地をいく傭兵団 8
テントからモトキ達が出てくるのをクローイは待っていた。出てきてすぐ、タイガはモトキに「帰ろうか」と提案していたので、「帰るなー!」を叫びながら、何故かモトキに突撃
「なんで?」
ぶっ飛ばされはせず、胸と胴で受け止めた。靴底は数センチ土を抉ったが
テント内からエモンの「やかましいぞ!」が聞こえた
「やんのかゴラァ!?」
「なんで今日のお前はエモンに喧嘩腰なんだよ!?」
後ろから羽交い締め、テントごとぶっ飛ばそうとしていたタイガをなんとか静止させる
「悪ふざけは置いといて、帰りに鉄板料理を食べて帰らないか?モトキ。良い店を見つけたんだ。甘い煮豆も入ってないから足繁く通いたくなる店で、学園にも近い」
「お前、まず帰ってそこに辿り着くまでかなり時間を要するぞ」
「私はイカ玉を・・・」
自分の好みの鉄板料理を提示し、話に入ってきたアオバだったが、急に我にかえったのか頬を赤らめ、数歩引きながら小さくなっていった
「勝手に帰るつもりでいるなよ!飯ぐらいここで食べさせてあげるから」
「じゃあ俺は羊肉を」
「ア、アイスの天ぷらで」
「まず始めに赤いウインナーかな」
「リクエストするな。そこは我慢しなよ」
こちらもすぐに帰れるわけではない。せっかく遠出してここまで訪れたのだから一泊ぐらいはしていこう
この広い陣営地に、どれ程の人がいるのか
ここまでくると、1つの組織である
「よし、じゃあまずはどのチームに在籍するか決めようか。即席で作ったクジで悪いけど、順番か一斉に3人で引くどちらでも良し!」
彼女の右手に握られている捨てられるはずだった衣類か何かを細く切って作られた三本の白い紐
唐突に始まったクジ決めにモトキは困惑するが、タイガはしのごの言わずに一本を引いた
「白を引いた。何も色付けされてないと言った方が正しいか?」
「おーいおい。3分の1と少ない確率とはいえ、最初に引いたやつで決まるのかよ。残り二本は色付けした黒だったけど、面白味なくなったな」
もう決まったが、モトキとアオバにもクジを引かせる。当然というか、残りの二本は黒だけ
このクジ決めは何を意味するのか問いたい
「この時より、白はレップに、黒はペンシルに所属してもらう。団長のテントを境界線に、ここへ来るのに通った区域はペンシル、あちら側がレップになってるから。内輪揉めや騒ぎを起こさないように」
「ちょっと待てクローイ!話進められてるけど、あのクジは俺達を分ける為のものか!?どうして分ける必要がある!?そもそもレップとペンシルってなんだ!?」
「先代がストライプ模様の衣服が好きだったみたいで、その際に傭兵団内で4つのチームに分けさせたらしい。レップ、ヘアライン、ペンシル、シックシン。本当にしょうもない名付け方したなと、あたいも思う」
「歴史なんて聞いてねーよ!」
「うるせ、バーカ」
「あぁ!こいついちいち聞いてこられるの鬱陶しくて面倒になりやがったな!なんだとバーカ!」
両者両頬を抓り合い争う中、分けられるならしょうがないと、タイガは独りそのレップという組名の陣地へと向かおうとする
「あ!おいタイガ!」
「俺のことは心配するな。新入りをいびってくるようなら返り討ちにするし、エモンもいるからあいつに八つ当たりでもしておく」
「そういったのが心配だから1人にしたくないんだけど!」
そう、彼自身喧嘩自体は好まないのだが、武人肌で真面目な部分がちょっと戦闘狂となって覗かせる時があるので、それにより自分の知らないところで事態を引き起こしてしまいそうだ
「あいつは1人でも大丈夫そうか。運が良かったなモトキ、あたいもペンシルだから慣れない地で不安あっても、顔見知りのあたいがいれば心の拠り所ぐらいにはなるでしょ?」
「今はもう不安しかない。黒ペンキのバケツに一滴の白だな」
また、モトキの足首をクローイは掴んだ。「Let's GO!」の掛け声と共に、猛スピードで彼を引きづり連れて行く
「あぁ!ちょっと!じゃあタイガ君!お互い無事に帰れるように!また後で!」
「おう、陣営内が戦場にならないことを願ってな」
引きづられていくモトキを、アオバは追いかける。その光景を見送ってから自分の行くべき方へ向かおうとしたが、タイミングを見ていたのか、テントからエモンが出てきた
「喧しいのが消えたな」
「煩わしいのをぶっ飛ばしてより静かにしてやろう」
「まー待て待てタイガ。俺はお前と戦うつもりないぞ、敵はもっと他にいるから体力を温存しておきたいのでな」
そう言いながら、お互いそれぞれ刀と大太刀を抜いて構えていた。宥めるつもりで、やるならやってやるの姿勢
「ここでおっぱじめるな馬鹿共!」
続けてテントから出てきたダイバーの右手に持つ空になったジンジャエールの瓶には、丸めた紙が入れられていた。左腕は力なく歩行に合わせて少し揺れている
「エモン、すまないが聖帝兵にこれを届けてくれぬか?」
「断る。戻るつもりはしばらくないのでな、今は嫌だと教えておく」
「貴様ならそう言ってくれると思った。あとでラリアットをプレゼントしてやろう」
指笛を鳴らし、近くに潜んでもいたのだろうか、何処からともなく身軽そうで露出も多い忍装束の女性を呼び寄せる
彼女に手紙の入った瓶を渡し、それを届けるよう指令を出す
受け取り承諾はした。すぐに向かおうとするも、足が止まる。悩みある顔だったが振り返り、団長に言っておきたい
「団長、今件の仕事が終われば某、傭兵団を辞めさていただきますので」
「なにー!?急すぎる!!何故だコフキ!?」
「故郷に戻ることにしましたので。某の故郷はフゾウザツなる里長の奥方の弟なる者が里長を殺し、支配していましたがバチが当たったのか鎮圧され、新たに殺された里長の娘が就任したようですので。某は元々、反乱因子の全滅を避ける為に外へ出されていた身でしたので」
言葉の節々に喜びを取れる。留めさせるのを説得するのはかわいそうな気がしてきたので、「しょうがない」と一言だけで、承諾
「感謝します、団長。では、最後となる今回の仕事もいつもどうりきっちり終わらせますので、これにて御免!」
ドロン!と白煙と共に姿を消し、数枚の木の葉だけがそこに残った
「人員補強に使われる傭兵が、人員不足に頭回らなくなったか?」
「別に人手不足に陥っちゃいねぇよ。急すぎただけだ。場退職宣言させられてな。けっこう優秀なやつだったから、大して重要ではないが高かった腕時計を手放した気分だ」
「お?心底は人望のなさかと自分を疑いながらの強がりか?」と親友に煽られるが、「言ってろ」と相手にしない
そんな2人を置いてひっそり、これ以上、鼻からそうだがいる理由もないので去ろうとしたタイガだが、呼び止められた
「待てタイガ、お前だけは耳に入れておいてくれて欲しい。何故かこの場にいて驚きはしたが、幸運でもある。お前の強さは俺が理解しているからな」
「俺は、お前の言いなりみたいな形で戦いはしない。俺は戦いたい時に戦いたいだけだ」
「そう返してくるだろうとは思っていたぜ」
利用され、使われたり、命令で戦いに赴くのは別に構わない。単に、エモンとの古くからの付き合いの問題である
本当はこうでありたいと言える相手なだけ
不信感がないと言えは嘘になるので、ちょっぴりの警戒を胸奥に
あまり長居するつもりもなく、クローイに言われたレップへ、タイガは向かう
「少年、レップへ行くつもりか?そいつら傭兵共を持つ俺が言うのもなんだが、レップのやつらは仕事以外はあまり関わりたくもなく、近づき難い気性の荒きやつらが多い」
「ダイバー、気性が荒いぐらいは問題ない。本当にヤバいのはこのガキだぞ。戦闘狂と真面目部分が合わさり昇華してしまい、他とは違う狂気を孕んでいる。安心して見送ってやってくれ」
「安心の概念が判らなくなるな」
それって、彼に突っ掛かればレップにいる傭兵達が危ないってことなのでは?と気づくも、もうどうにでもなーれ、最悪の事態にはならないだろうと自分の判断へ自信を持ち、信じて願うしかない




