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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
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地をいく傭兵団 12

月は丸い。丸いが満月ではない。そのような満月でも、三日月でも、全く見えない新月とかではなく、詩や物語にもあまり出ない月もまた好きである

空には闇が訪れた。一つの影が月を眺め、静かな荒野を何かに誘われているかのか、迷い歩く

退屈凌ぎに外の空気を吸いに出て、どれ程の時間が経過しただろうか?長く、帰らずに

ゾムジがここにいる。黒い衣服を身に纏いて、顔を隠すように巻かれた包帯からは、右眼だけが鋭く覗いていた

闇に、暗闇に溶けそうな、元からそのような存在であったかのように気配を振り撒きく

一切喋ることなく、静寂の進む先には灯りが見えた。あの場所から自分を誘う者がいる、もしかしたらただの偶然か、出会うことが運命か

あたかもここを目的地をしていたのかもしれない

当たり外れ、歓迎排除、どれでもいい、ここに入ってみたい

陣営地の入口にあたる位置にて、見張りをする二人がいたが、それに声をかけることも、目を合わせることもなく通過しようとする。案の定、呼び止められた


「ん?おい、何者だき・・・!」


見張り二人の間を通過した。腰に携える刀を鞘から僅かに刀身を覗かせ、納める

声が出ず、動けず、見過ごした者の過ぎ去る背の後ろで、切り刻まれた二人分の肉片が散らばった

ゾムジには久々感があった。ポーシバールでの一件、今度は自分からの立場である

まさか、その時の当人がいるとは思うまい


「っっ!!」


食後のコーヒーを淹れ、皆に振る舞おうとしていたモトキだったが、その気配を察知したのかじんわりと顔から汗が吹き出し、髪全体が少し逆立つ

立ち上がり、両手剣を手に持つ。クロレンゲは耳がいいのか、鞘に納まった刃の音が聞こえた

自分の名を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れたタイガの声である

ジョーカーを前にした時以来、戦慄した険しい顔をしている


「お前も、気づいたか」


「ああ、あまりいい気分になれるものではないな」


「この感覚と胸騒ぎに覚えがある」


剣を手に、淹れてもらったコーヒーに手をつけずクロレンゲは走り出した。アオバが不吉な予感をしながらも、「どうしたの?」と尋ねたが、モトキには答える余裕がない

すぐに、タイガと共にクロレンゲの後を追う


「おい!コーヒー冷めるぞ!なんて、言ってる場合じゃなさそうだな!」


胸が騒つく、息が乱れる。豪雨の中を走っているみたいだ

鞘部分を持つ手の力が次第に増していっているのがわかる

だが、それは恐怖風に吹かれてくるものではない。ただ純粋に、獲物を見つけた肉食獣。あとは狩るだけ

緊張は楽しみと喜び。ようやく出会える

まだ見てもいないのにそんな気がした

無我夢中で走り、その景色が見えてきた。顔に包帯を巻き隠す者の姿。鞘に刀を納める音が聞こえてから、迅速に到着したのか、相手はまだ一歩踏み出したあたり

その後方には人であっただろう無慚な変わり果てた姿と、溢しぶちまけられたかのような赤い液体が広がっていた

彼女の存在に、ゾムジは気づき、歩みを止める


「はぁ・・・!はぁ・・・!うふふふふふ!」


「何故に、笑う?」


遅れてモトキとタイガが到着。後ろにある斬り刻まれた人のなれはてた姿が目に入り、モトキは険しい表情に

胸が苦しくなってきた。今いるこいつを前にしたせいもあるが、残酷な光景を見てしまったせいでもある

警戒よりも、こいつをこのままにしちゃいけない明確な殺意が湧き立つ


「お前は!」


「また、会ったか。黒髪の小僧。ポーシバール時とは逆か・・・今度は自分から来ることになるとは」


「どうして!?どうしてここにいる!?」


「さぁ・・・?暇潰し?」


ふざけるな!と思わず怒鳴りたくなるとはこのこと。お決まりの文句は、声に出せなかった

モトキの息も荒くなり始める。ふざけるなの一声も、タイガに顔見知りか?と訊ねることもできず


「睨み合い中の会議も暇で、暇で。風の心地が変わるのを望み外へと散歩に出てみれば、こうしてお前さんに再会したのは、やはりあの際に闘っておけと導き直してくれたとでも、言うべきか・・・?」


腰に携える刀の柄に右手が触れたと同時に、辺りの空気が入れ替えられたかのように、戦慄が走った。クロレンゲは奥歯が震え、足に余分な踏み込みの力が入り、モトキとタイガの両名の髪が僅かに逆立つ

モトキの状態が酷い。この空気に触れ、血の臭いでより生物の奥底に眠るリミッターの栓が揺れ、蠢いてしまっていた

呼吸も更に激しくなり始め、タイガは様子のおかしさに気づいてはいるものの余裕がない

よそに息を飲んで、クロレンゲは前に出る


「貴殿、貴殿は、いや、そうであって欲しい。憶測で身元も知らぬが、顔覆う包帯、もしやゾムジでは?偽物や真似する者もいるが剣を握る同士、察する部分がある!」


「だとしたら、俺に何を望む?」


「貴殿を倒す。超えていることを、証明する!そして、その言方、貴殿ゾムジだな!」


彼女は鞘から勢いよく、火花を散らせながら剣を抜いた。黒く光沢する護拳が付いた半曲刀タイプのサーベルを一度下へ振ってから構えをとる


「はっはっはっ!まさか!このような!巡り合わせ!貴殿の言う導きがあったとするなら!今日この日ほど神に感謝する日はなかろう!ゾムジ!!」


「面倒そうな女だ。しらばっくれてもよかったな」


「世に言われた剣聖の称号を持つ6名!まずは貴殿を討ち!いずれ私もその称号を得る!」


「全員とは言わんだろうが、少なくとも俺が会った者達は皆それを得ようとして得たわけではない。勝手に世に広まっただけ・・・そんな称号は、ない」


「何をぬかす!?時間稼ぎか!?油断誘いか!?前置きを聞く耳は持たない!私と闘え!!」


会話のキャッチボールは捨てた。とにかく、闘いたいことだけを前面に。ゾムジは刀から手を離し、一度どタイガに視線を向け、考える


「本当は、ポーシバールでの続きとして、お前さんと手合わせしてみたかったが、押し切られそうだ」


静かに笑っているのか、それすらも判らない。刀を抜かず、ゾムジは背を向けた


「っ!逃げるつもり!?」


「場所を変えよう。ここのやつらを皆殺しにしてもよいが、転がるゴミが増えればお前らの片付け仕事が増えるだけ。嫌だろう?」


最初自分から仕掛けてきたくせに、騒ぎを持ち込んで来やがったくせに、お前が決めるな!とモトキは口には出さず、心内に留めておく


「貴殿の遺骨を生き絶えた動物の骸が如く荒野に打ち捨ててやる!」


「左様な結末もありだろう。それができるならば・・・来い」


視界を180度変え、逃走するかのように背を見せながら走っていった。あまりに急、本心は面倒で、本当に逃げるんじゃないかと疑ってしまう

それを追いかけに行ったクロレンゲを、自分達も付いて行くべきだろうとした時、アオバとアルフィーが追いつく

一足、遅かった


「あ、あいつは誰なんだ!?クロレンゲも何処に行くつもりだ!?」


「どうやら彼女がずっと捜し求めていたやつらしい。そいつと戦う為、ここでおっ始めるには邪魔が多すぎるから場所変更のようだ。俺も行く、あいつを放置しておくつもりはない」


「くそ!世話の焼ける女め!聞かされたら、じゃあお前らに任せて俺はふて寝ってわけにもいかなくなるだろ!」


悪い予感がした。一目みただけだが、あの顔に包帯を巻いてるやつの異常性はハッキリと感じられた

アオバはどうする?とモトキは見つめる顔で問い、彼女は頷く

真っ先に団長かエモンに報せるべきなのだろうが、他に目撃した誰かがしてくれるだろうと、もしかしたら二人も気づいてくれてるかもしれないと信じて、報告より追うを優先

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