地をいく傭兵団 29
「じゃ、お先に失礼」とアルフィーは黒い球体を蹴り飛ばし、攻撃を仕掛けた
それに構わずモトキは独りでに駆け出し、あっさりと黒い球体を追い抜くと両手剣を振り抜き、光の斬撃を放った
「任せてネ!」
彼女の全身から出る冷気が前方に白い巨大な壁の如く広がると氷を纏った右手でそれに触れることで雪と氷塊を前方に暴流させて迎え撃つ
「手を出すなーや、ワタクシの獲物とか、そういったのはありませんのデ。各自フリーダムに!」
彼女の言葉に我先にと返事をしたイルベタは翼を生やして飛び立ち、海面の遥か上空の位置まで移動し滞空
両眼に赤き光を輝かせて
「ブラッドデッド・ヘルレインBM」
その両眼からの赤き閃光は真上に放たれた。音もなく、空へ
悪い予感がする。そう悟ったアオバは急ぎ光のシールドを展開しようとするが、全員分の数も範囲も出現させるには到底に間に合わない。猶予は1人分のみ
どうすればいい?考えながらも体は動いており、その能力を自身にではなくクローイの方に出現させながら、長巻を構えた
とにかく、できる最低限のこと。クローイに向けて発動させたのは1番近くにいたからである
「可愛いことしてくれるな」
一方でモトキとアルフィーであるが、光の斬撃は雪と氷塊の暴流に呑まれるように砕け散らされ、続く黒い球体も同様に押し負けてしまい、呑まれ沈み姿を失う
「おっと、こりゃまずいな。凍死か生き埋めか、はたまた雪に混じる氷塊によって肉体をズタズタにされるか」
「風・・・装剣!」
反応せず無視する。聞こえてなく、敵に集中しているのかもしれない
剣刃に風の力を集め、伸びてしなる風の刃が迫る雪と氷塊を抉り削るように切断
砕かれた氷塊は降る雪に混じり大気を輝やかせる
風が解かれ、両手剣を振り切った直後、右腕を凍結させながら雪が降る中を突き抜けるようにグラディフの娘が突撃してきた
「ホワイトベアー!デスフリーズ!」
右腕に凍てつく氷は巨大な熊の手を模し、鋭く長い5本の爪部分先端から闇を生じさせ、帯びる
世話がやけるなとアルフィーが迎え撃とうとするが、「どけぇっ!!」の掛け声と共に彼の胴に両腕を回し、後方へ投げ飛ばした
「なにしてくれんじゃボケェッ!?」
彼を投げて瞬時に迎え撃つ体勢に移ろうと体が動いていたが、爪の長い熊の右手がはたき落とすように振り落とされ、何処に当てられたかすらわからなくさせる威力で炸裂する
鮮血が飛び散り、顔から地にめり込む形で叩きつられた
普通の人間にグリズリーが爪を立て引っ掻けばその力と合わさって容易に頭部が刎ねられたり、大きく肉が削ぎ取れるというが、それとは比較にならない威力である
「あとで覚えてろよモトキめ!ん?」
投げ飛ばされたアルフィーは、遠くの上空にいるイルベターに気づいた
その次の瞬間であった。真上に発射された赤き一閃の閃光が無数に拡散し、空を赤に染め上げるほどの広範囲に渡りビームを上空から降らし始める
それを目にしたアルフィーは慌てもせず、咄嗟に今の状況から冷静に、黒い球体をもう蹴り放っていた
「八重輝・・・!」
加速と回転速度が増し、黒い球体は眩い光に包まれ光弾と化す。そして突然の急停止から同じように眩く光る光弾が8つに分裂し、それぞれ八方向に広がる
8つの光は赤き光の雨をまとめて斬り裂くように撃ち抜いていき、空を覆い尽くす程の赤きビームは全て一斉に爆竹に火が点けられたかのように光り弾けて消えた
分かれた8つの光は1つに戻り、最初よりも倍以上の大きさとなってイルベターを狙う
「ぬうらああああああぁぁぁぁっっっ!!!!」
イルベターに到達するはずだった光弾を、下から跳んできたクググクがラリアットでその右腕に受け、少し押され気味になり、腕がへし折れる寸前だったが粉砕する
「感謝しますよ、クググクさん」
「礼はいらないんでん。それよりもお嬢様を。お嬢様の有利に見えてあいつ、追い詰められた獣んでん」
硬い地にめり込むように伏せていたモトキの後襟を摘み、引っ張り上げすぐ首根っこを胸ぐら掴かみ持ち上げる
彼は気絶しておらず、頭部に、鼻と口からも血を流しながらその眼はしっかりと敵を捉えていた
モトキを掴み上げる彼女の右斜め後ろで、リアが光の矢をいつでも射れる姿勢で構える
「なるほど・・・」
「他はおいどんが相手しておくでん。あの茶髪をすぐにでも!」
そう言葉を残し、クググクはその場から急降下を行い、勢いをつけて、右腕を振り出す構えからアルフィー目掛けて強襲
同時に翼を羽ばたかせ、右親指からの血でサーベルを形成させたイルベターは上空からモトキの脳天を突き刺しにかかる
「この・・・!」
血のサーベルを頭頂部から刺し、赤カブの収穫みたいに屍から頭部をもぎ取ってやろうと考たが、そこへアオバが跳びかかるきりもみ状態から勢いをつけ、斬りかかりに現れ、長巻の刃が邪魔に入る
突き出していたサーベルが長巻の一撃を受け止め、力技で弾く動きから素早く連続の突きを放つ
その突きを長巻の刀身が防ぎつつ、その内の顔に放たれた一突きを防がず寸前に避けることで、下から相手の顎を狙い斬りあげた
斬ったか?いや、斬れていない。斬れたのは何をこだわりか、尖らせていた前髪の部分が縦に裂けただけ
固めて整えていたので綺麗なストレートの髪へとなってしまう
「いけないですねぇ、お嬢ちゃん」
ヴァンパイア特有の翼が彼女を包み捕らえた。優しさはなく、締め殺してしまう力で
骨か肉体か内臓かわからないが、軋む音がする。アオバの口から鉄臭い味が広がり、最初に身体中の空気が吐き出された
「飛び散ったあなたの血肉を牙1本1本に染み込ませ、ゆっくりと喉にまとわりつかせ呑み込ませていただこう」
体内が全て出そうな感覚で、意識も飛びそうだ
翼が自分を呑み込んでいっているようで、不安と恐怖が募る
しかし、下唇を噛み締め、血を垂らし、冷静を装うふりでもいいので意識を持ち堪えながら、左手の人さし指をなんとか動かす
「降する・・・」
限定的な範囲の小さな動きだが、それでも人さし指は振り下ろされた
「参閃針!」
天より3本の光槍が降り落ち、アオバを捕らえていた翼を裂く
翼をやられてしまい、イルベターは悲鳴を挙げた。衣服から翼を形成するので痛みはないはずだが、しばらくは飛行ができないだろう
3本の光槍がアオバの近くまでいき、浮遊する。長巻の峰でその内の1本をグラディフの娘へと撲り飛ばした
リアは咄嗟的に矢を射る方向をそちらに向けたが、当のグラディフの娘は「退いて」とだけ命令
「いいわ、乗ってあーげる」
モトキを盾にもできたが、彼をその場に落とすとリアと共にその場から跳び、後退
光槍は地に刺さり、深々と刺さるとやがて消える。アオバはモトキを盾にする可能性も考えていた。だから、彼に備わる治癒の力を信じて残酷だが彼ごと貫くつもりでいた
その選択をした自分自身が嫌いになりそうで、申し訳なさそうな顔でモトキに近づき、その肩に触れようとする
「離れてろ。あいつら全て俺の相手だ」
不意に軽くではあるが彼女を手で押してしまうも、つい反射的にアオバはモトキを殴ってしまった
「あ、ごめんなさい」
「いや・・・」
彼女から一発の拳をくらい、なんだか頭がスッキリしてきた
先程までの戦闘最中に覗いた狂気的な笑みとは違い、穏やかさのある笑みに
「グッドなパンチね!」
その光景を見てグラディフの娘は親指を立て、ウィンクを贈る。そして、「じゃあワタクシのパンチはどうかな?」と数センチの助走から、自身の周囲に幾つもの雪の結晶の形をしたものを展開させ、駆け出した
「どうだかな!?」
彼女のパンチは嫌なぐらい身に沁みている。あんなのを何発も受けていられない
その場から動こうとしないモトキの前にアオバは立ち、対処しようとも考えたが、彼から戦闘意欲を感じるも冷静さはあったので、邪魔にならないように控える
「粉砕しなサーーーイ!!」
冷気が走る右拳が彼女自身の猛スピードに乗せて放たれる。拳の威力による衝撃の余波でアオバにもダメージがいくので、今度は冷たく遇らうように押し退けるのではなく、優しさで彼女を急ぎ突き飛ばし、その行動後から流れる動きで瞬時に回し蹴りに切りかえる
右の足に光の力を生ませ、蹴りを放った
「逆鱗キーーック!」
逆鱗パンチと並んでタイガから教えてもらった基本は上段回し蹴り、カウンター目的にも使いやすい
初めてノレムと相見えた際に彼を倒した技である
「お嬢様!援護します!」
敵は彼女だけではない。イルベターは両眼から赤きビームを放ち、リアも跳び上がり、高所から光の矢を同時に射る
モトキの邪魔はさせないとアオバは地を蹴り、高速低空飛行から長巻の刃で赤きビームを斬り裂き、続けて光の矢を弾くように流すことで軌道をモトキからグラディフの娘へ
しかし、その矢は蹴りと拳の衝突により生じた風圧で吹き飛ばされた
「どおりゃあああああああああ!!!!」
腹の底から声を出し、足に力を入れて振り抜き、蹴り飛ばそうとするも、相手は左足を踏み込み、互いに弾かれ合った
両足でブレーキをかけながら体勢を立て直し、瞬間的にスピードを上げ、目で見ることすらできぬ高速で盾でを持ち突撃
「ゴホォッッ!!!」
追撃として左手に握られた両手剣で斬り抜こうとしたが、上半身を反らすことで寸前で避けられた
相手はその姿勢からボディーブローに入り、続けてモトキの頭に左手を置くと跳び、爪先蹴りを顔面に叩き込む
蹴り飛ばされたモトキを追いかけ、凍結した地面を滑り彼の下を通過する際に上空へ殴り飛ばした
そして、彼より先に高所へ右脚を振り上げながら跳び上がると、その踵を黒き一線を描きながら振り落とす
「ダークネスクラックドロップ!」
闇の力を帯びた強烈なかかと落としを放った
だが、その一撃をモトキの両腕が防ぐ
両腕が砕ける音がした気がするし、完全に折れたみたいに曲がっているように見えたが気にしない。そこから再度、回し蹴りによる逆鱗キックを相手にお見舞いしたが、その脚を左胸と左腕で挟み捕らえられてしまった
「きぃぃぃぃさまぁぁぁぁーーーー!!!!!」
突如、怒号なる叫びと共に彼女の両側頭部辺りから2本の角が氷の破片を散らしながら生える
思わずモトキは「うわぁっっ!!生えた!?」と叫んでしまった
脚を掴まれ、空中で力任せに振り回されてから地に放り投げられてしまう
「リーーアちゃーーーん!そっちに!」
「解っています!英雄の聖なる切断!!」
アックスピストルを光の力により斧刃を禍々しく巨大な白い刃に変貌させ、放り投げられたモトキの背を斬りにかかる
しかし、振り向きざまにその一撃を面に光を帯びた盾が受け止めた
「え・・・?」
斧刃の威力と光の力ごと覆され押し返されたかのように、盾から放出され光の波動がリアに放たれる
そして光ごと地面に深々と叩きつけられ、一度右手を上げようとしたが、力尽きてしまった
遅れてモトキが着地する
「やった!モトキ君!まずは最初の!」
「よそ見をしないでくれよお嬢さん!」
血で作られたサーベルによる無数のコウモリ化への翻弄を織り交ぜた素早い身のこなしの剣撃から連続の突きを放ち、それをアオバは長巻で捌いていくものの、一突きが右肩を掠めた
少量ながら飛び散った彼女の血はイルベターの顔に付着するが、先程までならその血を指で怪しく口まで顔に赤線を彩りつけていたはずだが、それとは打って変わって執着しなくなっていた
彼は怒っている。頭にきているのだ。リアがやられたことに
「余裕を演じるのはもうお終い!仲間が傷つけられて落ち着きのある態度でいれるものか!!!」
サーベルの先端が狙うは相手の額。アオバはそれに剛力を乗せた長巻の下から振り上げる一撃でサーベルを木っ端微塵に砕いた
「ちっ!顔に少し自信出てきているのを隠せてないぞ!」
間髪入れずに至近距離で両眼から赤き閃光のビームを発射
アオバは咄嗟の判断で頭を少し左に傾け、ギリギリのところでそのビームを避ける
対象を失った赤きビームは雲を大きく貫いていった
「撃ってくるだろうと読めていたわ!」
長巻には光のエネルギーを送っており、ビームを避けてすぐに斬りに移った。イルベターの手にも再度血のサーベルを形成しながら、振り払いにかかる
しかしその次の瞬間、アオバの左太腿を細い何かが貫いた
突然のことすぎた為か、バランスを崩した彼女をイルベターは形成されたサーベルで斬り捨てようとしたが、彼女を跳び越えて現れたモトキがイルベターを蹴り飛ばす
凍てつくような痛み。片膝をつき、すぐに原因をこの眼で確かめる
自身の左太腿には後ろから貫いた細い氷の棘が刺さっており、傷口からその周りの皮膚を凍てつかせている。凍てつくような痛さは本当に凍てついていた
「イルベターさんにトドメを任せようかと思いましたけどネ。よくも!」
太腿を貫いた凍りはグラディフの娘の人さし指から伸びていた。冷気をその指からレーザー状に発射し、対象を貫くと瞬時に凍らせる技
指先から伸びる氷を力を入れて折ったタイミングで、モトキが盾を投げて攻撃してきた
それを彼女は左腕が容易に弾くと先程の技をまたしても指先から、今度は連射を開始
モトキはそれらからアオバを守る為に自らの身体で受けた
胴体腹部を中心に冷気が貫き、凍てつき氷となる
その冷気に呑まれてか、身体の約半分が凍結されてしまい、白い息が大気に溶けていく
「モトキ君!」
「落ち着け・・・これぐらいじゃ死なん!」
彼は安心させる為の言葉をかけてきた。アオバは自分はこんな一本ごときでと無理矢理、太腿に刺さっていた氷を引き抜く
その間に追撃として、闇を纏った脚で黒き氷の結晶の形をした刻印が浮かぶ空中飛び膝蹴りがモトキに炸裂
「どう?効いただろーう。よネ?」
あまりの威力に吹き飛ばされ、このままでは後方にいたアオバにぶつかり巻き込んでしまう危険があったので、自らを地面に叩きつけるようすることで彼女の手前で停止
右手は地につけ、もう片方の手は顔下半分を隠すが、鼻からの流血と口からボタリと吐き出されそうになった血ヘドと混ざり落ちていく
「ふざけやがって・・・!効いてるか効いてないか見てわかるだろーが!」
氷に貫かれたりした傷は治癒はされるが、疲労とダメージの蓄積が取れるわけではない
相手もそのシステムを知ってか知らずか、何か思うところがあるのか、視線と顔を横に逸らし空を眺めてみながら「それもそ・・・」と言いかかった途中で、突然彼女の背中に黒い球体が直撃した
「あぁっっ!!!お嬢様!!!おのれらあああああああ!!!!」
「てめぇが避けたからだろ!!」
黒い球体が当たった背中の箇所を紛らわし程度だが両手を当て、丸まった兎に似た体勢で蹲ってしまう
このチャンスを逃すまいと、高く跳び上がったモトキは上空から両手剣を振りおろした
たが、そんな彼を2本の赤きレーザーが着弾する
「ぎゃあああああああああす!!!」
「命中はしましたけどあまり効いてはいませんね!ですが!これで構いません!」
翼を生やし、それに不気味な赤き光で包むことで翼を鋭利状な形へと変貌させるとイルベターはその場からモトキへ突撃を開始
ビームを受全身と口から小さな煙を出し、真っ逆さまに落下する彼の胴体の切断を狙う
「させない!させるものですか!ご遠慮、ご退場願うわ!」
唐突にイルベターの目の前に跳び上がって現れたアオバは彼の翼に長巻の刃を当て、力を加えることで地面へと押し落とす
そのまま叩きつけられる直前で彼は身体を回転させ体勢を整えるも、間を置かずに上空から長巻の刃先をこちらに向け、猛スピードで急降下してきた
右翼は先程ので斬り落とされたので、咄嗟に左翼で防御を行う
刃先が翼に触れ、突きの一撃が入った。あまりの威力に大気に衝撃が一波走り、気を抜かなくとも吹き飛ばされてしまいそうだ
翼を刃が貫き、刃先はイルベターの眉間手前で止まっている
「危ない真似を!刺さったらどうするのですか!?」
「あなたを貫く為にやっているのよ!!」
押し切って相手の眉間に刃を突き立てようとするも、突如として現れた無数のコウモリがアオバの邪魔をし、視界を遮る
「うっ!くっ!広角刃!!」
長巻を引き抜き、まずは能力で長方形のシールドを自分の目の前に出現させ、それに光を纏った長巻を突き刺し、ヒビを行き渡らせるとそのまま振り回す
光の斬撃にヒビから砕けたシールドの破片が混ざることで範囲をより広げ、コウモリを一網打尽に
本物のコウモリではないので血肉が飛び散ったりはしないが、黒炭みたく消えていく
「どこに!晦ませたの!?」
周囲を見渡そうとした時にはもう、イルベターは音も立てず彼女の背後に立ったいた
彼の左手の指はイヤらしくアオバの顎下を撫で、もう片方の中指と人さし指を口に入れてきた
「このままちょっぴり指に力を入れて引けば、お嬢ちゃんの頬肉が抉り取れちゃいますよ」
不気味だが上品さもある物静かな口調で「綺麗なお顔が台無しに」と褒めの一言を述べ、もうちょっとだけ指を口奥へ
脅してみただけでやらない、なんてことはない。残忍に頬肉を抉ろうと指を引こうとした
しかし次の瞬間、アオバの背後に立つイルベターの背へ2本の光槍が高速で迫る
それに取り乱す様子もなく、「馬鹿め」の言葉を残して自らを貫く寸前で彼女から離れた
自分からイルベターが離れたことでアオバもすぐに回避に移ったが、寸前の距離だった為か内1本が左下脇腹を深く掠る
その箇所を左手が掴み握るように押さえるものの出血が酷い
「先の時、俺の翼から逃れる際の・・・2本残していましたか。ですが、それがお嬢ちゃん自らを傷つけることになるとは」
翼の修復が完了し、ゆっくりと飛び立った
見下す眼は、アオバを映す
「お嬢ちゃんは、あの茶髪みたいに耐えられるかい?」
1番に恐れていた魔撃を持つ者も、あのボール遊びをする者もクググクが相手をしてくれている
モトキという茶髪の男も、今は落下から着地後に地面ごと足元から凍結させられていた
邪魔してくる者はいない。ならばもう一度あの技を、ブラッドデッド・ヘルレインBMを
両眼に赤き光を輝かせる
「いずれ、いずれまた・・・飛ぶこの時を待っていたわ!」
再び上空へ向け両眼から赤きビームを発射するという時に、強い力を重い威圧として感じ取った
戦慄する。目線の先の上空に、光の線で描かれた巨大な馬の上半身の姿が
「聖裁を印!!!」
長巻を振り下ろす動作に連動し、馬の脚が動き、蹄がイルベターへ落とされる
そのまま赤きビームを眼より放ったが、迫る蹄に弾かれてしまい、呆気なく彼に打ち付けられた
寸前で赤く光る翼で防御できたものの、何もできずに押し負ける姿になるだけ
「こ!!こんな!!!これしきのこと!!!!」
そして、翼が砕けた。そこから彼の視界が途絶える
轟音と共に猛スピードで落ちてきたイルベターは地面を大きくヘコませ、叩きつけられた
それに驚いたグラディフの娘は氷の斧を氷柱の頂き辺りに凍結させ閉じ込めたモトキへ振り上げようとしたが、手が止まってしまう
「イ、イルベターさん!」
気を取られたが、まずはこの男を倒してからだと「アイシクル!ブラックバーテックス!」の叫びと同時に氷柱の下から氷の斧で斬り上げ、生じた闇の力を斧刃の斬撃としてモトキへ走らせる
だが、それが到達するほんの手前で自身を凍結させて閉じ込める氷柱の頂にて内部から氷を弾き飛ばして脱出した
「あの一瞬、気を取られたロスのおかげで助かった」
「キャハハハ!Really?運命が生かしただけでもあるのでは?」
モトキを閉じ込めていた氷柱は闇の力で裂かれ砕け散り、その砕けた氷塊が降り注ぐ中、彼女は氷の斧を砕いてから跳び上る
両手を天へ向け、発生した氷粒の混じる吹雪が彼女へと集まり、頭上に1つの氷塊を作りあげるとそれを両手に落とし、持ち上げた状態で急降下してきた
あれを自分にぶつけるつもりか?投げ飛ばさず直接?氷塊は普通に彼女よりも大きいのだが、今さらあの大きさ程度と思いながらも、両手剣を構え対処の姿勢をとる
しかし、彼女はその氷塊をモトキにぶつけはせず、彼の手前に着地し、ズン!と地鳴りに似た音を立てながら両者の間を挟むようにその氷塊を置いた
氷塊は冷たさが伝わる目と鼻の先に。距離感を間違え外したのか?と頭に考えが過った次の瞬間である
「闇に溶けて!!ダークネスラヴィーナ!!!」
氷塊を持つ両手から闇の力による極太の黒紫色をした暗黒の光線とも言うべき力を放つ
氷塊を砕く力に生じた衝撃に吹き飛ばされそうになってすぐにあの闇の力を続けて受け、呑まれてしまった