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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
巻き込まれの護衛任務
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青み夜空

暗き空に、青みが色付き始めた早朝の刻。

朝早くから、学園長室に呼び出されたモトキの前には、幅2メートルほどの濃茶色の木製両袖デスクを挟んで、胸まで髭を蓄えた丸いフレームの眼鏡をかける初老の男が椅子に腰を深くして座っていた。

学園長室には自分だけでなく、タイガとミナールの姿もあり、2人はモトキの後ろで来客用の椅子で寛ぎ、勝手に来客に出されるはずの菓子を拝借している。


「学園長・・・俺を呼び出したのは?」


それに答える前に、学園長は眉間にシワを寄せて、眼鏡を外すと眉間を指で摘み、悩ましい顔をした。


「何か・・・思いあたる節はあるか?」


「えぇと・・・はい」


Master The Orderの2人がいるとうことは、一昨日の一件がバレてしまったのかもしれない。

派手に現場を荒らしたからなと、思い返す。


「ほぉ・・・では、その行いをここで吐いてみよ」


眼鏡を光らせる学園長を前にして、まるで腑を握られたような感覚に襲われる。

Master The Orderと戦闘を行ったことを正直に話そうとしたその時。


「まどろっこしいわね!今はそいつに違反があったかどうかなんて関係ないでしょ!意地悪に本人の口から吐かせようとして!さっさと教えてあげなさいよ!」


ミナールが助け舟を出してくれた。

彼女は席を立ち、学園長に近づくと彼の着ているオレンジの色が鮮やかなジャケットの内ポケットに手を突っ込み、強引に何かを取り出すと、モトキに突きつける。


「ほら!えっと・・・モトキ!これを!」


それは、深い青の封蝋が施されていたであろう1通の手紙であった。


「読みなさい」


押し付けるように彼女から手渡された手紙を受け取り、急ぎ目を通す。

書かれている文字は達筆であり、季節における身体の気遣いから始まっていた。

内容は簡潔に誘拐することと、その対象となる人物名、決行予定日と時刻、それから以前に学園へ侵入した邪を討ち払いし者を推薦し、最後に深い青色の判と、Jokerと書かれた一筆のサインが記されている。


「ジョーカー・・・!ジョーカーですか!?長く魔王帝を護る黒鎧の騎士らの実力と影響力を覆したとされる!あの!?」


偽物ではないのかと疑い、わかるはずもないのに手紙の表裏、文字を目を細めて何度も確認してみる。

当然、モトキが見分けられるはずもない。時間の無駄。


「聖帝様と帝らも、お目通しになられた。間違いなく、そのサインと押されている判は本物のようだ・・・・そもそも、本当であるとジョーカー本人より後日、便りが届いたのでな」


学園長は眼鏡を怪しく光らせながら、モトキを含め、Master The Orderの2人に偽りではないことを伝える。

そして、腹底から、胸奥から、心から、呆れるように大きく溜め息を吐いた。


「誘拐を行うにしても!このようにわざわざ報せる書状を送る愉快犯擬きはやつぐらいしかいない!きっと面白がりながらな!バカにしている!」


怒り心頭に、握り締めた右拳を振り下ろし、デスクを強く叩く。

とても話しかけずらい空気となったが、お構いなしにとモトキが尋ねる。


「これを・・・他の上層の方々は?」


力む右拳を解いた学園長は、その手の指で眼鏡を押し上げると、頭を悩ませていると言いたげな難しい顔へと変わった。


「現状、事を荒立てぬよう御達しなされた。これを知る者は聖帝様と帝と一部の者らのみ・・・五星が関わっているのが明白だというのにな・・・」


自分とて、一大事であるのは解っており、すぐにでも聖帝直属の兵士らを派遣すべきだと意見を申しに行きたいが、そんな時間もない。

モトキから手紙を返してもらい、再度その内容に目を通す。


「以前、わしや他のMaster The Orderが留守となった間に手間をかせさせたみたいであるな・・・モトキ、お主のあの活躍により・・・ジョーカーから目を付けられたのか、今回の件に推薦をなされているようだが?」


差出人がジョーカーであることに驚き、つい忘れかけていたが手紙に記されていた学園に侵入した邪を討ち払いし者を推薦する内容。ほとんどの生徒達は、タイガがあの学園を強襲したスライム族の男であるジェバを討ち倒し、解決したことなってはいるはずだ。

モトキは、自分からは活躍を喋っていない。では、いったい誰が学園長に告げ口をしたかなんて決まっている。

犯人であるタイガの方に視線をやると、正解と言いたげに親指を立て、憎いほど素敵な笑顔を向けてきた。


「おいおい・・・」


もしかしたら、いずれ知れ渡るかもしれないにしろ、余計なことをしてくれたなとモトキは少し怒ってはいるがすぐに過ぎたことになるだろうと片付け、学園長にその手紙が届けられたのはいつなのかを訊ねた。

学園長が1回、咳を挟む。


「この手紙がエトワリング家に届けられたのが、昨晩の日の変わり目、午前0時・・・先代肖像画の額に手紙を添え、その上にナイフを突き刺さして留められているのを執事が発見した。伝者や伝鳥がおらず、痕跡もない。もう潜伏されている可能性がある。あるいは金をチラつかされた輩がいるか・・・」


まだ確定ではないが、長く仕え、勤めた身でも金の魔力により忠誠を平気で捨てる者はいるものだと、しみじみ思う。

少し長く生きてきた学園長は、この者らもこの先、そういったやつに出会すことになるだろうと、学生である3人に憫む目を向けた。

その目にタイガとミナールは気持ち悪さを覚えたが、2人をよそにモトキは、誘拐予告の次に聞かなければならない内容があったので再度、尋ねる。


「なら、いくら推薦を書かれているからと言って、わざわざ俺に頼まなくとも・・・警備兵か憲兵を、それこそ五星のやつが噛んでるなら聖帝の兵を派遣して護衛に就かせておけば・・・」


「それがそうもいかなくなったので、わしはお主をこうして呼び出し、頭を悩ませている・・・」


学園長は、老人がよくするシワが深くなりそうな困惑の表情から、睨む視線でモトキと目を合わせ、訳を話す。


「エトワリング家現当主が困った方でな。この事態でありながら、今日の午前9時に開かれる新設された博物館の開所式に娘と共に出席すると・・・以前からの予定を取り消すのは気に入らぬと、頑固にな」


そして、本当になんでこいつがとまじまじとモトキの顔を眺めてから、無意識に溜め息を溢した。


「それなのに現当主は!付けるべき護衛に!ジョーカーの手紙に記されていた者をご指名なされた!わざわざ記されているならば、この者でよいではないかと!己が命をなんとするか!?自分の状況がわかっておらん!首に断首刀を振り落とされる寸前であるようなものなのに!」


思わず、デスクに拳を叩きつけそうになるも、すぐに冷静さを取り戻して眼鏡を指で上げる。

感情のふり幅にミナールは呆れつつも、くどくなってきたので学園長へ催促することにした。


「なにちょっとこいつに任せるのは嫌だなぁって私情に傾いてまわりくどくなってるのよ!さっさと突きつけてあげなさいよ!今回の一件に関わらせることを!」


彼女の言うとおりであるが、やはり、まだ納得はいかない。だが、時間も迫り、自分がこのままでは停滞したままだ。

私情を含んでの納得を抑えるしかなく、イラつきがあるが、難しい顔をしてモトキへ告げる。


「では、モトキ・・・」


「は、はい!」


「今件、特例として、貴殿にエトワリング家の主とご令嬢の護衛の任を命ずる・・・」


この場で任を受けたが、本当のところは行きたくないが本心である。

こういった経験値もなく、自信もなく、なにより唐突すぎた。

不安に吞まれそうなのを察してか、モトキの右側にタイガが、左側にミナールが黙って並び立つ。


「もちろん、貴様を1人で行かせるはずがなかろう・・・」


そう言うと、学園長は眼鏡を外した。


「ミナール殿、タイガ殿・・・こやつが到着するより先に伝えたどうりであるが、今回の同伴を承諾してくれて感謝する」


しかし、承諾してくれたはずのミナールは、何故か不機嫌そうに「ふん・・・」とだけ、返事を返した。

その態度に、まさか気が変わってしまい断るのではと、学園長は動揺してしまう。


「ああ、大丈夫だ爺さん。こいつはただ、承諾してくれたのをモトキの前で言って欲しくなかっただけだ」


タイガが学園長に説明するが、余計なことである。

だから、それを言って欲しくなかったのにバラされることとなった。悪意はないが、空気を読めない彼をミナールは睨む。

険悪な雰囲気に挟まれるモトキを見かねて、学園長は再び咳を1回挟んだ。


「コホン・・・時間もそう、ありはしないのでな。貴殿らにはすぐに発ってもらおう。鉄道を使うといい、会社にはあらかじめ帝らから話が入っているはずだ」


では、行って来いといった指図を受けるつもりがないタイガとミナールは、すぐに背を向けて退室を始める。

モトキは慌てて、学園長に頭を下げてから2人に続いた。

だが、3人の背を見て、老いた男はつい「待て」と、呼び止めてしまう。

案の上、モトキ以外の2人は舌打ちでもしそうな顔で振り返った。

あまり、長くは語れないだろう。


「これはわしの・・・いや、わし含めてある程度の者はまだ、ジョーカーの悪ふざけの可能性も拭えておらぬだろう。なんだったら、その方が良いとも思える・・・」


どういうことだ?と、首を傾げるモトキに、ミナールがわざわざ過去にあった出来事を簡単に教えてくれた。


「過去に2度、ジョーカーから手紙が送らてきたことがあったのよ。1つは、帝全員の居城爆破。もう1つは、ポーシバール湾の占領を予告したもの。でも、結局はなーんにも起きず、無駄な労力を費やしただけだったの。だから上層の人達は、今回のエトワリング家当主の主張も理由に、兵を出し渋っているんだと思うわ」


そんなやつ、出来ればお会いしたくはないものだ。

そもそも、敵の最高戦力の一角に、まだただの一学生である自分が、天災に運悪く遭遇し、巻き込まれてしまわぬ限りはお目にかかれることはないだろう。


「真意はどうあれ、特に何もなくてもジョーカーから送られてきた手紙っていう一報だけで、これか。やつは、最後まで何をするか分からないと聞いたことはあるが・・・勝手に予測し、帝らが兵を割くのを躊躇った時点で、やつの術中にハマってるのかもしれねぇな」


帝ら含め、その周りの者らを少し馬鹿にする物言いを残し、タイガは学園長室をあとに一番に退室した。

これ以上、学園長と話すことはないのでミナールもまた、早々に発つことにして、モトキに「早く行くわよ」と、呼びかける。

それに小さく返事を返したモトキは、不安を拭う目処がないまま、2人の後を追う。













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