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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
124/217

異行 4

鍵が折れ、代わりにコチョウランの髪留めで解鍵を行う。なんとかピッキングに成功はしたが、コチョウランの髪留めは本来あるべき少女の髪へ戻ったとて機能はしない

ジョーカーはそれを返さず、シャツの胸ポケットへ

そして、時間を要したがこの部屋に囚われている全員を牢から解放し終えた。他の外にいる敵となる誰かが怪しみ、来なかったのは運が良かった

同時に、見張りをしていたクレドキも戻る

彼女は髪の解かれたコチョウランの姿を目にした途端、櫛を手すると急ぎ髪を整えてあげようと瞬時に距離を詰める


「コチョウラン様、髪が・・・」


「それはどうでもよいことです。ここは誰か他の者に枷外しを任せ、自分は次にこの部屋より下の階にある地下牢部屋へ赴きます」


それを聞き、まだ牢部屋があるのかよと、ジョーカーは少し面倒くさくなってきた

露骨な顔をしており、見られたらクレドキあたりに手裏剣を投げられそうだが、頭部に被る甲冑のおかげでバレずにいる


「コチョウラン様、下の階は大きな罪を犯した者、危険人物を幽閉隔離する場所です。ここ最近、幽閉者は在していませんでしたが、あなた様が行くべき所では・・・」


「シガラミさんがいます」


「あいつが囚われているのですか!?」と、クレドキの驚愕する声。知らなかったであろう他の数名も動揺を隠せずにいる

ジョーカーは誰だ?といった疑問ではなく、この前に注文した抱き枕、もう届いてるかな?と現状とは全く関係ないことを考えていた


「てっきり、くたばって見せしめの晒し首にでもされたのかと。生きてましたか・・・」


「えぇ。こうして牢から解放された今、彼を救いに向かうべきです。放っておけば、本当に晒し首にされてしまわれるやもしれません」


「コチョウラン様がそう仰せ、決定したであるならば、向かいましょう」


2人は頷き合い、下の階へ続く階段へ。ジョーカーはやることがなくなったので、そのシガラミという者の顔を見ておこうと、後に続く

階段を下った先に、地下牢となるこの部屋は幅の広い通路が一本と、向かい合うように3つずつ、計6つの牢獄。あとはこの部屋奥に僅かなスペースがあるだけの行き止まりとなっている

外の光が決して届くことはないこの空間、階段すぐ手前の向かって右の牢屋に、そいつは囚われていた


「シガラミさん!」


返事はなし。それもそのはず、体の首から上以外が薄汚れ、血も滲む布で包まれており、その上から鎖を巻かれ、天井から吊るされ蓑虫のようだ。目は黒い布で視界を奪われてしまい、口には枷をされている。とても会話ができる状態じゃないだろう

生きているのだろうか?


(蜘蛛女のおかげで、あれと似た姿で一夜明かしたことあるな。案外、寝れるものだ)


ジョーカーがかつての出来事を思い出した中、コチョウランは慌てながらも、1秒でも早く解放してやりたい一心で牢の鍵を鍵穴へ刺す。地下牢の鍵は3本だけ、先程までの物とは形も若干大きさも違うので判りやすい。1本目は正解ではなかったが、2本目でシガラミという男が囚われる牢屋が開く

クレドキが手裏剣を投げ、吊るされている鎖を切ると彼は硬い床に落ちた


「シガラミさん!生きてます!?」


「お待ちください、コチョウラン様」


急ぎ走り寄ろうとする少女の行く手をクレドキの腕が遮り、ここは自分がと申し出た

彼女は慎重になりながら横たわる者に近づくと、生死の確認はせず、雑にシガラミという男を転がし、巻かれている鎖を外す

そして、体を包む布を剥ぎ取る。その勢いで一瞬だけ体が浮き、ごん!と床に頭を打った。それでも背に回された両手と両足に枷を着けられた男の反応がない


「こら、起きろシガラミ。コチョウラン様がお呼びになられてるぞ」


容赦なく腹部に蹴りを入れた。「ふぐぅっ!」と、男にようやく反応が

少々乱暴な起こし方である


「むほ・・・?ここは、どこだ?俺は誰だ?」


胸部から覗く鎖帷子、いたる箇所に血汚れが残る白い忍装束を着た栗色の短いウニのような髪の男が起き上がると、前方すぐ近くでしゃがみ、目を細めるクレドキと目が合った

「どうも」と挨拶をするが、物言いたげな顔。その発言を開始


「貴様・・・寝てたでしょ?」


「幽閉されてると、けっこう退屈でよぉ・・・」


両手両足に枷をされたまま、立ち上がり首を回す運動。関節から音を鳴らし、全身に力を入れ身体を伸ばしリラックスしていたらコチョウランが目に入った

枷のせいで歩めず、すぐさま飛び跳ね彼女の前へ。跪こうにも、コケたみたいに顔面を床にぶつけ、うつ伏せに


「コチョウラン様!ご無事で!」


「なんとか運良く。経過の話は後々とし、まずはその枷を外します。鍵を」


彼の枷を外す為の鍵を貰いに、様子見もついでに一度上の階へ戻ろうするが、彼は「お待ちを」と呼び止める


「枷の鍵は全て共有、数本の内1本でもあれば全て解鍵できますが俺にされている枷はそうもいかないのです。連行途中、掠めた1本を使いましたが鍵穴に入れた途端に錆びて風化してしまいました」


クレドキがシガラミの髪を掴むと彼に嵌められている枷を確認。背に手を持っていき、嵌められている枷の鍵穴の上から筆で書かれた封の一文字は怪しく赤に光り、点滅を繰り返す


「これは・・・!コチョウラン様、この枷には術式が施されていますね。一種の呪いの類です」


人さし指と中指を口前に立て、「解!」と唱える。しかし何も起きず、枷が外れる気配は微塵もない

コチョウランも続いて同じ行いをするも、やはり枷が外れることはなかった

見兼ねたジョーカーが、ポケットから一見ただの白い紙を2枚取り出す


「コチョウちゃん、私にやらせてもらえないか?もしかしたらこれで・・・」


「ただの紙切れじゃないの?」


クレドキの疑いの目。だが今はこれをダメ元や悪ふざけだろうとも試してみようと、コチョウランは「お願いします」と頼んだ

鍵穴の上から塗り潰すように書かれた封の文字に白い紙を被せと、1秒ぐらいで、バチンッ!と弾けるような音と共に枷は外れ、床に落ちると砂となり風化

足にされていた枷も同様に外される


「ほぉう・・・」


感心するシガラミの手は、握る開くを数回繰り返す


「あれは、ただの紙切れではないのですね。目の当たりにしてからの、今更ですが」


「元は僕がメモをとる際に使っているものだ。数ヶ月前、森で毒蛇に噛まれた少年の手当てをしてあげたら礼にと家に招待され、そこの家長で少年の大祖母である方が賢者と名乗っていてな。孫を救った礼品として、メモに使うこの紙切れに御呪いを施してくれた。ある程度の術や呪い類は取り除いてくれるらしいのだが、本当だったようだ。1回の使い切りだが、手と足に1枚ずつあってよかった、よかった」


賢者の曾孫を助けたのは本当だが、食事を頂いたのみで紙切れに御呪いという名の魔力を込めてもらったのは真っ赤な嘘である。ジョーカーが普通に解除しただけ


「どうやら、手足を切断する選択は消滅したようでなによりだ。礼を言うぜ、何処かの誰かさんよ!」


親指を立て、先程まで囚われていた際の雰囲気とは打って変わり、明るい性格のようだ


「んで?んで?こいつは誰だ?頭を隠して、恥ずかしがり屋か?」


「そうなんだ、あまり容姿がよろしくなくてな。若い頃、好いた女性に勇気を持って想いを告げられたらフラれるだけならまだしも、容姿や性格に罵詈雑言を浴びせられてしまい玉砕と只でさえ残りカスぐらいしかなかった自信が粉砕」


少女は彼から聞いた頭を隠す理由の話とは違ったので、見開いた目でジョーカーを見つめる

「違うじゃない?」と訴える目に、ジョーカーは少しそれに耐えるのが嫌になってきた


「馬鹿だなー。本当の事情を言ったら引かれて気遣いされるかもしれないだろ。コチョウちゃんの前では、つい本音で喋っちゃったけど」


「コチョウラン様に馬鹿と言ったなーーっ!!」


咄嗟に適当な言い訳。しかしその直後、クレドキが跳び蹴りを放ち、ジョーカーの頭部に直撃。反動で倒れ、床に伏したところをシガラミも加わり、蹴りによるリンチが始まる


「いで!いで!ごめんなさい!」


蹴りを入れられる最中、シガラミがその頭部に被る甲冑を脱がし取ろうとしたが、慌てコチョウランが2人を宥めた


「や、やめてあげてください!蹴るのも顔を隠すそれを取ろうとするのも。取れば、焼け爛れた皮膚が内部とくっ付いてるから抉れてしまう恐れがあるみたいですので!」


少女に言われ、2人はパッタリとやめる。助かったジョーカーは這い蹲りながら移動し、コチョウランの足元へ縋る


「コチョウちゃん、優しーい!」


面倒くさい乞食に与えてしまったかのような光景、クレドキは呆れた溜め息


「シガラミさん、彼はセンテイマルさんです。フゾウザツの元へ連行されそうになる自分を救ってくれた向かい牢に囚われていたお方です」


「元は盗みに入り捕まったまぬけだけど」


「まぬけだけどよろしく」と、ジョーカーは笑い手を差し出す。握手のつもりだろう、シガラミも手を差し出そうとするも、一瞬だけ悪寒にた本能的恐怖が走った。しかし、それで警戒するにはあまりにも短かすぎた為、握手に応じる


「シガラミさんの解放もできましたので、上の階に戻りましょう。なるべく短めに、これよりの討論なりをすべきです。解放をされなければどの道は死を待ち、だからといって解放されたからが終わりでなく、これからを」


少女の発言に続き、クレドキとシガラミは無言で頷く。さて、自分はどうしようかと悩むジョーカーはこのままバイバイしたくなってきた

かといって、もう少し付き合い結末を見れるならば見てみたい。とりあえず、大きな事が起きるまで付いていくことにしよう

そして、4名が上の階へ向かおうとシガラミが囚われていた牢から出た時だった。隣の牢から「待て!」と呼び止める声


「へぇっ!?俺にお隣さんがいたのか!?」


「シガラミ、気づかなかったの?やっぱり、寝てたから?」


危険とされる者や、実力ある者を収容するこの地下牢に投獄されている者に呼ばれ、無視するわけにはいかないので一応牢内を覗いてみる

そこには厳つい目つきをしており、咲いたヒマワリのような黄色に1本だけ紫のラインが入る長い髪を持つ男が縄で拘束され、牢の中央で座り込んでいた

呼んでおきながら、その視線には敵意を感じる


「あぁっ!!お前はクグレゾウ!!こんなとこに入れられやがって!!ヘマでもしたのか!?」


反動なのか少女は全身に力が入り身構え、クレドキがすぐさまコチョウランを庇うように立つ

ジョーカーは、何故そうまでして警戒態勢になるのか分からなかった

あまり良くない、只ならぬ雰囲気が両者を隔てるように漂う


「顔見知りみたいだが、あまり親しい仲の者じゃなさそうだな」


「当たり前だ!こいつはフゾウの部下の中でも実力ある者とされる十身影(じゅっしんえい)の1人だ!今の俺達からすれば、最悪な障害となる壁」


「ふん・・・!」


馬鹿にしているのか、鼻で笑う。クレドキとシガラミは手裏剣を手にし、馬鹿にする態度への怒りついでに始末しようとするが、コチョウランが制止した


「止めないでくださいコチョウラン様!こいつには何度煮え湯を飲まされてきたことか!」


「それは、某との差ゆえにどの行動も隙ありだったからだ、クレドキ」


「なんですってーー!!」


1つから5つに増やした手裏剣を本気で投げそうだったので、シガラミが背後から羽交い締めを行い、コチョウランが牢屋の前に立つと「落ち着いてください」と彼女に言い聞かせる

牢からは、再度馬鹿にするような鼻での笑い


「貴様、現の立場にありながら、やけに余裕だな」


「てめぇは、センテイマルといったか。シガラミへの紹介時に、名は聞こえていた。外部の者が、何故コチョウラン様と共にここにいる?」


「それを訊いてどうする?話に漬け込む皮切りとし、同情なり信頼を得てこの牢より出してもらう目論見か?」


「この面子にてめぇのような頭を隠す変なやつがいたら興味の1つぐらい現れる。出して欲しいは本心にあるがな・・・」


ジョーカーを踏み台にし、クレドキが身を乗り出す。「嫌に決まってるでしょ!」と、声を大にして彼を牢より出してあげる気は微塵もない

シガラミも同意なのか、頷く

コチョウランはまだ同意せず、牢内で縛られる彼に訊ねてみた


「クグレゾウさんにお訊ねします。どうしてあなた様程のあろうお方が、幽閉をされたのですか?十身影の中でも指折りの実力を持ち、クレドキさんやシガラミさんからの態度評価はよろしくありませんが主への忠義は厚く、1つや2つの失敗や怒りを買うような失言程度ではフゾウザツが手放す真似をするはずがありません」


彼は堪え、気持ちを抑え笑うが、堪えきれず声を挙げ笑った。警戒し、クレドキは刀を構え、シガラミは彼女から渡された手裏剣を投げる体勢に入るも、コチョウランが強気な口調で「解いてください!」と声を張る

珍しかったのか、2人は固まり、クグレゾウも一瞬だけ驚いた顔に


「どうして某が、フゾウザツ様により幽閉されたと分かる?」


「今、この里の頭はあの方の手にあるからです。里外に攻撃等を吹っかけたり、罪を犯し囚われたならばここに投獄されているはずがありませんしね。先程も言いましたが、よほどじゃない限りフゾウザツがあなた様をここへ閉じ込めたりしませんから。そのよほどをしでかし、あなた様はここにいますが。しかしです、いつでもここから出してあげるつもりなのでしょう。証拠に、あなた様同様ここに囚われていたシガラミさんと違い、拘束は縄のみ」


指摘され、ここは返す言葉は無しの収めにしておいた。彼は数秒、睨み少女を見つめる


「コチョウラン様、あなたからの某に対しての評価に誤りがあります。某は、フゾウザツ様やあなたが思っている程に忠義は殆どありません」


少し、事情がある怨みの篭った口調。怒りからなのか、額から目周りにかけての血管が隆起する

縛る縄は、震えていた


「某はただ、ケシハザツ様の、あなたの母君からのお頼みと、ケシハザツ様の弟でありましたから元に付いていただけです。フゾウザツ様がケシハザツ様を殺めた今、従う理由が無くなるを通り越し、明確なる殺意が残った。この残された殺意の行き着く先は容易に検討がつくだろう?コチョウラン様や、シガラミ共が囚われる以前に・・・ここの住人となってしまった」


「では、あなた様はフゾウザツを、我が母の仇討ちとして殺めようと。そして、失敗を・・・」


「そうだ。さすがに単独で他の十身影の殆どが相手ではな。しかし、まだこうして生きている。罪人の子でありながらも、物心のつかぬ赤子だった某達を保護してくれたケシハザツ様への御恩を一生懸けて返せず、某にあるのは自らの姉とその夫を殺したフゾウザツの命を絶つ目的」


厳つい攻撃的な目つきから、なんとも哀しい目へ。もしかすれば、仇討ちする相手が恩人で慕っていた女性の弟であることに、何処か複雑な心境が微塵たりともあるのかもしれない

自身の行いが正しいかは解ず始まり終わるだろう。ケシハザツという者が望み、喜んでくれるはずもなさそうだが、今件は己の意志で動きたい

もしもフゾウザツを葬る目的を達成し、夜分に枕元でケシハザツが現れ、悲しまれてしまったなら自らの命を絶ち詫びる覚悟

そんな彼に、ジョーカーから話しかける


「話を崩すようで悪いが、貴様はそのケシハザツというこのお嬢ちゃんの母親のこと、好きだったのか?」


「なっ!?ば、馬鹿を言うな!!恩人を!里長の奥方に好意を抱くなどと無礼な!!」


顔を真っ赤にし、否定するも、恋愛事情に敏感な年頃のお節介なクラスメイトならニヤけそうなリアクションである


「恥ずかしがるなよ。貴様とは立場は違ったが、私にも似たような覚えがある。それはどうでもいいとして、どうする?この者を解放するかしないかは、コチョウちゃんが決めるべきだ」


少女は間を置かず、こう答えた


「出してあげましょう。いいですね・・・!」


「承知!」と素直な返事したシガラミとは逆に、腑に落ちない顔のクレドキ。彼女は「少しでも裏切る予兆やおかしな真似したら頸動脈を切る!」と警告しておいた

2人のことは無視し、コチョウランに「感謝する」の一言

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