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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
参加ではない親交会
147/217

ミナールからの依頼 11

親交会に使われた会場に向かい、ゼルテンタが走っていた。主人のレフォールには、ミナールの身の心配と危険承知で一度様子を見に戻りたい旨を申し出、許可はいただいている

急ぎ、彼女の元へただ向かいたい。状況を一目見たい

ミナールの強さは知っているので、自分にできることはたかが知れているし、邪魔になることぐらいは重々に理解している

何やら、大きな音がした

胸が騒めく

速度など変わってないはずだが、気持ちより速くスピードを上げて走っていっているつもりで、老人の腕振って、膝上げる全力疾走など、滑稽でしかないかもしれないが結構である

この状況で余計に、一人、自分の年甲斐もなく全力で走る姿を想像してしまいつい笑いそうになる


「お祖父様!」


後方から呼び止められ、足を止める。追いかけてきたのか、孫のテハーの息は少し荒め


「戻っておれテハーよ!」


つい、怒り気味に怒鳴ってしまった。しかし彼女は、力んだ眼でそのつもりはなさそうに訴えかける

その眼差しは、自分に意見してきた時の亡くなった息子を思い出させる眼をしていた

急ぎたい苛立ちか、思い出させるその眼を見てか、様々な感情が生まれ混じり、少し、苦虫を噛み潰した顔になってしまう


「そうは、いかないの!」


彼女は呼吸を落ち着かせ、大きく一度息を吐いて改めてその一声を祖父へ突き付けた

急いでるはずといった態度だったくせに、ゼルテンタはこの隙に先へ行く真似はしなかった

ただ黙って、次の発言を待つ


「お祖父様、あなたに訊きたいことがあり、問い詰めてもおかないと」


「問い詰める・・・?」


身に覚えのなさそうな素振り、孫の唐突なその言葉に、そう反応するしかなかった


「ミナール様の身の心配、本当に、本心から心配しているの?お祖父様・・・お祖父様が見に行きたいのは、革命軍がミナール様とモトキ様と戦闘を行い、その現状と動きじゃなくて?」


「何を言うかと、思えば・・・」


呆れた溜息、馬鹿なことを言ってないでレフォールの元に早く戻るよう手で促す。しかし、孫からは殺気立つ雰囲気、少し速い速度で歩み近づいてきた


「お祖父様、どうなの?違うと断言できる!?訊いてみるは!もう問い詰めになっているの!」


「わしに疑問を持ち、わしに問い詰め、わしにどうしろというのだ?テハー、今はただ、お歴々のところへ戻れとしか・・・」


「この裏切り者がーーーぁぁっ!!」


不意だった。いきなりテハーは隠し持っていたフォークで祖父の右眼を刺す

祖父の悲痛の叫び、彼女には近距離で叫ばれるうるささなど聞こえないに等しい


「私が!何も知らないと!?認めようともせず!はぐらかそうとし始め!埒があかないの!」


弁明も、言い訳する余地すら与えられなかった

フォークを引き抜き、次は脳髄まで到達させるつもりで再び祖父の顔へ振り下ろしたが、手首を掴まれてしまう

テハーの顔に、祖父の拳が撃ち込まれた

刺された右眼を手で覆い隠し、殴った時に彼女の手から落ちたフォークを拾う


「うあぐぅぅ・・・っ!!テハー!テハーッ!!こんなこと!こんな馬鹿な真似を!そちの両親を、わしの息子夫婦を殺したのは!レフォール様なのだぞ!」


「殺しちゃ・・・!いないっ!父と母は自らに・・・!お祖父様もそれは知ってるくせに!両親の、あの家に使えていた誇りと覚悟を否定する馬鹿な真似をしてるのはお祖父様よ!」


祖父に殴られ、鼻から垂れる鼻血を手の甲で拭う。口の中は鉄臭い味がする

今、目の前にいる祖父は、今まで見てきた常に落ち着いて淡々と仕事に勤しむ姿とはかけ離れていた

本性ではない。焦りからきた姿


「あやつらは、レフォール様の身を守るが為に命を捨てなくてはならなくなった奴隷なのだよ。奴隷のまま、終わってしまったのだ!!」


「忠誠と奴隷を一緒にするな!!」


孫の声など、もはや聞く耳持たずである

拾ったフォークでテハーを刺し殺そうとするも、背後からモトキが両手剣を老人の背に振り下ろし、斬り捨てた


「あおぉあぁ・・・」


少量の返り血が、モトキの右頬に付着する。倒れるゼルテンタの背後から現れた彼の眼は、どうしてこんなことにと、罪悪感を伴った哀愁漂う眼をしていた

テハーは倒れた祖父を前に、自然と涙が溢れる。許さない、憎しみを持ったが、それまでの過ごしてきた時間と祖父と孫としての関係は本物だったからである


「無事か・・・?な、はずないよな」


「いえ、大丈夫です」


掌底で涙を拭く、湧き上がりまた泣きそうになる感情をぐっと抑え、モトキに訊ねた


「ミナール様は!?」


「彼女のことは心配御無用。身に負傷も何もしていない。天井の無くなった会場を出ずにまだいるけどな」


「そう・・・ですか。ミナール様のことはあなた様に任せています、あの方の元を離れてここへ来た理由は存じませんが、お戻りになるならば早いとこお戻りを」


「そのつもりだ。しかし・・・出発前にお前が言ってくれた疑惑と警戒どうりになってしまったな。レフォールさんとミナールにはどう告げる?自分から告げにくいなら、俺から説明するが・・・」


「しますよ、ちゃんと自分から・・・それで、私も連帯責任になろうとも。レフォール様もミナール様も、薄々察してはいましたから」


祖父をここに放置するわけにもいかず、運ぼうとするも間近にする身内の死体を前に動悸が速くなり、胸が締め付けられそうだ


「お祖父様・・・」


それを感情を表に出すのと共に抑え、ゼルテンタの死体を抱き上げ、老人の腋の下に首を差し入れた後、肩の上に担ぎ上げた

レフォールの元へ向かおうとする背を見送ってからモトキもまた、ミナールのところへ戻ろうとしたが彼女が振り返る


「モトキ様・・・革命軍はあのお二方だけとは限りません。まだ潜伏している者がいるかもしれません。任せきりになり申し訳ありませんが、お気をつけを。ミナール様を、宜しくお願い致します」


「安心しろ、俺もミナールも簡単にくたばりはしないさ。もうほぼほぼ、将棋でいう王手みたいなものだしな」


彼女は「ご武運を」の一言を残し、祖父の遺体を担いぎ立ち去る。数秒その背を目で追い、モトキはテハーとは真逆の方向へ、ミナールの元へと急ぐ


(・・・遺憾が残りやがる)


出発前にテハーから話は聞いていたが、そうはならないで欲しかった。その遺憾である

繋がっていたのはやはりゼルテンタであったこと、その老人を、彼女の祖父を自らが始末してしまったのを今になって実感してしまい、自己嫌悪に陥りそうだ

正当化するつもりはなくも、これでよかったんだと、自分に言い聞かせるしかない

ミナールに伝えておくべきだろう。どう反応されようとも

ホールに戻り、ミナールの状況と様子に変わりはない。そうでなくては困る

へたりと座り込んでいるサティッツなる女性を見張る彼女は、戻ってきたモトキに軽く手を振った


「一悶着でもあった?ほっぺたに血がついてるわよ」


「事態の遭遇を願ってはいなかったんだがな。そのことなんだが、ミナール・・・」


「後にしなさい」


「了解した・・・」


乾きかけていた頬に付着する血を親指で拭い取り、尻で拭く


「まずはこちらから。晒し首にでもしたいとこだけど、恨みも因縁もないし、殺さずに捕らえておくべきかしら?」


「自白でもさせるのか?」


「それをするのは私の役目じゃないわ。連行されてもすぐ処刑されるか、情報を得る為に拷問されるかもしれないわね。この前の銀行襲撃時に捕まった革命軍の者達のその後と今を知らないしね」


「怖いと慄きたいが、こちら側も甘いことはやってられないか・・・」


二人を前に、足を折られ、反撃も一矢報いたり逃げる隙もなくいるサティッツは歯を噛み締め、睨み、悔し紛れに啖呵を切る


「あなた達なんて、副隊長さえ居合わせてくれれば・・・!!」


負け惜しみを吐き、抵抗のつもりか、勢よく立ち上がろうとする。威勢だけは良い。しかし、ミナールの足が右肩を踏み抑えつけ、どうしようもない様子で力が抜けたかのように再び座り込んでしまった


「観念なさい、大人しくお縄につけば今のところは痛い目見ずに済むわ」


「今のところかぁ・・・こいつをどうやって連れていく?縄も手錠も都合よく手元にないぞ。腕を背にやって連行か、気絶でもさせるのか?」


「気絶させましょう」


モトキは連行された敵国や革命軍の者達の甘くないその後を想像した時よりもミナールに慄いた

ちょっと冗談のつもりで気絶させる選択肢も入れてみたが、彼女は本気でそうするつもりだ。タイガも昔、自分をイジメていた輩に似たようなことしており、この前のネフウィネもだが、何故にMaster The Orderの面々は血生臭かったり、殴って黙らせるみたいな方法ばかりするのだろう

追い詰められた状況であるサティッツには、猛々しくもどこか品と美のあるオーラがミナールの全身から出ているように映る。気絶させると言っていたはずなのに、「殺される!」が脳裏に浮かんだ

目に涙を浮かべ、「助けて・・・副隊長・・・!」と僅かな声量と掠れた声がこぼれる


「いるぜ、ここに」


その声に、モトキとミナールの両名は反応した。振り返りその声主を確認する間も無く、モトキの左方面からデカいアタッシュケースが撃ち込まれ、腕で咄嗟に防御

重い、ただアタッシュケースで撲られたのとは違う。別の力が、微量ながら加わっている

覚えがある。振動だ


(アタッシュケースだと!?)


声に出ない。アタッシュケースで撲られたことへの驚きと、新たに現れた者に対して集中し始めている

腕に防がれはしたものの、アタッシュケースからの振動を増幅させ、威力を爆発させると目の前からモトキが消えた


「モトキ!?」


後方に突如として現れた者の次に、撲られたモトキに反応するも並ぶように立ち、隣近くにいたせいか彼に激突され、巻き込まれてしまう

凄まじい轟音が響く。壁へモトキは背から激突し、ミナールは巻き込まれはしたものの、モトキを隔てたおかげで直接壁に激突することはなかった

広範囲に陥没と亀裂を生み、ズルリと壁を伝い床へ座るように落ちた。激突された衝撃でそこから壁が徐々に崩壊を始め、外が覗きだす

巻き込まれ、共に吹き飛ばされたミナールはうつ伏せでモトキの両膝に引っかかる形で乗っかっていたが、すぐさま飛び起き上がった


「くっそ!やってくれるじゃない!」


続きモトキも立ち上がると、背中に刺さる小さめの木片を抜き、その場に捨てる

撲るに使われたアタッシュケースは床に置かれていた。そのすぐ右足には金がコーティングされていたが、縦縞模様の長ズボンに、金は付着した液体が衣服に滲んでいくように消えていく

黄色いスニーカーに、若干色落ちしたかのような黒のパーカーを羽織り、その下には上からボタンが2つ付いたクリーム色のシャツを着ていた

逆立つツンツンした黄土色の髪が靡いた


「ふ、副隊長!!」


「怪我は、してるなサティッツ」


置いていたアタッシュケースを持ち上げ、彼女の元へ行き、折られた足首を診る

治療をするつもりはない、ただ診るだけ


「ギポンブが、やられたか・・・」


見つめるだけのサティッツの折られた足首をそっと置き、立ち上がるとモトキのいる方へ指をさす


「ずっと観戦させてもらった!途中からギポンブの負けは目に見えていた。案の定だった。助けてやってもよかったが、あいつの仕事はあいつだけで終わらせてほしかった。苦戦し敗れたギポンブが悪い」


「え?」とサティッツは豆鉄砲をくらった顔のまま、硬まってしまう


「ずっと観戦してたって、お前はずっといたのか?この場に?」


「いた」


モトキの問いに、身を持って説明を始める。座り、背を丸めた体育座りの体勢をとると全身が金に包まれ、柱の根元にある趣味の悪い金製の彫刻と同じ姿へ

見渡せば一柱だけ、金の彫刻のない柱がある


「あんたがモトキか・・・」


元の姿に戻り、サティッツの前へ移動すると彼女を立たせるのに手を貸しながら、モトキに名を尋ねた


「そうだとすれば?」


「ボスもニハも、向こうから邪魔をしてこない限りは手を出したり攻撃はやめろと申してた。そう、邪魔さえしてこなければ・・・!」


口角が緩み、顔に似合わない不気味な笑みをこぼした。それを目の当たりにし、彼の手を貸してもらい立ち上がったサティッツは恐怖に引きつった顔となってしまう


「だが、あんたは邪魔をした!邪魔をしてきたよなぁっ!!言い訳は通じんぞ!!ボスと同じ力を持つやつが2人も3人もいてたまるか!!もうボスのやめておくようの忠告に言う通りにする必要もなくなった!!」


「副隊長!戦闘するのですか!あなたが!」


「俺の野望!いずれその障害となるボスと同じこいつを!排除しとかなくてはよぉっ!サティッツ!あんたは邪魔だ!帰ってろ!」


そう言うと彼女を突然に殴り飛ばし、壁を突き破って会場の外へ放り出す

その行動に、ただ唖然としてしまうモトキとミナールだったが、二人に御構い無しに話を進める


「あんたらの、どちらかが出るか出ないか・・・!それを選別させてもらうことにした。どちらでもモトキがいる方へだぜ、俺は。選別が為の出力増強だ、さっきの撲るとはレベルが違う。これぐらいでくたばってくれるのもありだ」


なにやら決定がなされた。男はアタッシュケースを一呼吸間を置いてから、身体を沈ませ床に掠ませ、野球でいうアンダースローの方法で投げた


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