地をいく傭兵団 24
さて、自軍は役一名。エモンとダイバーはランベとかいう昔馴染みと対峙する最中
少数ながらも魔王帝の軍、革命軍、自分という三つ巴状態
革命軍の兵の誰かがイグバッツを狙撃しようと狙うも、ヘターがその者を引き裂き、近くにいる他の革命軍をある程度複数片付けてからタイガへ攻撃を開始する
「死ねや赤鉢巻き!!!」
高く跳び、タイガ目掛けて襲いかかった。高所からの蹴り、踏み潰すつもりで
タイガは竜人としての姿を現したイグバッツを目で追いながらも、落下してきたヘターを手に持つ槍で力任せに打ち飛ばす
「グヘアッッ!!」
斬られはしなかった。槍を叩きつけられただけ
タイガ的にはそうではないのだが、ヘターは情けをかけられたと独自に解釈してしまう
彼はすぐさま全身に力を入れ、歯を食いしばり、鼻血を出しながら空中停止を行う
そして手には金棒に、両端部には白く太い何やら巨大生物の牙が付けられた棍棒のような形状武器を出現させ、それを高速に回転させる
黒紫の風が生じ、風は棍棒全体へ吸い込まれるように集約されていく
「インパクト!」
棍棒を回転させ生じた闇の力を感じさせる黒紫色の風を、凝縮された風圧として解き放つ
最初に起こるは余波の風、草を、土を抉るように巻き上げる
タイガは槍を上空に投げ、右手に出現させた刀を即座に振り抜いた
「威武道!!」
強大な真空波のようなものを発生させ、撃ちつける
それは風に風穴を空けるして、不吉な黒紫の風を撃ち破った
「ぬぬぬぅっ!!そんな教科書みたいな技に!!」
「その教科書にお前はやられんだよ」
タイガは猛スピードで走り、ヘターへと接近
彼もまた、望むところだと迎え撃つ
「オリャアッッ!!」
棍棒で力強く薙ぎ払う。空気を裂くような音と共に跳んでこちらの高さまで接近してきたタイガの胴体へ
躱してみろ、躱した直後にそこへの追撃を叩き込んで仕留めてやる。また当たれば粉砕、もしくは撲ったはずなのに、威力で切断すら可能
しかし、その一撃をタイガは刀を握る右腕で防いだ
一瞬走った衝撃が両者の髪を激しく立たせ、ミシミシ!軋む音は、彼の骨からか棍棒からか
「っ!!こんの!!」
再び肘から右拳へ闇の力を伝達させ、突き放つも到達するより先に右頬への違和感に気づいた時には地面へ一撃で殴り落とされていた
地面に陥没はしたがすぐに起き上がるも、目の前にはとっくにタイガが立っており、手離さずにいた棍棒で脳天を叩き割りにかかるも、最小限の動きで腹部から一撃を入れられ、左胸へと2発の拳の連打
反撃しようにも躱され、そこからのカウンター攻撃により堅実にダメージを蓄積されていく
「ぐっ!ちく!ちょうめが!!当たれ!!」
ムキになってしまっている彼は、棍棒をタイガの側頭部へ目掛けて撲りかかった
だが、やはり届かない。蹴りを入れられ、靴底が地面を抉りながら後退させられてしまう
その間に、相手は刀を振り切る体勢へと入っていた。またくる、あの「威武道」が
声も出ず、動けという脳への信号が間に合わない
「させん!」
テハーにとっては安心する声、その声の主は上空より激しく火炎を全身に纏て、タイガ目掛けて急降下
刀を振り抜く寸前で中断し、その場から跳び、光を帯びさせた刀の刀身で受け止めた
「ぐあっっ!!!」
両者が接触した瞬間、凄まじき力の余波で近くにいたテハーを含め、周囲に存在するものが吹き飛ばされていく
タイガが受け止めなければ、確実に広範囲を、近くの海から城も城下町、他陣営地をも巻き込み、一面を焦土と化していたであろう
「この体勢、お前には不利か!それとも両手は空いているので有利に動くか!」
左手に槍を、間を置かず放たれた突きにより生じる気流は火炎をも退ける
槍にこのまま貫かれると思われたが次の瞬間、ここでイグバッツは体を前転させると同時に、強靭な尾を素早く、力強く振り下ろす
大きな衝撃音と共にタイガが地面へ猛スピードで落下し、叩きつけられた
竜の尾からは、白い煙が漂う
ゆっくりと翼を羽ばたかせ、砂塵を起こし、着地と同時に元の姿へと戻った
どちらが本来の姿かは個人の自由らしいが
「や、やった!さすがイグバッツ様!!」
「安堵と賛辞はやめよ!まだ終わってはおらぬ!あの者が、先のぐらいでやられるはすがなかろう!」
「えー、買い被りすぎますよ・・・」
買い被りすぎかどうかは、これよりの戦いで証明される
「竜の牙よ!」とイグバッツは叫び、それに応えるように上空から落ちてきて轟音を奏でたのは白く太い両刃を持つ武器
いや、それは刃ではない。短めの柄から両端に白い牙か角のようなものが付けられているといったテハーの物とは似てるようで扱いが
テハーの場合は両軸の先端に付けられているに対し、この武器は柄以外全てが白い牙なのである
牙の大きさも違いすぎる
「それは・・・?」
「伝説の打撃武器の1つ、竜の牙よ」
「安直だが強さを象徴的に表すにはもってこいのネーミングだな。打撃武器なのに牙か」
種類的には棍棒に属する武器なのだろう。落下で地に深々と刺さっているそれを引き抜き、ずっしりと見るだけで重みを感じさせながらも、軽々と一度振り、風圧を起こす
「悪いが、当たると酷く痛いぞ」
「問題ねーよ」
我が主人にこれ以上、手を煩わさせずに終わる為、テハーは地に足を踏み込み、地面を蹴って駆け出そうとしたが、我先にとイグバッツが動く
それに応え、タイガも走り出した
両者、不気味に思えるぐらいの笑顔である
正義も悪もない、闘気に呑まれた笑顔
「逆鱗っっ!!パァァァァーーーーンチ!!!!」
武器を手から消し、親指で押さえ握りしめられた右拳からは激しく火炎が生じる
「ドラゴン・・・!フレイム・コア・インパクト!!」
口から火炎を吐き、それを右手に絡め、竜の爪で掴みかかるような動きの掌底突きを放つ
拳の炎と掌底突きの炎は肉体よりも先に着弾し合い、凄まじき火炎の余波が周囲広範囲に拡がらせ、光景に間を置かずして両者が激突する
やはりタイガとイグバッツは笑っていた。片や一端の武人として若き力を目の当たりにでき、片や久しく精神を抉られることもない純粋なる強者と巡り逢うことができ、そいつと闘うことができてる今に
「ドラゴンフレイム!ONEブレス!」
拳と掌底突きのぶつかり合いに、互いに高まる高揚を確認し合ってから一瞬の時を置き、イグバッツは至近距離からタイガへと口より火炎を吐く
強大なる炎はタイガを瞬時に呑み込み、吹き飛ばす。高温で近くの地面は発火が起こったり、イグバッツの足周りは溶け始めてすらいた
炎は夜空の遥か彼方へと続く
「効かーーんっっ!!」
火炎に呑まれ、吹き飛ばされ、焼失したと思われていた。しかし、彼は炎を全身から溢れる気合いで吹き飛ばし、イグバッツを蹴り飛ばした
「ぐふぉっ!?」
追い撃ちと蹴り飛ばした彼へ、槍を投げ刺そうとするも、ヘターが立ちはだかる
棍棒を掌の上で回し、槍を投げようとするタイガよりも先に己の武器に回転を加え、投擲してきた
生じる風圧は地面を抉り、軌道を記す
「くっったばれぇっっっ!!」
投擲した棍棒に続き、自身も走り出した。イグバッツの技と同じ、爪で掴みかかるような動きの掌底突きの構え
その右手に炎が絡むも、明白に主人よりも小さき炎であったが、黒紫色へ変色した途端に火力が増す
イグバッツへの尊敬から真似て火の属性エネルギーで行うも、やはり得意でなく、素質もない属性で行えば威力はなく、今はこいつを倒すことを優先したいので素質のある闇の属性エネルギーへと切り替えた
「やってみな!」
技をあえて受ける。試したいわけではない
胸部へ、抵抗も防御もされずに闇の力による黒紫色の炎を纏いし掌底突きが炸裂
背よりぬける黒紫の光は、この戦いの巻き込まれないよう離れた位置から隙を見て討とうと企み、待機していた複数の革命軍の兵士共を吹き飛ばす
彼の身体は硬かった。着ている服で気付きにくかったが、かなりの筋肉量である
手応えはなく、テハーは苦悶の表情を浮かべた次の瞬間、頭上より手刀が左肩へと叩きつけられた
鈍い音と共に、ねじ伏せられるように。勢いにより地面から跳ねたところで、単純なる正拳突きを撃ち込まれてしまう
「ぅぐえっっ!!」
追撃と、タイガの左手に稲妻が走り始めたその時だった。彼の足下の地面が隆起し、水を噴き上げる
「な、なんだ!?なんだ!?」
宙を舞ったタイガの目に、噴き出す水柱から一つの影が飛び出したのが見えた
降り立ったその者は、青く透き通るビニール素材のジャケットに、その下はビキニ姿であった
下には黒く少しぴっちりめのハーフパンツを履いている。僅かに腰下辺りにまでに留めており、ビキニパンツが覗くようにしている
「なかなかに、危なかったのじゃない?テハー君」
そっぽを向き、納得のいかない顔で舌打ち
「ゼナナ殿ではないか!唐突に海に飛び込んで行方知らずであったが」
噴き出す水柱により、雨の如く降り注ぐ水粒の中を先程蹴り飛ばされたイグバッツが戻ってきた
割と、ゆっくりと足取りに余裕を持って
テハーを信じて一度任せてみたが、ピンチになったので一気に救い出そうとはしていたが、ゼナナが水と共に姿を現し今に至る
「増えたか。サシじゃなくとも、卑怯な手をこれより使って構わないぞ。それが戦い方だとするなら。その手にやられたなら、俺はそれまでのやつに過ぎなかっただけなのだからな」
水に押し上げられたタイガは突然のことだったので驚きはしたが、あくまでもテハーを救う為のその場しのぎにすぎず、地面に着地して顔を拭う
水はしょっぱい。海水である
ゼナナはこれで彼と初対面。これはとんでもない化け物相手だと苦笑い
「ご立派な心意気と褒めて欲しい?」
「各自、ご自由に。とにかく、戦うなら戦うとはっきりして欲しい。逃げるならその背を斬るつもりも、罵倒するつもりもない。純粋に今は戦いたい」
イグバッツという者を相手に、戦闘意欲が止まらない
純粋に見えて狂気を孕んでおり、それを感じ取り、呆れて溜息が出そうだ
「戦闘狂ね、あなた。はっきり言わせてもらうけどね、僕が加わったからといって、あなたのような個人戦力への対抗戦力になるとは思えない。イグバッツ様がさっき食べたお高めのあのお肉だとするなら、僕達はあってもなくても味の変わらない金箔よ。見栄えだけの無意味さ。ちょっぴり容量が増えるだけ」
「そんなことはないと思うのだがな・・・」
「イグバッツ様といて金箔であるのは自分も俺のことも褒めすぎだろ」
噴き出していた水は収まっていた。緩んだ赤い鉢巻きを締め直して、タイガは一言
「どうする・・・?」
考えもしない。間をおかない
これだけは決めていた
「イグバッツ様は僕の主、ジョーカー様と親しい仲。死ぬなり勝つなり、どちらにせよ僕は見届けなきゃならない!あなたを叩きのめすつもりで!」
「そうこなくちゃな!」
ジョーカーと聞いて一瞬、心と精神に揺らぎがあった。だが、それは火に注ぐ油となる
より、戦意が湧く。高鳴る胸の鼓動
全身より溢れる威圧する赤きオーラは龍となって映り、狂気な眼は獲物に狙いを定めた眼
変貌したようであり、本性なのかもしれない