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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
188/217

地をいく傭兵団 27

槌を打ち付けられ、胸部から全身へとヒビがおよび、鎧は破片となって砕け落ちていく

最後に鎧頭部が落ち、その者の素顔が露となる

両サイドボリュームのあるピッグテールにした色素の薄い金髪がハラリと広がった

キツネっぽい大きく見開いた目の上に位置には丸みある小さな二等辺三角形を横に倒した形をする眉毛を持つ。

何故か鎧の下はスクール水着に似たような物だけを着用した姿であった

腕は見えていたが、全身の肌が比喩される白肌ではなく本当に僅かに薄い青みを含んだ白い色をしている

その胸と尻は豊満であり、太ももは健康的な肉付きであった

あれがグラディフの素顔なのかモトキはただ、名のある将の顔を見れて、そいつを前ににして改め戦慄していた


「あれが・・・グラディフ、なのか?」


「いえ、そんなはずないわ!グラディフは男性のはず!」


アオバの言葉に「なんだと!?」と鳩が豆鉄砲を喰らった顔に

どういうことだ?と、ではあいつは誰なんだ?と脳内で簡単な疑問や考察が始まろうとしたところで、ゾゾイが一言


「代替わりしたのでは?」


「なるほど、世襲制か!」


何故か納得しているが絶対に違う。相手側も首を横に振って否定をしている

モトキとゾゾイの中には別人という疑惑はどこかに落ちてしまっていたようだ


「あらら、ついにバレてしまいましたね・・・お嬢様」


やれやれと溜め息混じりの口調でイルベターが呟き、それに対してグラディフと思われていた者は素っ気なく「ね・・・」と返した


「グラディフじゃないとしたら、グラディフ当人はどこにいる!?何を企んでいる!?もうグラディフはとっくに亡き者にされてしまった!?あんたの企みが為に!!」


他が驚きの中一人、クローイはイラついていた。何故なら、グラディフの所有する名槍を一目見たく、あわよくば討ち取って頂戴しようと考えていたからだ

本来所有する武器を出さず、氷で生成された巨大な氷塊の付くフレイルを使っていておかしいとは思っていた。ナメられているのかとも思っていたが、正体は凍槍グラディフではなかった

明日楽しみにしていた遠足が朝起きれば雨だった小学生の心境


「企むもなにも、我はお父様の代理で来たまで。お父様は発つ直前に急遽、魔王帝様からの個人的なお呼び出しにより今件に参ずることができなくなりました」


「この事情を知るのはここにいる方々と、他ではゼナナちゃんとイグバッツ様のみ・・・今ここで知る者が増えましたが」


いつかバレるだろうと半ば諦めはあった。苦笑いの表情を浮かべながらイルベターは櫛で前髪の尖りを整えるが、クローイの魔撃から発砲された赤白色の弾丸がそれを撃ち抜かれ、折られてしまった


「あーあぁー・・・この櫛、高かったのに。なんて!高いだけで手に入らない貴重な品というわけではありませんので!気を取り直して!それではお嬢さまああああ!始めましょうか?」


「よーし!お着替えタイム!Are you OK?」


「準備はできてます!」とリアが黒いマントで彼女を包み隠し、イルベターがカウントを開始。「3、2、1・・・」から指を弾き鳴らすと、クググクがマントを掴み一気に引く。まだ掴んでいたリアごと

スクール水着のような裸足の一着姿の彼女から、黒と明るめの青を基調としたゴシック風のドレス姿に


「お待たせしましタァッッ!?」


着替えが完了した次の瞬間、彼女目掛けて黒い球体が迫ってきた

アルフィーが蹴り放った球体は彼女の顔面を狙い、鈍く重い音が奏でられる


「お嬢様、大丈夫ですか?」


心配するイルベターの声に焦りはなかった。余裕が垣間見える

馬鹿にされているようで、それを汲み取ったアルフィーの額に分かりやすく血管が浮き出た


「Oh!せっかちなハリキリボーイがいたものね!」


黒い球体が顔面に直撃する寸前に、彼女が右手がそれを容易に受け止めていた

球体と手の接触部からは煙が出ているが、ダメージは微塵もない

その隣でリアは猛烈に怒りを露わにしていた。アルフィーを指さし、声をあげる


「バカヤロー!!変身中や着替え中は攻撃しちゃいけない誓約があるのよ!!」


「うるせー!!チャンスを狙って何が悪いってんだよ!?どこの政府通しての誓約だ!?あぁ!?」


アルフィーは駆け出す。彼女にダメージも与えれず、武器である球体を手にされたままなので

向かってくる彼にリアがアックスピストルから銃撃を連射してやろうとしたが、「待って」とグラディフの娘が止める

先にこれを返してやろうと、黒い球体を掴む手の指先に僅かに力を入れ、アルフィーへ投げつけてきた


「なっにっ!?」


捉えれない。あまりにも速い自分の武器

軌道は真っ直ぐであるはずなのでいつものように足から球体を迎え入れようとしたが、着弾と同時に凄まじい威力が走り、吹き飛ばされそうになってしまう


(足が砕け散りそうだ!)


足から伝わる骨が悲鳴をあげる感覚。自らがいつも武器に使う球体を足で受け止めるので精一杯であった

その間に次はあの女から向かってきているのに一手反応が遅れてしまうが、そんなアルフィーの前にモトキが出る


「させるかぁっっ!」


右拳には白き光が纏っていた。迎撃としてその拳を放つも、彼女もまた、握り締めた右拳を放つ

拳と拳が接触した瞬間、モトキの記憶が一瞬消し飛んでしまう

拳と拳の激突に呆気なく押し負け、その威力と衝撃によりモトキと後ろにいたアルフィーごと二人まとめて吹き飛ばされてしまった


「ぐわあああああぁっっ!!巻き込むなモトキーーー!!」


「すまーーん!」


庇うつもりで彼の前に出たが、これではかえって巻き込んでしまい無駄なダメージを与えてしまっている

彼女の怪力、肉弾戦における1つ1つを警戒しなくてはならない

パワーだけならタイガを圧倒的に超えている

寒い。凍てつく寒さの大気が肌を刺す中での打撃攻撃はより痛みを感じてしまう

そしてモトキの右拳から氷が纏っていくように凍結が始まっていた


「キャハハハハッ!だらしないネッ!!」


上空へ高く跳び上がると自身の周りに氷塊を作り出し、それに闇の力を纏わせて射出

冷気に乗せるように、共に追撃をしてきた


「モトキ!俺様に足をつけ!俺を足で押し蹴飛ばし!俺は後ろへ!お前は自由に翔べ!」


「了解!」


お言葉に甘えてアルフィーの胴体を踏み台とし、押し蹴ってグラディフの娘へ強襲にかかる

不思議と息が合った。不思議とアルフィーがあの氷塊をどうにかしてくれるのがわかった

信じている。タイガの頼りになるとはまた違うが芯から力が湧いてくる

飛ばされた氷塊ではなく、あの女にのみ意識を集中

闇に包まれた幾つもの氷塊はモトキへ迫る

目を閉じない。腕や盾で咄嗟に防御もとらず、剣で斬り弾くこともしない、突っ切ればいいだけ

右拳から始まり首まで到達し、顔にまで侵食し始めた凍結を力むことで無理矢理砕くとその手に盾を出現させる


重嵐(じゅうあらし)・・・!」


モトキに迫っていた闇の力を纏った氷塊は黒い球体により全て砕かれてしまった

一回の球体を蹴り放って済ませたわけではない。最初の1つへのヒットからアルフィーの元へ戻り、再度蹴り放つまでの繰り返しがあまりのスピードにより球体が分身したかのように錯覚して、幾多もの数を繰り出されたかのよう映る

いつもは大振りに放射線状を描くようにして威力をより高めているが、今回は直線的に


「Oh!なんてこったい!とでも?」


大気中の水分を凍らせて巨大な氷の斧を作り上げると盾を手に迫ってきたモトキへ振り落とした


「アイスアックス!」


その一撃を受け止める。盾から威力が伝わり、大気へと及ぶ振動が目に見えて今にも押し負けそうだ

押し負けて叩き落とされたり吹き飛ばされても良い、やるべきことは決まっている


「至近距離からの!盾から撃ち出される光を受けろ!!!!」


盾を前に何か技を仕掛けてくるのは見えているが彼女は動じない。返り討ちにでもするつもりなのか右拳を放ってきたがもう遅い

先に放たれる光が圧倒的に速い。彼女を吹き飛ばすか、貫くか、耐えたとしてもそこに両手剣で突き刺してやる

しかし、その光が放出される寸前にモトキの全身へ衝撃が走り強力な一撃が叩き込まれてしまった

何が起こったのか理解するのが遅れ、視界も脳内も揺れている

すぐに理解したのは巨大な腕が撃ち込まれたこと

手にしていた盾は宙を舞い、射出された光は上空の遥か彼方へと消えていってしまった


「ぐふぉっっ!?」


全身に圧を受け、自身に一撃を入れた正体はクググクの巨大な右腕であった。普通に見ても大きい感想が出るほどの太い腕であったが、より巨大化している

腕だけではない、シンプルに彼自身が巨大化したのである

巨大化した彼の肩からグラディフの娘は翔び立ち、吹き飛ばされたモトキを追う


「死んじゃえェェ!!」


咄嗟に行った腕のガードだが、彼女の右足による圧倒的なパワーの伴う連続蹴りには意味をなさない

弾かれるようにして腕を崩され、蹴りを撃ち込まれると身体各箇所の骨が折れ、砕かれたのがわかる

シメの人蹴りを薙ぎ払うかのように胴体に入れられ、氷海へと落とされた


「モトキどのーーー!!!また冷たい海に!寒中水泳健康法と思い込んでください!」


「思い込みでどうかなるかーいっ!くそ!世話のやける!!」


ゾゾイの言う寒中水泳するにも限度のある冷たさ。その海に落ちたモトキの救出に向かおうとするアルフィーだったが、その進路を妨害するようにあの女が降り立つ

降り立った地面が、彼女の爪先が触れた瞬間にその箇所からゆっくりと凍結され、広がっていく

それを避けるように彼は咄嗟に後方へ跳んだ


「キャハハハハハハ!凍てつく冷界にて眠りななし!Ready!Go!!」


軽く右足の爪先を1回地へ軽く小突けばアルフィーを追いかけるように亀裂が生じ走る

その裂け目から連なる氷柱の如く氷が突き出していき、亀裂の生じるスピードが上がるに合わせてアルフィーの真下までに到達するとより巨大な氷柱として突き出した

それを察していたのか、クローイが槌を投げて彼の背にぶつけることで前へ押し出し、真下からの氷柱の直撃を免れる

別のダメージも入ったが


「クローイのやつめ、終わったら次は貴様だ・・・!」


躱されはしたのに、グラディフの娘はわんぱくなのかお転婆なのか、歯を見せて笑った表情をしていた

そんな彼女の背後より無数のコウモリとなって現れた

イルベターが隣に立つが、何やら溜め息が出そうな困った顔をしている


「出すぎですよ、お嬢様。仮にも大きめの立場というものがございますので。俺達にお任せを・・・」


「運動したかったの」


彼の言葉に素直に耳を傾け、後方へ退がる。入れ替わるようにリアがアックスピストルを水平になるよう投擲し前へと出てきた


「陽動のつもりか!?」


あれぐらいなら撃ち落とせると黒い球体を蹴り放とうとしたが、アックスピストルのその向こうからは背を地面につけ滑り込みながら光の矢を弓で引くリアが迫る

矢を射るつもりか?アックスピストルが陽動だとしても、それ程度なら続けて黒い球体なら打ち破れるだろう

蹴り飛ばされた黒い球体はアックスピストルを最初に撃ち弾き、次に射られるであろう光の矢を狙うが、先に矢は自分にではなく真上へ放たれた

リアは地面を滑り前進するのをブレーキをかけ中断し、後転の勢いで跳び上がると彼女の下を柔らかそうなボールが通過していた

それは黒い鉄球とぶつかり合い、互いに弾かれ合う

先ほど上空へ射られた光の矢は空中で弧を描くように一回転してから複雑な動きで、追尾するようにアオバを狙った


「派手さを捨てた相手を確実に狩る技!」


標的にされたアオバは長巻を一回転させてから、刃先を後方斜め下へ地面に刃先が触れるギリギリの位置まで持っていった構えから両手より光の力を柄から刃へ伝達させ、白線の走る長巻を速さと重き威力を乗せた突きを放った


闘白気(とうはっき)一閃(いっせん)!!」


光の力を伴う長巻の一突きは矢を呆気なく粉砕し、同時に白く光る紙吹雪のようなものを舞い散らせる


「獣は狩れても、人間一人を狩るのは骨が折れるようね。その技は・・・」


挑発するアオバの発言。彼女は妙に落ち着いていた

一番にモトキの安否を心配しそうなのだが、その不安はなく、彼を信じている。ネフウィネと渡り合えたのだから、あれぐらいで戦闘不能になるはずがない

そんなアオバに気に入らない顔を向けるリアの元に、長巻の突きによる光の余波が迫るも彼女はとっくに先程の矢とは比べ物にならない、もはや城壁を崩す際に使われる大型弩砲の矢よりも一回り大きいサイズの2本を水平にした弓につがえ、力任せに引き、射る

風を破壊するかのような轟音と共に、それぞれに光と闇を纏いて白と黒に成った巨大な矢は螺旋を描きながら光の余波を突き破った


「ギガスデリート(巨人屠り)!」


「巨人種を前にその技を使うんでん?」


元のサイズに戻っていたクググクはその技に複雑な表情であるが構いもせずにリアは走り出す

アオバに二本の矢が到達するまでの猶予は殆どなく、躱す為の踏み込むや挙動する余裕すらない。矢の後にエルフの少女が追っているのには気づいていたが、まずは矢から対処するしかない

あの威力を長巻の刃で受け止めるにもリスクが高すぎる。そのすぐにリアが攻撃を叩き込んでくるだろう


「ならばあんたがあのエルフを迎え撃てばいいだけ」


唐突にクローイが背後からアオバを引っ張り、抱き寄せると魔撃の銃身を彼女の右頰に当て、相手に銃口を向ける

銃口に赤白の光が集まり、そこから銃身にまで赤白の光が電撃状に走り、当てられている右頬に少し熱を感じた


「あの矢を吹き飛ばしてやる。反動はこうしてあんたを受け止めておくから、引き金を引いた瞬間にあんたは走りな。同時に背中で押し蹴ってやる。これで前回の件はチャラ」


「上手くいけば、ですね」


「あたいを信じな」


銃身から銃口にかけて赤白の電撃が走る引き金にかけた指を引く直前、銃身がより熱さを増す


「あつっ!」


「我慢しな!魔獣撃滅(まじゅうげきめつ)!!」


2本の巨大矢が到達するまで1メートルもない距離で、カチリという小さい音から銃口より赤白色の極太のビームが発射される。銃口のサイズと合わない砲撃からでも発射されたかのようなそのビームは2本の矢を一瞬にして呑み込み、消し炭にしてしまう

反動も大きく、空間に響く衝撃の余波に痛みすら感じ、ゾゾイも吹き飛ばされてしまった

アオバもやられてしまいそうになるが、先程言ったようにクローイが背後で彼女を受け止めながら次に背中を蹴り前へと押し出した

足を止めず、追撃にかかる


「ちぃっ!自力でなく武器頼りめ!」


真正面から直撃するわけにはいかず、リアはその場から跳び、巻き込まれる危険が高すぎるので続きイルベターとクググクも離れるように各自散る

しかし、グラディフの娘だけは動こうとしない。右拳を引き、構えた

これにはクローイだけでなく、味方すら驚きを隠せない


「ゲェッ!!?お嬢様!?そんな強者の余裕ぶらなくても!クググク!盾になってこい!」


さらっと酷い仕打ち、自分はせず他人に行わせる所業。さすがにそれはおかしいとリアが「何気に鬼畜発言!」とイルベターに指をさしてその発言の取り消しを求めようとするが、当のクググクはあっさりと承諾してしまう


「了解したんでん!」


忠誠心か、はたまた自分にはこれしかできずという卑下気味な自己評価によるものか

迎え撃とうとしていた彼女の前に急ぎ降り立ち、太い両腕を交差させた両膝をついての防御の姿勢から巨大化を行おうとするが、ビームが到達する直前で邪魔だと言わんばかりに軽々と片腕で持ち上げられ、上空へ投げ飛ばされてしまった


「お、お嬢様!?」


邪魔と扱われたが、それでも直ちに彼女の盾となるべく戻ろうとするも、迫るビームを己の拳のみで迎え撃とうとする彼女の姿勢に、行動に移すことができなかった

なら、やるべきことは一つであろうクググクと己に言い聞かせる

投げ飛ばされた、投げ飛ばしてくれた今を利用する

そしてクググクを投げ飛ばした彼女は、通過後の痕に融解が及び広がっていくビームを真正面から拳のみで立ち向かう

闇の力が握り締めた拳より零れ、地面に落ちれば黒い氷柱へと成る

しかし、自信が通じるのはマレなことである

拳を放った瞬間に、呆気なく全身がビームに呑まれてしまった


「ぎゃああああああああああああ!!!!」


「わーーーっ!!お嬢さまーーーーっっ!!!!」


思わず「やった!」と声を挙げ、右拳をぐっと握り突き上げたクローイであったが、ビームの通過後、彼女の姿があった

ドレスも酷くボロボロとなって、下に着ていたスクール水着のようなものと、肌が覗く

口と全身の箇所からは白い煙が立ち昇り、生きているのか死んでいるのかはまだ判らないが、直撃しておいて消し炭になっていないことに驚きを隠せない


「姿形はあっても!生死判らずとも!どうあれ斬り裂けばどの道に終わり!!」


クローイがビームを放つ瞬間に背中を蹴り、押し出されたアオバは追撃として長巻で斬りにかかった


「かっこつけたはずが・・・カッコ悪い・・・なんて、こと・・・!」


口から煙が出たまま、白目をむき、聞き取りにくい小さな声で何か言っている。意識が遠のいているようだったが戻ったのか、ただ自分に呆然としてしまっていただけなのか

どちらにしても、もう長巻の刃は振り切りに入った


「GO!」


瞬時に長巻の刃を右腕が防いだ。アオバは力技で問題なく、その腕ごと切断を試みるも押し切れない

その腕には氷が覆っており、長巻の刃にも接触部から氷が侵食していくかのように凍結が始まる


「闇すら避ける深淵なる凍界に落ちろ!」


もう片方の腕が伸び、アオバの胸ぐらを掴むと一度彼女の顔を自分の顔に目前まで近づけ、投げ飛ばす

その直後に素早く跳び、勢いで踵落としを炸裂させ、叩きつけて地面ごと粉砕しようとするも、アオバを閉じ込めるように白い球体が出現

だが、その白い球体は踵による一撃でガラスが細かく割れたように砕かれてしまうも、直撃を避ける猶予を作るには十分

踵を長巻で一瞬にして受け流すように避け、その勢いに乗って自身に回転を加えながら相手の左側頭部に足甲を叩き込んだ

入った。手応えはある。彼女の付けていた左側の髪留めが取れ、サイドテールとなる


「Oh!そんなに近づいて良くて?」


側頭部への蹴りに動じず、接近しすぎたアオバへ強烈な右拳の一撃を叩き込もうとするが、その腕に黒い球体が直撃した

砕けた氷の破片が飛び散り、その攻撃に気を取られた一瞬の隙にアルフィーが強襲。腕にぶつけた黒い球体に跳び蹴りを放つことで追撃として更に威力を増幅させ、彼女を吹き飛ばす


「危ないところを颯爽と助けに現れる俺様!」


アオバのピンチに最高の形で助けることができた。顔も風格も最高にきまり、自惚れしてしまいそうだ

しかし、吹き飛ばされたグラディフの娘をリアが空中で受け止めると一度振り回すよう身体を回転をさせ、勢いをつけてから投げ飛ばす


「アルフィー君!危ない!」


氷の粒と冷気を伴い、猛スピードで迫る彼女の右拳には闇の力が生じ纏っていた

黒い球体を蹴り放ち、迎え撃とうとするも、蹴る寸前にしてその球体は連続する発砲音と共に弾き飛ばされてしまい、蹴る対象を失ったアルフィーの右足は空振りに終わる


「ぬおっ!」


空振りをした直後からは間を置かずの出来事、彼女の闇を纏う右拳の一撃が放たれた

だが、その直前に白い球体が彼を閉じ込めるように出現したが、問題なく粉砕され、拳が叩き込まれる

壮絶なる威力の表れなのか、アルフィー自身と彼の周りの空間が振動していた

そのまま地に叩きつけられ、大きく陥没させると生じた亀裂から僅かな海水が滲むように溢れ出す


「ゲホッ!ゴホッ!」


強烈な一撃を受けたアルフィーであったが、口から血反吐を吐き、身体中に走る痛みに耐えながらなんとか体を起こした。立ち上がろうにもダメージが響き、まだ力が出ずに膝をついてしまう

何箇所か骨をやられたようだが、そんなことをいちいち確認し気に留めている暇はない


「Wow!やっぱりあの手応えでは永遠の眠りへ誘えは・・・その原因は!お嬢ちゃんの!」


その眼はアオバを睨む。拳を叩き込む直前に現れたあの光。先程、彼女も攻撃を避ける猶予を作る為に生み出したものと同じ

睨む対象である彼女は急ぎアルフィーの元へ駆け寄っていた


「ごめんなさいアルフィー君、私が咄嗟に盾になる余裕もなく、これぐらいしかできなくて」


「いいや・・・礼を言うよアオバ。あれがなけりゃあ俺は死んでいたろうな、あの一発に。アオバが生かしてくれた。あと、そんな自己犠牲して足りる程の余裕はねぇから、自分の身は大事にしろ」


彼女の肩に手を置き、それを支えに立ち上がった。口周りに残る血を手の甲で拭い、黒い球体を右足の付近へ


「仲が良いことは結構なこと。GOOD!ね、GOOD!なら、仲良く粉砕してあげちゃう!」


再び氷で作られたフレイルをその手に出現させ、柄から鎖へ、そして巨大な氷塊となっている打撃部に闇の力を送り、素早く振り上げて叩き落とす


「コキュートスターーーーーンプ!!!」


迫る氷塊にアオバは長巻を構え、突きの一撃に賭ける。アルフィーもまた、短時間に深呼吸から集中して黒い球体をぶつけるつもりでいた

しかし、巨大な氷塊が着弾するより先に回転しながら炎を発するタイヤがグラディフの娘の腹部に炸裂し、彼女を手に握っていたフレイルごと吹き飛ばした


「ゴホォッッ!?」


「お、お嬢様さまーーーー!?」


フレイルが海に落ち巨大な水しぶきをあげ、続けて彼女もこのまま海中へ落ちそうとなるが落下地点を凍らせて着地

彼女に着弾した燃えるタイヤはゾゾイのバイクの前輪部へと戻った


「やるぅ!」


海水を凍らせて道をつくり戻ろうとしたが、そこにクローイがいつも道具や武器を入れている大きなバックパックを蹴り飛ばしてきた

先程鎧を砕いたハンマーを投げたり、銃で撃つ方法もあるのに何故にバックパックなのか?その疑問が過ぎった矢先にバックパックを内から突き破って幾つもの剣と槍が飛び出す


「Why!?」


前方より正面上下左右、個人を集中的に狙った動き。後方へ退いて避けるにも無駄なので海面に右足を振り落とし、その威力と衝撃で津波の如く上がった海水を凍らせて氷壁と化す

それにより迫りくる剣や槍を防ぐことはできた。更にその氷壁へ拳の一撃を叩き込み、砕かれた壁は大粒な氷塊となり、それらを飛ばして攻撃


「氷塊なり永久凍土でも魔撃からの火炎はそれらを溶かし蒸発させることができる」


魔撃の引き金に指をかけ、最大出力で火炎を放出しようとするも、イルベターがクローイの首筋を狙い、噛みつきにかかってきた


「キサマァァァッ!!」


相手は吸血鬼、この魔撃はその種を殲滅する為に作られた物。彼に銃口を向ければ良いのだが動かず、自身は飛ばされてきた数多の氷塊を優先

自分に襲いかかってきた吸血鬼は彼に任せる


「ゾゾイ、やれ」


彼女の皮膚と肉に牙が刺さることはなく、炎を纏い猛禽類を模したバイクのみがイルベターに猛スピードで突進を行い、彼は撥ね飛ばされてしまった

その一部始終のすぐ後、ゾゾイは急ぎバイクのハンドルを握り捕える

するとバイクは浮き始め、縦半分に分かれた

シングルシートの左右両方の側部に手を入れて掴む部分が作られているので彼の両手はそこを握り、分かれたバイクを一度持ち上げてからズシリと重みを感じさせるように地に付ける。シルエットでいえば大剣か大きめの棍棒か何かを両手それぞれに1本ずつ持っている姿である

火花を撒き散らし引き摺るように追撃として距離を詰めると畳み掛けた


「ゴムグヌアッッ!!そのような見栄え大きいだけの軽い攻撃で葬れるものか!!」


自身の右手母指球を噛み出血させるとその血がサーベルを形成

赤き閃光を軌跡に残して血のサーベルは振り下ろされたバイクの二重撃を薙ぎ払う動作で防ぎ、強く弾いた


「血にやられ、血をぶちまけよ!!」


左手の親指を噛み、血を鋭利状に伸ばすことでゾゾイの急所を狙う

しかし、先程防ぎ弾いたバイクの右手に持っている方に付く前輪タイヤと、もう片方の手に持っている方に付く後輪タイヤが炎を起こしながら射出され背後を強襲


「ゲホガッッ!?」


着弾した二輪のタイヤは上に跳ね上がると元の部位に戻り、縦に分かれたバイクはプシュー!という音と共に接合部の間から白い蒸気のような煙を噴き出しながら元の一台のバイクへと成る

そのバイクの後輪部を地に伏せ倒れたイルベターの背に乗せ、抑えつけた


「終わりまで大人しくしてろ。妙な真似すればフルスロットルで焼き削ぐからな」


返事がない、捻り声もなければ僅かな抵抗の動きすらしない

そしてイルベターの対処をゾゾイに任せたクローイは魔撃により広範囲に及ぶ火炎放射が飛んできた氷塊を呑み込む。熱した鉄を水に入れた際に似た音は火炎が氷塊を溶かし蒸発させている音だ

大きさによるものか完全に溶け切ることができない氷塊もありはしたものの、サイズは小さくなり勢いも殺され地面に力なく落ちていったので脅威はない

その火炎と氷塊の衝突に紛れてリアがイルベター救出の為に動いていたが、彼女の胴体に黒い球体が直撃する


「流れが来始めたのを邪魔するなっ!!逆らって泳ぐなっっ!!!」


黒い球体が抉るような痛みと、突き破りそうで、それでもリアは「何が流れよ!」と声を挙げる

抑えつけられているイルベターも怪しく笑いだした

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