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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
各自抑えれぬもの
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鱗粉の香り 9

返事が返ってくるはずもない。そのはずなのに、ここへ来ると、ついタイガの兄が眠る場所に置いてある石に話しかけてしまう

今日あった出来事から始まり、前来た時から本日までの間に起こった事。何度も繰り返した同じ話をしてしまう時もあり、くだらなかった雑談もあるが、それでも話したくなるのである。それが親友というものだ

しかし、今日はまだ話さない。モトキは石に付着している雨や風により運ばれたりしてきた汚れを払い拭く


「兄さん、今日眺めれる花はいつもより綺麗かもな」


イチグサは石の前に、この墓所近くの花屋で見繕ってもらった花束を置いた。置いてすぐ、止め処なく溢れる感情に耐えきれなくなり、泣き崩れてしまう

後悔している。小さい頃の約束だと馬鹿にされても、無効だとみたいな扱いにされてもいいから、しっかりと想いを伝えるべきだったと

会いたい、でも会えない


「最期を知らない・・・死因も知らない・・・でも聞きたくない・・・」


墓石代わりの埋まる石に手を添え、撫でる。そこからしばらくの無言へと移った

この季節にしては珍しく、少し寒い風が吹く


「この風に、私を乗せてあの人のところにまで、どうか・・・」


掌からの鱗粉を風に乗せ、天へと飛ばす。意味のないことだと誰もが解っているが、気持ちには意味があるかないかなどの問題ではない

イチグサの鱗粉は風に混ざり、想う人の元へと旅立った


「やっぱり・・・あの人のこととなると、私を包むように風が吹きますね。思い過ごしでも、偶然なことでも構わない、彼が近くにいてくれていると思いたくなってしまいます」


供えた花束から1枚の花びらが風に吹かれ飛び、彼女の髪に付いた


「私は・・・生きます!彼の分までという、気持ち新たにを持ち出し、死人に対してあるかもしれなかったこの先を奪うようなことではなく、私の生をちゃんと・・・報せを聞いた時、後を追う考えも()ぎりはしましたけど、あの人ならば絶対に止めるでしょう。彼と共に過ごした思い出を、無駄にしたくありません」


ぐっと右拳を握り、墓石代わりの石を見つめ自らと想う相手に決意を誓う。生きよう、生きたい

無用な心配だったかと、モトキとタイガは先に去ろうとしたが、彼女は「ところで・・・」と呼び止めるように


「モトキ・・・キボウを倒してしまったあなたは、もしかすれば、彼のお家から命を狙われる羽目になるかもしれないですね」


「・・・やってみろ、とでも強がっておくか」


キボウを倒してから、彼の行方がわかっていないようだ。死んではいないはずだが、一撃で打ち負かし、数秒目を離した隙に彼の姿は消えていた。残っていたのは、戦闘があった形跡のみ

これがモトキにどう降りかかる火の粉となるか、何も起きないか

今はただ、日の経過を待つしかない

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