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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
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地をいく傭兵団 16

潮風の香りは闇に溶け、夜の海は月明かりを水面で歪んだ蠢く姿へと化える

夜の海面に、勢いよくタイガが顔を出す

不運であった。蹴り飛ばされたアルフィーに巻き込まれ、嘔吐物まみれとなり、陣営地を抜け出して全速力で海まで走り水中へ服を脱がずに飛び込んだ

大胆な方法。塩水でベタつくのはあまり好きではないが、とにかく落としておきたい一心で海に来た。全身に付着していた汚れは魚やプランクトンの栄養になってもらおう


「今宵の海は冬みたいに冷たいな!」


寒中水泳にしては季節外れなぐらい寒い海。災いの前触れだろうか?ただ、自分が風邪をひいただけか

汚れは十分に落ちだはずだが、最後にもう一回潜る。不安になるぐらい底の見えない暗い夜の海に頭まで浸かり潜ってすぐに気配を感じ取った

視線のずっと果てより輝く二つの光、その輝く光の正体を認識する前に猛スピードで全長50メートルはある規格外の巨大鮫が襲いかかってきた

「なんでこんなとこにこんな巨大な鮫がいんだよ!」と声に出さず、口から空気を吐き出してしまう

慌てて泳ぎ逃げてもしょうがないので、迫ってきた鮫の鼻先へ右ストレートをぶっ放す

凄まじい轟音から海が震え、激しく波紋が走った次の瞬間、2回目の音が水中に響き、月夜を背景に巨大な鮫が海面から飛び上がった

宙を舞い、海に落ちた後、力なくプカリと巨体は浮かぶ


「ここ数年、巨大な生物に襲われることが多くなったような?」


倒した鮫を引き摺り、砂浜に上がって焼いて食おうと思ったが、何処からか剣の振るう音と銃声が聞こえた。すぐに鮫を手離し、飛び込んだ位置である2メートルぐらいの高さしかない岩盤ではなく、砂浜に通じ道となっている坂を駆け上がり、遠くを見渡す

陣営地周りの生命感のない荒野とは一変して、王都付近の緑ある草原のどこかで戦闘が行われているのは確か

夜景色の中、戦火が見えた。断定できないが大戦とまではいかなくとも、かなりの多い数で争いが行われている

傭兵団と聖帝兵、魔王帝関係、革命軍の三つ巴状態。どこの勢力と誰が戦っているのか判らない。もしかしたら両方敵かもしれないが、タイガは御構い無しに向かった


「ちょうどいい!暴れてやろうじゃねーか!」


柔軟体操のつもりで右肩を2回まわしてから全力疾走。だが、意気揚々であったものの、突然足が止まってしまう

目にしたのは数と数の戦いではなく、数と1の戦いであったのだ

つい先程、クロレンゲと決闘を行い勝利したゾムジが単騎で、返り血に染まり戦っていた

複数の武器を手にした者らに迫られ、狙われ銃撃される中、最小限の動きで避け躱しながら打刀で斬り、弾き、捌き、防ぎ、往なす

相手は聖帝とこの兵でもなければ、傭兵団でもない。だとしたら革命軍である可能性が高いが、ここにきて落ち武者狩りを狙ったりの第四勢力の線もありえる


「おい!」


何故か呼んでしまった。その声に気づいたゾムジは、突きを放ってきた槍の刃先を刀の先端で止め、押し勝った勢いのまま斬り捨て、発泡された銃弾を一振りと同時に飛ばされた無数の斬撃で狙撃手ごと斬ってから声のした方へ身体を向ける


「む?お前は先の・・・!」


意識が別にいき、チャンスだとゾムジの背後に大男が迫り、脳天へ大剣を振り下ろしてきたがタイガが跳び蹴りで大剣ごと砕き、一撃粉砕。大男は誰も受け止めてはくれず、地平彼方へと飛んでいってしまった


「助ける形になっちまったがまぁいい!しようがしまいが、あいつは俺にやられるか、お前にやられるかの違いだけだしな」


見知らぬ者が現れたことによるものなのか、全体一度攻撃をやめ、様子見に入る

そう誰かが命令した


「あの剣士との決闘後、何故(なにゆえ)ここに?と言いたげだな。先に尋ねて悪いが、お前も何故ここにいる?」


「ゲロを被っちゃいましてな!それを落としに海を目指した。ついでに王都の偵察と、もしバレたら戦うつもりで」


「嘔吐物のことは触れぬとして、清々しいほどに面白い愚かな真似をしようとしていたか・・・」


彼は笑う。呆れ笑いではない。この者が強くて面白いやつだと解り、思わず出た笑い

彼の握る刀は、海とは反対の方角を指す


「王都が我々に攻め滅ぼされ、奪われた報せは耳にしたろう?」


「それを奪還するのが傭兵団を雇っての任務だからな。何の目的があってか知らねーけど、攻め滅ぼした後は撤収せず、第2拠点としているみたいだが?」


「こちらにも目的はちゃんとある。それを敵であるお前に教えるわけにはさすがにいかんが、大国でないはずなのに聖帝からわざわざ傭兵を雇い聖帝の兵を補強させたのはおかしいとは思わぬか?よほど聖帝様は慈悲深い方なのだとな・・・」


金鉱山と銀鉱山を潰しておく為だけと考えていたが、もっと別の目的があるのを察した。察せるようにワザと言ってくれたのだろう

では、革命軍も王都と鉱山ハイエナするのではなく、やつらの目的もあの王都内にあったということか?

守らなければならないのがあの国にあったのだろうか?

それは物か、歴史か、文化か、分らない

聖帝は何を守る為にわざわざ自らの兵を急ぎ派遣したのだろう?それとも、逃げ果せた王族の要請を聞き、本当に損得の関係ない義心で助けようとしているのか?

どこでも疑心が残る。できれば、聖帝側は義心で終わって欲しいものだ


「あの国に何があったのか、聖帝や逃げ果せたルウベーラ・タルを治めていた王族の者に機会があれば問うてみるとよいだろう。お前がまだ一端の学生であるなら会うにしても教えてはくれぬかもしれん」


「どうして俺に?蟠りを残すように情報を教えてくれる?」


「さぁな・・・気まぐれだったのかはお前の中で考察し続けろ。いずれ、答えの一つがお前に訪れるであろうからな」


「何を言っている?」


受け答えの終わりを前に、刀を静かに鞘に納めた。相手側に動きあり、誰か1人が他を退かせこちらに近づいてくる


「さて、最初の召集を無視して散歩してたらお前達と出会し、戻れば二度目の召集の報せ。念の為の追加捜索も終わり、兵をそろそろ退かせるはずだった矢先だ。こいつら、まぁ存知のとおり革命軍なのだが攻めてきてな。数はあるにしろ大軍ではなく、とにかく結果報告さえ行けばいいので俺が殿を務めたのだがその最中にお前が来て今に至る」


「回収?何か物か?」


「それ以上教えるつもりはない・・・」


その通りだ。教えてもらうどころか、普通ならとっくに斬られていてもおかしくはない

互いに敵意はなく、こうして話をしているが本来は敵同士である


「ま、いいだろう。敵側である俺に話してくれる義理など本来はねぇからな。それがいつか分かる日まで、憶測の範囲の中にいよう」


「ならばこれより、お前と、俺とこいつら、入り乱れての死合いを始めるか?」


両者大きく後退し、タイガは刀を肩に掲げ、ゾムジは腰の左に備えた刀の柄に手を添えた

相見える両者であるが、そこに一声が入る


「おいおいおい!そいつは俺様の獲物だぜ!」


忘れかけていた。つい先程、こちらに迫り来る者がいたことに

その者は黒味のある茶髪を持ち、髪からもみあげを含め、見事なまでに猿顔であった。背には左右5本ずつ10本の剣を差す


「百夜め!こんなとこでお目にかかれるなんてな!お前を討ち、名を挙げてやる!」


ゾムジは拍子抜けした様子。正直、こいつには興味がない、危惧もしていない

危惧するのは前にいるタイガと、この者の後方にいる存在。こいつらを率いてきた者


「また・・・いや、一緒にしてはクロレンゲという者に失礼である。本当の邪魔が入ったな」


「先にあいつをぶっ飛ばしてこようか?」


「結構、俺が排除する」


添える手の親指が鍔を押し、刃を少し覗かせ、一歩前に出る


「何が起こるかはわからんので、最後に俺に訊いておきたいことでもあるか?」


「戦争類いのはよしておこう。そうだな、お前の教え子が、お前からどれだけ薫陶を受けてきたか確かめてみたくなったな」


「そうか。ならそいつを捜すのに特徴ぐらい教えておいてやろう。あの影の技術を使える者は他にいるのでな。誰かにやられ、奪われてなければ茶鞘の刀を持ち、そして二刀流を扱う。そこまで持っていければの話だが・・・」


「覚えておこう!」


そいつと逢う確率など頭にない。それは巡り合わせが決めること

ゾムジは予兆、勘、そういったものではないが、不思議といずれは自分の教え子がこの者と闘うことになる気がしてならない

決めつけられたような、逃れられぬ運命

誰にも運命はあるが、風に乗って彷徨っているだけかもしれない


「百夜ゾムジ!お前の伝説はここで俺様によって幕切れだ!ウッキャキャキャ!」


耳障りな甲高い笑い声である。見た目だけでなく、喧しさも猿だ

こやつを迅速に討ち、この状況を打破して早朝に釣っておいたイカを刺身で食いたい


「イワキチ・・・」


猿顔の男はビクッと背筋を真っ直ぐに、直立して固まってしまった。名前を呼んだ男の存在に、タイガもゾムジも先程までとは打って変わって表情が険しくなる


「た、隊長!と、止めないでくれよ!せっかくゾムジを討てるチャンスを!」


「止めるわけではない」


透き通るような緑の瞳に、青髪を白のダスターコートと共に靡かせる男はゾムジの方に眼を向け、一度タイガの方を見てから再度元を見つめる

空気が変貌していた。猿みたいな男とは違い、周りの向ける目は明らかに違う


「世に聞く剣聖、百夜ゾムジを、この目で見れるとは」


「そういうお前は、雷角(いかずちつの)のランべか・・・まさか革命軍に属していたとは」


「ふん・・・僕がどこに味方し、属そうが僕の自由だ」


顎でやれと戦闘の許可を出し、待ってましたと言わんばかりにイワキチは背から1本の剣身が短くシンプルな作りの剣を抜いた


「十の瞬撃でお前の喉からチンポジにかけてミルフィーユの層みたく刻んでやらぁっ!」


左手は2本目を抜かず、添えたまま、姿を消す。消えたのではなく、素早く移動しているのだが、ゾムジは目で追うことはせず、刀を鞘から抜き切る寸前で静止


「偽りの風は鳥が哭く・・・」


鞘より刀を抜き切り、放たれた静かながらも力強い突きはイワキチを完全に捕らえた

心臓を僅かに逸れた左胸の下位置に刺さり、背を突き抜けた刀身に吐血された血がかかる


「十は一すら振るわれず」


刀を抜き、胸倉を掴むと地面に叩きつける。髪を掴まれ、組み伏せたイワキチの首に、刀の刃が当てられた


「ああああぁぁぁっっ!!ああああっっ!!ああーーーっっ!!」


踠く抵抗もできず、叫ぶしかなかった。ゾムジは鋸で切るように引きながら相手の首を掻っ切る

骨までいったのか硬いのを無理矢理切る音に変わり、最後の皮肉一枚を切ったところで膨らんだ水風船が破裂したかのように血飛沫が彼を汚す

刈った頭部を髪を掴んで持ち上げ、ランべに投げ渡した

受け取った彼だけが亡骸の顔を見るが、表情を変えず後方に控えていた適当なやつに振り向かず投げつけ、「片付けておけ」と命令


「お望みどおり、チャンスの機会を設けた。それが終わり、一斉攻撃を再開するのか?」


「すぐにでもそうできるが、そなたら、味方同士ではなさそうだな。そっちのやつは、聖帝とこの兵か、傭兵団の者か。見るからに聖帝の兵ではなく、ならば傭兵団の・・・ふん、傭兵団か」


彼は、思い耽るように少し口角を緩ませ笑った。笑った顔はすぐに消え、物悲しげな顔で空を見上げると、右手には騎兵に用いられる円錐状の身の丈を越す槍を、左手には円状の盾を雷撃と共に出現させる


「見知りの顔にはなるべく会いたくは、ない」


突然に円錐槍を天に掲げ、槍全体に行き渡る雷撃は空へと昇っていき、やがて集まった雷は巨大な球体として、夜空に現れた太陽として


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