異行 15
戦いは終わった。その提示として酷な真似だがヒナビの首を利用し、大々的に終戦宣言を行う
刺し違えてでもという抵抗の者がいるかもしれないので、シガラミとクグレゾウが各地へ見回りに急ぐ
「比較的軽傷や体の動く者は負傷者の手当てと、死亡者の運びと弔いを・・・!」
敵対した者の中で、仕方なく従っていた者、降伏した者は罪に問わず、より敵意のあった者も投獄と処罰を後に決めるとして処刑はしない。クグレゾウ以外の生き残った十身影はどう理由があれど全員が投獄された
「ふぅ・・・クレドキさん、十身影達の生存者と死亡者を」
「はっ!キゲキ、ヤワ、シバハの御三方は大した怪我はなく気絶しておりました。オウランは斬られはしたものの命に別状なく、治療が施されています。ジュナクはこの目で、ハナビラは頭蓋骨のみ残り、ゲンロベエはシガラミが討ち取りました。イヘエは首と頭蓋骨が砕かれ、以上四名の死亡が確認されております。チンドウのみ、行方不明であり捜索中です」
思わず溜め息。死亡者を伝えられるのは慣れないものである
「コチョウラン様、生き残った十身影を処罰なさらない方向で良いのですか?」
「敵対したとはいえ、あの者達含め今はこれ以上里の者を割くのは避けるべきです。しばらくは牢へ幽閉となりますが、いずれは・・・甘い判断だと吐かれかもしれませんが、これが良き方向になるよう信じて、努めるしかないのです。今件は、あまりに突然すぎましたから・・・」
ここでクグレゾウが戻ってきた。少女は「どうかしましたか?」と訊ねると、彼は1つの小包を差し出す
「これは・・・?」
「センテイマルからだ」
渡された長方形の小包の包装を丁寧に開き、中の箱蓋を取ると中には簪が
ピッキング時、少女から頂いた髪留めの礼として
本来なら、妻の誰かに贈るはずだったトワオダマキで購入した物である
髪を整え、それをクレドキに刺してもらう。簪に優しく手で触れ、目を閉じた
「お礼も言えず、行ってしまわれたのですね。またいつかと願いたいですが、不思議と、もう彼としては会えない気がします・・・」
センテイマルがいた時に何処からともなく吹いたのと似た風が、コチョウランの肌に触れた
その後日、ようやく帰ったジョーカーであるがまだ家に顔すら出さず、スペードへ挨拶に出向く
「戻ったぞ、スペードさんよ」
最初は彼の城へ訪れるも不在であり、使用人の方に訊けば外出したようだ。スペードのことだ、五星の集まりが無くとも、あの場所で仕事をする時がある
まずはそこへと向かってみれば案の定いて、今に至る。いるのはスペードと付き人が1名、他の者は来ていない
「ずいぶんと、遅い帰りであったな。平均週に1、2回は顔合わせする機会があるも、それが忽然と姿を現さなくなれば死んだか?の冗談も生まれる」
「連絡もなしに消えたのは悪かったが、そんなのはどうでもよいとして聞いてくれよ。棺桶に入り船で運ばれたんだけどさ・・・」
話を遮るように、付き人の者がジョーカーの前へ割って入ってきた
「失礼、ジョーカー殿。ご・・・スペード様は只今、目を通しておかなければならない書類が幾つかございまして・・・」
「カラス君じゃあ、ないですか。貴様の顔を見るのも久しいな、かなり久しい」
その者はカラスという。名に違わぬ少し色素の薄い黒髪を持つ単眼族の少年
イメージする妖怪一つ目小僧といった一つの大きな眼が中央にあるのではなく、右か、左の眼のどちらかがなく、もう片方は宝石がはめ込まれていたり、紋章や模様が描かれているのだ
彼は右目があり、左目に位置する部分には橙色の宝石が埋め込まれている
退けと言うつもりもなく、ジョーカーは両手を広げ、胸に飛び込んで来いの姿勢
カラスは、この者はまた何を仕出かすのかと、ちょっと怯え、警戒と奇怪の眼
「怖がらないでくれ。ただ、温めてもらいたいだけなんだ」
引き気味のカラスに、万年筆を置いたスペードが彼を呼ぶ。慌て気味の返事から、すぐに彼の元へ
「カラス、構わない。ちょうど一段楽の休憩がてら、コーヒーを飲むなり、談笑なり、したいと考えていたところだ」
「では、俺がコーヒーを淹れてきます」
「礼を言う。すまないが、追加でコーヒーに生クリームをいれてくれ。多いのでは?と疑問になる量に、更に追加してみる心構えで」
「しょ、承知しました!」
小走りで扉まで行き、扉前で一度スペードへ頭を下げてから退室。それを見届け、ジョーカーが向かいの席に着いた
「また、ここで仕事か」
「ここだと五星の者共が集まらぬ限り、静かで仕事をしやすい。城にいれば次から次へ報告なり、サインの頼みなり、しつこい気遣いばかりでな」
片付けれる事は早めに片付けておきたいのである。後にして欲しい。しかし、余程でない限りそうは言えない
会話がなくなった。てっきり、ジョーカーが先の話の続きをしてくるのかと思ったが、そうではなかったようだ
周りから見れば今から戦闘でも始まるのかと勘違いしてしまうほど、数十メートル離れ向かい合い座る両者から目に見えてぶつかる威圧
無言がそう映させてしまう
その空気を破ったのはやはりジョーカーであった
「そういえばスペード様よ、貴殿から微かに女の匂いがしたぞ」
「うむ?朝に入浴したはずだったが、洗いが甘かったのだろうか?」
「くっくっく。侍らせていたわけでもなさそうだということは、スペード様も好きなんだからー」
揶揄うジョーカーに、スペードは鼻で笑う
「私とて、本能に忠実となりたい夜もある」
どの女性だ?と冗談を言おうとしたが、この空気だとスペードはリアクションせず、普通に答えるだけなのでやめた
やっぱりこういった揶揄いはダイヤにすべきだろう
「そういえば、ジョーカーよ・・・」
「なんだい?」
「そなたからの手紙に、ノレムに見合いをさせるので相手を探しておいてほしいの話。ハートと探し、触れ回り、ある程度数を募れたので一度ノレムに報告するも、彼の妹さん云く、どうも暫く帰っておらず、連絡がつかないようだ」
「へー・・・え?」
ジョーカー、そんな手紙を送ったことを片隅にはあったが忘れかけていた。それよりも、ノレムが帰っていないことに、じんわりと全身から汗が溢れ始める
「ノレームっ!」
大窓のガラスを突き破り、ジョーカーはノレムを捜しに
何事かと、カラスは扉を蹴り壊す。右手で底を支える銀トレイには、コーヒーの入ったカップが2つ乗っていた
「どうやら、また退屈しなさそうな日々となるか、あやつは」
席を立ち、ジョーカーが飛び降りた窓から外を眺め、陽と風に当たる。今日は良い天気だと、普段なら思いもしなかったであろう
全身を包む鎧の下で、スペードは笑った
「カラス・・・」
「はっ!」
「我々も行こう。ノレムを見つけ次第、すぐ帰るよう見張りとして」
反対はなく、カラスは返事だけ。テーブルにコーヒーを乗せた銀のトレイを置き、ジョーカーを追いかけ退室したスペードの後を着いて行く
コーヒーに生クリームは入れ忘れていた




