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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
参加ではない親交会
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ミナールからの依頼 4

彼女は早足になり、時折街中を見渡したりしていたら見失いかけた。ミナールはただ先を急ぎ、無駄話もなく、モトキはその背後をただ追いかけるだけ

この移動時間、市場で足止めされたものの、短く感じた

街並みの奥にあるレンガの塀に囲まれた屋敷前で、彼女の足は止まる


「ここか?」


「そうよ、ここが私の家」


「かー・・・こうして屋敷を前にすると、ミナールはお嬢様ってより実感させられるな」


門を通過し、左右に目をやる。手入れされた花壇の花々は微かな風を捕え、揺れていた

途中、ミナールは立ち止まり、クルリとモトキの方へターン。両手を後ろへやり、右手が左手首を握ると顔を少し伏せながらモトキに問う


「あんたから見て、この街の第一印象は?」


「良い街だと思うな」


「そう?ま、故郷だから甘い評価目に見ても私は好きよ、この街は。こんな機会じゃなく時間に余裕を持って、ゆっくり案内でもしてあげたかったわ」


「またの機会にしよう。次に訪れる時は、遊びに来た形でな」


彼女は目を見開き、瞳孔が縮小。驚きや、何を言っているんだこいつ?といったものではなく、また訪れるつもりの言葉を彼から聞けてちょっと嬉しさがあるも、油断で笑みが溢れなかったのだ

「そ、そう・・・」と素っ気ない風な返答をし、再びターンして背を向けると屋敷出入口となる扉へ足を進めた

強めに扉を開く、仕事をしていた使用人達は突然の扉開きとミナールの帰りによるダブルの驚き

すぐに数名が出迎えに来るもそれを無視、帰った挨拶もなく、広間からモトキを連れて階段を上がっていく


「今からお母様に会うけど、問われた以外余計な口出しはしないでね」


「判った」


途中2、3人程のメイドとすれ違い、その者達はミナールの名を呼ぶも気にせずに向かう

そしてある一室の扉の前に止まり、ノックを3回


「お母様、帰りました・・・!」


扉越しに「入りなさい」と返ってきた。その返事を合図に、ミナールは扉を開く

中は書斎室。街を一望できる大窓をバックに、椅子に座り、ワークデスクへ前のめりになり体を預けながら、爪にマネキュア塗る作業中の女性がいた。右腕には銀製の腕輪が嵌められている

どう見ても、少し髪が伸び、大人びた雰囲気のあるミナールであった


「存外に、早いお帰りじゃない」


引き出しから赤縁メガネを取り出し、レンズに息を吐きかけ、シャツの胸元辺りのボタンを外してその部分で拭く


「せっかくのお休みに親交会などと退屈でお世話合戦や媚売り、ドロドロになりかねない催しが為に呼び出して悪かったわね」


「以前から決まっていたことでしょ」


眼鏡をかけた。モトキと目が合うも、ひとまずは放置


「学業はどう?Master The Order内での揉め事や仲の悪さにストレスはない?」


「その部分は一部ながらも、改善してきてるように信じるわ」


「そう・・・?何が発端でそうなってきたか」


席を立ち、背伸びをする。列車から下りた際のミナールと全く同じストレッチ


「んで、そこの男は誰?」


ミナールは後方にいたモトキと並ぶ位置まで退がると、彼の背を押し、前に出るよう促す

それを理解できないほど愚か者ではなく、一度頭を下げてから前に出た


「モトキです、姓はありません。ミナール様と同じ学園に在してますが、Master The Orderでも、中等から推薦入学できた者でもない一般学生です」


「そんな一般学生がどういった経緯で私の娘とここへ来たの?彼氏?」


「ち、違うわよ!お母様!」


慌て母へ詰め寄り、真っ向から否定。娘の必死さに、母は戯けてやったりの顔


「冗談はさておき、モトキ君だっけ?本当になんでいるの?」


「どういった理由でそうなったかは言えませんが、今回の親交会におきまして、自分はミナール様の護衛として雇われました」


「あら、そう?あんたもせっかくのお休みなのに付き合わせちゃって悪いわね。一般学生に護衛頼むなんて、形だけでもの根端にしろ、同じ護衛役なら使用人の誰かにでも頼めば良かったのに」


「自分もそう思います」


ミナールに肘打ちされた。「おふっ」と間抜けな声が出てしまう


「余計な口出しはやめてって言ったでしょ!」


「す、すまん」


肘を撃ち込まれ、まだ感触の残る腹部を軽く摩る

その左斜め前にいるミナールは、改め自分から母にモトキのアピールを始めた


「お母様、ただの形だけの置物にしておくにも、彼はちゃんと強いわ。他の一般学生とは違う。私が保証する」


「まぁ、ただの同学園の友達付き合いなノリだろうとも、あんたがただの一般学生をそこまで推し言うなら、あんたの好きに雇いなさい。特に鼻からやめておきなさいと忠告するつもりなんてさらさら無いわけだし・・・」


モトキへ歩み寄ると舐め回すように身体中を見渡し、メガネを無意識に上げ、「なるほど」と呟く


「雇われたなら、雇い主の親として宜しくお願いしますと言っておくわ」


ミナールの母は頭を下げ、続きモトキも頭を下げた


「こちらこそ。えと・・・ミナールの母上様」


「レフォール、レフォール・マニオン。マニオンだとミナールと一緒だからレフォールと呼びなさいよ」


メガネを外し、机へ置きに向かう。置いてから、急にモトキとミナールの方を振り向いた

彼女の腰から関節の鳴る音がしたような気がする


「モトキ君、形だけとは言ったけど覚悟を持って務めなさい。もし有事の際には、私の娘を頼むわ。他者へ失礼な態度をとろうものならぶん殴ってもいいから。正すのも仕事」


「いや、さすがにそれは・・・ミナールは俺よりも差が見える程にしっかりしてるから大丈夫だとは思いますけど」


「どんなにしっかりしてても聖人だろうとも、人は何処でヘマし、意図しなくとも相手を不快にさせてしまう予測できないものなの。相手を怒らせたらその場凌ぎをしてもらい、親として後でちゃんと一緒に謝ってから叱るし、あんたのお墓が立つことになるから」


「俺死ぬのか!?失敗の尺度どうなってんだよ!」


「はい、はい」とミナールは手を叩き、割って入ってきた。モトキが母のペースに乗せられてきたのでそれを阻止


「お母様、そろそろ準備に取り掛かるわ。2時間後に再度、ここに戻るから」


「はいはい、では2時間後。モトキ君にも服装を用意させるわ、公の場で娘の護衛らしい服を。その前に、お風呂にでも入ってきなさいな、清潔にしておかないと。ついでに、その娘よりも長い髪を切らせようかしら?」


「切ってもいいですが数時間で元の今の長さに戻りますよ」


「そうなの?不思議な体質した人がいたものね・・・」


ミナールが退室しようとしたタイミングで、レフォールは何かを思い付いたのか一回手を叩く

良い音が響いた


「そうだわ、お風呂に入るならサービスで私が背中を流してあげよっか?」


モトキは吹き出しそうになり、部屋を出ようとしていたミナールだったが、ドアノブを握ったところで横に転倒

急ぎ母の元へ戻り、顔を迫る


「何を!戯言をお母様!!」


母は笑う、娘と似つかない明るさで

慌てたからか、顔に熱が上がり暑くなり、ミナールは顔を赤らめ、額に右手の甲を当てながら退室

モトキもワンテンポ遅れて出ていこうとするも、レフォールが「待って!」と呼び止めた


「あの娘、モトキ君には余計だと考えて言ってない様子だったけど、私から勝手にあんたの耳に入れておくわ。都合悪く、面倒だとかと感じたなら、聞かなかったことにしておきなさい」


「聞きましょう」


席へ戻り、座るとメガネを手にとり、かけ直す


「先日、十と三日前、重要な機密等を記した資料や書類の数々が盗まれたの。貿易の輸入輸出経路、今日の親交会といった重要人が集まったり、参加する催しや会の日程予定表、他情報等・・・犯人は見つからず、解らず」


悩ましく、メガネを額に上げて眉間を摘んだ。一度、十秒も要しない数秒だけ間を置く


「当然、ミナールにもその報は行っているわ。そして今日の親交会、きっと警戒と不安を残しながら参加する。あの娘、自分に降った事は自分だけ背負って、片付けてしまおうとするところがあるから」


「俺も同じですよ」


優しい口調だった。彼のその言葉に、レフォールは静かに笑う


「あれでもMaster The Orderの立場。そして今からそれを踏まえ、この家のお嬢様の身として臨む。もしもの事態、なるべく公で自分が戦闘を行うのを控える為に、私の立場の為に建前形だけでも、あんたに頼んだのでしょうね。あの娘が頼むなんて、Master The Orderでもない一般学生であるあんたの強さを、本当に信用しているみたい」


学園ではMaster The Orderの1人とされながらも、彼女も人の子。その親は、そんな娘をちゃんと1人の娘して、1人の親として心配しているのが見えた

レフォールも、今回の親交会には不安があるのだ

モトキはその気持ちを汲み取ったが、気を使った安心させたりする言葉を投げかけるつもりはない。改め自分への覚悟の為に、ミナールの親に誓う


「たとえ彼女の方が強くとも、俺は護衛で雇われた身です。もしもの事態時には、死ぬ気で守り戦います」


誓いの言葉を最後に、モトキは退室。退室前に、レフォールへ頭を下げた

彼が出て、扉が完全に閉まってから、彼女は姿勢を崩す


「なるほどね・・・」


レフォールは、なんとなくだが分かった。あれだけ仲の悪いMaster The Order同士が、一部ながら関係が僅かでも改善されてきたという娘の言葉

大きくも小さくも、彼が関わっているのだろうと


「モトキ・・・何処かで聞いた名ね」


曖昧ながら、彼の名に聞き覚えがある

娘から事前に、手紙等でこんな人がいると聞いたことがあるわけではない

ただ、たまたま同じ名だけかもしれないが、引っかかる部分がある

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