地をいく傭兵団 30
クググクの能力は柔らかい、軟らかいものを硬くして少し重さを与える。植物とかなら大丈夫だが、生物は無理
イルベターの能力は一度触れたことのあるものを失くした時に、それを右手の甲から出る小さな光を追えば探して見つけることができる。ただし生物は無理。戦闘に向かない
リアの能力は分ける能力。大量の砂糖と塩を混ぜても分けることができる。戦闘に向かない
自分が躱したせいで、蹴り飛ばされた黒い球体が仕える主人の御令嬢に当たってしまい罪悪感で落ち込みそうだが、反省は後にしよう
イルベターにこいつらの相手をしておくと言ったので、先にこいつらを蹴散らし、捻り潰す
遁走するなら見逃してはやる
それが終われば、すぐに残りのやつらを片付けよう
もうその頃には、他も始末されているかもしれないが
持参した風船とゴムボールはもうない。遠距離からの陽動が専らであり、普段もあまり常備はしていないので大した問題はないが、自分の持つ能力を活かす戦い方をするにも周りにはそれに使える道具も物もあるとは言い難い
ならば巨人種に備わる力を重点にして戦うのみ
右腕をより巨大化させ、硬い地面に拳を落とすように突き立てるとそこから掬い上げるように抉り上げ、巨大な瓦礫を飛ばす
「なんの!ゾゾイガーーーード!!」
「え?」
クローイは横たわっていたゾゾイを拾い上げ、盾にする非道行為
当然、彼は黙って盾になってやるはずもなく、両手を後ろに伸ばして彼女の頭を掴み投げ飛ばそうとしたが、そうはさせまいと骨折してない片腕をゾゾイの胴に回し、持ち上げることでバックドロップをおみまいした
「よーし!やっぱり自分の身は自分で!」
左手に出現させたのはガノという戦斧で、飛んできた巨大な瓦礫を容易に両断してしまう
その戦斧を真上に放り投げ、素早く左手に魔撃を出現させると上空に向けられた銃口から黒みが入った赤い光弾が発砲され、先端の丸まった棍棒に付く三日月型の斧頭に着弾し、その光は斧頭を包み込む
戦斧が再び魔撃の消えたクローイの左手に戻れば、光は頭蓋骨の形へとなっていた
両足を踏み込みすぎて地を砕き、力みすぎて瞳孔を縮小させ、歯を噛み締め、ガノを大きく振るう
「夜魔裂き!」
放たれた斬撃は黒みの強い禍々し赤をした三日月の形、その中心辺りには頭蓋骨の顔が刻印されたように残っている
水平に飛ばされた三日月型の斬撃に右腕のラリアットが迎え撃つ
少し腕を前に出した姿勢のラリアットが三日月型の斬撃とぶつかり、火花を散らす
このまま押し切って斬撃を粉砕しようとするも、クローイの後方に落ちてる先程両断された瓦礫をアルフィーが蹴り飛ばしてきた
「なにちょっとやってやった顔をしてるんでん!?かっこつけがいたんでん!」
ラリアットを行なった右腕を振り上げる動作に移し、三日月型の斬撃は弾かれ、軌道は上空へ
続けて蹴り飛ばされてきた二つの瓦礫を頭突きで粉砕した
斬撃を受けたことによるものだろう、彼の右腕からは流血がポタリポタリと落ちていく
「受けきるつもりでいたけどあのままだったら腕だけでなく、胴体ごと切り落とされるまでいってたかもしれんでん・・・!」
「なら腕と胴体だけでなく全身をバラバラにしてやる!夜魔裂き!八十美咲き!」
ガノを地面に振り落とすも力は入れてなかったのか地面は裂けず、粉砕されず
斧頭が振り落とされた地点から斧頭を包む光と同じ色をした影がその場からクググクへ扇状に広がるように伸び、その次の瞬間に先程飛ばされた黒みが強い赤い色をした三日月型の斬撃と同じ刃がその影から剣山の如く一斉に飛び出した
本能がどう見たって危険を予知していたので、クググクは空中へ高く跳び上がることで逃れたが、続けて彼の頭上から黒い球体が猛スピードで強襲する
両腕で咄嗟の防御を行なったが、防ぎ弾かれ、跳ね上がったその黒い球体をアルフィーは再度蹴り落とし、防御する腕にぶつけることでクググクを地面へ叩き落とした
突破できなくとも押すには十分な力
「ウゴッ!!!」
腕がビリビリと痺れる痛みが走る
このまま落下し、地面に叩きつけられるのはダメージの有無に関わらず避けるべきだろう
足底から腰に力を入れる感覚を持ちながら轟音を響かせ、両足首まで地面に沈むも着地したクググクであったが、着地して一呼吸入れる間もなくゾゾイがバイクに乗ってこちらに突撃してきた
あれぐらいならば蹴散らせると思われたが、バイクは間1メートルもない距離で突然ドリフトから急ブレーキを入れ、旋回によって背と共にバイクのマフラーの排気口が向けられるとそこから凄まじき火炎が放出され、クググクの姿は一瞬にして炎に呑まれてしまう
「ざまぁみやがれってんだ!巨人めが!丸焼きになりやがれ!」
激しく燃え盛る炎を前に調子に乗り出したゾゾイであったが、その火炎の中で巨大な右腕を振り払う動作で生じた風圧により、掻き消されてしまった
調子に乗り、暢気してた彼にクググクは目にも留まらぬ速さで跳びかかるように、橙色の光を発した右腕でラリアットを相手の顔面に炸裂させた
「ゲフォッッ!!」
「うわぁ・・・!調子に乗るからだぞ」
吹き飛ばされたゾゾイは地面に3回ほど跳ねるように打ちつけられ、最後は滑りながら数メートル進んだところでうつ伏せの形になりながらようやく止まった
「お、おのれー!」と声を張り、威勢はいいのだが口と鼻からなかなかの量の血が落ちる
「ちっ・・・!鼻に詰め物でもしてマヌケ面で寝てろ。あいつは俺様がぶっ倒してやる!」
黒い球体を2回だけ右太ももでリフティングを行い、足元に落ちてきたそれを蹴り飛ばす
あれは避けるまでもないなと胸筋を少しだけ膨らませ、胸で受け止めようとしたが何故か急に顔から汗が噴き出したので慌てて回避
蹴り飛ばされた黒い球体は目の錯覚か、ラグビーボールに似た形となってクググクの右肩を触れる間近を通過していった
「おらああああっ!!」
外れはしたがお構いなしにアルフィーは右の足底による飛び蹴りを敵の顔面に炸裂させる。しかし、蹴りは入ったもののクググクはビクともしていない
相手は顔に蹴りを入れた方の脚を掴み、引き寄せると強烈な頭突きから続けて力任せに振り下ろし、地面に叩きつけ、再度掴んだまま上に上げると投げ飛ばしてしまった
投げられ、低空を飛んでいくアルフィーへ追撃にラリアットをぶつけようとしたが、前方と上空から幾つもの黒みが混じる赤い光弾がクググクを襲う
「鬱陶しいだけでハエごとき攻撃じゃおいどんを倒すことはできんでん!」
「そうか、な?そうかも、な!」
右腕をやられたので、利き手ではない方に握っていたガノから魔撃に持ち替えていたクローイは再びトリガーを引き、また幾つもの赤い光弾を射出
その瞬間に彼女の頭上をアルフィーが跳び越え、光弾に続いて黒い球体を蹴り放つ
先に到達する幾つもの光弾を右腕だけで容易に防ぎ、今度は躱すことはせずに黒い球体だけでなく、やつら全員もまとめて叩き潰すことにした
「アイボリー!オーバーラン!!」
両腕は更に膨大化し、激しく橙の光を発する
空間を振動させる程の力が左右それぞれの腕から伝わり、その両腕を振り出そうとしたその次の瞬間、背中と右肩のちょうど間、肩甲骨にあたる箇所に何かが当たったのを感じて一瞬だけ、警戒からか動きが止まってしまう
当たったのは1輪のタイヤ。それに突然無数の刃が飛び出し、回転鋸のように動き始めた
「ぬお!!おお!?おおおおぉーーーーーっっ!!!!」
白い息と共に口から発せられる耳障りな笑い声。その声の主はゾゾイであり、笑い声から「うひゃー!ざまぁみろ!」と高くなりだすテンションを抑えられずにいた
マフラーから火炎を放出したがラリアットを受け、吹き飛ばされてしまったので、その場に放置されたままだったバイクを自動操縦で自分の元に移動させ、前輪を飛ばしたのだ
バイクに跨り、いつでも攻撃を仕掛けられるように。だがらその必要はもうないだろう
黒い球体がクググクの顔面に直撃し、そこへすぐアルフィーが右足の底を押し付けた
「じゃあな、巨人め・・・!重活!」
足底に押さえられ、顔面に当てられている黒い球体の全体から目に見えて波打つ層が発せられ、衝撃波のような凄まじき力が足から伝達して球体へ、球体から相手の顔面へと力が解放される
その技は、クググクの巨体は容易に吹き飛ばしてしまう
「な、何?」
つい先程、氷塊を砕いて闇のエネルギーによる黒紫色をした極太い光線をモトキに放った直後であったグラディフの娘に、突然クググクが自分に向かって飛んできた
闇の光線を一気に縮小させて消すと、吹き飛んできた彼を片方の手で受け止め、もう片方の右手は優しく後頭部に添えるようにして地面に下ろす
「クググクさん!クググクさん!生きてます!?」
声をかけるが生死の状態を確認する間もなく、強大な殺気に息が詰まる。すぐそこに影の覆った顔から両眼で睨むモトキの姿があった
全身の至る箇所に闇が燃える炎の如く残るものの、あの膨大なる闇の力を至近距離から受けて吹き飛ばされも消滅もせず、その場から微動だにしないで凌ぎ切ったのだ
「命がけ・・・!命がけ!」
壊れかけたロボットとも言うべきか、ぎこちない動きで、左手に握られた両手剣を振り下ろす
彼女はクググクを抱え、跳び上がることで躱した
その一振りで地面は砕かれ、生じた亀裂が凍った海面にまで裂け目が及ぶ
「終わったら拾いにいきますからネ!」
彼女はクググクを氷塊の中に閉じ込め、遠くへと投げ飛ばした
正直、担いだままでは邪魔になるだけ
どちらにもリスクが伴うので、氷塊に閉じ込めることで投げ飛ばされ、地面に落ちて直に叩きつけられることはない
「よくもダディの部下を!凍てつく常闇の底へ誘ってあげる!」
高所から高速回転で落下しながら、両手剣を振り下ろした直後であるモトキの頭頂部に目掛けて踵落としを打ち込もうとする
しかし、彼を守るように突如光のシールドが張られ、それを粉砕した一瞬の隙にアルフィーが彼女の踵落としを放った足にバイシクルキックを叩き込む
両者弾かれ合い、アルフィーはモトキの隣付近に着地し、相手は距離を取るように遠くまで後退した位置に降り立つ
「どうしたモトキ、手こずっているのか?貴様ほどの男がなぁ!」
「ふっ・・・うるせーよ」
アルフィーの煽りを軽く流し、先程の光のシールドはアオバの能力によるものだったので、彼女へお礼の言葉の代わりに親指を立てることで気持ちを表す
彼女も同様に、親指を立て返してきた
「しっかし、最初の頃に比べて眼の色が変わり、冷たそうな角も生えて姿が少し変貌してやがるな。巨人なりヴァンパイアがいて今さらだが、やはり人間とは違うか。あんな変化、俺様ら人間じゃ到底無理だな」
「無理なのかもなー」
身体中に燃えるように残っていた闇は全て消え去り、殺意溢れる状態からかなり緩和された表情に
それを目にして彼に余裕が出てきたのと、自分自身が追い詰められているのがわかる
今はなんとかタイミングを見計らって、イルベターとリアもクググクと同様に遠くに避難させたい
そんな余裕はあるのだろうか?ならば、やるべきは1つだろう
あのモトキという男だけはコテンパンにはするも、命まで取らないでおくつもりでいたが、そうは言っていられない
彼女から凍てつく冷気が発せられ、足周りから凍結が始まる
「より寒くなってきやがったぜ。寒いのは嫌いなのでな、これで幕切れにしてやる!モトキ!横取りみたくなって悪いが、あいつは俺様の次の一撃で確実に倒す!」
「できるならな」
「任せろ!」と自信ありげな様子で、足元に出現させた黒い球体に右足をかける
まずはこの球体を足甲で真上に蹴り上げる動きに入ろうとした時、グラディフの娘が片方の手を振り下ろす動作に合わせて突如中空から巨大な氷柱を次々と落としてきた
あれの対処はモトキに任せておくことにして、自分は焦りもなく攻撃に移ろうとしたが、黒が混じる赤き幾つもの光弾が降り注ぐ氷柱を粉々に撃ち砕く
それに続くクローイの怒鳴り声
「あんたら!何この状況で手を洗った子から先におやつを食べれる早い者勝ちみたいなことをしている!」
モトキも頭上からの氷柱に目もくれず、両手剣を手に前を向いていたようだ
咎めるクローイに、アオバも口には出さないがやれやれと歳の差があまりない兄弟の喧嘩後を見守る呆れ気味な母親のような表情
「抜け駆けしようとしてやがっな!!モトキ!!」
「譲り合いの精神を持とう。元はお前が横取りして悪いとっグボヘッ!?」
魔撃から発砲された光弾で粉々に粉砕され、降り注いでいた氷柱の破片の中に割と大きめの塊がまぎれており、それがモトキの頭に落ちた
その隙をチャンスとして、アルフィーが攻撃に移行する
「抜け駆けは俺様がしてやるぜモトキ!二重加!!!」
いつも通り、初動は黒い球体を蹴り飛ばした。この技は、他の同門達と同様に最初に教わった技の1つである。球体を蹴り飛ばし、それを追いかけ、もう一度蹴りを入れて威力と速度を更に加算させるというシンプルな技
己を磨き続ければ力と技術が伴い、威力が絶大となっていく技である
それに対しグラディフの娘からは膨大なる闇の力が溢れ、冷気が自身の身体右半分を重点的に、顔の頬辺りから首に、肩に胸、そして右腕から指先へと冷気が覆い凍結していた
白い息が口から漏れ、それすらも凍てつかせる冷気が纏う身体に、右拳から肩にまでかけて闇の力を走らせる
「ブラックアイス!ラヴィーナーワル!!」
右腕を引き、少し掬い上げるような動作で拳を突き出せば発生した猛吹雪と共に、闇の力に包まれる巨大なイッカクの形となった黒い氷が放たれた
それが通過した後は、剣山のように氷が生えていく道ができると言うべき様であった
「二発目だ!!」
蹴り飛ばしてすぐ、跳躍から黒い球体に追いつき2回目の蹴りを入れようとした
それに合わせ、モトキとクローイも同時にその黒い球体に蹴りを入れる
3人の蹴りが打ち込まれた球体からは前方全域の空間に渡らせる白い雷撃を生じさせ、より増した威力と速度で巨大なイッカクの牙である一本角の先端と激突
雷撃を発する球体が闇の力に少し押され気味になっていると思われたが、次の瞬間には角から全体へと氷のイッカクを貫き、粉砕してしまう
「Aha!エクセレント!」
ビリビリと力が肌に痛みとして伝わってきた
思わず称賛すら覚え、驚きながらも足元の地面をぶん殴り、前方に大津波が凍ったかのように分厚く巨大な氷壁を出現させ、迫る白き雷撃を発する球体を防ごうとする
しかし、その球体の勢いは弱まることなく、より加速を加えて氷壁を貫くと雷撃が氷全体へと行き渡り粉砕してしまう。そして三人で蹴り放った球体は彼女に炸裂した
着弾した黒い球体から、白い閃光に吹き飛ばされ、グラディフの娘は凍っている海面に強く打ちつけられてしまう
打ちつけられ、海面の氷を砕き、そのまま海中へと落ちた彼女は沈黙から数秒もせずにうつ伏せた状態で海面に浮上してきた
彼女はピクリとも動くことはなく、ただ潮の流れに囚われて漂うだけ




