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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
各自抑えれぬもの
159/217

鱗粉の香り 8

屈伸運動の終わりに、タイガは刀を左手に出現させ、鞘部を掴んだ。右手が柄を握る

彼を前に、青い鎧の方が首を傾げていた。なにやら、迷いがある雰囲気

隣の赤い鎧の者に訊ねる


「なぁなぁジェニファーさんよ、僕達がタイガと戦っていいのか?タイガはキボウ様が珍しく嫌悪感なく接する方で、いずれ倒すつもりでいたから先取りはよくない気がするぞ」


「知ったことか。キボウ様の全ての都合事情に付き合うのは不可能。そして我々はキボウ様の前に立つあの男を排除をするのが目的で、タイガ殿はその邪魔をされに来た」


「ふーむ・・・?まーいいや。後で余計なことするなって怒られるだけで済むなら結構」


青い鎧の者、レックスの手にはヴォウジェという長柄武器が出現。頭の上で回し、石突で地を叩く

石突の先端が、数センチ亀裂もひび割れも生じさせずに刺さっていた。器用なものだ


「油断めされるな、相手はキボウ様と同じMaster The Orderに位置する者」


「わかってるぞ、それは重々によ」


ヴォウジェの柄を両手に握り持ち上げ、上半身を捻らせ、大振りに振れば刃先から青白のギザ状の斬撃線が撃ち放たれる

その攻撃をタイガは前ぶりもなく、虚空ごと、右拳による正拳突きのみで撃ち消した


「げぇっ!やっぱりレネージュ様みたいにそうはいかない感だぞ!一応、10隻の巨大艦船ぐらいなら沈めれるはずなんだけどな!」


拳を放った時、隣にいたジェニファーの姿は消えていた。気配は上空から、グレイヴの一種であるフォチャードの先端を真下に、空気を突き破っているかのような何回もの層を生み、猛スピードで急降下

このまま直撃すれば肉体は突き刺さるや真っ二つでは済まされない酷い惨状な攻撃となり、躱せば広範囲に破壊を生まれる。それに巻き込ませるつもりだったが、タイガはまたもや躱す動作は見られない

落下してきたところを、フォチャードの刃を握った右拳を軽く緩め、その人さし指と中指の間で挟み捕らえた

衝撃はあったので風圧は生じるも、彼の髪を揺らし、戦塵が発生するのみ


「こいつ・・・!」


反撃はせず、彼女を軽くポイと投げ捨てたところに水の衣を纏ったヴォウジェが投擲され、迫る

回転を加えることで貫通力と威力、精度を高め、纏う水はさながらカジキマグロの姿と化した

タイガはようやく、左手に握る鞘から刀を抜き、刀身で投擲されたヴォウジェの一撃を防ぐ

激しい水飛沫が舞う中、レックスは自らが投げた武器を追ってきていた。身を低めながら距離を詰め、タイガに拳を撃ち込む

同時にそのタイミングを狙っていたのか、投げられ地に片足ついて様子見をしていたジェニファーがフォチャードの刃に赤白い光を帯びさせ、素早く重い突きを行なってきた


「良い攻撃と、その攻撃を止めない良い連携だな」


力技で水のカジキマグロを刀で粉砕し、ヴォウジェは弾き飛ぶ。水が雨のように降り注ぐ中、刃が熱されたかのように輝赤色となった刀を、両者へ叩きつけるよう振り払った


桜前線(さくらぜんせん)!」


雨から桜吹雪へ、桜の花弁は一瞬にして、一気に燃え尽きる。吹き荒れた桜吹雪と共に、刀身に染まっていた色と同じエネルギーが放出され、何かが砕けたかのような音がし、鎧越しでも威力を受け、物凄く熱い

レックスは力に押し負け滑り転がっていく中、彼を救出するつもりはなく捨て置く決断をした同時に吹き飛ばされたジェニファーは体勢を立て直し、手から離してしまったフォチャードをすぐに空中で掴んで着地

着地してすぐだった。恐ろしいことに、タイガが走り始め迫ってきていたのだ


「くそ!熱いのか怖くなって寒いのかわからない!」


迫るタイガへ、ジェニファーは迎撃を仕掛ける


真刃(しんば)(まい)!!」


フォチャードの先端で四角を描き、魔法陣を展開。角に4本と、その中央に巨大なのが1本、計5本の剣刃が飛び出し、回転する


「デカくて範囲があればいいってものじゃねー!」


刀を左手に持ち替え、右拳で中央の巨大な刃を殴り、力の伝達で他の刃も魔法陣ごと粉砕

だが、避けたり、突破されてしまうのは想定内。突き破った先に、彼女は待ち構えていた。再び、フォチャードの刃に赤白い光を帯びさせて


「当たらなかった一撃を再度!マイル越える距離を死体が飛べ!イノーマスビロー・トラスト!」


強大なる力を、大波のように、渾身の突きを放つ

自信があった。レネージュが使用していた技であり、尊敬、憧れから真似て、彼女から直に教えてもらう機会もあり、完成した技

しかし、その自信はタイガというレネージュ自身から認められた者との差を目撃することとなる

クロスを描くよう刀を振り、その光の斬撃がジェニファーの一撃を受け止め、そこへ追撃した突きにより完全に打ち消されてしまった


「そんな・・・!」


タイガという者の力の片鱗を目の当たりにしてしまい、完全に恐怖に染められてしまう

彼の手から刀が消えた。彼女の手前で両足を踏み込み、両拳を握った。右拳に帯びる光の力を白き炎に見立て、左拳には雷撃を帯びさせる

拳による速くて重い怒涛の連撃を浴びせ続け、空間を揺らし、それと威力の余波で地面と周りの建物の亀裂と崩壊が始まった

トドメに右拳による一発を撃ち込み、全身の赤き鎧が完全に砕け散った。カールしていた長い黒茶の髪と、身体の線がはっきりする黒いボディスーツ姿の女性が姿を現わす

口は開いているも声は挙げれず、高く宙を舞ってから落ちた


「ジェニファー殿!!」


青い鎧には、酷い亀裂が走っていた。タイガが声主の方を向く

彼の眼を直視し、戦慄する。武者震いとは違う、芯からの震えが起こった


「すんませんキボウ様。先取りしたくせに、ジェニファーが倒され、僕だけじゃこの方には勝てなさそうで・・・!」


いつ、やられる?このあとすぐか?時間をかけてか?なら、やるだけやってみようじゃないかの精神

素早く、地を蹴って後退しながら、左手の指先より火属性のエネルギーを小さな球体と化してガトリング弾のように高速連射


「よく挑んで戦ってくれたものだ。足掻きはそれでよいならば・・・威武道(いぶどう)!」


刀を振り抜き、真空波のようなものを発生させ、相手に撃ちつける

連射された火球を呑み消し、深々と地面を抉るその技が直撃し、青い鎧の上部が完全に破壊される。下からは顔の右側に酷い傷痕の残る青年が姿を見せた

口から血を吐き垂らし、地面に背中から倒れ、起き上がる余力も全て尽き、意識を失う

意識が飛ぶ寸前、レックスは技に驚いていた。あれは本来なら、兵士や戦士、見習いに訓練兵などが最初に習い、よほどサボることさえなければ誰もが習得できる技

本来は軽い牽制や陽動にしか使われず、殺傷能力は皆無で誰にも使われなくなってくるが、タイガは使いやすさに目をつけ、磨き、必殺に昇華させたのだ


「死にはしない、安心して眠っていろ。さて、モトキの方は・・・?」


時間は戻り、タイガが二人の相手をしてすぐの直後、キボウは不服そうな顔をしていた

連れてきたジェニファーとレックスごときがタイガに勝てるはずがないのだが、コックが味見に使ったお玉杓子をそのままかき混ぜにも使い、その料理を提供された気分である


「余計なことするなとあいつらに叱るのは後だ。お前からすぐ片付け、すぐにあやつらを止める」


「やってみろ」


右手の指先は虚空を握り、ゴキリ!と音を鳴らす。邪悪な力を間近で感じ、イチグサは首を絞められている感触に襲われ、その気持ち悪さを紛らわす為に自らの首に手を当てる


「モ、モトキ・・・あなたに助けられ、守られている形になるのはどこか屈辱はありますが、本当にあなたが戦うつもりですか?あのキボウと」


「とりあえず、まずは俺一人でなんとかしてみるさ。お前は、戦いたくないのに戦わされた立場なのだからな。危なくなったら本気で助太刀求めたりしてみるからよ」


彼は歩み始める。チセチノ達への心配もあり、その原因となったキボウという男に確かな怒りが湧いていた。自分が自分じゃなくなりかけているのに、本人は気づいていない。Master The OrderのSecondだろうが、どんなやつだろうか、頭になく、ただ標的と化していた


「モトキ、キボウの能力は知ってますか?」


「いや、知らないな。知ったことか・・・!」


警告とアドバイスのつもりだったが、聞く耳を持つつもりはなさそうなので、イチグサは勝手に声を挙げ告げる


「モトキ!キボウの能力は反射!反射の力を持ちます!聞こえてますか!?聞こえてなくとも教えておきます!」


返事はない。彼から漂い始めたドス黒い邪気が外部からの声を遮っているように映る

イチグサから見れば、本当に昔、孤児院にいたモトキと同一人物か、キボウからすれば先程生徒会室にいたやつなのか?一般学生なのか?と疑った


「まぁ良い。タイガの同郷ならば、あいつの真似事でもしてみろ」


左手の3本指から黒紫色の光線を相手にではなく適当な場所に向け発射し、自らの足底に反射の能力を発動。反射を利用して空中へ跳ね、また別方向から反射で己を弾き、街全域を屈折する闇の光線とキボウが高速で跳び回り、反射による跳躍を繰り返す

Master The Orderではない一般学生だが、その場でも平気に介入してくる者なのでちょっぴり興味がある。まずは脅かしから、それで死んだらやはり一般学生は一般学生であったと変に興味を持った自分に呆れるつもりだ

イチグサは目で捉えようとしていたが、モトキは追うことすらしてないことに気づく

こいつ、大丈夫なのか?の心配はよそに、音が遅れている中、殺気が走った。来る、それだけは分かる

「モトキ!」と叫ぼうとしたが、彼の声が上書きした


「うあああああああああああっっっ!!」


叫び、放った右拳が黒紫の光線と共に接近したキボウの腹部へ確実に撃ち込まれた。威力が目に見えて撃ち込まれた腹部を越え、身体の背後面から放出され、闇の力による光線を砕き散らせると、空間を歪ませ揺らす


「ゴファ・・・ッッ!!??」


怒りの一撃により、先に剣が手から離れ、遅れてキボウが少量の血を吐いて地面に落ちた。彼はピクリとも動かず、力を振り絞って何とか起き上がろうとする気配もない

何が起こったか呑み込むのに時間を要した。今、イチグサの目の前で起こったのは、Master The Orderの、それもSecondが、枠だけは一般学生に敗れた現実である

地に伏せるキボウの前に立っているのは、邪悪な力を感じるあのモトキであった

フッとその気配は消える

あれは、見て良いものだったのかは己の捉え方次第

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