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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
193/217

地をいく傭兵団 32

雨が降りそうな空であった

先に野営地に戻っていたアルフィーは、木桶に溜めた冷たい水で顔を洗う

顔を洗うことで頭も冷えたのか、苛立ちはなくなっていた

顔を乾いたタオルで荒めに拭き、それを桶に雑に放り入れ放置。後で誰が片付けるかも知らずに


「ふ・・・静かになったな、あいつを放ってきたせいで。少し寂しくなってきたな」


なんて、らしくもないことを言ったなと一人静かに笑う


「おやおやー?クローイ殿とゾゾイ殿はどうされまして?」


我に帰った。今さっきの一人笑う顔をコフキに見られたので、彼女を睨む

どうして尋ねただけなのにそんな恐い顔で睨まれなきゃならないんだと、理不尽に感じたコフキは棒手裏剣をアルフィーに投げようとした


「おい!シャレにならんぞ!」


問答無用と手裏剣が飛んできたので寸前で躱した。その直後に一瞬の閃光から凄まじい落雷音が響く

何が起こったのか、ただ見上げても不機嫌そうな空の景色のみ


「かなり近くに落ちたみたいだな・・・」


本格的に雨が降りそうなので、傘を持っていないモトキ達はびしょ濡れになるだろうから温かいコーヒーでも淹れる準備でもしておいてやろう

何気ない気遣いであるが、アオバからありがとうと言われたい。その為だけに行動に移そうとしたがふと、ずっと自分の前に立つコフキの顔を見ると、彼女は固まっていた

口を半開きに、眼は自分には向けられてはいない

雨がポツリポツリと降り始める中、どうかしたか?と尋ねようとしたその時、強大なる殺気がアルフィーの背を刺す

振り向くな、見るな、ダメだと訴えかけてくるが、反射的に振り向いてしまった

雨音が強くなり、降り頻る雨の中、円錐槍と盾を持ち、血に塗れた男がそこにいた


「きさっ!」


反応するよりずっと速く、巨大な円錐槍が薙ぎ払われ、その一撃はアルフィーを撲打

それにより生じた強い衝撃に巻き込まれ、近くにいたコフキも吹き飛ばされてしまった

撲り飛ばされた彼自身は数十メートル離れたところで強く叩きつけられ、地面を抉りながら止まる


「ゲホ!!ちくしょ・・・!うめ!!」


たった一撃で意識が飛びそうだ。血反吐を吐き、立ち上がるにも体に力が入りにくく、時間を僅かながら要した

そして、彼の目に光景が広がる

円錐槍と盾を持つ男が、先程の落雷による閃光が走った内に進行したであろう道は大きく抉れ、その通過した後の軌道上には生きてるのか死んでいるのかわからない傭兵団の面々らが数名転がっていた

その男の様子がおかしい。笑っている。雨音と雷鳴で掻き消されているが笑っている


「あいつは!」


やつの顔には見覚えがあった。手配書であるが

かつて、団長の同期で親友だった者。団長が憎む者。団長を悲しい顔にさせる者

どうしてそいつがここにいる?


「はぁ・・・はっはっはっはっはっ!!!」


彼の持つ円錐状の槍に稲妻が走り、それを頭上で振り回せば雷撃が無差別に広範囲を攻撃する

悲鳴がこだまする中で「やめろ!」とアルフィーは黒い球体を相手目がけて蹴り放つも、球体は盾に呆気なく弾かれてしまった

相手は手当たりしだいであったが、これにより狙いを定めたのかアルフィーへ向け走り出す


「でぇあはははははははは!!」


相手が迫ってくる中、息を呑み、恐怖で動けない

動け!動け!と自分に言い聞かせるが、足首を掴まれているかのようで、回避にも防御にも移れずにいた


退(しりぞ)け!!」


慄いてしまい何もできずにいたが、迫る敵の背後を突然雨音に紛れて現れたクロレンゲが跳躍から強襲し、彼の背を剣で斬った

ゾムジとの戦闘で負った傷が癒えているはずもなく、精一杯の一太刀のみで、着地もできずに雨で泥濘み出した地面に顔から落ちる

相手の足は止めることはできたが、相手は背を斬られたはずなのに苦悶の顔すら浮かべなかった。痛みすら感じていないのか、気にすらしないでいるのか

おかしい。こいつの様子は異常だ


「くっくっくっく・・・」


不敵な笑みを変えず、狙いをアルフィーからクロレンゲへ変更し、泥濘む地面に倒れている彼女へ当然ながら容赦なく円錐槍を力任せに振り下ろした


「その傷でかっこつけてんじゃねぇっっ!!!」


戦慄している場合ではない。自分に言い聞かせようとしても恐怖で動けなくなっていた足は自然と駆け出していた

乱暴だが、ゾムジ戦での傷と残るダメージで起き上がるすら困難な状態のクロレンゲを蹴り飛ばす

彼女への攻撃は逃れられたが、自分に避ける猶予はない

絶対に無意味だろうが、両腕で防御の体勢に

だが、振り下ろされた円錐槍は寸前のところで何故か止まった


「アルフィー殿!早く!」


その一声が聞こえ、急ぎその場から離れた

円錐槍を振り下ろそうとするその腕と両肩、胴体に毒々しい紫色をした縄が巻きつき、拘束され動きを封じられてしまっている

やったのは先程、巻き添えに遭い吹き飛ばされたコフキである。彼女の手で開かれた巻物から縄が伸びていた

その間に、他の傭兵達がぞろぞろと集まりだす


「この惨状!それに君は!君はランベ!革命軍に与する!団長の元同期にして・・・」


駆けつけたヤーデックは親友と言いかけたが、言葉が途切れた

抉れた地面に、横たわり動かなくなっり、無惨な姿となった他の傭兵達を見て下唇を噛み締めるも、ここで嘆くだけでは何も解決しない

自分がすべきことは決まっている


「主に争いに赴く傭兵稼業!いつでも全滅の覚悟はできている!今、僕がすべきは団長が戻られるまでに君を屠るか!持ち堪えてみせるか!」


僕らではなく、僕だけなのはこの場で他の者達は命をかける必要はないと周りに通達している

それを汲み取れても、できなくてもいい。果敢に挑むも、慄き逃げてくれても構わない

ヤーデックはここで、こいつと戦わなければならないと決めた。縄で身動きを封じられているランベとの距離を詰め、出現させた刃渡りが短く、細い槍で突きに入る


「ぬあぁっっはーっはっはっはっはっはっはっ!!!!」


しかし素直に攻撃を喰らってくれるはずもなく、全身に力を入れ、容易に縄を千切れさせ拘束を解いた

その気になれば、いつでも抜け出せれたのだろう

槍の突きを盾で受け止め、力で長柄武器だけでなくヤーデック自身ごと弾いた


「少し、いける!と意気盛んになっていたね。先導者や纏め指揮する立場といった者は、僅かな好機と錯覚すれば自らが先走るのを見せたがるやつが多い」


笑い声以外から初めて、彼の口から発せられたのはヤーデックの内心を知る由もないをいいことに、小馬鹿にするものであった

弾き飛ばした彼へ円錐槍を投擲し貫こうとするも、不意に死角からルパが滑り込み、剣身が反るサーベルでランベの右太腿を刺す

それに続き、他の傭兵達も一斉に攻撃を仕掛け始めた


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