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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
133/217

異行 13

その重い足音は、向かってきていた。ヒナビだけでなく、他の者達にも聞き取れ、一旦の静止

足音に合わせ、地鳴りがする。それには覚えがあり、フゾウザツは怪しく笑みを見せた。そして、その足音の正体であるジュナクが到着する

コチョウランは、より絶望の顔へ

しかし、彼の腹部の傷は酷く、右肩には木刀と忍刀が刺さっていた。痛々しく、何があったかを聞く前に、彼の名を呼ぶ


「ジュナクか!」


「ぜへぇ・・・!ぜへぇ・・・!」


返事なし。ただ息苦しそうな呼吸のみ


「ハナビラはどうした?」


それにも答えず。やはり息苦しそうな呼吸だけ

苛立ちが出てきたのか、「ふざけているのか!?」と怒鳴る

ジュナクの巨体は一度震え、口を開く


「フゾウザツ・・・様・・・」


ようやく、呼吸以外の言葉が出た。しかし


「申し訳・・・ございま・・・ぜ・・・ぜ!?ぜぜぜぜぜぜゼゼッ!」


突然と狂ったかのように口から血が垂れ、眼球が飛び出しそうになり、首がへし折れた

へし折れた首からは、一本の腕が内から突き破って現れ、その手は右肩に刺さる木刀を握る

何度も鈍い音がし、寄生蜂の幼虫が芋虫から這い出てくるかのように、ジュナクの内部から何者かが現れた


「存外、息苦しくはなかった」


ジュナクは倒れ、そいつの内部より現れた木刀を握る者は、何故か全裸であった

顔だけは鎧兜で隠しているのに、他は隠さず

鍛え抜かれた身体に、左胸に残る傷痕、木刀と股にぶら下がるもう一本の木刀

どういった観点から言葉をかければいいのか、フゾウザツは混乱しそうだ

コチョウランは、驚きと信じられず、目を見開いている


「何奴!?」


「まーそうだよな。尋ねちゃうよな」


フゾウザツ側の全員が手裏剣を手に、警戒するも本人は御構い無しに身体に付着するジュナクの血の匂いを嗅いでみる


「待てよ待てよ、そんな物騒な物はしまってさ。服ぐらい着させてくれ、風呂か子作りする姿で殺されるのは御免なのでな」


だが、手裏剣は一斉に投げられてしまった。コチョウランは「センテイマルさん!」と声に出せず、心内で叫ぶ

手裏剣より先に到着したのは風に運ばれてきたどす黒い不気味なマント。それで全身を包み、そこへ刺さった手裏剣は、泥沼へ落ちたかのようにマントへ沈んでいく

光景に驚愕する暇もなく、彼を包んでいたマントは弾け飛び、そこにいたのはハナビラと共に身を投げ出した時と同じ、スーツ姿そのまま


「落下はしたが、生きてはいた。すぐに役に立つか疑問の戦力ながら、加勢に急ぐも遅かったかな?コチョウちゃん」


少女は首を横に振る。悔しく流れていた涙は、生きていたセンテイマルの姿を前に嬉し涙へと変わった

つい先程までとは違う雰囲気、彼を目にして、この状態ながら安心感が芽生えてくる


「貴殿よ、立場を理解しているのか?もはや、勝ちの詰め。ジュナクを運良く落下の怪我で勝てたとしても、この他の者達をどうする?己の命優先で、逃げればよかったものを」


「残念ながら、私が共に落ちたのは女性の方だ。この巨体野郎も落ちたのか?」


落としたのではなく、クグレゾウが受け流したら突き破り落ちたのである

ジョーカーは死体となったジュナクの下を手で探り、何かを取り出した


「ほら、これが私が共に落下をした女の頭蓋骨だ。うん?何か言いたそうだな」


頭蓋骨に耳を近づけ、頷く。フゾウザツだけでなく、ヒナビらもあの頭蓋骨がハナビラであることが信じられず、この事態を呑み込めない

コチョウランとクグレゾウですら、都合の良いはずなのに身の毛がよだつ


「へー、あいつがコチョウちゃんの。今回の発端となった者か。え?なになに?危ないから逃げろって?心配しなくとも大丈夫さ、女房達に囲まれて問い詰められた時よりは平和だ」


会話終了。頭蓋骨を投げ捨てた

指の運動を行い、一回深く溜息


「そういうわけ。私は今、そこのお嬢ちゃんの味方に付いてるんだ。完全なる私情で・・・彼女にそのようなことをしているのを見せられ、腹ただしさがある。これ以上盗っ人を演じるつもりなく、隠していたものコチョウちゃんに露見しても構わない。だから、貴様らここで死んでくれ」


強大な獣、猛々しい者を前にしたものとは違う、こいつは危険だと本能に触れてくる威圧。その殺気に久方ぶりの恐怖を少し感じてしまったヒナビは、こいつに構っている暇はないとクグレゾウの手甲から大太刀を抜き、跳び上がると鋸状の棒手裏剣を陽動とし数本投げ、それに続き突撃し、攻撃を仕掛ける

ジョーカーはまず、相手にしない。空間へ木刀による突きを放ち、衝撃波を飛ばすとフゾウザツの顔面へヒットさせ、コチョウランから離れさせた

すぐに少女へ近づこうとする前に、ジュナクの死体右肩に刺さる忍刀を飛ばし、迫る棒手裏剣の進行を弾き遮ると、突撃してきたヒナビの大太刀による一撃を振り向きざまに木刀で受け流した直後、左拳による裏拳を腹部に打ち込む


「ぐぼぉっっ!!」


そのまま押し飛ばさず、畳へ押し沈める。聞いたことのないヒナビの声に、キゲキとヤワは動揺

一度黙らせてからコチョウランの元へ行き、破られた御召し物のままいさせるわけにはいかないので、スーツのジャケットを渡した


「センテイマルさん!センテイマルさん・・・生きて、おられたのですね」


「ふ・・・問いただしたいことは幾多あるだろうが、優先して私の無事に喜んでくれるか。その健気さ、嫌いじゃないどころか、めちゃんこ好きだ」


屈伸運動開始。4回行い、手裏剣を遮る際に飛ばした忍刀を手元に戻す


「ぐぬぅっ!舐めた真似を・・・!」


ヒナビが起き上がる。怒りに連動してか、手に握られた大太刀の邪気がより荒々しく流れだす

歩み出した男の後方から、キゲキとヤワが走り追い越し、先陣を切り迫ってきた


「生きてた再会を喜んでる暇はなさそうだな。お嬢ちゃん、私に任せろとカッコつける前に訊きたいことは?」


「あとでしつこいぐらい訊きます」


「よし、離れてろ。危機に陥にはさせぬからご自由に逃げまくれ」


一言の返事を残し、コチョウランはクグレゾウの元へ急ぐ。ヒナビも、キゲキもヤワも、本来の目的である少女には目もくれず、爆発寸前の爆弾処理に急ぐ


「忍法!爆雪(はぜゆき)!」


最初に仕掛けたのはヤワであった。巨大手裏剣を投げ、それをジョーカーは躱すも、彼の頭上で弧を描きながら飛び、赤褐色の粉を豪雪の如く降り注がせる


「火薬粉の雨に溺れ死ね!滅!」


降り注ぐ赤褐色の粉は火薬。彼女の一声後、それらは一斉に起爆し、ジョーカーの姿は一瞬にして爆炎に消えた

標的への一点集中の殲滅


「ひゃーきゃきゃきゃ!木っ端微塵!肉片も燃え尽きちまえ!」


爆発により向かっていたキゲキは後退、爆風にヒナビも腕で顔を守る体勢へ

クグレゾウに肩を貸し、離れようとしていたコチョウランも蹌踉めき、吹き飛ばされそうになっていた

爆発は収束するも、爆心地を中心に畳と天井が一部吹き飛び、損傷。燃え盛る炎は残り、ジョーカーの姿は見えない


「ふん、自信晒しはただの虚勢張りだったみたいだな!」


巨大手裏剣が背に戻り、ガッツポーズ。また笑い始めるも、少し荒っぽい風が吹き始め、何故だか笑いが止まってしまう。悪寒がし始めた

爆発により畳と天井に燃え広がり始めた炎は、散り散りに風に運ばれ、木刀の刀身へ

刀身に絡むと共に、どす黒い炎へと変色

その木刀の持ち主は、何事もなく、平然とそこにいた


「なん!?どして!?」


「私は、あの爆発程度では死なん」


黒い炎はジョーカーの周りへ、形を変え、幾多もの黒い剣へ変化させるとヤワへ放たれた

避ける、逃げる間もなく、身構えるも、全ての黒い剣は彼女の手前で一点にぶつかり、黒い炎が広がる

その黒炎を、ジョーカーが飛び蹴りで突き破り現れた。左足の足底が、彼女の腹部へ

ヤワは、その間の時間が長く感じれた。痛みなり衝撃がが届く前に意識が飛び、体は吹き飛ばされ、壁を突き破り、落下していく


「ヤワ!?」


「せめて痛手を負わせてから落ちろ・・・!」


同じ十身影として身を案ずるキゲキに対し、ヒナビは冷たい。それは、今は目の前に集中しろと、ワザと冷たい態度を行なっているのではなく本心

それが読み取れる


「次は誰が脱落する?そうだ、敵の将を討った時、その首を布で包むか髪を掴み運ぶのだが、長い髭を掴んで運んだ試しがなかったな。試させてくれ、そこの爺さんよ」


「断る。晒し首にされるのは、そちとコチョウラン様以外の敵対者共よ・・・!」


ヒナビは五振りの雷を帯びた棒手裏剣を投げ、それに続きキゲキが走り出す

籠手より出現した刃に、口より吐いた火炎を絡ませ、黒く変色させると再び禍々しい刃へと変貌させる

刃の先端は畳に触れ、切り裂きながら進む


「呪炎会!崩裂登(ほうれつとう)!」


その裂け目より赤き光が生じたと同時に斬り上げを行い、天井へ届く赤と黒の二重二刃の斬撃が放たれた

放たれると同時に赤と黒の斬撃は分裂し、交差しながら前方両サイドより、それぞれが迫る

ジョーカーは木刀を投げ、自身の影から黒いひも状のものを数本伸ばし、左手に持つ忍刀の刀身に巻きつかせ、横一閃に刀を振るう

空間に、横線に刻まれた黒い斬り跡が残り、赤と黒の斬撃は切断され進行停止。それらは、砕かれたガラスのように崩壊していった

木刀を握っていた右手には、全裸時に体を包んだどす黒い不気味なマントが掴まれており、それを薙ぎ払うように振ると先程沈んだはずの手裏剣が射出され、雷を帯びた五振りの棒手裏剣にぶつけ、撃ち落とす


「ほら、返してやったぞ」


投げてゆっくり宙を舞っていた木刀が右手へ戻った。それを掌で一度回し、握り、刃先を相手に向けるも、キゲキの姿だけなく

彼は天井で両足を踏み込み、上から斬りかかる。しかし、上方よりジョーカーへ振り下ろされた籠手からの刃は少し右へズレただけで容易に躱され、刃は根元まで畳に刺さり、そこから縦に大きく裂け目を生む


「威勢は結構。次の機会には背後から首を狙ってみるのだな」


彼の頭部を木刀で殴りつける。だが、手応えはスカぶった感触であり、キゲキは煙となって消えた


「なるほど、なっ!」


左手から忍刀を落とし、伸ばされた手は背後より気配と音を消しながら接近し、ジョーカーの頸へ籠手の刃が触れ刈り取る直前だったキゲキの首を強く掴んだ

その隙にヒナビは、無数の棒手裏剣とクナイを雑にばら撒くように空間へ展開し、炎を生じさすと一斉に動き出す


「師・・・様!」


「おいおい、討てれば良しであるもこいつは囮か」


木刀を一振りし、凄まじ旋風を生じさせると炎を纏った棒手裏剣とクナイを全て巻き込まれ、力なく落とされていく。その光景を目にし、男は眉間にシワを寄せ、険しい顔で己の白髭を引っ張った


「貴様、利用されると分かっていたな。健気よなぁ・・・」


キゲキの首を呼吸ができず、へし折るギリギリまで締める力を一瞬だけ入れ、すぐに畳へ投げ叩きつける

握られた左拳は彼の腹部へ撃ち込まれ、光の力が一閃走った後、闇の力が爆発

畳から勢いのまま、城の下層まで突き破っていった


「おのれ・・・!」


ヒナビのこの一言が聞こえ、ジョーカーはゆらりと歩み始める


「おのれ、おのれ・・・あの時、逆だったならばやつらは同じくおのれ・・・を口にしたろうな。貴様の教え子か?師様と、言っていたな」


大太刀を手に、素早く斬りにかかる。身を低くし、腰部辺りからの斬り上げを狙い、接近


「だが、冷たいな。冷たい・・・教え子への扱いと態度が冷たい。あまり接しないなり、飴と鞭なり、厳しすぎるとは違う空っぽすぎる残酷な冷たさだ。これは、私の体験だが師匠というのは・・・」


フラッシュバックするは過去。教えは厳しくも、できればちゃんと褒めてくれて、曖昧ながら疲れ果て眠る自分の頭を撫でてくれた記憶が確かにある

その光景を思い出す最中、大太刀の刃は迫っていた


「もっと優しい存在であるはずだ!」


木刀の一撃が、大太刀の刀身を砕く

ヒナビの目は見開き、ただ驚愕の表情


「馬鹿な!呪われし名刀、蛮誤慾(ばんごよく)が!そこらいにある木刀ごときに砕かれるはずが!」


「持ち主の差だな。どんな世に名の渡る名刀なり、次第では(なまくら)となる事もある。それを今、目の前で教えられたな、お互いに」


木刀の先端を男の額に押し付け、グリグリ弄る。咄嗟にそれを手で払い、後方へ跳び後退すると姿が歪み始め、体は霞となり姿を消した

次にヒナビが姿を現した時、複数となりジョーカーを囲うように出現していく


「忍法・犬駄舞(けんだま)!」


全員の手は陽草の印を結ぶと同時に口から火を吹き、それは火炎の玉となって連射。火炎の玉は、獰猛な犬の頭部と化し、攻めかり喰らいつく


「大人しく殺されてくれ、というわけにはいかなそうだな。抵抗されるのは嫌いじゃないさ」


最期まで抵抗すれば、助けが舞い降りたり、運が巡ることもある。それをこいつにも到来するのか、面白がるも、やっぱりやめようとあっさり見切りをつけた

迫った犬の頭部を模した火の玉をまずは3つを木刀で斬り裂いてから、左手に忍刀を戻す。それを水平に振り、竜巻を巻き起こすことで残りの炎を一気に取り込み、消し去る


「ぐぬっ!くそ!」


全員が同じ険しい表情、次の手を打とうとした次の瞬間、竜巻内より射出してきた忍刀が、ヒナビの喉へ刺さった。それは分身ではなく、本物へ

刃は喉から頸へ貫通、血飛沫を口から吹き出し、分身が消えていくと共に倒れた


「ぐお・・・ご・・・!」


風は止む。先程の火の玉によるものか、畳には僅かながらも燃えている箇所がある

そこに立つ革靴。ヒナビの視界は霞み、はっきりとまたそれが映り、また霞む


「抜いてやろうか?苦しそうだし。やっぱり息絶えるまで触れないでおこう」


ヒナビは鉄兜で隠された者の顔を見た。ジョーカーに対し、口を開き何か言おうにも、血を吐き、苦しそうに捻り出そうとする詰まる声を繰り返す

起き上がろうと、釣り上げられた魚みたいに上半身が揺れる。目は開き、瞳孔は縮小、憎む目でジョーカーを睨む


「貴様と、貴様らが優位だったはずだが・・・どうやらコチョウちゃんの勝利で終わるようだ」


掠れ、濁り、こもった呻き。あと何秒かな?と、 数えていたが、ヒナビは口より血を散らせ、声を絞り出す


「部外者めが!こんなもの!認められる勝利とは・・・!ゴブッ!」


「うるせーよ・・・」


顎下を蹴り、頭部が蹴られたりボールの如く転がっていく。頭が無くなり、倒れた忍刀を拾い、刃に付着した血を振り落としてから、鞘に収めた


「認められなくていいさ。私はコチョウちゃんに付いただけ、それだけ・・・」


少女の方へ顔を向ける。クグレゾウを運び、クレドキとシガラミと並べ、看ていたコチョウランと目が合い、頷き合う


「クグレゾウって野郎は心配ご無用な様子だが、他御二方は生きているか?」


「はい、大丈夫です。気を失ってるだけです。自分の為に、ここまで・・・」


「礼や労いは後だ、目を覚ましてからしっかりな。それよりも、これからどうする?他の敵対者を皆殺しにするかい?」


「いえ・・・」


少女に考えがある、それを少女の口からはっきりと聞きたい。コチョウランは自分が何者かを訊いてくる様子もなく、ジョーカーに面と向かい、一旦間を置く

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