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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
128/217

異行 8

胸騒ぎがする。ずっとする

牢に囚われていた全員が同じ階段を上らず、その者達の安否を知る由もなく

だが、その心配をいちいちしていてはキリがない。振り返らず、フゾウザツの元を目指すだけ


「やっぱりさ、センテイマルが俺とクグレゾウを解放した後の階段で転んだのはワザに見えたんだよな」


「え?唐突に何を?」


「あ、いえ、独り言ですよコチョウラン様」


階段を上る現在、ふと思い出したのか、あの行為を脳内で見返せばどうも故意的に映る

ワザとなら企みは?ああした行為で心配の配慮を向けさせ、油断でも誘うつもりだったのだろうか?もし、本当に意味がないなら単なるボケである


(後で実は敵でしたと待ち構えられていたら、コチョウラン様の精神は削がれられてしまう危険がある)


その際は、少女に現実を受け入れさせるのは後回しにしよう


「いつもお間抜けな貴様が、珍しく苦悶の表情をしてるじゃない」


「お間抜けって・・・そりゃあ、状況が状況だからね。この先どうなるか不安もあるし、俺を含め何人死ぬか、ついつい考えちゃうな」


気が合うところもありそうな人柄だったが、実は何処かセンテイマルへの疑いがあると言ってもクレドキは元よりなので、今更感。その疑惑を打ち明けたとて問題はなさそうであるも、何故か咄嗟に口から出たのは、彼の話題ではなかった


「死人は出る。しょうがないこと。けどコチョウラン様に付き、身を投じたなら個人個人その覚悟はあるはず。死人の頭数と敗北は初めより視野に入れず、私も生きていて、貴様とコチョウラン様も牢から解放された今日、今はコチョウラン様に風がきていると信じようじゃない。名前と同じ花言葉にちなんで」


コチョウランの足が止まった。クレドキは少女の名を呼び、首を傾げたがすぐに再び足は歩み始める

誰にも見られないよう、少女の右拳は握られ、震えていた


「私の幸運は、センテイマルさんが向かいの牢にいてくれたことです」


少しの速歩き、クレドキを追い越した。自分が一番戦力にならず、足手纏いだとは自覚しているも、急ぎたい

階段を上り切った先、広がるのは木の床。天守に入ったようだ。場所は天守への出入口ともなっている一階の広間

ここを何度歩き、通ったか。かつての風景の幻覚、今は誰も通っていない

ここから奥に進むとある大広間では4回しか食事をしたことがなく、幼少時急に熱を出した時に父が自分を抱きかかえ走り抜けたり、上への階段の手摺で里や父の部下、使用人の子達と滑って遊んだこともある

つい最近まで、いつもの光景だったものが失われていた


「コチョウラン様、我々が当たり周辺の様子見を・・・」


同じ階段を上ってきた数名が敵はいないか、この階の安全確認を買って出る

やめてと言ってもやりそうなので、「うん・・・」と拒否する理由もなく承諾


「クレドキ殿、安全確認の間はしっかりコチョウラン様に付いとけ。ずっとそうしてくれているがな!」


何様のつもりだろう。クレドキは意気揚々な中年の男の背へ向け、あしらうように手を振った

あれぐらいの気概があった方が良い気もするが

しかし、その男が駆け出してから数秒後、空間へ眼に映る一閃が男のに走った

声もなく、駆ける勢いのまま倒れた男のすぐ近くの床に刺さる一振りの八方手裏剣

コチョウランは目の当たりにしたが、男の元へ駆けつけることはなかった。それが正しい。クレドキは周井を警戒、いるのは同様にコチョウランを庇うように立ちながら見渡すシガラミと、動揺したり、少ないが冷静に彼女と同じく警戒する者

動揺は突如殺されたことへの驚きもあるが、次は誰がやられる?我が身かもしれないの恐怖からもあるだろう


「八方手裏剣!こんな手裏剣を使うの、1人しかいない!オウラン!貴様ね!」


足を僅かでも動かせば、足底から砂利の擦れた音がする。天気の良い日に換気したかのような風が吹き抜き始めたが、細かい砂利や砂を含んでいるのか肌にチクリとした感触が伴う

吹き抜ける風は黄金色の風。現在場所の外から、階段から入り込む風は中央で1つとなってき、そこより不規則に次々と八方手裏剣が飛び出してきた


「動かないでください!コチョウラン様!」


床を踏み蹴り、跳ぶように前へ出たクレドキは手にする忍刀で大きく薙ぎ払い手裏剣を斬り弾く

自分の後方にいるコチョウランを横目で一度確認してから、左手の立てた人さし指と中指を口前まで持っていき、口より息を吹き出すと砲丸の如く火炎が放たれ、集合する前方の黄金の風を撃ち抜いた

指には炎が残る


「ううぉあっ!あぶねー!」


武器類いを持たないシガラミはふざけを混じりながら手裏剣を躱した。同じく避けたり、臆病に頭を抱え地面に這い蹲り運良く当たらない者もいる中、手裏剣が腕や膝、他にも首や頭部にといった急所に刺さってしまった者もいる

風は止む。気配はない。彼女は退がり、背中がコチョウランに触れた

少女を守るに必死になりすぎている


「あいも変わらず、コチョウラン様のお守り。独り立ちを阻害しそうな世にいる厄介なおばさんになりそうね、クレドキさん」


火炎に貫かれた金色の風は終息。風が止み、そこにいたのは、身軽そうな黄と白を基調とした和装に身を包んだ女性。赤味がかった短い黒髪は少し遅れ、靡き終わる

挑む戦闘姿勢の現れか、右足を一歩だけ前へ。庭下駄の音は砂利を踏む音


「お怪我はなく?コチョウラン様」


「よくそんなほざけを。貴様のせいで怪我していたかもしれないのに」


グイグイと手で、より、なるべく、コチョウランを己の背後にいさせようとする。身を呈して守ろうと、自分の身を心配してくれているのはありがたいが、 少女はオウランの顔を見ておきたく、話せるなら話しておきたいこともあった


「オウラン!お前よくもまぁぬけぬけと俺の前に現れることができたな。十身影らの目的は大方コチョウラン様で、クレドキや俺はそうはさせない!といった現状だが、俺はお前らに別件で個人的に恨みがあるのを忘れるな。その中でもお前と他2名」


「ぬけぬけと現れられるのは、あなたごときに恨み持たれようが、わっちらを倒せんからよ」


つい手が出てしまった。一発ぶん殴りから開始したかったが、容易に避けられてしまう

彼女は笑い、数歩の距離を取ると視線はコチョウランへ


「コチョウラン様、せっかくあの場から解放されたのに追われ狙われの身が続くとはお労しや」


胸元からの手ぬぐいでワザとらしい涙を拭く仕草に、手ぬぐいで隠そうとはしているが口は笑っているのをコチョウランは見逃さず、ムッとした表情

「おやおや?」と、少女にバレたのが分かったのか、手ぬぐいは突如発火し、焼け落ちていく


「燃えカスだ。あなた達の未来もこうなる。火葬を越える火力と時間で燃やし続ければ、骨すら触れるだけで脆く崩れていく」


「貴様がそうなるやもしれんぞ。火葬ではなく、浄火してあげよう」


クレドキとオウランの2人は、目線で火花を散らす


「フゾウザツ様は、シバハにクグレゾウの説得を許可した後、失敗を想定してか我々十身影の内7名に散るよう命じられたけど!」


一度瞳を閉じ、右拳を握り、その手を震えさてから口を開いた


「最初に出向いたシバハ、あの人なら問題ないでしょうと!仮に彼のお兄様が応じたと見せかけ、騙し討ちをされようとも彼なら対処できると信じてたのに!信じてたのに!どうしてあなた達はここにいる!」


怒鳴りと怒り始め。その威圧は彼女周りの空間を歪ませ、矛先は空気を殴る行為へ。殴られた空間より、金色の風が走った

風と彼女からの圧に押され、黙らせられる

オウランは握られた右拳を解き、黒い金属製の手甲鉤を嵌めた


「あなた達を葬り、コチョウラン様の捕縛は他に任せすぐにシバハを見つける。わっちならすぐに見つけられる!」


「シバハなら、自身の兄ちゃんと戦闘中だ。あの階段を下っていけばすぐに会えるぜ」


間も無く手裏剣を投げつけられた。シガラミは額に刺さる寸前で白刃どり


「死ぬ覚悟はとうにあろう!この一戦で面倒事を全て終幕させる!」


「悪いが手段を手段を選んでる暇はねぇ。複数対1だ。隙を狙い数人でめった刺しなりさせてもらうからよぉ・・・」


クレドキは忍刀の柄頭を左掌に付けた構えをとり、他の者達もオウランを囲むように距離を詰めてくる

クナイを主に武器を持つのは数名。牢から解放されてから、分け合ったのは明白

表情変えず、指で手甲鉤の爪を指で叩いた


「だーれが、わっちは1人だけと言ったよ?」


彼女のその言葉の直後、誰かが1人仕留められた声がした。背後から首を短刀で掻き切ったのは、黒い忍装束に身を包んだ者

飛び跳ねるノミみたいに次々と現れた人影の数は数十名。姿が明白になり、全員が同じ服装である。この者達はフゾウザツの息がかかった者達であろう

敵は十身影だけはないことを改めて認識させられる


「複数対1には、いかなそうだな」


シガラミはクレドキから投げ渡されたクナイを投げ、1人を仕留めた。それにより、相手側は攻撃を仕掛け、動き出す


「クレドキ殿!シガラミ殿!コチョウラン様を!」


誰かがそう叫んだ。金属と金属のぶつかり合う音と何かにぶつかった音。武器のない者の1人が飛びかかり、押し倒すといった入り乱れた戦闘のコチョウラン側の者達も戦闘が始まった

少女をクレドキに任せ、シガラミはオウランを仕留めに向かおうとするも、突如としてぶち破られた外への扉から現物ではない謎の力で作られた数本の糸が彼の手足と胴体に巻きつき拘束

最初は引き摺られ、途中から力任せに引っ張られてしまい、ぶち破られた扉を越え、外へ


「シガラミさん!」


外へ引っ張り出されたところで、手の糸を左右の腕を広げていく力技で引き千切り、その解放された手で胴と足に巻きつく糸を同様に力技で引っ張り無理矢理解除した

宙で一度回転してから着地。その手からは無理をしたのか血が滴り落ちていく

入口から出てすぐ、石垣上にある広間。ここから虎口を通れば大手門。そこより門の開閉する音はしない

なら、すぐ近くにいる


「こんなことするのはヤツしかいねぇ。姿を表せ、十身影のゲンロベエ!」


うっすらと霧が漂う。それと奏で出した尺八の音に紛れ、人影が見えた。その姿は藍色の和服に、右上あたりに小さく何かに貫かれた跡の残る深編笠を被った虚無僧の姿をした者


「けっ!狙ってたかのような、らしい登場だな」


「数回の日暮れ振りになりますかね、シガラミ殿。最後に見たのは意識を失った間抜け面でしたね」


「次はお前が似たような顔にしてやる」


歯を軽く噛み締め、目を細め、指を鳴らす。そのクレドキの姿に、男は馬鹿にする鼻笑い


「どのようなカラクリを使ったか存じませんが、あの術式より逃れられるとは」


枷を嵌められていた手を見せびらかす。相手は微かに右眉がピクリと動いた


「外は広い。紙切れ一枚で、お前の術など優に超える。所詮は一般より呪術が優れていた程度か」


尺八を投げつけてきた。それを躱し、視線をゲンロベエに戻した時には彼の左手に3つの燃える炎を象った石が珠と共に通されている数珠を薬指と小指の間に掛けており、口前に近づけたその手へ小さく呟く


宴火世葬(えんかせいそう)・・・」


紫混じりの不気味な2つの青い炎が彼の両サイドに出現。そこより拳サイズの炎が撒き散らされた

避けようとするつもりでいたが、動かずとも1つも当たることはなく全て外れてしまう


「下手くそかお前は?編み出したてなのかな?」


「そんなわけなかろう、馬鹿者」


撒き散らされた炎はシガラミの近場から火柱と化す。驚き、跳び避けるも服の裾より燃え始めた


「どわっちちちちっ!」


着地の際に手で燃え始めた裾端を叩き鎮火するも、休みなく着地場所近くの炎が火柱と化す

避け、躱し、そこより跳んだり悪ふざけ含みで走ったりして離れるも、その場その場で火柱が襲う。間合いを詰めさせないつもりかと考えたが、間合いは向こうから詰めてきた。走るのではなく、浮き、飛びかかるように


「再度、牢へお帰りを・・・」


避けるより先に、ガチャンと何かに何かが嵌め込まれた音がした。それは相手もこちらも目にしている。シガラミの左腕に枷が付けられた音

牢に囚われていた時にされていた物と同じ物。同じ術式を施されている

思わず、「げっ!」と漏らした


「ふ・・・!」


枷を付けた一瞬、勝ちに一歩近づいた嬉しさへの声を抑えた笑い。この手枷のもう片方、それを右腕にも嵌めれば王手となる

それに対しシガラミの顔もまた、悪戯を思い付いたかのような悪ガキの笑顔。戸惑う様子は一切なかった

右手の親指、中指、薬指の3本でゲンロベエの右肩部を突き、少し捻りを加える

鈍い音が両者の耳を通過した


「あぎぎゃあああっっ!!」


少量の鮮血が飛び散る。ゲンロベエの右肩より抜かれた指には生温かい赤い塗装が施されていた

続け様に左手に嵌められた枷を使い、頭部目掛け撲り飛ばす。情けない声と共に転がっていく男をよそに、肉と骨の感触が残る指を胸元に指を入れ肌で拭く


「躱しそびれたんじゃない。敢えて躱すのをやめておいたんだよ。片腕だけならまだ自由に動かせるし、こうしてお前に痛い目に遭わせれたのだからな。俺を拘束していた物に殴られる気分はどうだ?ゲンロベエさんよ」


肉を貫き鎖骨に到達した指は骨を捻り折ると同時にその一部分を粉々にしてやった

右肩が上がらない。動かせない。ありえない痛みに、脂汗が止まらない


「コチョウラン様とあのお方のご両親に詫びて、逝け」


狙うは喉。喉の甲状軟骨を指で先程の鎖骨と同様に捻り折り、砕くつもりである

右の中指と薬指を少し内に曲げ鳴らし、相手との距離を詰める為に駆け出した

痛みで身体が痙攣し始めていたゲンロベエだったが、数珠を手に左手を振る。数珠の珠と珠が触れ合う音が鳴る度、炭で書かれたような衝の文字が次々と現れていく

空間に現れた衝の文字はシガラミへ向け動き始めた。その速さと数と範囲に避けるには余裕がなく、立ち止まり足元の地に右手の指先を突き立て、地盤を持ち上げ盾としたが、衝の文字が接触した瞬間、凄まじく繰り返す振動が地盤を砕き、その威力に体が吹き飛びそうだ

その砕かれた地盤の破片と衝撃に紛れ、ゲンロベエは尺八の仕込み刃を突き立てた。しかし、シガラミはその刃先を避けながらその手首を掴み、相手に背を向け肩を利用して腕をへし折る

今度は叫ばず、苦痛の唸り声。それでも鎖骨を砕かれ動かすと更に肩の痛みを伴わせる右手で数珠を握ってから放り投げるとその紐は切れており、珠が宙で拡がっていく。その散らばった数珠の珠1つ1つより、紫の光が放たれた


「牢など生温い永久奈落に沈め!敗者は貴様だ!シガラミ!」


細いビーム状に放たれる紫の光は上空の一点に集まり、人の姿と捉えられる巨人を造りあげた

巨人は両手を真下に向け、両足底から奈落へ沈んでいくことで上空より掌を落とす


「お前もろともかよ。封印なり閉じ込める先で2人きりなどまっぴらごめんだぜ」


千切られ光を放った数珠の珠は約半分ずつが両者の後方へと落ち、地に触れるより先にその一粒ずつから最初と同じ糸が生み出され、2人の身体を拘束する


「また先のと同じ目に。あれ胃にあるもの全部出てきそうになんだよ!」


「安心して欲しい、強引に引き寄せられるのは私だけだ。貴様は内臓や骨をぶちまける痛みを永遠に与えられながら奈落へと沈め」


ゲンロベエだけが後方へ引っ張られ、残されたシガラミに掌が迫る


天彷封印術(てんほうふういんじゅつ)負抱(ふいだ)きを受けよ!」


もう発動している最中で術名を教えられたとて、耳には入らない。なんとか糸を解くのに必死なるが張り付くように巻かれた糸は緩む気配はなさそうだ

あの後方で浮き、糸を出す珠が原因ならばあれを破壊する。右肩から腕の関節を外し、筋肉を縮め、腕に巻きつくことでできた糸の輪より腕を抜き、袖より手裏剣を掌へ落とすと痛みなど忘れ、後方の珠へ投げる

手裏剣は弧を描く動きで珠を切断していき、糸が消えた

解けた瞬間に、転んだって情けない姿に映ったとていいので勢い任せに後ろへ跳ぶ

右足の地下足袋の底と足裏の間に隠していた手裏剣を取り出し、ゲンロベエの首を狙い投げた

巨人の掌が地に落ちるも、足と同様に現れた奈落へと沈んでいくので衝撃も轟音もなく、その腕前を手裏剣が通過した直後、腕と身体の間に紛れ、手裏剣と横並びで走るシガラミが姿を現す


「しつこく残りおって!」


指を振り、円状の術式を展開すると小さな人型の火炎が放たれるも、並ぶ手裏剣を蹴り、それを縦に切り裂いた

切り裂かれた炎より、右手の指を鳴らすシガラミから親指と中指による突きが行われる

二本の指は正面より首に刺さり、手応えを感じたところで引き抜く


「静かな一撃だったろ?」


左手の枷は落ち、巨人も消えた。声もなく倒れたゲンロベエを前に、抜かれた指のある手はすぐに彼の胸元へ

肌で指を拭きながら、城内へ向け歩み始めた

その城内、シガラミが糸に拐われてすぐにクレドキとオウランの戦闘が始まっていた

陽動に投げられた三振りの八方手裏剣は彼女ではなくコチョウランを狙っており、させまいと忍刀で捌く

この隙に絶対に何か仕掛けてくるだろうと前方への警戒も怠らずにいたが、相手は笑っているだけだった


「よくやったぞぉ、クレドキさんよ。コチョウラン様を殺したらわっちが怒られるのでな」


「あの陽動後に仕掛けず、余裕見せやがって。あの時にしておけばと後ほど後悔するがいい」


「あなた如き、その後悔に直面する前に終わらせてあげる。陽動もなくとも、こんなことができんだよ!」


右手に嵌められた手甲鉤を振り落とし、生じた4本の斬撃は金色の風となる。対しクレドキは忍刀を床に突き刺さし、柄頭に人さし指を当てた


「忍法・抉炎(けつえん)


突き刺した忍刀の先端より、忍術で生み出された火炎が前方の床を突き破り、腕で何かを抉るような動きで金色の風と化した斬撃に攻撃を行い対抗

指先に力を送り、炎が増大したところでオウランの方から「(ぶん)!」と聞こえた

その言葉の直後、蜘蛛の子を散らすように4つの風の斬撃は小さく分裂し、襲いかかる

すぐさま忍刀を抜き、薙ぎ払う動きで斬り振るとその風圧で忍術で繰り出した炎を拡散


「全部は無理だろうに!」


その通りである。自身も重々理解しており、最悪できるのはコチョウランを身を呈して守ることだろう

炎の向こう越しで馬鹿にするように笑う彼女の顔が浮かぶ

斬撃の1つが右肩を、更に続き1つが左頬を掠め、少女がクレドキの名を叫んだ


「ぜーんぜん!効いてません!ご安心を!」


それもあるが、コチョウランは自分を守りながら戦うつもりでいるこれからを心配していた

相手側は自分を殺すつもりはないなら、クレドキから一時離れた方が良いのかもしれない

彼女へ少女が提案を耳打ちしようとしたその時、炎が4つの斬撃により掻き消され、現れたオウランはクレドキとの距離を詰めると手甲鉤の爪を突き放つ

彼女はその爪と爪の間に忍刀の刃を入れることで眼と眉間に刺さるのを阻止


「くたばり、コチョウラン様を頂戴し、シバハのところへ行かせなよ!」


「シバハのとこへは勝手に行けばいいでしょーに!」


向こうがワザと力を抜いたように感じたが押し切った。忍刀は振り下ろされたが、容易に後退しながら避けられてしまう


「忍法・渇蜉蝣(かつかげろう)


距離を離す最中、左手だけで在と臨の印を結び忍術を発動。身体正面は前方を向き、後方へ跳ぶ彼女を迎え入れたのは砂利の混ざった金色の突き抜けるような暴風は襲い来る無数の弾丸を運ぶ風

敵味方関係なく、被害が出ているが御構い無しである

クレドキはコチョウランを庇う体勢へ移らず、忍刀を水平に持ち、峰を左手に当て、前に突き出した


刀併忍術(とうへいにんじゅつ)(いさぎ)水龍現(すいりゅうげん)!」


剣先は床に触れず横一閃に裂くように振り、床に生じた切れ目からは激しい水が噴き出す

砂利の嵐を防ぐ水壁に忍刀で一突き入れると、その部分より水が龍となり出現

オウランは印を結ばず、迫る水龍へ駆け出すと跳び蹴りを行う。全身に回転を加え、金色の風を全身に纏いながら真正面より水龍を水の壁ごと貫いた

蹴りによる体術の一撃を忍刀の刃が防ぎ、火花を散らす

徐々にクレドキが押され始めていた


「抜けてください!」


このままでは背後にいるコチョウランが自分と壁に押し潰されてしまうので告げた

少女は二つ返事でクレドキの背後より脱するも、それを逃すはずがない

回転を加えた蹴りの最中、纏う風に乗せて4枚の八方手裏剣が舞い、コチョウランへ襲いかかる


「コチョウラン様!」


蹴りを受け止めている忍刀を投げた。少女へ迫っていた手裏剣を弾くも、オウランの両足底が腹部へ

両腕が抱え止めようにも、その威力は大きく、風は振り回す刃物のようで血が飛び散る

背後の木製の壁へ押し込まれ、少量の吐血。堪える足に踏み込む力を入れるも長くは持たないだろう

しかしクレドキは、押し潰され挽肉にされるか貫かれる覚悟で、下より彼女へ右拳を突き上げた


「喰らうわけないんだよ!」


一気に回転の勢いを止め、蹴りを中断。身体を捻り、下からの拳に突き上げを躱すと放ってきたその腕に左手を添え置き、手甲鉤の掌に備え付けられ3つの小さなトゲでクレドキの額を狙う


「死ねぇ!クレドキ!」


掌底突きによる3つのトゲが彼女の額に刺さる寸前、オウランと1つの人影がすれ違う

それに両者気づくも、その直後に影とすれ違った彼女へ一筋の斬撃が入った


「ぎぃえぁっっ!?」


何が起こったのか?その一撃で体は宙を舞い、右肩から左腰上辺りまで刻まれた一閃より飛び散る己の血に混じり、コチョウランの後ろ姿が目に映る

少し呼吸を乱れているも、手にする脇差で確かに斬った


誉終(ほまれおわり)一丁華(いっちょうか)・・・」


脇差を鞘に納めた。刻まれた一線の斬撃は桃と白の閃光となり、オウランは意識を失い床へ落ちる

あまりの出来事に生き残った者達は敵味方全員の争いは止まり、コチョウランの姿を見る。あれは、里長であった父と同じ技であった


「クレドキさん、無事ですか?」


言葉を失っていたが、少女に声をかけられ驚きながらの返事。自分の血を腕で拭っていく


「お腹、冷やさないように。私は行きます」


蹴りにより腹部辺りを中心に破け、露出していた。そんなことは負った傷同様、御構いなしに「もちろん、私も!」と気合いを入れ直し、意気揚々に

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