地をいく傭兵団 19
ペンシルを指揮する立場であるヤーデックを捜し、いたにはいたがレップのとこの隊長と両手を掴み合い、押し合っていた
やれやれと呆れ顔のクローイは引き摺っていたモトキを投げ、彼の後頭部にぶつける
直撃し、ヤーデックはそのままレップの隊長を押し倒すように倒れた
誰も得しない光景である
「どけぇっ!!」とレップの隊長はヤーデックの腹に膝を打ち込み、上空へ蹴り飛ばす
落下してきたヤーデックは先程投擲され、地面に横たわっていたが、たった今起き上がったモトキの上へ不幸にも落ちた
頭に巨大なたん瘤を作りながら、地面とキスするモトキをよそに、何が原因でああなっていたのか聞き出そうとする
「なーにを争うことがあった?一人の女性を巡るには歳で不利そうだけど」
「恋は歳の弊害をぶち破れる武器の一つであるぞ、クローイちゃん」
そんなわけなかろうの一言でいいのに、真剣な眼差しで挑戦意欲により生じる前向きな意見を返してきた
返答に困るものだ。うん、そうだねと知ってる年の差婚を例を一つ添えて一回肯定しておくべきか
見かねたのか、起き上がったレップの隊長は腕を組み、胡座をかきながらこちらには顔を向けはせずともちゃんと教えてくれた
どうやら団長が不在となった今、誰が傭兵団の全体の指揮を執るのかで争っていたようだ
どちらかを選べと言われたら、クローイ自身はペンシルに所属はしているが、レップの隊長を選ぶだろう
仕事内ではヤーデックのことを個人的に尊敬はしているが、全体を指揮できる器かと言われれば首を縦には振れない
「くだらない。そうやって隊長同士が団長代理の争いしたって団長の足元にも及ばないくせに。それでもどちらかがやるなら、消去法でバールEさんかな?あたいの見解では。ヤーデックさんには傭兵団全体を纏めるには荷が重すぎる」
部下に面と向かって言われ、ショックを隠せないのかひどく落ち込み、地面に両手両膝をついて顔を伏せて真っ白になってしまう
「俺らんとこ、レップの隊長は今のところタイガ君だ。コテンパンにやられて乗っ取られたのでな」
「そのタイガも見当たらなくなったので、じゃあ代理の代理でバールEさん、頑張ってください。全体の指揮を任せておきます。それでよろしいかな?ヤーデックさん!」
「はい・・・」と、彼から静かな返事が聞こえた
「承知はしたが、クローイ君はどうする?いかにも独断で何か行動しようとしているが」
「あたいはこいつを連れて先に現地へ。ゾゾイに馬を手配させておくように言っておいたので、この後すぐにでも」
「わかった。団長が不在の今、俺達残りでなんとかしておかなくてはな。とりあえず、聖帝の兵達と合流してからすぐに追う。クローイちゃん、武運を祈っておこう」
レップの隊長に彼女は頭を下げ、その近くで頭に巨大なたん瘤を作りまだうつ伏せに倒れているモトキの足首をまた掴み、引き摺り連れて行く
まずは外でゾゾイと合流し、馬を得よう
「クローイ!団長の馬が戻ってきやがった!」
「ストップ!ストップ!」と訴えるモトキを無視し、引き摺ったまま走って外へ向かう最中、後ろからアルフィーが追いつき、平行しながら伝える
「団長は!?」
「いねぇ!団長とエモンさんが乗っていったらしき馬二頭だけだ!現場から馬だけ逃したみたいだな!」
あの膨大な雷の力を球体としあつ創り出した因縁らしき者のところへ向かったのは知っている。移動に乗った馬を逃してここへ帰らせたのは戦闘に巻き込ませない為という優しさと、昔からの愛馬なので敵との戦闘中に意識がいってしまうかもしれず、邪魔になるのでという理由もある
頭の良い馬なので、道ぐらいはすぐに覚えられる信頼もあって逃し、その場から離れさせられた
団長には団長の事情がある。まずは彼の心配よりも、3隻あった船の内に消えた2隻の行方が気になる
そして、残された1隻。殿目的の囮のつもりか?
「まーってたぜ!」
野営地を出てすぐ、ゾゾイが戻ってきた二頭の馬に水を与え頭を撫でている最中であり、近くでアオバは二頭とは別のある一頭の白馬に懐かれたのか、頬を舐められていた
団長の愛馬の方は高齢なので疲労が見えるが、エモンが乗っていた馬は走り足りなさを訴えているのか、乱暴に、ワザと溢すように水を飲んでから吠える
その様子に、準備し待機させていた他の馬達が怯え始めたのでこれはいけないとクローイがすぐにその馬に跨がった
さんざん引き摺り回したモトキは放ったらかしである
「おっ!お前はアオバちゃんを気に入ったのか?見る目ある馬だぜ!」
そう言うとアルフィーはその白馬に跨り、アオバに右手を差し出す。その手を掴むと引き上げられ、彼の後ろに馬に跨がらず横乗りで座らされた
つい反射的に差し出された腕を掴み、流れで乗せられてしまった
正直、馬は自分で手綱を握りたかったのである
「モトキ!遅れるなよ!」
クローイにワンテンポ遅れて、アルフィーとアオバを乗せる馬が発つ
置いてかれてしまったモトキは、すぐに馬に跨り後を追うことはせず、去っていくその姿を見送ることしかできない
行く気が失せたわけではない、怖気付いたわけでもない、単に馬に乗れないのである
「俺は馬を扱えないんだけどな。しょうがない、己の足で走っていくか」
「まぁ待て!体力の温存ぐらいしとけよ!モトキ殿!」
「歩いて行ったら日が昇ってしまうだろ。それとも、お前が乗せていってくれるのか?」
「残念だけど!俺も馬には乗れない!だーけど、乗せてやることはできるぜ!」
なんだか、ここぞとばかりにとても嬉しそうである。モトキについてこいと指で誘い、鼻歌を奏で、置いてかれた1名様を野営地内へご案内
「モトキ君が付いてきてないし追ってこない!」
置いてかれはしたが、すぐに追いかけてくるだろうと思っていた。しかし振り向き後方に目を凝らして確認しても一向に馬で駆ける彼の姿は見えず、追いかけてきてる気配は全くない
「馬に好かれない体質だったか?」
「逃げたの考えには至らないんだ」
「そりゃそうだろ!」
先に出て先頭を走っていたクローイは若干馬の速度を下げ、アルフィーが手綱を握る白馬に並行してきた
自分も彼の後ろに座るアオバと同じように、モトキを後ろに乗せておけばよかったのでは?と今更ながらにだが、すぐに彼なら大丈夫だろうと開き直る
「馬に乗らなくても、あいつはその気になりゃあ自らの足で追ってこれるから」
再度、馬のスピードを上げる。負けじとアルフィーもクローイの乗る馬をあわよくば追い越してやろうと企んだ次の瞬間、風に紛れて後方から馬の足音ではない何かが迫ってくる音が聞こえ始めた
アオバもクローイも気づいたのか、後ろへ視線を向ける
「わぁっはっはっはっはっ!!お先に失礼!!」
目視で後方から何かが迫ってくるのを確認してから一瞬、馬と馬の間を笑い声と共に何かが駆け抜けていった
それは二輪のタイヤが付く白いマシンに乗り、それを操縦するゾゾイと、後ろに乗せて貰っているが前方からくる空気抵抗により身体上半身が仰け反っているモトキである
「あのヤロー!調子に乗った顔しやがって!待ちやがれ!」
負けず嫌いの精神か、挑発されたと勝手に受け取り、馬のスピードを上げ追いつこうと必死になるも、その間にどんどんと距離は離されていく
乱暴に手綱を扱い、馬への負担と後ろに乗るアオバが振り落とされそうなったので、クローイはアルフィーの頸に手刀を入れる
「ぐけぇっ!?」
「1番に着くことを競ってるわけじゃないだろーに」
手刀の一撃が効いたのか、彼は馬上でぐったりと動かなくなってしまった。「死んだか?」という冗談が聞こえたが、本当に動かない
しょうがないのでいったん馬を止め、アオバを騎手に交代させると彼を荷物扱いで馬上の彼女の後ろに物干し竿に干された布団のように置き、ロープで結び固定させておいた
彼女が手綱を取って走り始めてから、白馬のやる気が出た気がする
そして、アオバは馬を扱うのがとても上手かった