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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
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地をいく傭兵団 18

声を高らかに、ランべは笑った。気持ちの良いぐらい張りのある声は、より不気味さを駆り立て、味方すらも戦慄させてしまう

雷の属性エネルギーを集合させた球体、それを斬った者、当人を見た。あいつを知っている、あの技を知っている


「エモォォォォン!!」


彼の名を叫び、眼を限界まで開き、両口角をひきつらせた笑みを晒す

パキッ!と彼の顔の何処からか、硬い物が割れるような音がした


「災害の拠り所の英雄か・・・!」


「おっと、百夜よ、やつが前に現れたら手合わせでもしてみたいのか?だが、そうはさせん。やつだけは、やつらは、僕がこの手で刈り取らなければ」


太く、長い円錐の槍から全身に雷撃が一回走った。威嚇のつもりだろうか?こいつとエモンにどういった因縁があるのか、個人と個人の都合の間にしゃしゃり出るのはよくないが、興味がある


「お前は、そのエモンがあの雷によりここを嗅ぎつけるまで大人しく待つつもりか?来るかどうかもわからねーのに」


「少年、やつは必ず来る。傭兵団の団長であるダイバーも共に・・・やつらは、僕に始末をつけなきゃならない恨みがあるからだ」


その恨みを作ったのは自分のはずなのに、物悲しげな顔で、俯いていき、徐々に笑い声は光の届かぬ沼底へ沈んでいくかのように、小さくなっていく


「後ろめたさがあるならやめときゃあよかったのにな」


「後ろめたさ・・・か・・・。人というのは、冷静さというものを簡単に失うものだぞ、少年。そして向けらた善意や励ましが、怒りになることもある」


盾を握る自分の手を見つめた。やはり、エモンとダイバーの二人と敵対する原因となった行いは後悔している

だが、今の自分の選択に後悔と迷いはなく、間違いではないと自信を持って言える。過去は切り捨て、決別を選択しなければならない時

それを成す為に、二人は必ずここに現れるだろう。必ず


「ランべさん!北西方角より馬を二頭確認!こちらに向かってきます!」


誰かが報せた。双眼鏡を手に、耳打ちではなく大声で。馬に乗っていると聞き、彼は笑みを浮かべる

そこへ、狙撃銃を掲げた男がランべの隣近くまでわざわざ行き、そこから馬を狙撃しようと銃を構え、スコープを覗く


「馬の頭部を狙撃し、転倒させます!」


彼へのアピールであろう。ここで馬を二頭狙撃すれば、乱戦で一敵将を討つよりも個人で目立てる

名声よりまずは腕をアピールするのが目的

しかしランべは、その男を背後から円錐状の巨大な槍で突き刺してしまい、持ち上げた


「馬は神聖なる動物だ。殺すことは赦さん」


即死であった。他の者達へ馬への攻撃はやめるよう、見せしめとして槍に貫かれた男を投げ捨てた

ただでさえ味方でありながら彼に慄いていた者もいるというのに、その眼は敵味方ではなく恐怖の対象へと向けられる眼


「あいつら、馬で来たか。そりゃそうだ、僕が伏兵を使ったり、狙撃といった遠距離からの攻撃をさせない為に。利用するよな、僕の性格を」


馬に乗ってくるだろうとは解っていた。だが、馬に乗ってこなくとも先程みたいに狙撃しようとするやつがいたら同様なことをするつもりでいた

必ず葬るつもりでいるが、二人と話もしたいのである


「迎えにでも行くか」


両手に装備していた円錐状の槍と盾を消し、明日のイベントを待ちきれない子供にでもなったのか1人この場から離れ2人を迎えに行く為に歩み始めた

誰かが「お待ちを!」と呼び止めようとするが、当然のごとく無視したのか、周りの声が聞こえなくなってしまったのか


「エモォォォォン!!ダイバァァァァ!!」


自分の居場所を知らせるよう、全身に微力な雷撃を走らせ、大声を出す。僕はここにいると

その叫び声は二人に届いた。彼がいることに現実味がより増し、その事実の受け入れで激しくなった動悸が止まらない

再会する。再会してしまう

だが、馬は走り続ける

流れていく景色がゆっくりに感じた

雷撃の小さな小さな炸裂音が耳を突き抜け、大きくなっていく

その人影が目にはっきりと映った。やがて月明かりにより色が鮮明となり、やつは殺意を含んだ顔で笑っていた

馬の走るスピードを低速させ、間200メートルを挟んで停止


「ランべ・・・!」


怒りか、哀れみか、どちらとも言えるようで言えない顔で黙って視線を刺すエモンに少し遅れて、ランべは久しく彼へ向けて彼の名を呟いた

ランべは二人へより近づこうと歩み、二人は馬から下りるとこの場から逃す為に馬体の適当な部分を軽く叩き、走らせる


「怖い顔しやがってさ。久しぶりの友との再会にしたのに、嬉しさで飛び跳ね、ハグも拳の突き合わせもしてくれなさそうだ」


「友?友だと!?お前がやったことをお前の口から一言一句述べてみろ!」


「そう怒りに任せた口調から入らないでくれ、ダイバー。しばらく顔を見ない内に、歴戦の戦士気取りにしては、かなり貫禄ついた顔付きになったのではないか?」


こっそりとダイバーへ左手を振る。傷を付けられ、見えなくなった死角となる濁った右目へ向けて

腹ただしく、今にでも殴りにかかりたかったが、先に問い詰めおかなければならないことがある

沸き立つ気持ちを抑え、エモンにバトンを渡した


「お前ともし再会した時、真っ先に言いたいことがあった。溜めに溜またったな。ランべ、どうして、どうしてイホを殺した!」


「言いたかったことはそれだけか?」


「それだけの為に、俺らはずっとお前に会いたかった!」


「そうか・・・」と素っ気ない態度だが、何処か哀しそうである。自分の欲が為にイホという者を殺めたわけでないのを悟られぬように、目を合わそうとせずに夜空を見上げ逃げる


「ランべ、お前とイホに何があったんだ!?イホは、ずっとお前のことを!俺もエモンもお前の実力は悔しいが尊敬すら覚えてたし、レネージュだって一目置いていた!いずれは戦力の要の1つとして、レネージュと同じ肩を並べられる存在となるはずだったのに!革命軍に身を置くようになっちまいやがって!」


「僕の力は僕がどの道に使おうが指図されるつもりはない」


どんなに後ろめたさと後悔があったとしても、戻るつもりはない

革命軍へと入った理由の根は、不信である


「僕が革命軍に入った後、村から裏切り者の犯罪者が1人出た村はどう結末を迎えた?エモン、そなたは知ってるだろう。大国でも、連盟国でもないただの1つの村は、容赦なく焼き払われた。聖帝という義の名の元に・・・」


この事実、ダイバーは知らなかったのか突然のことに鳩が豆鉄砲を食ったような顔で唖然としていた


「自業自得だろ。お前の故郷が滅ぼされた際に、俺にも思うところはあったさ、個人の決め事でここまですべきなのかと。だがな、その前にお前が裏切って革命軍へ行ったのは事実だろ!ランべ!!!」


「それが決定打だ!!僕は確信した!!聖帝や帝共の元では永遠の平和や泰平など訪れはしない!!元より革命軍に入った動機は大きく見えた平和の中でも必ず生まれる小さな争い、強奪、襲撃、場所地域や身分の格差による行き届かなくなるのを無くす為!!」


今回の王都みたく、聖帝からわざわざ兵を派遣してくれるところもあれば、大きく全土や国に影響を及ぼさない離れた村や集落が戦火に巻き込まれようが、賊に襲われようが知ったことではない、放置される場所は必ずある

知れたところ、全土に響くことがないのが安堵される上辺の平和なのである。その下では絶えない負の繰り返しが続く、終わりなど絶対になく


「あいつらは、革命を掲げてるだけの愚連隊で武装したカルト集団だぞ!」


「ダイバー、そなたの捉え方や評価はどうあれ、革命軍に入ったのは近道の1つとして・・・僕が革命軍の一員として野望を遂げるのもよし。革命軍として討たれ、いずれそなたらが遅く刻を要そうとも、次の世代へ託してでも、方法が違くとも僕の野望に近いものを実現してくれるならそれでもよかった。だが、長く続いてきて、永く続くであろ聖帝の支配ではそれは訪れない!」


1回溜めを挟み、二人を指さす。「訪れやしないさ」の一言から続けて、ダイバーはともかく、エモンへくれてやるかのような言葉は


「この、聖帝の犬め」


憎しみを含んだ台詞。二人へ、特にエモンへ、国へ、その後ろにいる帝達と聖帝へ

かつて自分がいた所、全てに敵意を向けて

だが、ランべに対してこちらも憎しみがある

エモンが怒鳴った


「敵対する立場になったとか!お前が革命軍だからとかの前に!俺らの恨みは!お前への憎しみは!イホを手にかけたことだ!イホは、お前が革命軍に行くのを止めようとしてきたから殺したのか!?答えろ!!」


「違う!!」


ランべの残る後悔は、冷静さを失い、励ましと慰めといった自分の心情を知りもしないで寄り添おうとする善意が煩わしくなり、イホを殺めてしまったこと

丸眼鏡をかけ、どこかおっちょこちょいながらも朗らかで、いつも優しい笑顔を絶やさなかったイホという女性は同期の中でも化け物みたいなレネージュとは対照的に皆の癒しのような存在であった

彼女に憧れを抱く男は多くいたが、彼女自身はランべに一方的な好意を寄せていた

長期の休みに彼の村を訪ねた際、病で寝込みがちなランべの妹とも打ち解け、言い方は悪いが外堀も埋め、関係も進展していき、後は彼女の胸奥に閉まっている想いを伝えるだけ

勇気を持とう。さすれば、いつか二人は結ばれる。エモンもダイバーも、レネージュもその実りを願っていた

しかし、ある日届いた一報は帝都の役人2名の首を手土産に、革命軍へと行ってしまったランべと、その彼に殺され打ち捨てられたイホの死の報せ


「彼女を殺したのは、革命軍に入ると決意する前のあくる日だ。先程、ある少年にも言ったが、良かれと思っての善意は、対象者へは悪意となることもある。僕のことを、心情も、何も知らないくせにと!あの女は、僕の心に間違った擦り寄り方をしてしまった!」


間違った擦り寄り方をだと?革命軍に入るのを止めてきたから邪魔だったからの理由ではなく、良かれと思っての善意が悪意として捉え、それで殺めたと?

そんな理由で?

ダイバーは右拳を握り、沸々と怒りが湧いて爆発しそうだ

怒り任せに、ランべに声をぶつける


「心の奥底なぞ他人は全てを覗くなんて、できやしない!余計なお節介だったろうにも、イホはお前のことを!それなら、突き放せばいいだけだろ!嫌えばいいだけだ!殺すまでいくって、お前はそんな苛烈なやつじゃなかっただろ!」


「だから革命軍へ行ったこと、己の決意に後悔はないが、それまでの経緯の中でイホを殺めたのは後悔として残っている。そなたらとの過ごした日々を、否定するつもりはないからだ!確かにいた友だったからだ!」


心の底からの本音だろう。ランべ自身、後ろ髪を引かれる思いがあった

だが、それが蟠りである

ずっとそれを引き摺るわけにはいかない


「ランべ・・・」


「憎んでくれて構わない。だが、僕に哀れむ必要はないぞ、エモン・・・そうだ、僕の所有物だった盾はどうした?首を取られた役人の死体へ被せるように捨てておいてあっただろ。処分したか?僕への執着として取ってあるのか?」


「処分はしていないが俺の、ダイバーの、レネージュの手元にはない。お前が革命軍へ行ったと報されが、まだどこかでは説得すれば戻ってきてくれるのでは?と僅かな気持ちと希望があったのかもしれない。しかし、あの盾を、お前の故郷である村から贈られたあの盾を捨てていったことで、決別の意味として、僅かな希望は打ち砕かれた。あの盾は、お前と同じ眼差しをしていたやつに譲った。これからの未来に」


「僕と同じ眼をしていたなら、そいつも僕と同じ道を歩むだろう」


「そんなことは、俺が絶対にさせない!」


彼は最後に笑った。自分と同じ眼差しをした者に、自分の盾を譲る

憎んでいたくせに、なんとも滑稽な行いをしている

絶対にさせない。それはどういう意味があってだろうか?

自分と同じことをしてしまう悲しさか、それとも

最後に、ランべは笑った


「僕は、そなたら二人を始めに、次にレネージュを始末して自分の過去とは完全に切り捨てられる!この時を待っていた!」


「前に進めど、過去は尾を引いて付いてくるぞ!」


大太刀が上空に現れ、エモンの右手に落ちてきた。大太刀を出したのは、ランべから戦闘に入る気配を察したからであり、話したいことは話した、もういいだろうと同じタイミングでランべの右手には巨大な円錐槍、左手には盾が雷撃と共に出現する

遅れてどこからともなく、刃は巨大な両刃、柄は太いが短い不思議な形状の斧が弧を描くように飛んできて、ダイバーの足元近くに刺さった

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