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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
172/217

地をいく傭兵団 11

一方その頃、レップの陣地に赴いたタイガの方であるが、当然最初にここのチームをまとめている者とそいつに近しい者達へ挨拶に行ったはずだったのだが、その者達は全員、今はタイガの前で跪いていた

モトキとアオバがいる所が遥かにマシであり、気難しいやつがいるだけで寧ろ平和と言っていい程に実力主義で荒く、野蛮な者が多かったのだが、相手が悪かったようだ。何故、タイガとこの傭兵達が争うことになったのか


「つまり、只今から俺がここの頭ということでいいんだな?」


勝手なことを口にしている。この場にいる誰もが怯え、反論できない

向こうのヤーデックってやつは古株ってだけであの立ち位置にいる。それに比べてこちらは強いやつが全員を顎で使うも自由となる言ったのがマズかったようだ

突然に訪れたタイガを突き出そうとしたのだが、そこからはもう獅子奮迅なる圧倒的な個の武力を前に、暴力による支配が完了した

最初に絡んできたレップの総括をしていたであろう男が、ボコボコにされた顔をずっと下げている

小刻みに震え、歯を噛み締めながら、ただ慄き、顔を上げず顔を見せずに


「だけどお前らをまとめるつもりはない、乗っとりにきたわけじゃない。クジで俺だけこちらに行くことになっただけだ。もう一方の茶髪の男じゃなくてよかったな。ふとした時にプツリと切れたら何をしでかすかわからないやつだからな」


何やら騒がしい轟音と声が聞こえる。特に音は段々と近づいてきていたが、タイガはあまり気にしないつもりだったのだが


「ここにいる間ぐらい仲良くしようじゃなっ!ぐわあああああ!?」


背後から激突されてしまう。唐突で不意であり、ぶつかってきた相手はモトキであった

怒涛の勢いと止め処なく蹴り放ち続けられる黒い球による攻撃のせいで接近は難しく、近づく隙を伺いながら避けるを主に、バックステップでかなりの距離を跳び後退してきたところに、相手への集中もあったせいかタイガには気づけなかった

先に起き上がったモトキはすぐに謝る


「あっと、すまん!」


「よそ見する余裕はないぞ!」


追ってきていたアルフィーはより力を込めて、戻ってきた黒い球をモトキ目掛けて蹴り放った


「あぶね!」


咄嗟に避けた矢先、背後にいたタイガの顔に黒い球が直撃。ほんの数秒の沈黙から、彼の周りから大気が震え始める


「ふんっっ!」


手で取ることはせず、気合いで黒い球を吹き飛ばしてしまった。なんだこいつは?と存在に驚くアルフィーと、まずい!といった表情のモトキの目線の先で、屈伸運動から、鞘に納まる刀を右肩に掲げて、全身が燃え盛る


「お前ら、まとめて土に汚れて寝かしてやろう!」


危険さをまだ察しれてないアルフィーはこいつらまとめて片付けてやろうと考え黒い球に右足を乗せ、それに挟まれるモトキはどちらから対処すればいいのか困惑

三つ巴となり、睨み合いもなく、タイガが駆け出した


「きやがれってんだ!」


まず狙うは駆け出し迫るあの者から。黒い球を蹴る為に、右足を振りかぶるアルフィー


「よっしゃー!あーばれてやろうじゃねーか!」


仕掛けてくるのは解っているが、御構い無しの正面突破で突っ切るつもりでいるタイガ


「虎の尾を踏んだか!俺らは!」


最初よりは落ち着いてきたが、まだ激しく獰猛な気配漂い、タイガの強さは知っているものの、内心どこかで遠足前日の子供みたいにドキドキしているモトキ

モトキを中点に、3名が激突する

遠くからエモンが、なーにやってんだあの馬鹿共はとダイバーと共に眺めていた


「やめなさい!あなた達!」


追いかけてきたアオバが叫ぶ。ずっとやめるよう言っているが当然聞こえてるはずもなく、その繰り返し

変化があったのはタイガが加わったこと

三方入り乱れての三つ巴の乱戦に見えて、モトキとアルフィーはタイガに対して一方的な攻撃を捌き、躱すのに精一杯になり始めていた

1対1対1ではなく、1対2となる

両手剣の一撃を逆手持ちにした刀が受け止め、飛んできた黒い球を左拳で薙ぎ払い弾くと、剣を防ぐ刀を握る右腕と手に力を入れ無理矢理モトキを押し飛ばし、アルフィーとの距離を詰め、彼を右足が蹴り飛ばす


「ぐはぁっ!!こいつ!!つえぇっ!!」


蹴り飛ばされはしたが、黒い球が自分の元に戻ってきたので空中でその球を踵で蹴り落とした

黒い球は蹴りの威力と風圧により変形したかのように見え、超高速でタイガを狙う


「なめるな・・・!」


拳で殴り返してやろうかとした時、投げられた盾が球を防ぎ、凄まじい衝撃音と共に弾かれ合う

そして、投げた者はタイガに対し背後から跳び蹴りをしかけ迫ってきていた。球を蹴った直後、追撃としてアルフィーも上空より右足を突き出し、迫る

挟み撃ちに立たされた中、避ける事はせずに、手にする刀を一度上へ投げ、両者からの蹴りをそれぞれ、左右の掌で止めた


「なんだと!?」


「くそ!やはり突けなかったか!」


ここからが、モトキとアルフィーにとって地獄の始まりだった。時折相手してもらう、鍛錬時の彼とは違う戦闘を行う時のタイガである

抵抗したり、攻撃を加え、仕掛けたりはするものの、躱されたり、耐えきられたり、反撃を受け、怒涛なる一方的な攻撃に対処し切れず、その惨劇にアオバや他諸々、ギャグ漫画みたく頬等に一つ汗を垂らしながら見守るしかない

繰り返される戦いによる轟音、炸裂音、地などが砕かれる音に混じり、二つの悲鳴が空に消えていった


「ゼェ・・・ゼェ・・・!俺は・・・生きて、いるか・・・?」


近くに倒れるモトキに問う


「お互いな・・・あの世の入口にしちゃ汚すぎる」


痛いとかではなく、疲れが酷い

顔も土に汚れ、鼻血が垂れ、髪もぐしゃぐしゃ

空は夕刻となっていた。ついさっきまで、死ぬかと思い、覚悟したがどうやらあのタイガという男は飽きてくれたようだ


「飯の、時間かな!?」


起き上がり、空を眺めボーっとしているモトキに歩み寄り、手を差し出す


「ん・・・立てるか?」


「立てるが、差し出してくれた手を振り払うつもりはない」


彼の手を掴み、引き起こして貰うと服の汚れを手で叩き払った


「あいつ、お前の連れか?めちゃくちゃ強いじゃねーか。下手すれば、ここの傭兵団の中であいつに勝てるやつはいねーぞ」


「そうかな。俺ら三つ巴で乱戦となっても、頭が冷える程にやられたな。あいつ1人に」


世は広いなと、アルフィーは実感する。自分の力に自信はあるも、それを越える新たな存在を知った

悔しさも嫉妬もなく、何故か悪い気がしないでいる

拳で、主に使っていたのは足だがそれでしか通じないものもある。理屈じゃない。周りからすれば馬鹿にされる目で見られそうだが、タイガも、そして殴られたことを許すつもりはないが、モトキに対しても敬意が芽生えていた


「さてと!空の赤味具合から、もう夕飯の時間か?お前も食っていくだろ?モトキ」


「クローイにも誘われたな、そのつもりだ」


「そうか」と小さく呟いた最中、両者の後方から誰かが近づいて来ており、背後手前で止まるとそれぞれの頭に拳骨を落とす

拳骨を落とすダイバーの更にずっと後方で、エモンは笑っていた


「掃除しな!」


周りなど眼中に入れず、戦ってしまったせいで陣営地内は荒れていた。テントの建て直し、抉れたり穴の空いた地面の整地等、他諸々しなければならない

自業自得である。捻り出すような二つ返事で早速取りかかった


「テントの建て方はわかるか?犬小屋じゃねーぞ」


「物によっては犬小屋の方が難しいだろ」


迷惑を起こした彼らだけにさせていたら膨大な時間を要する。暗くなってくる時刻でもあるので各自取り掛かった

後で集団リンチ遭ったり、刺されても文句は言えないだろう

さすが長くこういった活動が多いおかげか、最初よりは細かい部分は完全にとはいかなくとも、整地も終わり、テントも建て直された

破けたりして取り替えられたコットン生地のインナー部は長い短冊状に切って包帯に再利用するつもりである


「今夜寝る分には困りはせんだろ。よし、ではと、晩飯の支度するぞモトキ!もてなすつもりはないからお前も作るの手伝え!」


「一応、客人の扱いで来てるんだけどな」


傭兵団の食事は組ごとにそれぞれ毎日当番制である

大量に作ってセルフであり、なくなればそこで終了。食えなかったは、取りに来ない奴が悪い扱い

今日は当番ではないはずのアルフィーはモトキを連れて調理場へ


「手伝って言われてもな。俺は基本、丸焼きぐらいしかできんぞ」


「食材切るぐらいできるだろ。剣を扱ってたし」


「その理論の理解ができねーよ・・・」


本日は海産物を主に仕入れてある。アルフィーは最初ブラックタイガーというオーソドックスな海老を手に取り、モトキにパプリカを投げ渡した

調理場にいた今日当番の人から「今日は持ち場じゃないでしょ!」と怒られたが、「うるせぇっ!ボケェっ!」を一言怒鳴り、御構い無しに始める

モトキはパプリカを最初に、続けてジャガイモ、ブロッコリー、ニンジン等の野菜を切っていく

ジャガイモの皮を剥かないのは拘りらしい


「こんなもんでいいだろ」


手際がいい。ただ野菜や食材を切っているだけでの自分とは違いアルフィーは慣れている調子で調理が進み、1時間も要さずに料理は完成。香ばしさも、旨味も含んだ香りが鼻を突き抜け、食欲という本能を掻き立てる

モトキの眼は獣の如くなりかけていたが、よそにアルフィーは鍋や皿を両手で持ち、頭にも乗せて猛スピードで何処かへ行ってしまった

思わず「なんだと!?」と叫んでしまう


「なんだと!?」


数秒間を置いて、もう一度叫んだモトキから離れた場所にて、アオバはソウジ達がいるテント前でいつのまにか居眠りをしていた。彼女にも移動の疲れやストレスはあり、ついさっきドッと重く来た

浅い眠りだったが、誰かが自分の肩に手を置いて揺らし、声をかけるので目を覚ます


「君がクローイさんの連れてきた客人だろ?」


正しくは客人なのはモトキだけである。自分は連れさられる彼についてきただけ

見知らぬ男が3人、彼らも傭兵団の一員だろう


「あのよ、良かったら一緒に食事でもしないかな?」


食事のお誘い。モトキを待っているので断ると決めた。「ね!ね!」と断らせない為の強気気味の押しをしてくる

断りの第一声、「やめておきます」と言おうとした時、料理を運んできたアルフィーが突撃してきて、3人をまとめてぶっ飛ばした


「邪魔じゃボケェっ!」


邪魔者は消えた。さっそく、彼女に作った料理を食べさせたいのだがこのままというわけにはいかない


「少々、お待ちを」


一度テントに入って持小さめの正方形型のテーブルを持ち出してきた。純白のテーブルクロスが敷かれ、その机上には先程運んできた料理と、ワイングラスが2つ、ボトルが1本並べられている


「お嬢さん、葡萄はお好きですかな?ワインとはいきませんが、お高めの葡萄ジュースがありまして、身に合う歳を先取り、気分だけでも」


「お、お構いなく」


2つのワイングラスに芳醇であり、肉肉しい葡萄の果肉が脳裏に描かせる香りがする紫の液体が注がれる

ジャガイモ、ブロッコリー、ニンジン、ウィンナーに塩漬けした牛の肉をローリエとコンソメを入れて煮込んだポトフ

皿へ豪快に盛り乗せた食べやすいように殻と頭が取られ焼かれた海老

そして魚貝類が多かったのでパエリアを一品

好みの味に、主にポトフか海老の為のマヨネーズとケチャップ、塩胡椒

ここでポトフの鍋にペッパーミルから胡椒を挽く

葡萄ジュースの入ったグラスを手に、高らかに


「お前と出会えたこの日に乾杯といこう!久々に、楽しい食事となりそうだ!」


「なにしてんだ?お前ら」


ここでモトキが戻ってきた。野菜切るぐらいしかしてないが、自分も作るのを手伝ったので食べる権利はあるはず


「ちっ!空気読めよモトキ!」


焼き海老を一尾手に取り、馬鹿みたいにマヨネーズをかけて口に運び、噛み千切った


「なんだか、俺はお邪魔虫みたいだな。しょうがね、タイガのとこで飯食わせてもらうか」


「そんなことないわモトキ君!一緒に食べましょ。顔見知りが1人いてくれないとね」


「テント前でどうだ?と自慢気にされるのは腹も立ち、腹も減る」


いつのまにかポニーテールの女性がパエリアを一人占めするが如く、スプーンで頬張っていた


「てめー!クロレンゲ!吐き出せ!今すぐに!吐き出せ!お前に食わせるつもりで作っちゃいねーんだよ!」


「はっはっはっ。もう私の胃に直行ルートだ。吐いても臭いだけだぞ。体液と混じって」


取り返そうとするアルフィーの顔に鞘に納まる剣を押し当て接近を阻止しながら、膝にパエリアの入るフライパンを乗せ、片方の手に持つスプーンでそれを食べ続ける

暗くなった時刻に紛れて、影が近づいていることも知らずに

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