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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
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異行 14

これより終戦宣言を行なった後、生き残った者達の処遇を敵味方別に簡潔に少女はジョーカーへ、そして後ろで聞いているクグレゾウへ告げるはずだった。しかし、ジョーカーのずっと後ろで、フゾウザツが怪しげな動きをしていることにコチョウランが気づく


「フゾウザツ!」


彼はコチョウランより奪った巻物を広げようとしていた。ジョーカーは腕を組み、振り返りすらしない。クグレゾウは少女に当たらないように右へ転がり跳び、手裏剣を投げる

三振りの手裏剣はフゾウザツの胸に刺さった。しかし、苦しむ様子も叫びもなく、彼は笑い出す

掴まれた巻物は、身体の力を失い、倒れる動作を利用し、開かれた

巻物より、ヘドロのような透明感のある黒い物体が現れ、倒れるフゾウザツを包む


「あ、あれは!?」


「ほぉ、面白そうなのを見せてくれるじゃないか」


経過を眺めるしかできないコチョウランに、ジョーカーは興味ありそうな仕草

フゾウザツを内部に捕らえ、浮く。クグレゾウが立て続けに雷を帯びた手裏剣を投げるも、捕らえる音の内部より、紅く鋭く、不気味なトゲを全方向へ飛び出し、手裏剣を弾き潰してしまった

それは天井を突き破り、広範囲に崩壊させ、天へ

このタイミングでクレドキが目を覚ます


「ッ!はっ!コチョウラン様!」


忍刀を手に立ち上がるも、空を見上げるコチョウランと、何故かいるセンテイマルに首を傾げる

周囲を見渡すも、フゾウザツに、キゲキとヤワの姿がなく、首から上がなくなり転がっているヒナビを発見し、余計に頭が混乱


「こ、この現状は一体・・・!?」


コチョウランが天を見上げる理由、同じ方へ視線をやると遥か上空に、全体に紅のトゲが生える黒い球体状のものが目に入る


「クグレゾウ!経過説明お願い!」


「手短に。センテイマルが生きてて、最悪な状況を打破してくれたが、もっと悪い状況になろうとしている」


黒い球体の姿に、変形が始まった。かなりの規模にまで形成されていき、その過程の最中を目にした者の生命本能が自然と刺激されてしまう。それが原因か、夢の中で高所から飛び降りた感覚に襲われたシガラミが飛び起きる


「うおぉっ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?」


目覚めて慌てふためくも、寝起きで少し頭がボーっとするのか、すぐに大人しくなった

いちいち彼に触れる余裕もなく、コチョウランはこうなってしまっては、果たして自分達で解決できるのかと不安ばかりと、諦めの兆し

思わず、言葉が溢れる


「どうすれば、いいでしょう・・・?」


コチョウランの身が為、避難を提案しようとしたクレドキだったが、先にジョーカーが少女の肩へ優しく手を置いた


「奇跡的に無害な存在だと信じてみるのもありだぞ」


「それは・・・あれは数百年前に、自分のご先祖様達が数多の犠牲と共に封印した存在。ここら一帯を火と血の海にしたと伝えられています。ほぼ、伝記となりかけておりましたが、伝えられてきたどうりだとすれば・・・」


フゾウザツはあの巻物を手に、これより先、また反乱が起こるものならばと脅しの道具として利用するつもりだったのだろうか?はたまた、別の利用が?

それを考えたところで、封印が解かれた今、あれが邪悪なる存在として、フゾウザツによる今件とは別に、新たな危機となっている

どうすることもできないのか?少女は座り、両腕で両膝を抱え込み、顔を伏せてしまった


「よし、お嬢ちゃんとは向かいの牢同士だったよしみだ、ならば私が対処してみよう。その前にお嬢ちゃん、君に隠していることをまた一つ、これより見せる」


「へ?」


顔を上げた少女の前へ、革靴の音を鳴らし、数歩進みむと顔を隠す為に被っていた鉄兜に右手がかかる

そして鉄兜は、脱ぎ捨てられた

兜内に畳まれていた黒く、長く、クセのある髪が解放され、腰辺りまで落ちる


「センテイ・・・マルさ・・・!?」


振り向く彼の顔をコチョウラン達だけが見た。その(まなこ)と目が合い、無数の針が背筋に刺されたかのような感触の残る悪寒が走り、少女は思った

今、上空にて姿の変形をしている黒い球体より、この者の方が遥かに危険なる存在だと

風は吹く、ジョーカーの長い髪を靡かせる為に


「さぁ、終わりを迎えようではないか!」


ジョーカーの周囲に開かれた5つの空間の裂け目より、グレーと黒を基調とした鎧のパーツが現れ、彼の体に装着されていく

同時に、黒い球体の変形も完了する。その巨体の一部は山に乗せ置き、一部は山に巻きつき、一部は空間を通し、里全体の優に囲える規模をほこる白蛇の身体

その頭部は枝分かれした二頭を持ち、ジョーカーへ口を開き、舌をチロつかせ、威嚇する

鎧に全身を包まれた者は、木刀の先端を向けた


「貴様のような化け物、過去に対面する機会が何度かあったので新鮮味がない」


図体がでかければ、いいってものじゃない。それは重々理解しており、経験もある。恐怖心や、尊敬から、その者が大きく映るのはよくあることだ


「どうしますコチョウラン様、一先ずこの者に任せて避難しますか?」


クグレゾウは、コチョウランの返答は分かっていながらも、敢えて訊いてみる。やはり、少女は首を横に振り、拒否


「いいえ、たとえ足手まといの存在だろうとも、巻き添えで死んでも構いません。見届けなくては・・・センテイマルさん、どうか自分のことはお気になさらず。あなたの攻撃で私が死のうとも、怨みはしません」


「殊勝だな・・・」


大蛇は息を軽く吸い込み食道を膨らませ、二頭の口より凄まじい火炎が吐き出された

二つの口からの炎は途中1つとなり、より強大な火炎となって迫る

ジョーカーは木刀を握る右手首を軽く捻ることで真上へ投げ、その右手は左手首を握り、迫り来る火炎へ掌を向けた


「ハイドロキャノン!シャークベイト!」


ジョーカーの頭上に大気からの水滴が集まり巨大な大砲が出現し、砲口より激水を放出する。水の形は変わり、図鑑で目にする見た目は鮫には見えない古代鮫、巨大なラブカと化して、開かれた大口は火炎を真正面から呑み込んだ


「私を倒したくば、ここからずっと南へ行き、ある都市にいる赤い鉢巻を巻いたやつでも連れてくるんだな」


そう言った直後、突如として水のラブカは破裂し、弾けた水が降り注ぐ中、落ちてきた木刀を掴んだジョーカーは跳び、弾け散った水を突き破って大蛇へ突撃

威嚇する二頭、右側が喰らい付く

それを木刀で受け流し、回り込むと白き道とも言うべき胴体へ降り立った

走り頭上を目指すも、その胴体から無数の通常サイズの白蛇が溢れ、襲いかかる


「普段だと可愛い蛇ちゃん達だが今は勘弁してくれ」


握る手から木刀へ闇の属性エネルギーを送り、それを薙ぎ払いの一振りで、拡散する闇の斬撃が蛇達を斬り裂き、その力により生じる黒き旋風で寄せ付けない

その直後、彼に影が差す。大蛇の尾が振り下ろされた。しかし、潰されてはいない。左腕で受け止める

振り下ろされた尾に一閃走った。木刀で切断し、数歩歩んでから駆け上がりを再開

大蛇の左側がこちらへ顔を振り向かせ、口より無数の毒々しい紫色をした針を飛ばす


「毒の匂いがする。色もまさにって感じで性格が顔に出るタイプだな」


全て容易に木刀で捌き、最中に左手には闇の属性エネルギーを纏わせると喰らいかかってきた左側の頭部へ、その拳による裏拳を撃ち込む

大きく亀裂が入ったかのような炸裂音が響き、大蛇の頭部は大きく跳ね上がった

右頭部の顔は、目を見開き驚いた顔をしている


「終わりのカウントダウンがリミット間近だぞ」


再び尾が襲ってきた。斬り落としたのは溶け、新しく再生したのだ。薙ぎ払い、強大な尾で払い落とそうとするも、ジョーカーの左手がその一撃を受け止め、阻止

顔が鎧で隠されているも、これ以上は無駄であると投げかているのかただジーっと見つめている

そんなの構いなしに、大蛇の右頭からは最初と同じく火炎を吐き出そうと喉から食堂にかけて膨張させるも、二本の巨大な黒い靄のかかる骨の手がその口を掴み押さえ、閉じさせた

尾から押す力が無くなり、受け止めた左手で軽く押し返し落とす。そして、ジョーカーの左手は鞘に納める忍刀の柄を握り、居合いの構え


「凶兆・(むしばみ)


一歩跳び、鞘から忍刀を抜き一閃空気を斬る動きから鞘へ刀を戻す。大蛇の分かれる頭部右側の首に斜めに一線刻まれた黒緑に発光する切り傷

それが徐々に広がっていき、苦しみ、暴れようにも骨の手に首を掴まれ、唾液を撒き散らす声の無い叫び

最後には首から上が切断され、蝕んでいった黒緑が頭部全体へ行き渡り、溶かされてたかのように消えた

骨の腕は消える。殴り弾かれ、ぐったりしていた左側の頭部が意識を取り戻し、ジョーカーへ襲いかかる

迎え撃つ前に、今立つ大蛇の胴体へ木刀と忍刀を刺し、突き立てた。木刀には黄緑が、忍刀には黒の稲妻が小さく一瞬だけ走った

右手の指で、左手首を弄りながら走り出す


「センテイマルさん!」


コチョウランが彼へ鞘から抜かれた桃色の光が帯びる脇差を投げ渡す。それを受け取った瞬間、桃色の光は膨張し、長き刃へ

それを左手に握り、その場から跳ぶと同時に大蛇の全身に黄緑と黒の稲妻が走った。そこへ迫っていた頭部へ脇差による一刀をおみまいする

切り抜けた。縦に斬り裂かれた頭部、それが上下にズレた時に全身が灰と化し、消滅

ジョーカーはそのまま、少女の近くへと着地した


「お嬢ちゃん。名前の花言葉どうりだったな」


少女はゆっくり小さく頷く。優しい風が吹き抜け、やがて止む

脇差の刃を持ち、コチョウランへ返す。その手を少女は強く包み、握った

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