地をいく傭兵団 7
ルウベーラ・タルは元々、海近くに面する美しい街並みを風景を持つ王都として有名であった。しかし今は戦火により、城のみを残してほとんどが崩壊している
僅か2日前の出来事であった。忽然と3隻の巨大船が現れ、港からの襲撃が開始されたのだ
見張り船などにも見つからず、港に船をつけ、王都は戦場と化す。準備も陣を敷くのもまともにできず、戦力によって瞬く間に制圧されてしまう
しかし、ただではやられていなかった。陥落されてから、すぐに聖帝よりの兵と傭兵団が派遣されてきたのだ
攻められたのなら、迎撃を主とせず、諦めもありながら、王都を犠牲にして、急ぎ間者を走らせたようだ
そして攻められた初日の夜。なるべく民と半数の兵と家臣、家族を国から逃げさせ、2日目は残り僅かな兵で迎え撃ち、王諸共全て玉砕されてしまう
じっくりと攻め滅ぼすつもりでいた。そのつもりでいたのは今回の戦いを指揮する魔王帝直下の将軍、イグバッツだけだが
3隻の中で一際大きな船にて、代表5名による円卓会議が行われようとしていた
上座にはイグバッツ、すぐ手前右の席には客将の魔王帝直径配下の王族であり、凍槍と異名を持つ猛将、グラディフが座する
かなり重そうで、素肌すら全く露出せず、なんだか太ってるように見える物々しさ、まさに重騎士と言わんばかりの黒と薄い青の色を基調とした鎧に身を包んでいた
「た、ただいま、戻りました」
「四六時中それを着込んで暑くないのですかな?」とイグバッツは軽い気持ちで、気遣いながら尋ねようとした時、フラフラのエルフの女性が戻り、この場に現れた
タイガとの戦闘で敗北後、なんとか馬に乗って帰ってこれたようだが
正直、横になりたい。だがこの場で行える勇気はない、そんなことをできる雰囲気もない
「何があった!?ボロボロではないか。手こずる者と相見えたのか?貴殿を大怪我させ、失うことがあればジョーカー殿にどの面下げて帰ればよい」
イグバッツがすぐに近くに立つ従者にすぐ、彼女に手当をするよう命令。どこからともなく現れた2名のメイドが取りかかろうとするも、彼女は何故か照れながら乱す口調で、丁寧にお断りした
「何があったんだい?リア」
グラディフの隣に座っていた下唇から下へ牙のような模様を描き、ウェーブがかった髪を右サイドテールにした明るめの黄緑色の髪を持つ青眼の女性が問う
心配してくれてるというよりかは、彼女と戦った者に興味がある
「先輩、聞いてくれます?この前、ジョーカー様がこいつと戦ったんだと自慢していたあの小僧がいたんですよ。追いかけた鼠の馬車に。抜け出した鼠を追いかけ、まさかあんな化け物みたいなのが同行しているとは・・・」
「んで、その手こずる相手に刺し違えもせずに逃げ帰ったわけか」
嫌味のつもり、挑発もしている。イグバッツが彼女に気をかけてあげた先の行いに嫉妬しているだけだが
イグバッツから見てすぐ左、グラディフの向かいの席にいる力強そうな眉に、右に流した短髪茶髪の男。彼の名はヘター、今回は副将を務めている
低い身分から自分を取り立ててくれたイグバッツを崇拝しており、それに関しては面倒な男である
「逃しちゃいない。負けたの、私。化け物みたいな殺気をだだ漏れさせているかの者に。本当に、本当に怖かった」
死を覚悟してしまった。タイガと面と向かった時を思い出せば、自然と手が震えてしまう
「そう、怖かったのね。泣きじゃくりたいなら海のように寛大に抱き締めてあげようか?ちょっと圧迫させてしまうぐらい胸のサイズがあるけど」
「あ、いらないです。私もある方ですから乳合わせになるのは遠慮したい。そこそこ苦しくなるので」
「では、御免!」と一言残し、リアは退室。ヘター頬杖つきながら、左手指はテーブルを叩き、退室する彼女の背を顰めっ面で見送る
「最初から医務室に直行すればいいのを、頑張りました自慢でもしにきたのか?あの女」
「ヘター、失礼な物言いは慎め。ここへは身分関係なく誰もが訪れてもよい場所であるのだ。リア殿は斯様な者がいたと身を持って教えに来たのだろう」
「そのとおりです!まさしく!」
すぐに自分へは態度を変える彼に、総大将は溜息を吐きたくなるも胸に抑え込んだ
「で、で?先程からずっと風突き抜け涼しげに、一つ空席があるのだけど。来る気配もなさそうなので、外にいる適当なやつでも座らせる?円卓会議は身分を問わない場なので、誰でもよかったのですスタンスを」
「もしかすれば不意に顔を出すやもしれん。ゾムジ殿の席は空けておこう。しかし、あのゾムジ殿自ら今件を同行させて欲しいと頼みに来るとは。こちらとて、強大な一将が同行となれば頼もしく、願ったり叶ったりである」
またヘターは気に食わぬ顔に、親指の爪を強く噛む
「しかし、予定していた面々とは随分と変わりましたな、グラディフ殿」
重そうな鎧の姿、その表情は分からずも頷いてくれた。イグバッツは、なんだか無口になったなと思いはするも、疑う目は一切ない
「本来ならば、魔王帝様からジョーカー殿と共に進軍せよと御達しになられたのだが、スペード様と共に行方不明になられて・・・」
「その件については我が大将が大変ご迷惑を。代わりとなる摂理の四災衆の方々も別用とサボりがありまして、その代わりに足りない僕がこうしてこの場に」
「いやいや、魔王帝様がわざわざ赴き貴殿を推薦なされたのだ。もっと己の価値に重きを持っても良かろう。自信も大事である」
「ふん、まー、あのジョーカーの元で勤められてんだから精神は一丁前か。変なやつなんだろうけどな、お前も」
「ヘター・・・」
口で説教してもどうしようもなさそうなので、イグバッツは軽めのチョップでヘターの首から下までを床に沈めた
「こほん、埃舞うことを失礼。ゾムジ殿の行方も知りたくはあるも、革命軍も現れたので相手の出方を伺うのが現状。傭兵団と聖帝兵、革命軍、三つ巴となり、どこと争い、または全てを相手にしなくてはならないかもしれん。旗色悪ければすぐに退却しろとの令も届いている」
「魔王帝様優しいじゃない。金鉱山と銀鉱山を潰してこいかと思ってたけど、どうやらというか、違うみたい?」
「もちろん、吾輩も最初はついでに潰す気でいたのだ、ゼナナ殿」
這い上がってきたヘターは、胸当てに付いた汚れを手で払いながら「そうだ!そうだ!」と続く
今、初めて言ったのだがな?とすぐに自分に同調する彼に呆れていた
「傭兵団と革命軍、どちらかに動きがあるまでゾムジ殿の捜索でもいたします?たぶん、見つからなそうですけど」
「見つからないのであれば、こちらはこちらで内緒に美味い物でも食べようではないか。実は秘蔵の霜降り肉を持参しておいたのだ。上質なワインもある。良い肉を食す時のワインは肉の品質に合わせず、ワンランク程下げた物が好ましい」
ずっと喋ってなかったグラディフだったが、ワインと聞いて目に見えて輝く何かが見えるように
嬉しいのだろうか?鼻唄が聴こえてきた




