ミナールからの依頼 8
壁に激突し、床に落ちた銀髪の女性は起き上がろうとするもダメージが残っているのを実感、立つよりまずは座り込む
しかし視線先には二人分の足、見上げればモトキとミナールがいつでもトドメに移行できる殺気で至近距離から見下ろしていた
自然と体が震える
「ど、どうして?どうしてあたしだと、そのような確信を持って攻撃を仕掛けることが・・・?」
女性の問いに、モトキは殺気を解いて答えることにした。本当は完全な確証なく仕掛けたが、当人だったようで彼は内心ホッとしている
「男性用トイレに放置されていたメイドの死体には黒いハイヒールが履かされたままだったぞ。他のメイド達はそれと同じのを履いていたが、その中でローファーを履いていたのはお前だけ・・・普段は優柔不断だが、今回は迷いで逃してしまうわけにもいかなさそうだったので勇気の先攻をした。もしそれで違ったら、1人ずつ殴ってでも調べるつもりだったけどな」
ミナールは顔を逸らし、少し肩で笑う。彼の本気でやるつもりだったのだろうか?と思える最後の方法に
「お前の処罰なり判決は俺には決めかねん。ここにいるミナールか、街のお偉い方に任せるさ。服を入手するのに始末したメイドに詫びながら刻を数え待つんだな」
彼女は軽く歯を噛み締め、睨みつけてきた。その眼に、モトキはただ視線を返す
あとの始末は偉い方々に任せよう。これからできるのはこいつが暴れたり、手段を取ってこないか見張るだけ
王は兵士に連れられ会場から逃げ果せたようだ。ほとんどがこの会場から逃げ出したが、参加者の中にもレフォールとファーベッツ家の親子といった見届けのつもりや、単に逃げ遅れた等の残った者がいる
「あんた、素直に連行されるか、拒否して息の根を止められるかは自由よ。私としては、素直に連行されて他に協力者か革命軍が潜伏していないかを教えるのをお勧めするわ」
ミナールは独鈷杵の先端をチラつかせ、頬に軽く刺し脅してみる。拘束もされていないのに、暴れたり踠く真似はせず、力強い眼力で抵抗の意思を見せる睨みだけしかしてこない
しかし、徐々にだが彼女の顔が緩み始めた。ついには笑みへと変わり果てる
「クスクスクス・・・!うふふふふ!あはははははははは!はぁー!首に刃物を当てられてるのはあなた達よ!」
高笑い、手はまだあると自信の表れ。頬にチクリと痛みを与える独鈷杵の握る手を蹴上げ弾こうとするも、その足首を容易に掴まれた
「馬鹿な反撃、高くつくわよ」
銀髪女性の右足首を掴む手に力を入れ、骨の軋む音から、軽く足首をへし折る
「ぎゃああああああ!!け、けどこの痛みを与える一刻は犠牲からなる稼ぎよ!」
「何を言って・・・っ!?」
問おうとしたその時、異様な気配が頭頂部から全身を走り、危機感を撫でる
今の位置から離れようと動こうとするより先に、モトキが左腕でミナールの胴を引っ掛け自身へ引き寄せると右肩に担ぎ乗せ、その場から素早く跳び離れた
その次の瞬間、天井を突き破り1つの影が落ちてきた。モトキとミナールがつい寸前までいた場所に激突し、轟音が響く
握られた足首が解放されてから、なんとか距離を取ろうとしていた銀髪の女性だったが、少し移動が足りず、また落下の衝撃に巻き込まれてしまっていた
「ちょ、ちょっとあんた早くおろしなさいよ!ジャガイモがたくさん入った袋の担ぎ方みたいで何だか嫌だし、ドレススカートの中を見られそうで・・・別にあの場は手を借りなくても結構だったのに」
「つい咄嗟、でだ」
ペシペシと、モトキの頭に軽く連続でチョップを撃つ。着地した彼は肩に担いでいたミナールを両腕で彼女の上半身と下半身をそれぞれの腕で分担する形で支え持ち、腰を支点にして自分の腹の位置まで抱え上げる形に変更。そして、足下に注意しながら優しくおろしてあげた
「そう、最初から俗に言うお姫様抱っこの形で運べばよかったの」
レフォールが割って入ってきた。彼女の運び方の反省など、そんなことはどうでもいい
モトキは左腕を振ると、両手剣が手に出現し握られた
「モトキ君、戦うつもり?」
「当然です。俺はミナールの護衛役ですから」
落下してきた人影は、丸まっていた。銀髪の女性が「ギポンブ?」と呼びかけても反応なく、もう一度、今度は強めに呼ぼうとした瞬間に立ち上がる
身長は3メートルはある大男、頭頂部に黄色髪による一本線のハードモヒカン。黒だけに濁った眼。頬まで避けた大きく不気味な口。両口角にはそれぞれ、ボルトがされていた
「だはは・・・副長は、まだいない・・・?サティッツちゃん?」
「副隊長ならー、えーと・・・先に着いたはずなのに見かけてないかな?」
ギポンブと呼ばれた男は、口をモゴモゴさせ、左側のボルトを弄り、開きにくい口で「副長・・・」と呟く
「副長がいなくとも、問題なく進めよー・・・達成報告だけで終わり・・・ターゲットは?」
「もうとっくに、逃げられちゃってるね」
「そか・・・サティッツちゃんはしくじったのか。追いかけないと・・・もしかしたら副長は、逃げられるを想定した、待機をしてくれてるかもしれない・・・」
ターゲットである王を逃したはずなのに、2人に焦りも慌てもなさそうである
「副長が手を打ってくれているのを賭けて、信じて・・・かなりの数が減ったけどー、おいらは目的どーりに会場には現れたからー・・・とりあえず会場を滅茶苦茶にしてみたりして騒ぎ立て、残った人達を肉塊にしてみるよ・・・サティッツちゃんはどうする?」
「あたしは足首を折られたから、隅っこで休憩でもしてようかしら・・・?」
右足を上げ、左足で跳ねながら会場の隅へ移動。壁に背を預け、これからをギポンブという男に丸投げして様子見
男はボルトを左側の弄るも、やりすぎたのか回らなくなり、力任せに回したせいでそこから血が滲み溢れ、顎を伝い垂れていく
「おうや?あれはミナールじゃーないかー・・・?Master The Orderさんがこの場に居合わせーるとは、光栄幸運・・・」
口角左側のボルトが外された。顎下までの長さがある舌を垂らし、涎が垂れ落ちる
「あんた達、革命軍・・・!?」
「そうだよー・・・!」
ミナールに訊ねられ、答えてすぐ唐突に、外したボルトを彼女の右眼球目掛け、おや指で弾き放つ
手に握る独鈷杵で対処しようとするも、先に彼女の前に庇う形で現れたモトキが猛スピードで飛んできたボルトを掴み捕らえ、握り潰す
「お前は誰だあい?」
「このお嬢ちゃんに雇われ身の、必要なさそうな護衛だ」
もう片方のボルトは弄らずに、すぐに外した。顎も外れ、だらしなく口は開く
「そかー・・・護衛を雇ったんだ。やぱりー、先日の銀行襲撃とかね、良くも悪くも目立つ行動のおかげでなー、警戒を持たせたかー・・・」
ぶつぶつと独り言、しかし足は確実なる一歩ずつ近づいてきていた。モトキは後ろにいるミナールを振り返らずにこの場から去るように手で押すも、その手を掴まれ、返される
「あんた、私にも逃げろと言いた気?」
「そのつもりだ。しつこいが俺は一応お前に雇われた護衛役の立場、お前の身を守る形にする為に足止めするのも今回の仕事だろ」
「そうは言ったけどね・・・いざ、こんな現状になるとあんただけを置いて去り、守られるばかりじゃ嫌になるのよ。あんたの強さを疑うつもりは微塵もないけど・・・」
次の言葉を発する前に一度溜めを入れ、モトキの横に並び立つとドレススカートを引きちぎり、丈を短くする
「あいつ、頭空っぽに好き勝手暴れるみたいなこと口にしてたし、副隊長と呼ばれてるやつが何処に潜伏しているか見当もつかない中、その危険性をまずは置いておき、この場から全員を逃すべきでしょ。その為に、私達で時間稼ぎ、あわよくば倒してみようじゃない」
「じゃ、やっぱりジョーカーの時みたいに共闘前線が最適ということで」
「私とあんたはジョーカーとは戦ってないけど」
背中合わせに、左手の両手剣と右手の独鈷杵の先端を向けた。男の足は止まり、力なく開いた口の状態のまま、首を右へ少し傾ける
「つまりー・・・お前らは邪魔をするということ?もう少ない会場にいる人数から、さらに減らしー、肉座布団になる対象を2人だけに絞らせてー?」
「お前をぶちのめせば、一先ずお前の目的は完全に潰えるだろ。平行させるはずだったあのお嬢さんを騒ぎに乗じて逃す目的が潰えたのを皮切りに、ボロボロと崩れていくぞ」
ほんの1秒にも満たない男両者の睨み合いから、モトキは挑み仕掛ようとしたが、その進行を妨げるように、オバーがこちらに背を向け、両手を広げながら入り込んできた




