夜明けは過ぎて陽射し入る 2
人混みにベージュの外套を身に纏い、フードで顔上半分を隠す者がいた
持たされた懐中時計で時間の確認をしていると、人に当たり持っていた飴を落とした子供が
拾い付着した汚れを落とそうとするも、落としきれるわけもなく、唾液により溶け始めた飴が手を汚してしていくだけ
落ち込み泣き出しそうな顔となったので、外套を身に着た者は板チョコ2枚を差し出し、手の汚れを綺麗なハンカチを握りしめ濡らしてから拭き取ってあげる
小さい子供は板チョコ2枚を両手にお礼を言い、人混みから抜けていった
「まだ時間がある。お兄様、良い潜伏場所を見つけたと独りでにどこかに行っちゃって・・・」
声からして少女である。数時間前に潜伏場所を見つけたと言葉を残して兄は姿を消したのだが、まさか館内にいるわけではあるまいと
その館内ではモトキの目は展示された汽車の車輪へと向けられていた、降りた駅も最初は小規模でありこの車輪の車輌も発展における物資、人を運んで
(鉄道の歴史か、昔3人で列車に乗り込み遠くへ行ってみようとしたな。帰り賃が無くて半泣きになりながら歩いて帰ったっけ・・・)
タイガの兄がまだ生きている時、幼き頃の確かな記憶
想い出として幻として、ふと巡り映るとそれは大切であるのだが、とても辛くなってきてしまう
もう、あいつはいない現実の突き付け
哀愁が出ていたのかフェーナーがモトキの頬を指でぐりぐり押す。はっとした時に、彼女の口から自分の先代最初の手形像があるらしくそこへ行こうと
籠もインパクトあったが、石炭と車輪はよりリアリティを感じさる展示物である。ソレンダがフェーナーの隣を並び、モトキはその後を
「む・・・!?」
モトキの足が止まった。ついさっきの気配とまた同じものが伝わる
2人のではないと確証はないが妙な胸騒ぎと警戒により足を止めてしまった
方向を変える、真逆へ。右手でモトキの行動に気づかず進むフェーナーを左手に光を集めながら庇う体勢に
次の瞬間であった。獣の皮でつくられた籠を突き破り、何者かが姿を現わす
モトキと目が合った。驚いた表情をしているのは今出ると決めたタイミングとモトキが方向を変えたタイミングが合ってしまったからだ
かまわないかと驚いた表情から引きつる笑みになり、モトキへ握った拳を放つ
モトキの左手には剣を出現させており、殴りかかってきた右拳を剣のフェラー部で受け止めた
「ふはーっはっははははは!!待たせたな・・・いや待たされた」
ソレンダはフェーナーを掴み抱き上げると跳び、距離をとる
フェーナーはモトキの名を叫ぶが、耳に通っているも視線は相手に向けられ応えることができない
殴った直後の反動で、相手もモトキから距離をとる
相手は同年代であろう少年であった
「・・・ソレンダ!そのまま走れ!」
「モトキ・・・!」
フェーナーのモトキの名を呼ぶ声が響いた
まずは相手に問うことはせず、フェーナーの身を最優先。ソレンダは彼女を抱き上げ、すぐにこの場より背を向け、走り去る
彼女達を追わせはしないと身構えたが、相手は追いかけようとする動作もせず、腕を組みモトキにだけ視線を向けるだけ
「ジョーカーの刺客か?もしあっているなら、肖像画に手紙とナイフを刺したのもお前・・・お前だけか?」
「ならば1人、2人、3人、4人のどれがいい?質問で返して申し訳ないが。この答えで、俺も素直に答えるさ」
この質問の意味はどのような目的が?モトキは指を3本立て、つまり3人
刺客は何人でしょう?という問題だとすれば自分の予想を
「3人か・・・3人、ふぐくく・・・あっはははははは!はぁ・・・笑える要素もないのに笑ってしまった。本来は笑らわずに不意に槍を突かれた顔をすべきだったはず」
選ばれたらまずい答えだったのだろうか?
「確かに、俺はジョーカー様からの命により、エトワリング家の御令嬢を拐うよう差し向けられたが・・・表向きは」
「表向き?・・・手紙に学園の邪を打ち払いし者の確かめならここまでする必要もないだろう。いや仮にだぞ、他に手紙内容だとそれぐらいしかなかったから」
その問いの答えは口からではない
彼の右より空間からゲートが現れ、黒紫の煙が充満しているのか溢れていた。その中から柄が現れ、両手で掴み引き抜く
刃がボロボロの剣、剣身は至るところに刃こぼれや欠けに錆びもあり、特に獣かドラゴンにでも爪で裂かれたような4本の傷が目立つ
「さぁ、始めようじゃないか・・・」
「待て待て待て!待てよ!正解なのか!?だとしたらこんなまだ入学したての一端学生に!?Master The Orderの面々なら理解できるのに!もしかしたら俺じゃないかもしれないのに!」
くどいと言いたそうな顔と溜息。問いが4つもできてしまった面倒、けど彼はいきなり襲いかかるようなことはしない
「正解だ、お前が一端の学生だとか関係ない。Master The Orderなどよく耳にするがそいつらでもなく、お前じゃないかもしれなくとも、手当たり探り。だが、俺の見立てからお前だな・・・」
指をさす先にモトキ。何故そこまで自信に満ち確信を得た顔ができるのだろうか?
ただ一度、あのジェバをタイガと共に討ち倒しただけで。Master The Orderの期待と活躍の方が向こうへ届いているはず
「学園に現れたジェバってやつを倒しただけだ。もしかして、高い位の将か重役だったのか?」
「いいや・・・だから俺にも解らない。命を受けたから、確かめに参った。ジョーカー様のエトワリング家御令嬢を拐う事は以前より企てしていたこと。最初にジェバを倒した者に興味を持たれたのはスペード様。スペード様が興味を持ったと聞いたジョーカー様が拐う口実に、わざわざ手紙を送り推薦として・・・けど本当にそいつが護衛として就くとは」
剣の柄から左手を離し、剣を一度振るとそれにより発生した風がモトキと彼の髪を揺らす
左肩を回し、再び左手は剣の柄を握りしめる
「表向きと言ったが表向きは2つだ。お前と令嬢を拐うこと。ここで俺がお前を討てば、あとはエトワリング家御令嬢を追うだけ。だが、本来俺に命令されたことは、お前がいたらお前の相手をしろと。はたして刺客は俺だけか?」
嫌でもモトキを自分と闘わせようとしている。このままだと時間が過ぎるだけ
3人に任せて信じてはいるが刺客の数を知らない
焦りが生じ、フェーナーの元へすぐにでも行きたくなってしまう
右手に盾を持った。それを見て相手の少年は一瞬だけ声をあげない笑みとなり、しっかりと足を揃え背筋を伸ばし一礼を
「これは1と1の決闘とでも?ならば闘う前に名を名乗っておこう。俺はレム。レム・グリンター、価値を失った姓と親より頂いた名。お前の名を、気を害さないなら教えてくれ」
「・・・モトキ。姓はない」
「そうか」の一言を終え、彼の剣身に黒紫の闇が4本の爪痕以外を纏う
これで一つの武器として
「よろしいかな?」
両者一歩、そこから床を蹴り一気に距離を無くすとモトキは上からレムは下から剣を振る