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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
175/217

地をいく傭兵団 14

決着が着いた。居合いによる一閃はクロレンゲの胸の間を通り、腹部上辺りで直角に曲がって刻まれ、右脇腹を抜けていた

刀を鞘に納め、そちらを向くゾムジの視線の先、地面に伏せた彼女は起き上がらない

じんわりと地面に血溜まりが広がっていく


「おい、あいつ死んだんじゃ!?」


皆に問うアルフィーをよそに、モトキとアオバがすぐに彼女の元へ。仰向けにし、アオバは胸に耳を当てる


「気を失ってるだけだわ!」


そう発した彼女の顔左頬と耳を主にべったりと血が付着していた


「死んじゃいないが長く手当てしないのは危険だな。タイガ!頼めるか?」


「わかった」


数歩進み、彼の周りに柔らかい赤色をしたサークルを展開。不思議そうにアルフィーはその中に足を踏み入れてみると、なんだか暖かみのある気分に、先のモトキとタイガの三つ巴戦での残る痛みが消えていくのを感じた

クロレンゲの細かい切創から、胴体に入れられた傷まで治癒されていく

しかし、突然に彼女は目覚め、モトキの腕を強く握った


「やめろ・・・!やめて!楽になってきている!それじゃダメ・・・!治そうとしないで!これは、この傷は!戒めと・・・げふぉっ!」


無理するなと言う前に、タイガが独断でやめた。息苦しそうなクロレンゲだが、やめてくれたことが分かり笑みを溢す

その光景にゾムジは、タイガの優しさに感心する。聞かず治療を続けてやるのも優しさだが、個人を重んじる優しさを見せてくれた


「少年よ、あれがお前の能力であるか?」


「そうだ。だとすればどうする?」


「いや、ポーシバールの時と今前にしての強大さとは別に、優しい能力を持ったな。果たしてそれは、お前の力か?」


その問いの理由、モトキにもアオバにも引っかかる部分がある。モトキはこの他を治癒させる能力を昔から知っており、最近は自分と同じ己自身を治癒させる力を持っていることを知った

だが、それとは違いアオバがネフウィネから聞いたことのある話では、タイガの能力は電気熱や摩擦熱といった熱に関する能力だと

モトキとアオバの知るタイガのことを合わせれば、3つ持ちの能力となる

しかしモトキはずっと自分とタイガにある、あの己を治癒する力は能力の類いではない気がしてならない


「どうあれ、俺に備わってしまった力だ。では、俺からも訊ねたい。お前が使っていたあの影の力、見覚えがあるぞ。あれは能力か?属性エネルギーの類いには感じられなかったが」


「能力でも、属性エネルギーでもない。あれは、技術だ。我が一団に伝わる・・・」


せっかく説明をしてくれている最中、タイガは手に刀を出現させていた。戦意を剥き出しに、ゾムジを睨む


「その技術を使い、これより俺と一戦交えるか?」


「・・・いや、今日はもう結構。お前が納得しておらぬなら背後から俺を斬り捨てれば良い。本当ならばお前を目的としていたが、思いの外邪魔者が満たしてくれた」


敵意も戦意も、薄れていた。敵側ではあるのだが、こいつと戦うのを今は避けれるなら避けておくべきだろう。心の何処かでは戦ってみたい意欲はあるも、タイガは刀を手から消した


「おっと、去る前に一つお前達に尋ねておきたい。この者を見かけはしなかったか?」


思い出したかのようにゾムジは1枚の写真を取り出す。そこに写っていたのはノレムであった

寒そうな場所で白熊とじゃれ合っているというよりかは、襲われて取っ組み合ってる写真である

何故この写真なのか、誰が撮ったのかはツッコまないことにした


「ノレムじゃねーか!こいつがどうかしたのか?」


「存じていたか。いや、ちょいと知人の部下なのだがずっと行方不明らしいのだ。帰ってきてないということは、こちら側にまだいるのかと・・・まー、見かけたら見合い話来てるから帰るようにと告げといてくれ」


「えーっ!?あいつ結婚すんの!?」


モトキよ、触れるべきはそこではないと言いたい。何故当たり前のように友達感覚で接して伝えれるつもりでいるのだろう?


「な、なんだ・・・敵同士だし言うのも可笑しいが、もし帰ってこれたらおめでとうと伝えといてくれ。あいつとは2回しか剣を交えたことはないし、お互いのことなんて語り合うことはなかったけど、悪いやつじゃないのは知ってるから」


「まだすると決まったわけではないがな。良い方に倒れれば、伝えておく。敵同士の立場であろうとも、そういった関係は悪くない・・・」


行方不明であるのだが、あいつのことだから死んではいないだろうという奇妙な彼への信頼

まだこちらにいる可能性に敵対での警戒も、不安もなく、機会があるならまた戦うことになるかもしれないという期待で胸が高鳴りそうになっていた

そうなっている自分への自覚はまだない


「不思議に思う。こちらで捜索するよりかは、お前の方が会えそうだ。もし見かけたらよろしく。では、さらばだ・・・」


身体の右より徐々に影に蝕まれながら去ろうとするゾムジだったが、彼の前をアルフィーが立ち塞がった


「陣営内で二人殺しておいて、ではさよならとできるわけないだろ!ここを墓標にしてやる!」


「やめておけ・・・」


その通り、殺された二人は浮かばれないだろうが今はこいつと戦うべきではない。真っ向からでは勝ち目がまだなく、浮かぶのは呆気なく斬り捨てられる彼の姿


「剣士と剣士の決闘後の余韻に跳ねた土を付けるつもりはない・・・」


ゾムジは彼の頭上を跳び越え、着地地点に浮かび広がっていく自分の影に沈んで消えた


「あ!くそ!どこにいきやがった!?逃げるな!!卑怯者!!」


周囲を見渡すが、気配すら残っていない。地団駄を踏み、当てもなく捜し回ろうとするもクロレンゲの呻き声が耳に入り、足が止まった

彼女は、泣いていた。静かに、絣声すら出すまいと堪えようにもやはり無理であった

早く応急処置を施さなければ命が危ない。急ぎモトキが頭を、タイガが背を、アルフィーが足を持ち支え陣営地へと運ぶ


「急患だ!急患だ!」


クロレンゲを運ぶ御三方は戻った陣営地に突撃。行く手に邪魔となる者達にアルフィーが退くよう大きい声を出し、恫喝させ、蹴散らしていく

正直、迷惑きわまりない

猛スピードで運び、医療用テントに運んだ


「すんませーん!急患です!」


「外からとっくに聞こえてんよ。うるさくって頭痛い・・・」


テント内にはやさぐれだ感のある中年女性が1人、椅子に座り力なくもたれ、タバコを口にして昇る煙を目で追っていた

力を抜いているのか入らないのか、垂れた両腕、その右手にはウォッカの瓶が握られている

椅子から立った彼女の顔は隈が酷く、顔右側にある火傷の痕が痛々しい。タバコをデスクに備えてあった灰皿に押し潰し、瓶を左右に振り、中身を揺らしてからウォッカをラッパ飲みし始めた


「おいアルフィー、この人、大丈夫なのか?色んな意味で」


「大丈夫な、はず・・・」


豪快に飲む最中、急に「うっ・・・!」と詰まったような声と共に顔色が悪くなっていく。ウォッカの瓶をデスクに強く置き、急ぎその下にあったバケツに顔を入れ、嘔吐

気持ち悪そうなえずき声がテント内でねっとりと流れていく


「医者の態度も衛生面も問題だらけだな」


思わずタイガが呟いたが、すぐに臭いがしてきた為それに頷いたり宥めたりしている間がなかった

「おえっっ!くっさ!」と吐いた人への気遣い無用でアルフィーの口から本音が出る

女性はようやく落ち着いたのか、口を拭いながらバケツから顔を上げるも、今度は頭が痛いのか掌底で軽く数回頭を叩いていた


「あいててー・・・なにをしてる?早くその娘を置きな!」


指でベッドに置くよう指示、急ぎながらも彼女を置く際は優しく。その間、女性は再びデスクにあるウォッカの瓶を手に持ち、一口飲む


「はーい。どいてな、どいてな」


酒瓶を片手にベッドに寝かされたクロレンゲに近づくが、嫌な予感がするのでモトキは彼女の前に割って入った


「おい!人の治療法にとやかく口出しできる知識はないけどよ、まさかその酒で消毒するつもりか!?」


誰だこいつ?と目を細め、栓をしてから彼に酒瓶の底を突きつける


「うっさいガキめ、バケツの中をぶち撒けてやろうか?」


ぐいっ!ぐいっ!と顔に迫る気迫に押し負けそうになる。アオバが小声で「頑張って」と応援してくれるが、

結局はどかされ、医者らしき女性はクロレンゲの傷を診始めた


「かぁー・・・!とりあえず最初に消毒液をぶっかけず、まずは裂傷、開放創の洗浄をするから水を入れる器か何か持ってきな!」


二つ返事でアルフィーはさっきの嘔吐物が入ったバケツを持ってきたが、やはりというか彼女に尻を蹴られ、外へ追い出されてしまった。嘔吐物の入ったバケツと軌道上に立っていたせいで巻き込まれたタイガと共に

外から二人と、近くにいた不幸な者達の悲鳴が聞こえる


「水、汲んでこようか?」


「よし、行ってこい少年B。あたしのゲロが入ってたのとは違うバケツでな。そこの可愛いお嬢ちゃんはこの娘っ子の傷口を拭くのを手伝え」


水を汲みに行く前にモトキは、様々な医薬品や道具が置かれたコンパクトな棚の上に混じってステンレス製の桶を見つけたのでアオバに投げ渡す

その桶へ、女性は羽織る白衣のポケットから水の入った小瓶を取り出し、栓を歯で引き抜き注ぐ

応急処置用に常に白衣のポケットには清潔な水と消毒液の入った小瓶を常備している。しかしこの量だとタオルに水を浸して拭くまでが限界だろう

水を汲みに行こうとするモトキに、早く戻ってこいと急かす

了解して頷き、テントを出たモトキの「ぐあっ!くっせ!」の声が後から聞こえた

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