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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
幻影実在
122/217

異行 2

寝ようとしたが、眠れない。ずっと、ただ横になりだらけてたら次の食事がきた

また竹皮に包まれた2つの握り飯、今回のは割りかし綺麗である


「帰ったら昆布おにぎり片手にうどん食べよ。うわー、うどんがより食べたくなってきた。脱獄するか?」


味気のない握り飯を食し、竹皮で箸置きを折りながら向かいの牢の様子を見る

牢の柵手前、竹皮に包まれた握り飯が並んでいた。1つは数時間前のだろう


「コチョウちゃん、食わないのか?捕まり、絶望に染まろうとも腹は減るぞ」


「食欲があまりというより、胸がいっぱいでして・・・」


少女は牢屋内の隅で両膝を立て、それを両腕で抱え込みながら座り、両手両足首に付けられた枷を物思いに耽った顔で見つめていた


「痒くなったのか?僕も付けられている手枷の中がちょっとばかし痒くなってきた。物差しとかが欲しいな」


「違います。ただ・・・」


「ただ?」


「・・・いえ、ただで済ませるわけにはいきません」


膝に顔を埋めた。少女がこうして囚われている事と経緯を訊きたくもあるが、ジョーカーはただ胡座をかき、尋ねる真似はせず、頭に被る甲冑奥の眼は彼女を映すが、頭の中は脱獄方法を考える


(掘ってみるか?うーむ、次に看守か見回りが来たら鍵を奪う。面倒だからここ一帯を消す・・・は、あの少女を巻き込んでしまうから除外)


脱獄するにあたり、一応コチョウランも一緒に脱獄しないかと誘ってみることにした

あまりに唐突。彼女は驚きを隠せず、見回りが近くにいないか周りを確認

「正気ですか?」の問いに、「当たり前だろ」とジョーカーは答えた


「見計らい、牢から脱出するつもりだ」


「そんな簡単に、普段から日常茶飯事みたいな言い草で・・・」


「コチョウラン様!」


自分の向かいにいる得体の知れない者が本気で脱獄する気なのか信じられずにいると突然、2人の会話を遮るように、少女の名が呼ばれた。それに連鎖し、各牢からコチョウランの名を呼ぶ

「ここを出るべきです!」や「誰だか素性も知らぬよそ者の手を借りるなどと!」等、意見は様々


「コチョウちゃんは人気者だな」


やはり少女は罪を犯し、投獄されたのではなさそうだ。彼女は悩んでいる様子


「どうする?決めるのは自分だ。だが、仮に脱獄に付き合うとして、貴様は素性の知らぬ顔すら晒さない私を信じるのか?」


「・・・信じます」


知り合って日も経たぬうちに、信じるのが早すぎる。もし、自分が悪いやつだったらどうするんだ?過去に行った非情や残酷ともいえる行いから、悪いやつに変わりないが。攻めた村の略奪行為をを禁止したが綺麗なまま死なそうと村人全員燃やすわ、一思いに一刺しで殺せばいいものをワザと急所を外して拷問紛いを行いショック死させるわ、妻達にすれ違いざまセクハラするわ、叩き潰した蚊の死骸をダイヤの飲んでいたコーヒーに入れるわ、他諸々

騒ぎを聞いてか、走り迫る音がする。握り飯を入れていた者だろうか?


「うるさいぞ!!おのれら!!」


その者はジョーカーとコチョウランの牢屋に挟まれる通路で止まった。手には普段見回りで怪しい動きをしたり、自分に逆らったり、馬鹿にする者や退屈凌ぎに甚振る時用の木刀を持ってきており、それで牢の柵を叩く

耳に痛みを生む響いた音が煩い

ギロリと男の目がコチョウランに向けられたのに気づき、ジョーカーが声をかける


「食事は先程貰ったぞ。貴様の持ち場に戻ったらどうだ?なんなら物足りなさそうなのを気遣い、おかわりを持ってきてくれたのか?」


「黙れ!食事運んだ時から内心秘めてたが、お前なんだか腹立つんだよ!」


ジョーカー、ショックを受けたリアクション。牢屋内の隅で体育座り。気に触ることを言ったか?まさか顔がいけないのか?この被っているものが悪いのか?

そんなくだらない悪ノリをしていたら、男は木刀でコチョウランの牢の柵を叩いた


「コチョウラン様、いい加減態度を改めては?フゾウ様も、親族であり家族である者に枷を嵌め、こんなあまりよろしくない湿度の場所へ閉じ込めておく現状に心を痛めております」


コチョウランは歯を噛み締め、険しい目つきで男を睨みつける


「自らの姉夫婦を!私の両親を殺めておきながら何が家族ですか!あの者は!自分の身など案じてはおりません!ただ某に流れる父の血筋を欲しているだけです!」


他の牢屋から、少女に続き「そうだ裏切り者め!」やら、「恥を知れ!」といった罵詈雑言

しかし、男の優位に変わりない。強く木刀で柵を叩き、奏でた耳を刺す音で黙らせる

そんな中、ジョーカーは気楽に面白い事でも起こるのか?と淡い期待を膨らませ、横になっていた


「コチョウラン様、フゾウ様は貴殿の父君と母君の血を絶やしたくはありません。況してや、父チカナラズ家の血です。秘怪死極封印書を差し出し、コチョウラン様がフゾウ様との子を産めば、以前同様の平穏へ戻りましょう」


「ふざけるな!」と、誰かが叫んだ。コチョウランは目を細め、今でも飛びかかり、「ふざけないで!」を連呼しながら、タコ殴りしたい気持ちであるが、両手両足の枷がそうさせてくれない


「あと2日、あと2日の猶予を決定されました。断りと拒絶を続くなら、フゾウ様も心を鬼にすると。ここを閉め切り、毒霧を充満させる。使われる調合された毒は、早く死を望む程の苦しみと激痛を与え、そして5日かけてゆっくりと死に絶える。後始末は、嘔吐物や糞尿を撒き散らされた牢屋内の掃除と、汚物と化した死体を人として扱えず、他の廃棄物と共に同類に燃やそう」


少女を悩ませようとしており、現にコチョウランは男を睨むのをやめ、俯き、唇を噛み締める

いや、悩んでいるのではない。彼女の意志はほぼ決定している。打開できる目処はありそうになく、ここに囚われる他の者達の命を天秤にかけ、己を身を差し出すで済むなら、それに縋る手段しか今はない

悩み迷う時間を捨てた。考え悩んでいるように見えた様子は、その者の元へ行けば自身の身にされることを思うとただ怖いから、覚悟の準備時間


「フゾウザツの元に参じれば、皆様のご助命を約束してくださるのでしょうね?」


「もちろんですとも。フゾウ様は慈悲深く、里の者の命を間接的だろうが手にかける真似はしたくありません。ここにいる者達全てが里の大切な礎の一部だとお考えになられています」


それだけを聞き、彼女は「わかりました」と一言。フゾウという人の元へ行く承諾と捉え、男は牢屋の鍵を開き、手枷は外さずに壁に繋がる鎖だけを解いた

手足の枷から伸びる鎖に引っ張られ、牢から出た少女はまるで買い手が見つかった奴隷

「なりません!」とコチョウランを止めようとする者がいる。しかし彼女はそれに振り向こうとはしない

ここで、始終を横になり、眺めていたジョーカーは起き上がると男を呼び止める


「あのぉ、行くついでに悪いんだけど僕も連れて行ってはくれませんか?うんこがしたいんだけど」


「牢内の隅に壺があるだろ、それにしてろ」


「勘弁してくれ。壺の底に何かいるんだ、このままこれに用を足したら尻を舐められる。ほら、見てくれよ」


男は急ぎたい、なぜならコチョウランを連れてきた褒美に胸踊っているからだ

面倒くさそうに、ジョーカーが蹴り柵前まで移動させた壺を柵越しからしゃがみ覗き込もうとしたが、唐突に伸びてきた両手が男を捕える

後頭部を左手で寄せ付けるように押し、顔と体ごと柵に押し付け、右手は声を挙げさせないよう押さえる

手の枷は外れていた


「ダメだなぁ、柵越でも看守が無闇に囚人に近づいちゃ」


コチョウランの目に映るは、柵に押さえつけられる力で手から木刀が落ち、踠くだけの男

そして次の瞬間、血飛沫が舞う

ビクンと全身が一度痙攣すると男は倒れ、その柵を隔てた先には口元だけを晒すジョーカーの姿

口周り、被っていた甲冑にも、衣服にも、血飛沫が付着。噛み締める上下の歯と歯の間に何か挟まっていたが吐き捨ててしまった

血溜まりの中で息絶えた男を手で引っ張り寄せ、体中を探り、鍵を発見。しかし、1つの輪に通され連なる鍵の数が多すぎる。どれが自分を閉じ込める鍵か見当がつかず、というか全部同じに見えるので1個ずつ鍵穴に刺し、試していく

そしてようやく、ジョーカーの牢屋の鍵が開いた


「ジャジャーン!脱獄成功」


コチョウランは呆気にとられ、ジョーカーは死体の背に顔を擦り付け、衣服で被る甲冑と口周りの血を拭く


「お待たせしましたお嬢ちゃん、お互いに脱獄できてよかったですねー」


喉笛を噛みちぎる際に晒した口が、下りた甲冑で再び隠れた。ジョーカーは少女に鍵を渡し、倒れる死体の持ち物を物色開始

コチョウランはハッと我にかえり、渡された鍵で両手両足首に嵌められた枷を外す


「センテイマルさん・・・」


静かに、彼の名前を呼んだ。偽名を呼ばれたジョーカーは、男の死体から持っていた木刀と腰に差す打刀と脇差の間ぐらいの長さをした刀を拝借

少女は名を呼ぶ以降の言葉が出ない。連れてかれ、自分の身に起こる事を想定しての怖さから、ただ1人の対象に現れた怖さが上回ってしまった

それでも、声を掛けたい。「あの!」と切り出したタイミングで、牢獄部屋から続く階段より、数名の足音が聞こえた


「この現場を見られるわけには!」


「ダメなのか?コチョウちゃんは恥ずかしがり屋だな」


少女は逃げ場を探そうにもそんな余裕もなく、牢へ戻り、まだ囚われているフリをしてやり過ごすのは死体があるので不可能だ。やった本人だけのせいにしたって、どの道変化が起きた事態を疑われどうしようもなく、慌てふためき、左右を確認するだけ

周りは「コチョウラン様!速くこの場を!」等と急かすが、彼女の隣でジョーカは誰が来るのかな?と指先の運動をしながらこの僅かな数秒を待つ


「このままだと、ここを汚しちゃったのを怒られそうだ」


それ以前の問題がありすぎる。そんな内心のツッコミを悠長にしていたら、横たわる男と同じ装束に身を包んだ者達が数人

コチョウランは固まってしまうが、横からジョーカーが小さいタイプのりんご飴を渡してきた


「な、なんだこの様は!?何故!コチョウラン様が牢より出ている!?」


「トイレに行きたくなってさ、このお嬢ちゃんが案内してくれるって言うから」


さぁ、トイレへ案内してもらおうと少女の手を取り進もうとするが、行く道を塞ぐように数名が近づく

そう簡単に行かしてくれるはずがないと鼻から分かっていたが


「勘弁してくれ。いいのか?ここで漏らしても。いいんだな!ここで脱糞しても!貴様ら、ここで用を足させるということは、責任持って処理してくれるんだろうな?最近、下痢気味だぞ私は」


ジョーカーはおちょくる言動の最中、右手は背の腰辺りに装備する喉笛を噛みちぎった男から拝借した刀に手を添えた


「厠案内だけならば、何故にこの者は息絶えておる!?説明つけれるか?こやつが独りでに命を絶ったとでも?」


「うわ、本当だ、人が死んでる。私も用心しなければ」


「傍観者目線なはずなかろう!貴様!」


行く手を阻む全員が、ジョーカーが死体から拝借した物と似たような刀を抜いた

落ち着けよと、空いている左手で宥めさせる動きをしながら、彼はコチョウランを自身の背後へ隠すように移動


「まぁまぁ、そうカッカしたって犯人が現れるはずないでしょ。おにぎり食べる?彼女の食べなかった物だけど。まだ牢屋内にあるはずだぞ」


「知るかー!!いるかー!!犯人は貴様だろうがー!!」


刀の刃先を向けた状態で、一歩迫る


「私が犯人?証拠はあるのか?証拠は!」


追い詰められた殺人犯の言い草。甲冑の下はたぶん笑っているだろう

証拠を求めてみる中で、1人が手を挙げた


「食事を配りを終えたら、その者と俺は看守交代のはずだった。配り終わりを見計らい、待機しようと向かえば何やら騒がしく言い争っているような声が聞こえ、後方の曲がり角より覗けば、貴様がそこに横たわる者を殺害し、牢より出る場面。急ぎ戻り、このように至る」


「うわぁ、言い逃れできなーい」


ジョーカーの頭の中は、誰から斬り捨てようか選別が始まっている。手前からか、最後尾にいるやつらか、その間の者か。刀で斬る、刺す、個人から、複数巻き込みながら。木刀で叩きのめすにチェンジするのも有り

どの道、皆殺しにする


「言い逃れ以前に、この殺人犯が貴様であろうがなかろうとも、そこの娘を牢から解放した時点でその場で理由問わず、即座に殺めるのが可能な決まりとなっている。外からの者だ、1人や2人いなくなろうが支障もなかろう」


「ほほぉ、果たして僕を殺めて支障にならないかどうか試してみろ。本当にそのとうりかもしれないけど・・・」


いざ仕留めに動こうかとしたその時、最後尾にいる中の1人から殺気を感じ取れた

しかし、その殺気はコチョウランへは刺してはいない。ジョーカーは刀を抜こうとする手を止める

次の瞬間、後方から同じ装束を着た者の1人が刀を抜き、一瞬にしてコチョウランの隣へ

その者は背後から、ジョーカーの首へ刀の刃を触れさせる


「動くなっ!不自然な真似をすればその首を斬り落とす」


唐突な独自行動に、同じ装束を着た者が「あ?おい」と、驚く様子から尋ねようとしたが、ジョーカーとコチョウラン以外、全員が突如倒れた


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