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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
194/217

地をいく傭兵団 33

現場から離れ、極寒だった気温は、やがて元の季節の温度になった

寒暖差で、体調を崩さないことを願うばかりである

帰路の最中、アオバがあのヴァンパイアとの戦闘により負った怪我で、小さく「痛っ」と呟く声が聞こえ、立ち止まったモトキが彼女に提案する


「おい、アオバ。怪我の具合が酷いなら、おぶってやるぐらいできるぞ」


「え?いやー、大丈夫よ!ご心配なく!」


唐突な彼の申し出に、慌てふためきながら返してしまった

そこへ、クローイが「じゃあ、あたいをおぶれ!」とモトキの背中を蹴る


「ぐへぇっ!お前その腕の骨折は痛々しいけど、割りかし平気そうじゃねーか!」


「人は楽できる時と場合、機会があれば楽するのが良いって団長が言ってたもんで」


一理あるなと納得してしまい、それに拒否する理由もなく、断るとあとでうるさそうなので、クローイをおぶってやることに。だが、彼女はおぶってもらうより肩車を御希望してきた

苦笑いするアオバは、隣でクローイを肩車しているモトキと共に、改めてアルフィーを追いかけ、傭兵団の拠点である野営地目指す

「さぁ!行け!」とクローイは、モトキの頬を軽くペチペチ叩き、急してきた


「途中あたいを落としたりヘマしたら、どうなるんだ?」


「訊くなよ!余計に怖くなるだろ!」


一難去って身近にまた一難が出てきたなと思わず溜息が出そうになった時、遠くから「おーい!」と呼び止める声が聞こえてきた

聞き慣れた声だったので警戒もなく、その声主であるタイガと偶然にも合流する


「お、元気そうでなによりだな」


「よぉ、タイガ。それはこっちのセリフだぞ」


どうしてだか、タイガの顔を見て心からホッとするというのか、寒い部屋にこたつがあるみたいな安心感が湧いてきた

彼自身の強さによる頼もしさもあるが、それを抜きに古くからの顔馴染みであるからだろう


「何故に肩車をしてやっているのかは触れておくべきか?」


「やれと言われたからやってあげているだけだ」


積もる話もあるが、今この場でなくてよかろう

野営地に戻る途中だったので、話はそこに着いてからだ

「よーし、さっさと走れ!」とまた頬を軽く叩いてきたので、「アイアイサー!」の返事で、後ろ走りで助走距離をとり、駆け出そうとした次の瞬間、眩き雷光が走り、遅れて雷鳴が遠くの方で轟く

それに驚き、足がもつれた盛大に転んでしまい、二人仲良く地面に顔を打ちつける


「な、なに・・・?」


顔を地面にぶつけたものの、顔を上げ、鼻血を垂らすクローイは、落雷の位置からして傭兵団の拠点であるのはすぐにわかった

何が起きたか、同じく鼻血を垂らすモトキとアオバもただ、唖然としていた

タイガだけは動じたり硬直してしまうことなく、強張った顔つきで、何も言わずに急ぎ走り出す


「あ、おい!タイガ!」


鼻血を手甲で拭い、タイガの背を追いかける

アオバもモトキに続こうとした際、怪我の痛みがなくなっていたことに気づく

彼女の戦闘による傷も、クローイの骨折も、知らぬうちに治癒されていた


(なんだよこの胸騒ぎは!?なんだよこの不安は!?)


タイガに追いついたモトキの心中は、穏やかではない。ただ不安で、緊張感があり、動悸も激しく、胸が苦しい

声をかけるすらも忘れ、タイガを追い抜き、先を急ぐ


(アルフィー・・・アルフィー!?どうして、あいつの名が浮かぶんだ!?)


先の戦いの終わりに、立ち去る際に突然起こった胸騒ぎと同じ

そして、その虫の知らせともとれる根拠のない悪い予兆は、的中することとなる

野営地に到着し、目に入ったのは、倒れるクロレンゲやルパにコフキ、ヤーデックなど、生きているのかすら確認できない他の傭兵団の者達


「っ!!こ、こんな!!」


戻る最中に浮かんだ名であるアルフィー本人は、巨大な円錐槍で正面から身体を貫かれ、串刺しにされたていた

彼を円錐槍で貫き、持ち上げたまま笑うランベはモトキの存在に気づく。その顔を見て、一瞬だが哀愁を含んだ不思議そうなものを見る顔を覗かせる

互いに目が合うも、モトキは現状を目の当たりにし、声が出ない。捻り出すことすらできない


「おや?追加のご来客か?」


ここで、少し遅れてタイガが到着する

ランベがこの場にいることに、信じられない面持ちであった

彼は現場にいたので、事の経緯と結末をエモンから報されていたからだ


「お前は!エモンの野郎と傭兵団の団長さんが討ち破ったと聞いたぞ!手足も切り落とされたはず!あいつが見栄張って嘘をついたには思えなかったが」


それを聞き、ランベは瞼を閉じて静かに笑う


「確かに僕は死にかけた。最後はマグマにやられ、海に落ち、あとは鮫なり甲殻類が僕の肉を餌にするだろうと」


ここで一気に、力強く眼が開かれた


「だが、ボスのおかげだ。発つ前日に渡された注射器、その中に入る薬品をなんとか投与すれば、瞬く間に切り落とされた手足も、ダメージも、再生と完治が成された!それにスッキリと中身が落ちたかのように軽く、力の増幅が感じられる!」


正直、あの得体の知れぬ薬を自身に投与するつもりは無く、躊躇ってすらいた

しかし、いざ打ってみれば手足の再生、治癒されただけでなく、自覚する程の力の漲りを得る

自力であの二人に負けたのは不服だが、今の力ならばもはや相手にすらならないだろう

リベンジの機会を与えてくれたと、ボスには感謝すらしていまいそうだ

エモンとダイバーを消せば、これで自分の思い出は残すところレネージュのみとなる

彼女を葬れば、次は平和と望みへの道に落ちる犬の糞であり、故郷と妹の仇である帝らと聖帝を滅ぼす

今の自分にはそれができると自信に溢れた


「う、うそ・・・!」


タイガの到着から遅れて来たアオバは、アルフィーの絶望的な状況に頭の中が真っ黒に染まり、クローイは言葉すら出ない

誰が来ようとも、ランベにとっては傭兵団に所属していようがいまいが関係ない。ここにいる者、全員を手当たり次第に惨殺していくつもりだ

ダイバーを煽る道具にする為に


「モ・・・モト・・・キ?」


微かに、弱々しい声でアルフィーが自分の名を呼ぶ

胴体を貫かれた彼は、まだ生きていた。生きているなら、タイガの能力で治せる

なら、一刻も早く救出すると両手剣を手に出現させ、相手の出方もかんがえず、警戒も捨て、荒々しい息遣いで斬りかかった


「モトキ!ダメだ!俺に任せて、お前はまず平常心までいかなくとも感情を抑えろ!」


タイガの声どころか、他の音も聞こえなくなってしまっていた

迫るモトキを前に、ランベは鼻で笑う

こいつらが来る前に、自分に同じように挑みかかってくる傭兵団の者達は幾多もいた

それが無駄な行いであり、この光景となってしまったのだが

そいつらと同様に蹴散らそうと、左手から雷撃を稲妻を発する刃として放出する

だが、雷の刃はモトキの右手に出現された盾が防ぎ、弾いた

彼の手に現れた盾に一瞬、驚きと何か思うとこがある顔を覗かせはしたが、問題なく、自分に振り下ろされた両手剣の剣身を左手で掴み捕らえた


「なっ!?」


柄を握る手に更に力を込め、押し切ろうとするがビクともせず。引くことすらできない

ランベは改めて、その盾を見る。間違いなく、自分が過去に所有していた盾であった


「その盾・・・そうか、そなたが!僕と似たような眼をしているのか!この者が!」


その盾は、故郷の皆から、病弱の妹からの贈り物だったのだが、これまでの自分への決別として手放した物である

またこうして、他者の手に渡った形で己の前に現れるとは思ってもみなかった

壊さずに行ったのは自分の甘い部分だろう。ならば、今ここで破壊する

両手剣の刃を掴む手に僅かながら雷撃を生じさせ、そこから力を入れ、剣身をへし折ると、その手で素早くモトキへ稲妻の束を少し捻りさせ、撃ち込んだ


「くそ!やられん!やられてなるものか!」


稲妻が直撃し、全身に雷撃が巡り、その力の衝撃で吹き飛ばされてしまい地面に打ち付けられるも、体勢を無理矢理にでも整え、再び攻撃にかかろうとした

そんなモトキへ、アルフィーはなんとか顔を振り向かせ、吐血からその横顔は口だけニカッと笑う

力を絞り出し、両手は自身を貫くランスを掴んだ


(兄弟子、姉弟子よ。すまない、同門が一人減る・・・アオバちゃん、モトキ、どうかご無事であれ)


走馬灯はなかった。最期の足掻きに、右の足甲の上に即席で小さな光の球体を生み出し、それを蹴り放とうとする

しかし、その直後、円錐槍に稲妻が走り、雷の力を内部から炸裂され、肉体は木っ端微塵となった

残った燃え滓だけが大気に散っていく

アオバは膝から崩れ、力が抜けたかのように座り込み、涙が垂れ始める

モトキは目の当たりにした光景が受け入れられず、茫然と立ち尽くしてしまっていた

二人にとってアルフィーは出会って間も無い関係であったが、その短い時間内で彼のしてくれたこと、共に戦ってくれたことは鮮明な記憶となっている

そんなことなど知る由もないランベにとっては、この武器を使うので邪魔となる彼を排除したに過ぎない


「さてー・・・そなたらを葬るなど本来ならば容易くなのであろうが、一人だけ規格外の者がいるようで。再び、なめて甘く見る真似をするつもりはなく、全力でいかしてもらおう」


最早、タイガ以外は眼中にない

相見えただけで察する彼から漂う強者の風格

こいつさえ倒せば、この場に問題と障害は微塵もなくなるだろう


「ああぁぁっっ!!!!」


突然の叫び声から、ランベの鍛えぬかれた身体の筋肉が更に膨れ上がり、着ている衣服を破くと、肌が青緑に変色。下半身は馬となり、全身に一度雷撃が走り、髪が逆立つ


「異常なる変貌ぶり。斯様な姿になれるとはな」


自身、この姿になるのは初めてであった。急激な変化に杞憂はなく、更に溢れてくる力に歓喜しかない


「バケモノめ!」


クローイは歯を噛み締めながら魔撃を構え、銃口に黒みのある赤い光をチャージしていた

アルフィーは助けて欲しいのか、自分に構わずにやって欲しかったのか、それを汲み取れず、ヘタに動けないで彼を死なせてしまったのを後悔していた

彼の見せた最期の彼が脳裏に刻まれる

タイガはモトキの精神状態を心配するも、やつを放っておくわけにもいかず戦闘体勢に入ろうと鉢巻きを手にしたが、ここである異変に気づく

モトキである。彼の握りしめた両拳からは血が滴り、口からは黒い煙のようなのが漏れていた


「まずい!」


血相を変えたタイガが顔を俯かせ影が覆っているモトキに駆け寄り、肩を揺さぶって声をかけるも、反応がない

珍しく、焦りを見せるタイガは何かを恐れている様子である


「気力を、戦意を失われた者だけが生き残るのは好まないのでな。そなたから消し去ってやろう!」


ランベは距離を敢えてとる為に後方へ跳躍し、ランスをモトキ目掛けて力任せに投擲

空気を裂くのが目に見える威力で迫るが、それにタイガは十文字槍を同じく投擲し、衝突させ合い弾いた

「やるな」と感心されるも、タイガ自身はそれどころではない

モトキの様子を確認に戻ろうとした時、彼は突然に叫びだした


「モトキ!!ダメだ!!」


頬から、肩から、胸部から、激しい火花の如く白き光が内から肉を、皮膚を突き破って噴き出す

悲鳴に近い絶叫から、身体のいたる箇所から噴き出す光はやがてモトキを覆い、包み隠した


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