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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
参加ではない親交会
139/217

ミナールからの依頼 3

ケーキを頂いてからしばらくして、いつの間にかうたた寝をしてしまっていた

どれぐらい眠っていたのだろう。外から入ってきた人々の賑わいのある声や、汽笛の音が聞こえ、ゆっくりと目を開く

乗っていた列車は止まっている。窓からは行き交う人の群衆に他の停車する列車が見え、正面にはソファーに座り、足を組んで少し前屈みになりながらこちらを見つめるミナールがいた


「お目覚め?あんた、あれからずっと眠ってたわよ」


「すまん、眠気には勝てなかったようだ」


けっこうな時間眠っていたようだ。向かいに座っていたミナールは、シルバートレイに乗せ運ばれてきた水の入ったグラスを手に取り、それを飲み干してから立ち上がった

モトキにも立つよう命令口調で、彼はそれに思わず反応してソファーより立つ


「目的の駅には到着したから、これより私の家に行くわよ。あんたには初めての地だから、私の背を見失って迷子にならないようにね」


「その時は原始的にお前の名を大声で叫びながら走り回ってみるさ」


彼女はクスリと笑い、「馬鹿ねぇ」の一言を呟く


「さっ!これよりあんたの任務開始よ。改め、あんたは私の護衛役、OK?」


「OKだ。顔に泥塗る真似をなるべくしないように、勤しもう」


その発言に、向かい合い立つ二人の間へ割って入ってきたゼルテンタが、人さし指で、しつこくモトキの額を連続してつつく


「なるべくではなく、絶対にしないでください!」


「わ、わかりました。気を引き締めます」


「それならよろしい」と、老人はモトキとミナールの前から離れ、ドアを開けに向かう

テハーは面倒くさそうに、重く息を吐いた


「それではミナール様、お外の方へ。足場に御気をつけを」


「学園生活で躓くよりもっと危ない目に遭ってるわよ」


先に下りるミナールの後姿を見送りながら、声に出さず、心の奥底で頷くモトキであったが、突然テハーが彼の腰へ肘打ちをしてきた

何事?と慌てた様子で、彼女へ顔を体を向ける


「他言無用で、お伝えする必要もなさそうでしたが、ミナール様に一言ぐらい礼を述べなよ。あなたが眠り、お祖父様が叩き起こそうとしたのを止めてくれましたから」


テハーの言葉に素が垣間見れる。それを聞いたモトキは、すぐに礼を言うに越したことはないが、もう列車を下りた彼女を追ってすぐに言うよりは、少し落ち着いた場所での方が良いだろうと今は控えておく

「下りないの?」と、ミナールが呼ぶ。先にテハーが下り、最後にモトキが下りた


「せっかく快適な環境での列車旅だったのに、もったいなかったかな?」


列車を下りてすぐ、出迎えはあった。ミナールに対してだが

バトラーが2名、メイドが2名、彼女に対し頭を下げる


「ミナール、お前聞いたことあるぐらいで本当にお嬢様だったんだな。全然、そういった気配を普段から匂わせてなかったのに」


「なに?今更?だったらどう?これから学園で私と出会す度に片膝をつき、手の甲にキスでもして挨拶する?」


「変わらないでしょ」とモトキが鼻で笑った次の瞬間、バトラー、メイドの四人とゼルテンタから蹴るの集団リンチをくらう


「ミナール様に馴れ馴れしく!」や、「失礼な輩です!」と各々口にする中で一際大きくゼルテンタが叫び口調で


「列車内では埃が舞うので我慢していましたが、今ここで吐きだせずに溜めたものを吐き出させてもらおう!」


「ちょ、やめなさいよ!あんた達!」


ミナールの言葉に、全員がピタリと攻撃をやめた。何事もなかったかのように横一列に並び、出迎えにいた位置に戻る


「な、なかなか元気な使用人達じゃないか」


尻を突き立て、駅の乗降場に伏せるモトキ。ミナールは怒った表情で素早く、使用人達の方へ顔を向ける

リンチに参加した全員が焦り慌て、数歩退がり離れた


「お前と闘った時よりはピンチには程遠いな」


「それは褒めてるの?」


モトキは床に両手を着くと立ち上がり、服に付着した汚れを払い落とす


「褒めている。ミナールが知らない程度に、俺はお前に敬意を持っているぞ」


彼女の頬は少し紅く染め、「普段はそんな素振り見せないくせに・・・」と呟いた

ゼルテンタの引き攣った口角がヒクつく


「ミナール様、そろそろ発ちましょう。母君様がお待ちです」


テハーが祖父の顔を伺い、空気を読んでミナールに発つよう進言。「そうね・・・」と、彼女は静かに承諾した


「ほら、行くわよモトキ。途中、身代金目的とかの馬鹿が現れたら返り討ちにしてやりなさい」


「俺が出しゃばる必要もなさそうだけど、護衛をするは、ミナールになるべく戦闘させないようにするのを優先すべきか。もしもの場合、お前が必要以上に相手を痛めつけないようにするのも役目だな」


彼女は「止めれるならね」の言葉と落ち着きのある一笑いを残し、朝の時間帯、混み合う駅ホーム内の人混みを進んで行くミナールとそれに続くモトキであるが、使用人達が呼び止める


「お待ちをミナール様!人混みの道開けを行います。外には移動の足となる物もありますので、そこへの案内とお乗りを」


「必要ないわ。家まで遠くないから、歩いて行く」


他の者達も名を呼び、呼び止めようとするも彼女は無視。人混みへ、モトキと共に消えていく


「はぁ・・・学園生活で、我々がいなかった弊害か」


眉間を摘み、頭を悩ますゼルテンタの傍らで、孫のテハーは祖父の「弊害」という言葉に引っかかり、疑問。悩める程、悪い事なのだろうか?

そして、先に駅を出た2人は太陽の眩しさに煩わしさを感じるも、モトキは右肩を回し、ミナールは身体を伸ばしストレッチし、朝陽の光を浴びて気分のリセットを行う


「よかったのか?置き去りにしてきて」


「いいの。よく働いてくれる事には感謝してるけど、ちょっと煩い時もあるから。その煩い時になりそうだったから逃げるように、ね」


ストレッチをやめ、「よし!」と一声を発すると彼女は軽い足取りで歩み始める

今はただ付いていくしかないモトキは、駅前に停まる車に目が入る。白い手袋をするゼルテンタと同じ衣装を着た老人が車の隣で、一人佇んでいた

絶対にミナールを迎えに来た使用人である。彼女にあそこにいるのもお前の迎えじゃないのか?と尋ねても、放っておこうと返されそうだ


(使用人のご好意や務めに、主人が全て受け止め喜ぶとは限らないからな・・・)


朝から街は賑わいを見せ、商店に、市場の屋台が並んでいた。2人は白に赤茶色のレンガが疎らに埋め込まれた街路を進む

ミナールが生まれた街、アン・ロート。鉄道により、国と国との貿易商が盛んである

街に発展する始まりは、一軒の染物屋からと言われているが伝記があるだけで真相は不明

一代や最近になり富を得た上流階級や貴族が多く、街に住む一般家庭とは当然に差があるものの、酷い貧困民は見られない


「おや?ミナール様ではないですか!」


市場で布類とアクセサリー類を販売していた屋台を通り過ぎてすく、そこの店番をしている恰幅の良いおばさんが声をかけてきた

ミナールは立ち止まり、少し悩んだ。応えるべきか無視すべきか。しかし、その迷いがダメだった。ズケズケと近づき、聞いてもないのにおばさんは話を進める


「ひっさしぶりにお目にかかれたわー。遠くの学び舎に通いだしたってのは耳にしたけど、まー少し見ない間に大きくなって。お母さんに似て、綺麗なってきてるじゃない!」


「ど、どうも・・・」


「覚えてるかしら?昔、ミナール様が母の日にこっそりとここへ贈り物を買いに来たの?あの時のオドつきながら商品を選んで、恥ずかしそうな口調でこれくださいって言うミナール様は本当に可愛くて、もう昨日のように鮮明に・・・」


軽く挨拶だけして、すぐに去るつもりだったが、止まらない話に遮られた。もう何度も聞いたことのある話をまたされ、ぶん殴って全速力で逃げたい気分


「おばちゃん、悪いがこの布生地をくれないか?」


「え?あ!お客さん!?はいはい」


モトキは屋台に並ぶ商品の中から、紅を基調に黒いラインの入る布を選ぶ。ミナールへの接しからモトキへの接客に替わり、対応する

布を購入したモトキは礼を一言述べ、見かけぬ顔だとかの質問される間を与えずに軽くてを振ながら視線だけを合わせ、歩み始めた


「じゃ、ありがとな。良い布生地だ、大切に使わせていただく」


去り際にミナールへ近づき、彼女の背中を押す。何か察したのか、去るモトキに紛れて歩き出しす

しばらく進んでから、振り向かずに彼へ問う


「あんた、私を行かせる為に必要のない買い物をしたの?」


「それもあるが、必要のない買い物というのは誤りだぜ。これは土産にする。タイガの頭に巻く鉢巻きは、元はあいつの兄がしていたスカーフだったからな。その代わりにしてやるつもりだ、本当に良い仕事をしている布生地だし」


「ふーん・・・」と彼女は素っ気ない反応。だけど、正直助かった。無駄に時間を喰いそうだったからだ

もう悩むのはやめ、家に着くまではモトキ以外の声かけや尋ねは無視するか、丁重にお断りすることにしよう

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