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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
126/217

異行 6

昼過ぎの刻、一斉に攻め立てを開始したいのだが、出口が一本の階段通路しかないので、全員そこより現れるしかない

押して押され、協調性や譲り合いもできず、転倒からの踏み潰され、怪我の恐れもあるのでクレドキが先導。階段の途中、彼女は一人先に走り、安全と誰もいないか様子見に向かった

出た広い場所は湿った土に似た匂いに、2本の太く巨大な木柱が目に付く

人に紛れて共に出てきたからコチョウランは、一度ここに移ってから先程行ったご武運のお声掛けをすればよかったと思えてきた


「センテイマルは?」


シガラミはジョーカーの姿がいなくなっていることに気づく。少女も見渡すが、やはりどこにも彼はいなかった。これでよかったのだと、胸をなでおろす


「紛れ、逃げたのでしょう。ご無事に逃れてればよいのですが・・・」


今生の別れとなるだろう、死んでも生き残っても。まだ先の事など知る由もないのに


「む・・・?」


少し皆から距離を置き、静観していたクグレゾウだったが何やら異様な気配を察した。殺気なのか?しかし、殺意のある気配には遠い

先にある5つの上り階段全てから漂ってきていた。警戒に入ろうとした次の瞬間、左から2番目の階段入口より手裏剣が放たれる

放たれた手裏剣は3つ、個々から電撃の光を放出し、繋がった


「なに!?」


「雷達手裏剣か・・・!」


突然の事にコチョウランは驚きを隠せず、咄嗟にクレドキが少女の前へ庇う形で立ち、刀を抜くが、風の如く一瞬にして現れたクグレゾウが雷を帯びる手裏剣に迫ると、逆手に持ったクナイで水平に斬り弾く

弾いた手裏剣を1つ、指で挟み捕らえた


(これは、十字手裏剣。それにあの技、あいつか・・・!)


「あ、ありがとうございますクグレゾウさん」


「ん・・・」と、無愛想な返事。彼の態度にクレドキは突っかかりたくも、それどころじゃない

攻撃を仕掛けられた。人数の把握はできないが、敵がいる。あの手裏剣が投げられた階段通路一箇所だけからなのか、まだ他に潜んでいるのか

反りのない刀を構えた


「クレドキ、しっかりコチョウラン様を頼む。これより、先程のようにはできそうになさそうだ」


空気の流れが止まった。階段を数段だけ下りる音と、クグレゾウの握るクナイの刃に走るパチチッと雷の弾ける音

その同時に姿を現したのは、クグレゾウと同じく黄色の髪を基調に、前髪の先端だけが紫であり、彼とは対極に髪を短く切っていた

深緑の身軽そうな甲冑の上に、薄い緑の浴衣を着込んだ男は、左中指を手裏剣の穴に通し、回す

その眼は、蔑むようにここにいる全員を見据えていた


「やはりお前か、シバハ」


「シバハ・・・さん」


コチョウランは、いずれは十身影と戦闘になる危惧はしていた。しかし、早すぎる

こうして敵に回り、現れると、爪先から自覚のある恐怖で呑まれてしまいそうだ


「よりによって!いきなりシバハのお出ましかよ」


シガラミが指を鳴らし、戦闘体勢に移行させながら迫ろうとするも、クグレゾウが手に持つクナイで行く手を遮る。彼と相手の関係は存じてるので、「しゃーねーな」と退がり、クレドキと並びコチョウランの前へ


「兄上、コチョウラン様、お久しぶりです」


「お久しぶりだと?他の十身影と共に某を打ちのめし、あの地下牢へぶち込んでおいてよくも。お久しぶりになる程に、顔を出さなかっのはお前だろ」


指で回していた手裏剣を投げる。仕掛けもなく、普通にクグレゾウの眉間めがけ投げられた手裏剣は、刺さる寸前に指で挟み捕らえられた


「ついに某の処刑命令でも下ったか?だが、残念だったな。こうして、脱獄はしていないが身は解放されている」


「脱した経緯は知らん、脱獄ではなく解放されたなど、何方でもよいものだ。兄上ならば意地でも、たとえ手足を失おうがいつか必ず牢より脱するつもりなのは解りきっていたこと。それをされる前に手を打つつもりであったが、時期が遅かったのか、悪かったか・・・」


「どちらもだろ。正直、コチョウラン様と共にこの形で脱するとは思いもよらなかった。フゾウザツのことだ、一回ぐらいは某を説得しようと誰かを派遣に寄越すはず。その際に説得に応じたと偽り、逃げようとも企んではいたのだがな・・・」


「やはり、その企みはあったか」


右手を背へ、そこには真っ直ぐ垂直に平行して並ぶ2本の鞘に収まる刀。形状はクレドキの物と同じ、忍刀の類。その片方だけを抜き、構えはせず、右手に持つだけ

刃紋は乱れ刃、見事な作り

そして、片方のもう1本を抜かず鞘ごと左手で掴み取る


「これは兄上の刀・・・」


自分以外の十身影全員を相手にし敗れ、当然だが所持品は全て没収されてしまっている。その中で、唯一心残りだった物。他の物はどうでもよいが、あの忍刀は取り戻すつもりでいた。幼少頃、兄弟揃ってケシハザツから一振りずつ頂いた物

それを投げ渡す素振りをしておき、背へ戻した


「返してやんないよーだ」


「身内にやられると腹立つな」


先程捕らえた手裏剣を投げ返す。手裏剣は当たらず、男の首ギリギリを逸れる

ワザと外したのではなく、相手がほんの少し頭を傾けただけ


「ちぃっ・・・!」


「兄弟同士ですのに、躊躇いなく殺し合おうとするなんて・・・」


「コチョウラン様、あなたも今から叔父を討つおつもりでしょう」


クナイを逆手に持ち、構える。その眼は、怒りの含んだ視線


「ケシハザツ様を殺され、しかも殺したのは弟君。お前は、そんなやつの元にいて何とも思わないのか?シバハ!俺達は、かつてケシハザツ様に救っていただいたのだぞ!」


「俺は・・・兄上のように素直な気持ちでは生きられない」


彼もまた、忍刀の刃を水平になるよう構えた


「兄上がそちらにつくならそれで結構。説得は失敗として、兄上を排除の対象とする」


向かい合う兄の後ろでコチョウランと、その少女を守ろうと前に立つ2人に視線がいく。笑いの混じった溜息の後、左手でどこかへ行くよう促す


「フゾウザツ様の元へ行きたいのであれば、邪魔立てはしない。某に命じられたのはクグレゾウの説得のみだ」


「え・・・?」と張り詰めた気が緩んだクレドキに、クグレゾウはその戸惑いで時間を無駄にさせない為、「言葉に甘えろ!」と怒鳴った

ラッキーと意気揚々に、シガラミがコチョウランの背を押しながら他の者達にも向け、「行きましょう」と大声で

去り際、少女は言葉を残す


「クグレゾウさん、ご無理をなさらず」


「無茶な願いですね」


思わずお互い小さく、静かに、一声だけ笑った。コチョウランは皆と共にこの場から急ぎ去ろとするも、階段前で一度止まり、間を置いてから上がっていく。少女は彼の背が見えなくなるまで、目で追っていた

シバハは誰にも攻撃を仕掛けず、兄のクグレゾウ以外がいなくなるまで律儀に待つ


「邪魔になる障害は全て去った。これより戦闘を始めよう。他の十身影、特に深五影がいなくとも、兄上を止められる事を証明する」


「やってみるがいい。俺にもケシハザツ様の無念と、コチョウラン様の未来が為。あの時とは違い、想いが1つ重なりやっかいになったぞシバハ。ふん、十身影の中でも選りすぐりの半分、ここで両者相討ちとなれば残りはまだ3人か。奴らだけでは手こずるすら無理かもな・・・相討ちも某の敗北となるやもしれん」


「・・・羨ましいな。己が信念に生きられる者は」


その言葉の終わり、後方へ跳ぶと左手は手裏剣を投げる。その数は五振り、咄嗟に手にし、持てる限界の個数を適当に投げたのではなく、全てが的確にクグレゾウを狙う


「陽動のつもりか」


先に到達する2つの手裏剣を伏せ躱し、足元を中心に狙い迫る残り3つを体を前のめりにした状態からクナイで防ぎ対処。手裏剣の内、最初の2つが柱に刺さった


「陽動でも油断すれば死を与えられる!」


躱され、弾かれた手裏剣より雷撃が発生。手裏剣からの雷はクグレゾウの四方八方から、槍を投げつけるように襲いかかる


身焦浄火(しんしょうじょうか)


くっつけた人さし指と中指の二本でクナイの刃に触れ、そこに小さな火種の粒を生む。刃を伝い、足元に火種を落とすとクグレゾウの身は一瞬にして足元から燃え盛る豪炎に閉じ込められてしまった

炎は膨張するかのように広がり、雷を押し消す

クグレゾウは燃え尽きず、振るったクナイで炎を斬り裂いた


「素直に生きられないと口にしたくせに、ケシハザツ様を殺した者の元にいながら、あの方に教えられた技を使うのだな」


「教えらた技術を俺の戦闘に使うだけだ。兄上やケシハザツ様に申し訳なく、使わないと気遣える程に優しくはない。今は俺の力である」


意地悪に言ってみたが、そのとうりだ。教えられた技術、それを後ろめたさの理由で使わないのはおかしな話

シバハは右足を踏み込むと素早く動き、忍刀で水平に斬る一閃を放つ。斬り抜けるはずだが、その一撃はクナイで防がれていた

現状を見越し、フゾウザツの元にいるも奥にはしっかりケシハザツへの尊敬と恩威があるのを見抜けたので、クグレゾウは少し胸と気持ちが軽くなった気がしたが、気休めかもしれない


「お前はそれで良い・・・」


「何故笑う?兄上」


「それを解らずともよい、今は敵対中だ。某はフゾウザツの首を討ちたいので、お前を打ちのめさせてもらう」


「昔からだけど、答えを出し渋るおかしな兄だな」


クナイから小さくヒビが入ったような音がした。このままクナイを押し砕き、斬り捨てたいところだが、それより先に押し負けそうである。彼のクナイを握る力と押す力が増していき、ちょっとずつ忍刀の峰が自分へ近づいてきていた

シバハは袖から掌に手裏剣を二振り落とし、至近距離から投げつける


「っぶな!」


避けるには距離が足りない。咄嗟の判断で1つは口で噛み捕らえたが、もう1つは左頬に刺さる

水滴程度の返り血が、弟の右頰へ付着した

しかし、手裏剣を投げた左の腕は掴んでおり、そこから足払いを行う


「っうお!?」


足払いされ体勢が崩れそうになるも、もう片方の足底から全体に力を入れ、踏み止まった

しかし、足払いを行なった直後のクグレゾウの左足は、容赦なくシバハの身体へ撃ち込まれる

蹴りの威力と勢いに押され、口から少量の血を垂らし、吹き飛んでいった先の階段入口横の壁に激突

深く沈んだが、口を拭いながらすぐに現れた


「弟に躊躇いなくあんな蹴りを!」


幾つかの手裏剣を投げたと同時に、忍刀を水平に構えた状態で走り出す。手裏剣の1つ1つからは再度雷撃が発生


「お前も殺す気満々だったろ」


頬に刺さる手裏剣を抜き、噛み捕らえたのと合わせ二振りとなった手裏剣を投げ、それらから火炎を生じさせる


「炎達手裏剣・隼突(しゅんとつ)


炎は絡み隼となり、二振りの手裏剣はそれぞれ左右の翼の中心位置に。羽ばたかない炎の隼は雷を放つ全ての手裏剣を真正面から突っ切ると、勢い収まらずシバハへ迫った


「喰らわん!」


炎の隼を刀で斬り裂くと、力失い落下する1つの手裏剣を手に取り、再び炎を生じさせ、投げ返す。もう1つの手裏剣には強力な雷を発生させ、続け投げた直後、忍刀にも微量の電撃が走る

生む雷は、その手裏剣と同じく十字となり、激しい回天と地を裂き猛スピードで進行


「おいおい・・・」


クナイに雷が帯びた。炎の手裏剣を弾き、その次に向かってくる雷撃により巨大な十字となった手裏剣へ投げ放つ

雷と雷が激突し、一瞬の激しい閃光に呑まれる瞬間にシバハが接近。クグレゾウに一刀を入れた


「馬鹿が、腕で防いだとて同じ。たとえクナイを投げずにいても同じ・・・」


部屋の至る箇所で、電流が走る。先程の衝撃によるもの。その部屋の中で、斬り捨てられたクグレゾウは地に倒れ伏してしまった

だがその直後、彼の体は煙と共に丸太へと姿を変える


「変わり身!?こんな初歩的な!」


どこへいき、どこに隠れたか目を配るより先に、シバハへ強烈な拳の一撃が最初に腹部へ撃ち込まれ、次に利き腕である右拳が、顔面へと叩き込まれた

撃ち込んだ拳に更に力を加え、柱へ衝突させる

凄まじい音の後、穴が空けられた柱内に白眼を向き、仰向けに倒れるシバハ。クグレゾウは手を払うと、彼をうつ伏せにし、背にある忍刀を拝借


「返してもらう。ついでに、お前の刀を拝借。返して欲しかったら、終わるまで悔しがるのだな」


2本の忍刀を背に、階段を上りコチョウランを追う。ここで、部屋の至る箇所に僅かだが走っていた電撃が全て治った

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