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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
131/217

異行 11

悲しみに暮れはしない。階段を駆け上っていく少女の拳はずっと握られていた

コチョウランを追い越さないように気使うクレドキとシガラミとは違い、クグレゾウは我先に階段を駆け上り、その背は小さくなっていく


「フゾウザァッツ!」


階段の終わり、金粉が練り込まれた大襖を勢いにのせた飛び蹴りで破壊し、大天守のフゾウザツが普段居座る謁見の間へ

お香の匂いが鼻に刺さる。クグレゾウにとってはあまり好みの匂いではない

ちょうど香炉に新しい棒状のお香を立て、火を焚いたところだ

ヤツはいた。姿勢は良いが気怠そう書物に目を通す


「ずいぶんと、遅かったな。クグレゾウよ・・・」


湯呑みの茶ではなく、酒を一口だけ飲み、お前もどうだ?と湯呑みを差し出し催促するも、手裏剣を当てられ、粉々に割られてしまった


「再び、お前の前にこうして参じた。ケシハザツ様の仇討ちとして、お前の御首を頂戴させてもらう為にな!」


忍刀を抜き、刃を水平になるよう構え、左手の指と指の間には微量の稲妻が走り始めた手裏剣が三振り挟まれていた


「そこを退け!そこは!お前の座す場所ではない!」


彼は怒りに燃え、それに連動してか、手裏剣に帯びた雷も激しさを増す

投げる寸前にコチョウランが到着する。座に居座るフゾウザツの名を小さく、憎しみを込めた声で呟いた


「来るとはな。コチョウラン」


腰を上げようとしたが、雷を帯びた手裏剣が投げられた。そのスピードは、躱す余裕がない

しかしフゾウザツは眉1つ動かさず、慌てた様子もなく。その表情の余裕どおりに、現れた人影に雷を帯びた手裏剣は全て弾かれ、畳と天井に刺さる


「ちぃっ!ここまできたなら、当然いるであろうな!キゲキ!!」


木の葉が舞う。フゾウザツの前に立つは、両手に籠手を嵌めた土色の忍装束に身を包むキゲキとなる男。黄色の眼で睨むはコチョウランよりもクグレゾウへ


「ハナビラとジュナクがつい先程、他より遅れて出向きに行ったはずだが・・・躓いたか」


「躓かされたさ!里外の者によりな!そいつは、コチョウラン様への未来に賭けてくれた!あいつらを道連れに落ちていってしまった!某もそうだ、ケシハザツ様の無念と共に、コチョウラン様の未来が為、フゾウザツを殺す!そこを譲れ!」


忍刀を構えた。その威圧はひしひしと伝わり、それに押され部屋のあらゆる箇所から軋む音がする

キゲキは一度、フゾウザツへ顔向けた。彼は頷く


「今からでも遅くない。俺に付けと誘いはしたかったが、無理な話そうだ。クグレゾウは俺を殺したくて仕方がないらしい・・・」


もったいなさそうだが、悲しそうな様子は全然ない。フゾウザツは、もはや裏切ったクグレゾウに興味は薄れ、本来の最目的であるコチョウランへと注目

向けた視線は、クレドキに遮られてしまった


「フゾウザツ、貴様には里長の座以外にも目的はあるだろうけど、それらを聞くつもりはさらさらないわ。前里長と奥方様の仇をこの場で討らせてもらう」


彼女もまた忍刀を抜き、クレドキとは違う構え。シガラミも手首の運動を始めていた


「俺を亡き者にするが優先かよ。大袈裟に、恨まれたものだな」


背を向け、香炉と書物が散らかる木製の長机へと戻り、再び座り胡座をかく


「座るな!某の前に立て!叩き斬ってくれる!それか、座るなら手を背後に首を出せ!刎ねやすくしろ!」


クグレゾウはまさに風の如くとなりし影、素早く回り込み、フゾウザツへ一撃を入れようとするも、そのスピードに追いつくキゲキが彼を蹴り飛ばした

両者部屋中を飛び跳ねまわり、何度も攻撃を仕掛け合い、接触しては離れるを繰り返す

大きな金属と金属のぶつかり合った響く音がした。忍刀の鍔すぐ上の刃の根元と、キゲキの装着する籠手の甲部より出現した仕込み刃と掠めあった直後、互いに距離をとり、それからは一旦動かず


「邪魔をするなキゲキ!!」


「御意と返事する空気か?」


クグレゾウから十字手裏剣が、キゲキから三角手裏剣が同時に投げられ、両者の間中央で弾かれあった

その時には互いにもう距離を詰めていた。弾かれた手裏剣が2人の頬に触れるギリギリを通過していく

忍刀の刃と籠手の刃は同じ首を狙うも、キゲキはその手を引き、刀の水平斬りを飛び躱すと刀身の上に着地した


「このような機会、どちらが十身影最強かを決めようではないか」


「最強決めなどの戯れに興味はない!」


手にして手裏剣を投げずに、足を狙い振るも刀から足を浮かせるように軽く跳び、回避されてしまった

しかし、その跳んだ一瞬、尾を引く炎と共にクレドキがキゲキに迫っており、殺意のある目つきで彼の頭上から忍刀を振り下ろす


「っ!!クレドキさん!危ない!」


コチョウランの声に意識は移り、微かな大気の乱れを感知した。振り下ろす動作から、咄嗟に忍刀の刀身で防御を行なった次の瞬間、凄まじ金属音が響く

何かがぶつかった。刀身を越えた衝撃の威力は彼女の胴に重く撃ち込まれ、身体中の空気が口から吐き出してしまいそうだ

追い撃ちにクグレゾウの前から白い煙と共に消え、丸太だけ残したキゲキがクレドキの真上へ回り込み、背へ右膝を落とす。彼女は畳へ顔から叩きつけられるも、体勢をなおし、鼻血を手の甲で受け少し後退


「くそっ!何奴!?」


先程襲ってきた物の正体、それは二枚重ねの巨大な手裏剣であった。対象を失った手裏剣は2枚に分かれ、操演されているかのようにそれぞれがUターンし、クグレゾウとキゲキだけでなく、フゾウザツをも通過していき、行き着いた先は、突如として一枚の畳が裏返り、そこに現れた1人の女性の背へ


「お久方ぶりなり、クグレゾウ。説得しに差し向けたシバハがおらずというのは、やっぱり裏切ったか。裏切るだろうなとは明白だった」


「ヤワ!面倒くさい輩がまた1人増えやがって!」


動きやすそうな裾が短い丈の淡い空色の着物を着ており、目尻にのみ黒の隈取が施されていた濃いめの長い金髪を持つ女性

背に携えた大刀を抜き、刃先を彼へ向ける


「よくぞ裏切ってくれた。心置きなく、あんたを始末できるようになったという事だな。待っていたぞ俺は、クグレゾウ・・・あんたをぶん殴り、めった刺しにし、皮を剥いだり燃やしたりできる日を!」


現れてすぐの戦闘意欲と殺意。本来の最目的であるコチョウランがいるにもかかわらず目もくれず

よほど日頃の鬱憤があったのだろう。彼女の私情からくる殺気に、フゾウザツが少し引いていた


「十身影内でもあまり好ましくは思われてなかったとは・・・」


そう口から溢したクレドキの鼻血が治った。血を拭った手甲は服の太腿部で拭く


「ケシハザツ様以外は余計な話かけを無視したり、多面で進行の邪魔になるからと蹴り飛ばすなりしていたからな。某は」


彼女もシガラミも、あまりクグレゾウに良い印象はない

煮え湯を呑まされた事もあり、自分の立場を鼻をかける真似はしてこなかったが、軽蔑する態度はあった

彼自身も、他からはもちろんとして、十身影内ではキゲキとシバハ以外からは好ましく思われていなかったのは自覚している

ケシハザツの役に立ちたいが優先しすぎて、必死になりすぎていたのだろう


「戯に、十身影の最強を決めるつもりもある。邪魔をしないでいただきたい。ヤワはあの御二方の片付けとコチョウラン様をお願いする」


「順位に興味はないが、あんたとクグレゾウを始末して俺が一番という証明提示をしてもいいんだぞ?」


啀み合う2人に、フゾウザツは呆れた無表情に近い苦虫を噛み潰した顔。どちらでもいいから、奴らを早いとこ始末し、コチョウランを再び捕らえたいのだ

2人が獲物を取り合う隙に、クグレゾウは守りのいなくなったフゾウザツを狙う

目にも追えぬ瞬足で接近する途中、弟の忍刀をも左手に握り、逆手に持ち替える


「飛沫と共に散れ!」


逆手に持つ忍刀は首を斬り落とし、右手の忍刀は心臓へ突き刺す。その二の刃が首を斬り、左胸を刺す寸前にクグレゾウの目には彼の右肩に、左の片足のみを着き乗るヤワの姿が映った

彼を右足で蹴り飛ばす。具足が頭部を蹴る音は痛々しく、ヤワはすごく気分爽快な晴れた顔になった

蹴られ、猛スピードで吹き飛んでいくクグレゾウへ追撃とし、キゲキが籠手よりの刃で下から斬り上げる

しかし、その手をシガラミが骨を握り砕くつもりで掴んだ


「シガラミめ!もう牢へ戻してやるヌルい対応はせんぞ」


「戻るつもりはないぜ。死ぬ覚悟はあり着いてきたが、負けるつもりもない」


クグレゾウを、コチョウランが受け止める。だが勢い強く、少女はのしかかれる形で背中から倒れた

すぐさまクレドキがクグレゾウを蹴り退かそうと向かおうとするも、ヤワが立ち塞がる


「あんたからくたばる?シガラミより先に始末され、早い者勝ちさせなよ!」


「やってみなさい!」


咄嗟の攻撃は頭突きであった。それに対し、ヤワもまた歯を噛み締めた笑顔で額を額目掛け迎え撃つ


「ク、クグレゾウさん・・・重い・・・!」


「っと、申し訳ありません!」


すぐにブリッジ体勢をとり、地を蹴り両足を曲げ上げることで反動をつけ、立ち上がる

蹴り飛ばされた自分を受け止めてくれた際にした匂いは、全てではなくともケシハザツに似ていた

幼き自分を抱きしめてくれた懐かしき匂い。やはり、あのお方の娘であるとより実感する。俄然、復讐と仇討ちが主な名目であるも、終わりではなく勝ちとしたい

少女の手を取り、起き上がるのを手伝ってから両手に持てるだけの手裏剣を

覚悟はとっくにしている。あとは望む結末を掴み取るのみ


「コチョウラン様、終わらせましょう。勝ちとして」


「は、はい!」


手に持った手裏剣の殆どが、ここへ来るまでに遭遇した敵から拝借した物であり、それらへ右手に雷を、左手に火炎を発生させる

シガラミの親指と人さし指が喉を狙うも、腕で軌道をズラした直後にキゲキは当然ながらそれに気づく


「雷達手裏剣と炎達手裏剣か・・・!」


手刀をシガラミの右肩、肩甲拳筋辺りに振り落とし、畳に伏せてからキゲキの手は皆の印を結んだ

炎と雷を帯びた手裏剣は左右の手より投げられ、入り乱れながら敵となる3人を狙う


「忍法・隠地蔵(かくれじぞう)


渦巻く影が畳に現れた。そこより、雑に薄っすらと彫られ、地蔵?と疑ってしまう見てくれの岩が飛び出し、炎と雷を帯びた手裏剣を弾き防ぐ

フゾウザツの周りを囲むように、同様な岩が出現。手裏剣より身を守る


(くそ!上から降らせばよかったか!)


クグレゾウはフゾウザツしか見ていない。視線とは別に、ヤワはクレドキへ連続して猛撃を与えている最中に大刀を大きく振り、それで生じた風圧でクレドキごと、手裏剣を吹き飛ばした


「うあっ!!」


背にある鞘より二振りの巨大手裏剣が射出され、風に乗り、それぞれがシガラミを上下より挟み撃つ

だが彼女は、上方からの手裏剣は忍刀で防ぎ、下方からのはワザと足底に刺さるよう、左足を突き出した

忍刀の刃に、回転する手裏剣との接触し、回転の勢い落ちることなく火花を散らす。足底に刺さり、刃が足甲から貫通した下方からの手裏剣を痛みに気を取られている暇などない


「ぐあらっ!!」


巨大手裏剣に押し勝った。弾かれた手裏剣は天井に刺さる

落下中に一度体を回転させてから、着地は右膝のみで。膝が畳に沈み、左足底に刺さる手裏剣を抜き捨てた

風が肌に触り、通過していく


「ちくしょっ!ヤワ!今に見てなさい!」


しかしヤワの姿は消えていた。彼女は鼻から興味のないシガラミを放置し、クグレゾウへ向け走る

大刀をわざと力無い右手で引き摺り、先端部の刃が畳を切り進む。方手のみで在の印を結び、斬られた畳の裂け目より白き光が


白蟲(しろむし)!」


白き光は大刀の刀身に絡む。それは不気味に蠢き、気泡と化すかのように白い無数の粒が放たれた

襲いかかるは蟲の如く、気味が悪くも、色と発光により美しくも見える


「ヤワっ!俺の行く手に躓く石コロを置くな!!到滅雷(とうめつらい)!」


二振りの忍刀に雷が生まれる。刃に激しく走る雷は、その間で繋がり1つの塊と化す

刃と刃の間で1つとなる雷を投げるように刀を振るい放ち、それは迫る白き粒と接触することでより激しく稲妻を走らせ、伝達し、撃ち消していく

凄まじい雷と光の中で二つの影が走り、クレドキとその弟と合わせた二振りの忍刀と、ヤワの大刀が激突した


「くたばれクレドキーーー!!」


「退けえーーー!!」


雷なのか、光の粒なのか、両者の頬を擦り切る。激突した衝撃に耐えきれず、互いに足底が畳を抉り後退

同時に雷と白い粒も弾け消えてしまった。焦げ跡を付けた畳の上で睨み合う

片方は笑顔で、片方は余裕のなさそうな顔で

その様子を見る側に回ってみたキゲキだったが、ヤワがクレドキと戦闘を始めた今、手薄となったコチョウランの元へ


「手荒に扱いたくはありませんが、抵抗姿勢ならば強行に及ぶしかございませんな」


「させるかーぁ!」


背で畳の上を滑り込んできたクレドキが足払いを行い、それをなんの障害もなく躱したところへ、シガラミが上空よりさっき出現させられた岩を叩きつける

キゲキの頭部に直撃した。岩は砕け、その破片が落ちる視界の先で、コチョウランが脇差を手にしている姿が映る。脇差にはうっすら桃色の闘気を帯び、抜かれていた


(チカナラズ家の脇差に・・・)


チャンスとばかりに、シガラミがトドメを刺しにかかるも、首を狙った指の突きがくい込んだのは丸太

本体は、彼の背後にいた。振り向いた時には、首を掴まれてしまい、握り折ろうと力を入れられる

そこへ水による斬撃が両者の間を遮った。首を掴む腕を斬り落とされそうになるも、手を離し、兵の印を結ぶ

同刻に、自身を囲む岩から這い出てきたフゾウザツは、そこへ腰を下ろしていた


破状(はじょう)忍法・重牙炎照(じゅうがえんしょう)の術」


彼の周りを渦巻く炎が包み、そこより次々と現れる燃え盛る牙が喰らいにかかる


「シガラミ!あたしはコチョウラン様を!」


「承知・・・!礫突貫(たぶてとっかん)!」


突き出した右手と同時に、彼の後方に現れた無数の小石。全ての右手指から解放された力が衝撃波となり、それに乗り無数の小石が射出

小石は数の力で弾丸の如く炎の牙を撃ち抜き、また密集率を上げ壁ともなる

撃ち漏らしに備え、コチョウランの守護に戻ったクレドキは警戒を怠らず

その光景に、フゾウザツは馬鹿にする間を置く笑い


「はっ・・・はっ・・・は・・・!ここまで来たくせに、守ってもらわねば生きれぬか?」


その言葉が癇に障り、腹が立ち、反射的に刀先を向けるクレドキだったが、彼女の前にコチョウランが出てきて、指をさす


「戦いの最中、正論を述べないでください!」


「そうだ!」と、ヤワの大刀による薙ぎ払いを忍刀で防ぎ、その峰に腕を当て、衝撃を抑えた直後のクグレゾウが続く


「今は守られる立場に甘えて結構!コチョウラン様は、次期里長だ!お前じゃないんだ、フゾウザツ!」


じっくりと大刀で押し切り、両断しようとするも、忍刀とその峰に当てられていた腕が押し返し始めた

ヤワがどれだけ力を入れようが、彼の力は増すばかり

焦りが見え始めた。大刀を握る手と、手首が痛む


「ぐっぎぎぃっ!」


「お前は、お前らは、邪魔だあっ!!」


ある程度まで押し返したところで、忍刀と二重となり押していた腕でヤワの側頭部目掛け、拳を振り払う

鈍い音と共に、殴り飛ばされた彼女が転がっていく


「くたばれ!フゾウザツ!」


「その威勢と足掻きをいつまで演じてくれる?」


糸巻四方手裏剣を手内に隠し、腰を下ろしていた岩から跳ぶ

迎え撃つのか?ならば好都合と忍刀を逆手に持ち、刃に走った雷は自身の影に落ちた


「フゾウザツ様!?これだと3人取り合いになりますよ!」


己を包む炎の渦を解除したキゲキは、籠手より刃を出現させ、腕を目にも留まらぬスピードで振り、小石を斬り弾いていく

残り全て防ぎ、1粒すら擦り傷を負うことなくクグレゾウの背を追い、殴り飛ばされたヤワも起き上がると、キゲキと同様に横取りされまいと駆け出す


「もう目的優先の譲り合いや、横取りするなとかは知るかぁ!先に討った者勝ちにしようじゃないのキゲキ!」


「賛成する。あの者らが割り込むようなら対処と始末をしながらにでも容易いことだ」


2人がクグレゾウの先に回り込むも、彼はフゾウザツだけにしか狙いを定めていない

そのフゾウザツは、2人が戻ってきたので無駄な労力になるだろうと内心呟く


混光達(こんこうたつ)手裏剣・・・!」


フゾウザツの手裏剣は光を帯びる三振りの手裏剣を投げた。一振りは直進、その周りを残り二振りが入り乱れ飛ぶ

手裏剣を投げるに合わせ、キゲキは口より火を吐き籠手の刃に絡ませる。炎の色は黒く変色し、赤く「円」の熱文字が複数浮かぶ禍々しい刃へと変貌


呪炎会(じゅえんかい)


ヤワは大刀を畳に突き立て、斬り上げるとクグレゾウへ向け進行する裂け目より噴き出すつむじ風に似た風の斬撃


忍刃術(にんぱじゅつ)風魔塵(ふうまじん)!」


クグレゾウは足を止めた。怖気付いたからではない

少女が自分の名を呼ぶ声がうっすら聞こえた。どう対処すべきか、間に合わなそうだとしてもクレドキとシガラミが駆け出す

自分を助けようなどと、自分を始末しようなどと、知ったことではない。聞こえるのは、心配と逃げて、避けるよう願い自分の名を呼ぶ少女の声

その声は、ケシハザツに呼ばれた時とフラッシュバックする。クグレゾウは左手を口前辺りに持っていき、中指と人さし指を立てた


芯天(しんてん)忍法・影廻雷(かげみらい)


影より出現した黒味を帯びた雷は、進行する畳の裂け目先端を掬い上げる動きで深く抉り、その裂け目と共に生じていた風の斬撃を一閃貫くと、光を纏った三振りの手裏剣を呑み込み消滅させ、黒い炎の刃を籠手に斬りかかるキゲキの進路を遮る

雷は部屋中を旋回し、真上から一本の太い落雷となり落ちた


「まずい!」


フゾウザツは着地から急ぎ方向転換し、彼のみならず各自回避に専念

閃光と、遅れ耳に轟音が走る。直撃は免れたものの、その時には体が宙を舞い、猛スピードで吹き飛ばされていた

その閃光の中、フゾウザツの目に忍刀を手に突貫してきたクグレゾウの姿が

咄嗟にできたのは、腕での防御

だが無意味、腕だけでは防ぎようがない。こいつの姉より賜った忍刀で腕ごと首も切断する意気込み


「わああああぁっ!!やめろーーーーっっ!!」


「観念するがいい!!」


閃光が一気に引き、視界がはっきりと物を捉えれるようになった時には忍刀の刃が触れる寸前。「やった!」「勝った!」コチョウランも、クレドキもシガラミも、クグレゾウ自身もがそう思った

しかし、畳からの焦げ臭い匂いが鼻に触れ、刃がフゾウザツの腕に切れ目を入れた瞬間、クナイがフゾウザツの忍刀を持つ手と、右肩に刺さり、1本が胸を貫通

何が起こったのか、ただ誰かに攻撃をされたとは理解できる

あと一歩、振り切る力を。そう願い気合いを絞るも、嘲笑うかの如く己の体は力を失い、畳に落ちた

情けなく、最後まで力を振り絞れなかった弱さと未熟さにただ情けなく

「ケシハザツ様・・・」と力なき声で呟き、血反吐を吐いた


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