革命の息吹
夢はなかった。続いていたのは永遠の闇。痛くも、暑くも、寒くもなく。出口を探すにも意志では歩めず、長く長く、その闇を眺めていただけ
退屈も、狂いもしなかった
それが当たり前と思えていたから
しかし、その闇は終わりを迎える。ただ眺めることしかできなかった景色は、手術衣に身を包んだ者達の顔となる
目を、覚ました。最期に目を閉じる前に見た光景は覚えている。それが脳内を走った
鼻を刺激する血の匂いがする。状況を呑み込めず、まずは周囲確認が為に体を起こす
手術衣を着た者達が、退がった
「寒いな・・・」
最初の一言が寒さの訴え。それもそのはず、自分は衣服を着ていない丸裸
しかし、久しぶりに体感を感じた気がする
辺りを見回そうとし、真っ先に目が入ったのは自分と同じ台が3つ並べられ、それぞれに胸を開かれた死体が乗っている
こやつらが着ている衣服、台から手術室なり医療関係の場所と把握
ならば、自分は治療されたのか?何故?誰が?最期の記憶からして、頭が痛い
「俺は、助けられたのか?国と国に危険視され、裏切られ、友に討たれた俺の助かる意味は果たして・・・」
足音が聞こえる。もう、警戒などをする気もないのか上の空となっていた
独りによる拍手が聞こえる。手術衣を着た者達がより退がっていく
興味もないが、その音がする方へ顔を向けた
「よくぞ、お目覚めになられてくれました!」
こいつは胡散臭そうなやつだと、露骨に関わって欲しくない顔をする。現れた男は、「おっと、お気に召さない挨拶と歓迎だったようで」と、その場で立ち止まった
「ここは何処だ?貴様は、貴様らは何者だ?俺なんかを助けてどうする?」
これまでの経緯と、最期が頭に巡り、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。その怒りは、衝撃となり、周りの機材や人、手術台の死体等を吹き飛ばす
メスなどの道具が、吹き飛ばされた人に刺さる
唯一吹き飛ばされなかった胡散臭そうな男は、黙って様子を見守るだけ
男は、黒髪を掻き毟る
「落ち着かなくても結構です。いつまでも待ち、周りの被害もお気になさらず。ですが、会ってもらいたい緒方がいます。その緒方には、なんとしても対面していただきます・・・」
「・・・その、俺と会うべきやつが俺を助けたのか?」
意外にも早く、落ち着きを取り戻す。今は状況整理を先決すべきだろうと、我に戻った
「いいえ、助けてはおりません。あなたは一度死んだ身・・・最期に覚えのある景色、あれは確かな終わりですよ、ハルカゼ殿」
自分の両手を、何回か握り、開く。夢ではない、死んだはずの自分は生きている
「生きている。生き返った。そうか、俺の命の息吹が戻ったか!」
「あっさりと、自分を受け入れなさるのですね。もう少し、動揺と混乱で、手がつけられないを覚悟していましたが」
「生き返ったなら、生き返ったでしょうがない。自殺するつもりはないからな」
左手首を回し、何かを企む顔。紅の瞳は怪しく輝いた
独り、不気味に笑い始めたハルカゼに、男はワザとらしく咳を一回してから声をかける
「目覚めて早々、このまますぐお会いするよりかは間を置きましょう。何か、お口になさいますか?」
「そうだな、腹は空いている。カステイラとブレンデッドのウイスキーを所望したい」
「承知しました。衣服類もこちらで御用意いたしますので、まずはそれを着用されてからですね。少々、こういった場所で申し訳ありませんがお待ちください。急ぎ参り、戻りますので」
「あぁ、お構いなくだ。死体転がってるぐらいの場所で休憩とか何度も経験している。まずは逃げるかもを疑うべきだがな」
男は苦笑いを残し、急ぎ部屋から退室。残されたハルカゼは手術着を着る気を失った者、手術道具の刺さりどころが悪く絶命した者、胸が開かれた死体を一度見渡し、腕を組み考えてみる
本当に生き返ったのか?身体に支障はないか?手術台に立ち、手のストレッチから屈伸運動を数回、そして自分の股間を握ってみた。反応はあった