地をいく傭兵団 4
朝陽が地平線の遥か先から覗き始めた刻。モトキは限界を迎え、地面に伏せ倒れてしまう。それでも両手剣と盾は手から落とさずに、敗北
技も、属性エネルギーも、能力も使わず、肉弾戦から始まり、最後は武器の攻防のみだが、勝敗はタイガに軍配が上がったようだ
「なかなか楽しめたぞ!」
左手には十文字槍、右手に持つ刀を上空へ投げ、鞘を手にした。そこに落下してきた刀を納める
それと同じタイミングでモトキが起き上がった
「なかなかじゃダメなつもりなんだがな・・・」
「そうマイナスになるな。勝ち負けどうあれ、確かな経験値になってくれるぞ」
「それもそうか」
真っ向切っての戦闘で、タイガに勝った覚えがない。唯一勝ったことあるのは、こいつの兄と組んでの雪合戦だけである
自分は全く何もしておらず、ただ雪玉を投げていただけだが
「もう、朝だなモトキ。腹は減ったが、辺りに動物はおろか虫すら見当たらん。砂漠の方がまだ生物いるってな」
「早くこの荒野を抜けないと餓死か、俺らの肉体が治癒されるのを利用して自分を食べるの選択を迫らなきゃならなくなるぞ」
「そんな哀しい自傷と共食いはしたくねーよ」
あまり寝ていないが、戦闘したおかげで温かい血が頭から全身を巡るような感覚により眠気は飛んでいる
アオバ達のところへ戻ろうとした時、タイガが遠方に目を凝らしていた。何かが見えるのだろうか?
「何か見えたのか?」
そのまま尋ね、モトキも同じ方角へ視線を向けた。すぐに正体が判明、土煙を上げながら二頭の馬に引っ張られ、猛スピードでこちらに迫る馬車が1台
明らかに進行道は二人がいる場所を通過してしまう。退けと警告もされず、相手から避ける様子もなく。モトキとタイガは、それぞれ左右に跳び避けた
二人に一切構うことなく、馬車は去っていってしまう
「追いかけてみるか?一応、道とか聞いておきたい」
「そう、だな」
「なんだそのちょっと躊躇いある返事は?人見知りでもないくせに。やっぱり、昔に荷物持ってあげようか?と声を掛けたらキレてきた婆さんのがトラウマにでもなっているのか?」
「俺はタイガが思ってる以上に人見知りだぞ。それに、老婆には関わったりしたら酷い目に遭いやすい自覚はある」
突然キレられ怒鳴り散らかされたり、杖で殴られたり痰を吐きかけられたこともある。それに以前、墓参りしてたら、供え物を食べる老婆に出くわしてしまったおかげで、革命軍と初接触してしまう事態になったこともあった
躊躇いある返事は、喉に唾が通り言葉が詰まってしまっただけである
「そっか、じゃ!」の一言を残し、タイガは通り過ぎた馬車を追いかけに行った。モトキもすぐに後を追う
「俺を置いてくな!」
別にタイガにだけ行かせてもよかったのだが、つい流れと勢いで。追いかけ、すぐにタイガに追いついてしまい彼の背に激突
「いでぇ!?」
両者は転ぶも、進行はそのまま止まらずに起き上がれば、何故かモトキがタイガを肩車して走っていた
自分より身長が高い者を肩車する姿は、なんとも不気味である
「おぉ!これはいい!モトキは足がはえーから、これが一番正解かもしれないな!」
「んなわけあるかー!」
肩車するタイガの足首を掴む手は、彼を乾いた地面へ顔から叩きつけるように振り下ろした
「どしゃーっ!」
顔を地面にぶつけたタイガは、自分を振り下ろし、先に行ってしまおうとするモトキへ足払いを行い転倒させる
年頃の男子特有の悪ふざけあいをしている場合じゃない。馬車を見失う前に、追いかけなければ
「うおー!待てー!」
「石投げて車輪壊すぞ!」
追いかけてくる二人に気づいたのか、馬車とそれを引く馬達のスピードが上がった
どう見たって、荒野で通行者を狙う盗賊が追ってきてるようにしか映らない
「全然止まってくれる気配がねぇぞ!てかこの方向、アオバ達がいる方だ。俺達から逃げてるなら、轢いて行ってしまうな!」
「その時は、力業で止めてやる!」
徐々に近づいていき、手綱を握る者に話をするつもりだったが、より馬車のスピードが上がっていく
そして、猶予がないことに気づく。焚き火の煙が見えたのだ。あそこに、アオバ達がいる
強行手段に移らなければならないようだ。片方は先回りして馬を止めて、もう片方は馬車を後ろから引っ張り慣性の法則により馬車と馬を衝突させるのを防ぎ、停止させる
こんな時にネフウィネがいたら便利なのにと、ふと過ぎった
ジャンケン等で誰がどれを担当するかを決めてる時間はなく、モトキが走る速度を少し上げて馬車と馬を追い抜き、回り込もうとしたが、馬車は突然、急停止
止まるとは思わず油断したモトキは馬に撥ねられ、急停止されてぶつかってしまうと馬車を飛び越えたタイガは、馬に撥ねられ飛んでいくモトキと激突してしまう
馬の前に落ちた二人、馬はタイガの匂いを嗅いでから頭に噛みつき、クローイがモトキの尻を木の枝でつつく
「なーにしてんの?あんたら?」
反応がないモトキは放っておき、馬にタイガの頭を噛むのをやめさせていたら停止した馬車から人影が飛び出した。クローイの背後に着地
「こんなことだろうと思った・・・」
赤と黄が基調の派手めなスカーフを頭に巻き、顔は隠れて分からないが、その者はまだ横になってブツブツ独り言を呟くゾゾイを蹴り起こす
「お前が迎えに行くと胸張っておきながら遅い!なんて様!団長の行ってやれは正解だったな!」
「だぁはっ!?いったーっ!」
ぐっすり寝ていたアオバだが、ゾゾイの叫び声で起きた
「なに!?朝!?襲撃!?毛布!?制服だわ!」
自分に掛けられていた制服のブレザーはモトキのだとすぐに解った。なんだかんだ、最近は行動をよく共にするので匂いが覚えている
優しいことしてくれるじゃないのと、彼のブレザーを強めに握り締め、辺りを見回して本人を探すが、彼もまた馬に頭を噛まれていた
どういった状況か、始終を目撃してない起きたばかりの彼女に理解は無理だろう
「この盗賊共!金目を奪う相手を間違えたな!」
モトキとタイガに手錠がかけられた。気を失ってはいなかったので、二人して「なんで?」といった表情
モトキにしては、前も手錠をされた覚えがある
「クローイ、こいつらをここに放置して餓死させよう!生き残れるチャンスはやる!帰りに錠の鍵を適当な場所に埋めておくので探し出すんだな!」
「こいつらを連れてかないと、あたいとあんたも、団長から面倒くさい目に遭わされるのだけど」
ワザと大声で恫喝するも、クローイの言葉に「はい?」と、声量が一気に萎んだ
手錠をされるのに慣れているのか、モトキは経過を待つことにしたが、タイガはそうもいかない
乗り気である
「上等じゃねーか。手錠が外せたらお前をぶん殴りに行っても構わないんだな?逆襲される覚悟持てよ」
合金製の手錠ぐらい、力任せに容易で引き千切れるが、敢えて未知ある感を出す為に手錠を輝赤熱色に変色させ溶かしてしまった
「ほぉー・・・!お前さん、なかなかやり手とお見受けする。どう?お前ぐらいなら、実力を見せびらかさずとも、傭兵団ではそこそこな立ち位置でいれそう。地をいく傭兵団に入団してみないか?」
「俺は一応まだ学生だ。学生であるってのは、国の飼い犬である立場なので、リードを外された時にまた勧誘しに来るんだな」
両者に流れる不穏な空気。巻き込まれるのを恐れたのかクローイは数歩退き、モトキは手錠をされたまま固まってしまっている
「・・・馬車に乗りな」
このままだと進まないと判断したのか、巻かれたスカーフの顔部分を解き、タイガの胸にモトキの手錠の鍵を押し付け、馬車の御者台へ跳び乗った
ラベンダー色の髪が頭に巻かれたスカーフから覗く
モトキに手錠の鍵を投げ渡すも、手は使えないので歯で鍵を挟み取り、錠を解いた
「こうなるのを察して団長が迎えを追加で寄越してくれていて良かった。早く戻りたくなってきていたところだし、ゾゾイは役に立たなかったし」
クローイが馬車の後方に回り、そこから乗り込むと、先に愛車を行方不明にされたゾゾイが蹴り起こされてから先に乗っていた。また横になって、ぶつくさ言っている
いい加減、目障りなのでこいつはここに捨てていこうかなと考えてみたり
「こんなタイプの馬車は見慣れないな」
カバードワゴンの馬車である。乗ったことのあるは主に、エトワリング家のや、ミナール、ベルガヨルの家が所有している装飾があったり、大きめに造られたりしたランドーと呼ばれるものである
「俺達が見覚えあるのは富裕な者達が所有する馬車ばかりだったからな」
「こんな荒野とかだと、さすがにベルガヨルとかが持ってる馬車じゃ景色がおかしくなるか」
馬車へモトキ達も乗り込みむと同時に、先に乗っていたゾゾイが蹴り落とされた。「なにやってんの!?」とクローイに思わず叫んだモトキだったが、馬車は構わず出発してしまう
「全速前しーーん!」
御者の明るめな通る声から馬車は急発進し、モトキの隣に腰を下ろしていたアオバの頭が彼の顔面にぶつかってしまった。髪から良い匂いがするなんてシャレを言う余裕もなく、馬は最初から猛スピードで飛ばし、進むことによっていつ転倒してもおかしくなく、馬車が揺れ、跳ねて、中に積まれていた荷物も飛び交う
ゾゾイはなんとか馬車下で車輪の軸棒にしがみついていたが、荒さと速さで今にも落ちそうになっていた
段々と慣れてきたのか、昨晩、あまり寝れなかったモトキは今になって眠気が訪れた。少し寝る