み、その手は動けないランベの頭を掴み、首をへし折った


「ぐあああああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」


叫び、悲鳴、そんなのお構いないしに、モトキはランベの喉元へ喰らいつき、捕食を開始する

そのあまりな光景にアオバはえずき、クローイは自身の首を軽く掴んで締めてしまう

数回だけ肉を喰らった。血に塗れ、完全に息絶えたランベを片足が力強く踏みつけ、大地に亀裂を走らせると空気が震え、地鳴る咆哮を轟かせる

そしてぐったりと肩を落とし、全身から血のような赤い湯気を昇らせ、苦しそうな息遣いでアオバ達がいる方を睨んだ


「まずい!あれ!あの眼は!あたいらを認識してるようには思えない!」


「モ、モトキ君・・・!」


自分以外は全て同じで、自分以外の他生物であるとしか見ておらず、理性も識別能力も失われたモトキは、ただ血肉を求め、戦闘を求め、狂い暴れることしかできない

応戦するしかないのか?と覚悟を入れる時間を待ってくれるはずもなく、モトキが跳躍してアオバ達に襲いかかる

しかし、その時であった。遮るように一つの影がモトキを強襲し、彼を地面に叩き落とした

その正体は、今のモトキと風貌が似た姿をした生物であった


「も、もう一人!?」


混乱するアオバをよそに、起き上がったモトキは、突然現れた自分と似た存在を睨み、獰猛な声を鳴らし、対象をそいつへと移す

威嚇なのかどうかわからないが、咆哮からすぐに先手を打つも、あっさりと力負けしてしまい、組み伏せられてしまう

先程ランベにしたことを、今度は自分がされてしまう形となった

そして顔に喰らいつくように牙が入れ、剥がし、手を突っ込むと、中にいる元のモトキを引っ張り出す

本体を取り出され、覆っいた影のような肉体は朽ちていくように消滅した

モトキを投げ捨て、一呼吸入れてからその者の肉体も似たように消滅し、タイガが姿を現わす


「どういう・・・こと?」


混乱に次ぐ混乱。それ以上の言葉も出ず、ただ今の光景が現実であること

横たわるモトキを尻目に、苦しそうな息遣いをするタイガは目を細め、こちらに顔を向ける


「このことは、このことは誰にも言うな。漏らせばお前らを、俺が殺す」


警告であり、脅している。自らの意思で見せたり、バラすのでははなく、他に漏されたならば、その者を容赦なく葬る。たとえそれが、始末すればモトキの激昂は免れない者らであろうとも

あの眼は、本気で言っている


「忘れろとは言わん。質疑応答ぐらいならば俺が聞いてやってもいいところだが、優先すべきことがあるだろ」


そのとおりである。あまりにも唐突に起こった拠点の襲撃により、死傷者が多数出ている状況

まずは動ける者達で、急ぎ重傷者の応急処置をすべきだろう


「俺の能力は範囲が決まっているからな。順番がまわるまでの間にくたばることなんてザラにある。それぐらいに脆く、猶予がないのが普通だ。さっそく、急ぎとりかかろうじゃないか」


自分達だけでは人手不足は明白である。生きていて、軽傷で動ける者達にも医療テントから道具を持ってこさせたり、運んだり、死者を後回しにして重傷者を優先にその場で応急処置を施させる

死亡者を除けば、クロレンゲが一番酷い状態である。彼女はただでさえ、ゾムジとの戦闘での敗北で生きているのがギリギリであったというのに、怪我の治療後であったにもかかわらず、無理してランベに挑みかかった

クローイが彼女の服を破き、はだけさせ、応急処置に当たる。タイガの能力を使おうにも、面倒な性格のせいで、施せないが尊重はしてやりたい

とりあえず治療はしても、あとは彼女自身の生命力に任せるしかないが


「モトキ君はどうするの?」


「知っての通り割と丈夫だし、大きな外傷もない。制御できない力に酷く体力を奪われただけだ。いずれ、目を覚ますだろ。問題は起きた後だがな」


目を覚ました際、もし経緯の記憶が残っていれば、モトキはまず、どのような行動をとるだろうか?

自身の身に起こったことに困惑するのか

敵であるが、少量であれど相手の肉を食べたので、自分は何故あんなことを?と自身の行いに恐怖してしまうか

アルフィーが木っ端微塵にされ、燃え滓だけとなる瞬間の場面を思い出し、自責の念にとらわれ、泣きだすか、やり場のない怒りを空にぶつけるか

ヘタをすれば、再びあの姿になってしまうかもしれない

どうあれ、酷く惨めな姿を晒すようなことになるならば、幼馴染としてしてやれることは、まずはぶん殴ってやることぐらいである


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