表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光ある概念の終日  作者: 茶三朗
傭兵業務
166/217

地をいく傭兵団 5

どれ程の時間、眠っていたのか。途中、スクラップと化したゾゾイの車近くを通過した

起きた時にはまだ馬車は進む、荒野の中を


「・・・なんだか、遠くへ売り飛ばされにいく奴隷達みたい」


「お前なにボソリと胸糞悪いことを呟いてんだよ!」


退屈で思わず、クローイは呟いた。あまり、わいわい話せず、楽しい気分にもなれないのはスクラップになっていた自分の車を目撃してしまったのか、更に暗くなって横になるゾゾイの存在があるからだろう

ここで大きく馬車が跳ね、尻が痛かった。それで切り替える合図かのように、タイガが学園に何も理由伝えずに自分達がいなくなったことを出してきた

勝手にいなくなった3名、それが2日目に入った。普通はサボった扱いになっているだろう


「戻ったら、学園長にどう説明するかな?」


「俺に関してはまたあいつか、とか小声言われてんだろーなぁ・・・」


「ネフウィネさんがサボってる日にこんな帰れないことに巻き込まれて良かったわ。あの方、一度来たらしばらくは来るけど、そこから一度サボったら同様にしばらくサボるので・・・」


「まぁ、Master The Orderのやつらは普段はあまり学園に来ないからな」


クローイはネフウィネの名を聞いて邪険な顔をする。嫌でも掘り返されてくる記憶、一方的に痛めつけてきた彼女の顔は本当に怖った


「うげー、あの女、もう思い出したくも、絶対に会いたくもない。そこそこ危ない目に遭ったり、橋を渡ってきたけど、あれ程死に現実味が帯びたことなかったかな」


「自業自得だろ」


物欲は時に殺人すら容易に厭わなくなってしまうもの。アオバはクローイを恨んじゃいないが、必要最低限の会話以外はなるべくしたくない

正直、心底の信頼は無理であろう


「あーあ、会えなくなるってことは、もうあの剣をお目にかかることができなくなるかー・・・」


懲りたのか懲りてないのか、あんな目に遭ったくせに。牡蠣に当たったのにまた牡蠣を食べたいのと一緒で、こういうのは一生治らないのだろうと

彼女に対し呆れ気味なモトキであったが、ふと御者台から自分の名を呼ぶ声がしたので、顔を出す


「ほら、あれ・・・」


指で顔を向けるべき方向を示す。馬車から見て右のずっと先、凄まじい量の土煙が舞っていた

何かがこの荒野を駆け走っており、接近してきている。その正体はすぐに発覚

馬である。しかし、その馬は普段見られるのと、これまで目にした中でも圧倒的な巨体を誇り、不気味な程に深く濃い漆黒の毛色をした青毛馬

その背に跨るは特徴的な尖る耳と、毛先が黄緑をした明るい赤い髪、軽装な白と緑を基調とした服装だが、油断したら所々見えてしまいそうだ

馬車に横付けし、平行して走る


「うしゃしゃしゃしゃ!!やーーーっぱり抜け出してた鼠が1匹!!」


二重の黄色の瞳は獲物に狙いを定めた獣、確実に狩れる自信のある獣のようだ。八重歯を覗かせ、不敵に笑いを繰り返す


「エルフの種族か!」


笑うエルフの長い髪が風圧で自分顔にかかり、口に入ったのかペッと唾液ごと吐いてから自らの髪を太ももの測部に備えていた特殊作りなナイフで切り落とす


「おーやぁ・・・?あなたの顔、見覚えある。その髪色、長さ、ジョーカー様が帰ってきたと思ったらすぐにまた消えた前日、この者と戦ったんだと自慢げにあなたの写真を見せびらかしてたっけ。今、行方不明のノレムちゃんが執着してる」


「あいつ!行方不明になってるのかよ!」


あの夢はやはり自分への報であったようだ。なんで夢であいつの虫の知らせをされなきゃならなかったのだろう

少し安否を気遣ってしまうのは自分が数少ない、濁り無しで闘った相手だからだろうか?


「いや、あいつのことだから簡単にくたばりはしないだろう。それより、何故ジョーカーの部下がここにいる!?」


「あら?私はジョーカー様の部下かだなんて一切口にしてないけど?でも、ちゃんとジョーカー様の部下なんだけどね!正解、正解!正解者には、プレゼント贈呈!」


「どうせ、死を与えようとかのオチだろ」


「そうしたいのだけど、私はかわいい後輩ちゃんの玩具を横取りする趣味はないの。あなたはノレムちゃんからいつか頂きなさいよ。私からあなたへのプレゼントは・・・」


銃口が御者の眉間へ向けられる。銃は世にも珍しいホイールロックガンに斧刃が取り付けられたアックスピストルという逸品


「ちょっぴりスリルを贈呈。あなたが必死に慌てふためき馬を捌くもよし、制御不能で馬車がひっくり返るのを待つのもよし」


銃声が響いた。御者の眉間に弾丸が撃ち込まれた、はずてあるのだが、寸前でモトキがその弾丸を握り、攻撃を防ぐ


「ナイスだモトキ!信じて手綱を放さなくてよかった!」


「いえ・・・って、あっつ!!」


弾丸を掴んでいるはずなのに、その感覚はなくなっていた。まさかの空砲だったはずはない、熱さはある

開いた手には焦げた痕だけが残っており、すぐに治癒が開始


「ちっ・・・!そいつぐらい、いなくなったとてでしょ?もっとスリルを味わいなよ、経験しなよ」


「生憎だが、御宅の大将と出くわしたおかげで、しばらくあのスリルが色褪せず、超えられるに困りそうはない」


「確かに!」の一言と、耳に付くが嫌ではないエルフからは想像もつかない笑い声は、駆ける馬の蹄音に混じり消えていった


「じゃ、スリルを味わう方法を変えよう。御者を殺してみる他に手段はいくらでもあるので!くたばれ野良犬の糞共!」


青毛の人一人など容易に踏み潰せてしまう巨体の馬は、馬車に強烈な体当たりをお見舞いする

馬車は跳ね上がり、左斜めに傾いて転倒寸前になるも二頭の馬を上手く捌き、持ち直した


「あぶねー!あぶねーー!俺にナイスだとは言ってくれたけど、それを上回るナイスだった!」


「私を誉める前にあのエルフらしき輩をどうにかしな!」


「うしゃしゃ!誉めるべきはその馬二頭!本能からこの馬を隣に逃げたくてたまらないだろうに!」


もう一度体当たりを仕掛けてきた。先のより勢いとスピードを増している。今度は馬車どころか馬ごと破壊するつもりか?


「おい・・・!」


馬が、その一言を聞いて行動を中断した。乗するエルフの女性も、何故か不思議と汗が全身から噴き出す

聞いたこともない声のはずなのに、どうしてこんなにも覚えのあるというより、似たような視線に刺されている

馬車の上に、タイガが立っていた


(あ、あいつは・・・!)


モトキだけではない、あいつの顔も知っている。いつ写真を撮ったのか?ではなく、学生証に使われたらしき写真だったのを覚えている。何処から入手したのだろうか?

それはまあいいとして、解るものである。あいつだけはここにいる他とは別格の者だと

ジョーカーがあいつと闘ったのを自慢気に語っていた


「あなたが、タイガ・・・!数日前に、ジョーカー様が自分を倒せるやつだと意気揚々嬉しそうに語っていた」


「どうしてあのジョーカーが俺を語る際は嬉しそうなのは不明だが、エルフの女がここに何の用だ?邪魔立て襲撃ならお前をぶちのめすだけだな」


「戦闘狂みたいな匂いさせやがって。私は抜けた鼠を追いかけてきただけだったのだけど、まー、襲撃に変わりないか・・・」


馬の背より跳び、反転しながら右足をタイガの頭上へ叩き落とすと見せかけ、狙う位置は彼ではない。馬も馬車も動いている最中なので、馬車を蹴り潰すつもりだったが、タイガは彼女の落下地点へと移動し、右腕で一撃を防いだ


「馬車から叩き潰してやろうかとしたけど、やるじゃないやっぱり」


彼を馬車ごと押し潰そうとしたが、受け止めたその腕からどっしりとした強大な力を捉えた。このまま押し切ろうとするとこちらの身が危ない気がしたので、アックスピストルによる白兵戦へ変更

斧の一振りを、左手に現れた鞘に納まる刀が撃ち弾く


「タイガ!」


「こいつは俺がなんとかする。モトキは御者を守るか、もしもの時はお前が手綱を取れ」


想像以上のパワーに弾かれ、手が痺れる。着地しようとしたが、馬車に被せてある布下の骨組みの間に落ちて挟まった

チャンスだとタイガは蹴り上げてやろうとするが、同様に布を突き破って骨組みの間に落ちてしまう

相手のエルフは、目を輝かせる


「エルフの剝ぎナイフ・・・!」


抜け出し、先程髪を切るのに使われたナイフでタイガの首を掻っ切るつもりだったが、刃を歯で挟み取り、噛み砕いてしまった


「げえぇっ!?光翠鉱石(こうすいこうせき)製のエルフの狩りナイフが!」


砕かれたナイフの刃を眺めている余裕はない。驚き抜けぬまま、すぐに攻撃を切り替え、アックスを振り下ろした

寸前でタイガも抜け出し、振り下ろすその手首を掴むと馬車に横付けして走る青毛の馬の背へ投げつける

背の鞍を擦り、越えて転落しそうにかるが擦った鞍を掴み、背に立った


「エルフの狩りナイフに使われる鉱石には特殊な魔力も練りこんでいるはずなんだけど・・・やはりか」


そう、本来ならば砕かれたり折れたりするならば破片は幻として瞬時に刃部は修復されるのだが、それがタイガを相手して発動しないのを予め知っていたかのような口ぶり


「様子見だろうが褌を締め直し、力を出していかないと自らが狩られる側になるぞ」


「だよねー。薄々、よりあなたの恐ろしさが判ってきた」


褌は履いておらず、エルフの彼女はパンティー派である。馬車をも攻撃する余裕はなくなってきた。本当は抜け出した1匹の鼠を追い、生かすか殺すかを決定するつもりだったが虎の尾を踏んでしまったようだ

アックスピストルを腰に備え、手に出現させたのは鋭さと少し禍々しさを感じさせるデザインに、小さな銀の翼が装飾されたロングボウという弓の一種

右の手には光と闇の力を、それが2本の矢へ姿を変える


「エルフの狩場とさせる!」


素早く、同時に2本の矢を自分に向け射出され、タイガは闇の方を避け、光の方を刀で斬り消した

地平線の彼方へと飛んでいった闇の矢は遠くの方で凄まじい轟音を生じさせる


「速く剛力を帯びた威力のある矢だな。以前、それよりずっとでかい弓を使う者がいたが、強さはお前と比較にならん。ワザとそいつの矢に当たり、退却するそいつを追いかけ、陣地にいる大将ごとまとめて始末するなんて真似はできなさそうだな。当たれば痛そうだし」


青毛馬のスピードを上げ、馬車周りを旋回させながら速く連続して止めどなく射抜いていく

刀から槍に持ち替えると柄の中部辺りを掴み、高速回転させひっきりなしに放たれる無数となった闇と光の矢を弾き防御。矢は弾かれたと同時に砕け、チリとなって消えていった


「避けるな!防ぐな!当たれ!」


「無茶言うな!」


この攻めを続けても無理ならと、馬から再度跳び、タイガの頭上を飛び越えながらも連続で矢を射出する

少しの変化を変えて、先程までのピンポイントではなく降り注ぐ雨霰の如く射出された闇と光の無数の矢を、さすがに槍を回すだけじゃ全てを防御しきれない、馬車への被害も出ると判断したのか、炎を纏った槍で大きく上へ半月状に振るい、火炎が矢を呑み込んだ

炎が自分に届く寸前に飛び越え、反対側に馬を走らせていたのでその背に着地


(白兵戦に持ち込むとまず不利ね。このまま距離を一定に保ちつつ、消耗戦を視野に時には強気に攻め、どこまで続くのか見もの・・・)


ロングボウを消し、アックスピストルを手に銃口を向けるが、陽動の発泡に合わせタイガが馬車から突撃してきた

弾丸は拳で薙ぎ払われ、馬上に立つ彼女に落とすだけを目的とした体当たりを行う

マジか!?と、その一言だけが脳内を走る。両名は荒野に投げ出されてしまい、あっという間に馬車の姿が離れていってしまった


「馬上での戦闘も、嫌いじゃないのだけど・・・」


「時には怪我覚悟で思い切らなきゃ道は拓けないからな!」


全体的に大きな動きと変化を齎すことではないが、思い切ったことをする。考えなしにの時もありそうだ。それがシンプルに一番恐ろしくなることもある

上司であるジョーカーとはまた別の思い切り方をしてくる。根本なところは同じかもしれないが

このタイガが、いずれ自分を倒せると申していた理由の一部を垣間見たのかもしれない


「逆に私の道は閉ざされようとしているのかも。正面切って、勝てるの?私が」


「お前んとこの大将を含め、俺のことを買い被りすぎだ。それに強さと勝ちは関係ない」


「そうとは考えにくいけど・・・」


この距離からなら、まだ矢で攻め立てれる。再度手に弓を出現させ、闇と光の矢を弦にはめ、引き構え、いつでも仕掛けられることもでき、迎い撃てる

それでも、根が張られたかのような恐怖が緊張を呼び起こす

タイガは槍を両手でしっかりと握り、両足を地にしっかり踏み込んだシンプルな構えをとった


「エルフの狩場へ!ご招たーーーい!」


矢はタイガに向けてでなく、寸前で上空へ射られた。闇と光の矢はシュルルルル!という音を立てながら空へ消える


「夜空は闇、星は光。永遠に闇は続くも、その中に光は覗くもの。アストログラフ・ダークコンパス」


上空にエルフの耳と似た形をする右に白、左に黒の蝶の羽根となる閃光から、空を覆い尽くす無数の闇と光の矢がある一者を狙い、大量の針が入った箱を上からひっくり返したかのように降り注ぐ

星の位置を調べる。矢は用いる大量のコンパス

馬車上で放ってきた連射など霞む

その大空を眺め、槍は左手に。右手を爪立てる形で、引いた


「シャイぃぃ・・・!ニング・・・っ!」


右手に光を、白き光を赤いエネルギーが包む。技を叫べ、ただ気持ちの高まりとカッコいいから

理由はそれだけで良いのだ


「ベル!サン!フォーーース!!」


ジョーカーが落とした二つの隕石から街を、国全土を守った際に放ったものと同じだが、今回は球体状で投げつけるのではなく、放出する形で

恵ある太陽の光は、時に過多に恵を振りまきすぎにより死をもたらす

輝くは太陽の魂

天空を突き破り、無数の矢を消し炭にしてしまうが、自分の当たる範囲だけで十分

彼の周りに地を埋め尽くす程の闇と光の矢が刺さった


「良い技だった。ただ単純に凄い!と言いたくなる。やってくれる!」


「お褒めにあずかりだけど、余裕ありそうな顔されたら馬鹿にされてると捉えてしまいそうだわ」


「馬鹿にしてないと断言する。なので、お前は敬意を持ってぶっ飛ばしてやる」


「ジョーカー様と似たり寄ったりなこと言うのね」


さて、なにやら生物に持つ本能が危険信号を送り騒がしい

彼が槍を両手で握り構えた瞬間、全身の毛が逆立ったかのような感覚に襲われる

恐怖からか、追い詰められて手で殴る抓る引っ掻きなんとか抵抗するかのように、自然と弓から矢を連射していた


雷閃竜(らいせんりゅう)!」


石突部を強く地面に叩きつけると大地が砕かれ、跳ねる土と同時に雷撃が発生し、射られた矢と周りに刺さる無数の矢を消し去った。発生した稲妻が荒野の地を走り、エルフの女性を下から天へ急上昇する翼を広げた竜となって着弾

悲鳴と共に炸裂する雷撃音が響く


「きゃああああああああぁぁっっ!あがががががが!!」


背を向け、槍の柄部を肩に掲げたタイミングで宙に舞い、雷撃を受けたエルフは大地に落下した

黒焦げとなり、その口から白い煙が漏れる


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ