Master The Orderの先頭位置 5
朝焼けが暑い、この天気だと直ぐか昼前には雨が降るだろう。モトキは2人の会話は耳に入ってきているが、ほとんど上の空
天気を気にし、空を眺めながら
「ネフウィネさんは何をお食べに?」
「ピザかハンバーガーか、ホットドックかドーナツ、最悪果物丸齧りから食べれる自生植物をそのまま。軽く、素早く、腹をとにかく満たせれればいい。待ち時間食う店は御勘弁。予約は半年後、その日空けといてが大嫌い。あたし、食通でもなんでもないから」
「は、はぁ・・・」
「聞いてよアオバ、この前ピザを食べに行ったの。窯焼きが自慢の。そしたら隣の男も同じシーフードのピザを頼んでて、でもその男は耳だけ一口食べると次の店だなの一言残して去ろうとしてたから殴った。不味いならともかく、味じゃなく、焼き加減だけを知りたい馬鹿な食通ぶりだったの」
「そ、それはそれは。お気に入りの店でしたら、店主に迷惑かけ申し訳ない気持ちもありましたでしょうね」
「そうなんだよねー、お兄様とちゃんと謝りはしたけど・・・あっ!」
突然、会話を断つ声を出す。アオバが訊ね、答える前にモトキの背中に軽く肘を入れた
2人に現状、自分の身に降りた生命における生理現象を説明
「排泄要求を催したからトイレに行ってくる。置いてったら割と本気で泣くか、被害顧みず貴様らを探し出し半殺しのどちらかね」
「そうか、じゃあアオバとこの付近で適当に・・・」
「なに言っている?貴様はトイレ前で見張り。所謂人質ね。片方どちらかをあたしに付いてこさせれれば置いてくはずがないと睨んだ。アオバはあたしが行きたくなりそうな店のリサーチ。10分後ぐらいにはここに戻り待機。食事処の店なんて並んで経営するのが多いから10分もあれは2、3件は見つかるはず。馬鹿みたいに高く料理提供に時間を要す高級店は除外」
駆け出すて同時に、くっ付けた人さし指と中指をアオバへ向け「よろしくね!」を言い残す
その後を、モトキが追いかける。付いて行かなかったり、置き去りにすれば半殺しは本気でしてきそうなので
残されたアオバは数秒、キョトンとしていたが、背中に装備された剣の感触がネフウィネに背を叩かれたようでハッとする。とにかく足は動かし、リサーチを開始
トイレまでかなりのスピードで走り抜ける。街の地図は記憶に刻まれているので1番近い公衆トイレは200メートルの距離
運が悪いのか、位置が悪かったのか、そこそこな移動距離。今度、街の公衆トイレの数を増やす案を考えるが、それは今トイレに行きたいからである
「見張ってなよモトキ!」
「仰せのままに」
ちゃんと付いてきてくれていた。少し間隔を空けている気もするが逃げずに、追いつけずにいるので良しとしよう
滑り込むようにトイレに飛び込んだ。続いてモトキも勢いのまま女子トイレに入ってしまいそうになったが、それはダメだと急ブレーキと慌てながらの足の方向転換でトイレ入口横の壁に激突
「身体がそこそこ丈夫で助かった」
鼻を隠すように覆う手の指と指の隙間からボタボタ、一滴一滴鼻血が滴り、しゃがみトイレの終わりを待つ。早朝から餌でも探してるのか、地を突く鳩を眺め「優雅だなぁ」が不意に口から漏れた
その一方、アオバはとにかく目に入った飲食店と自分の知る店の店名をメモ。記憶力はいいので、必要はなさそうだが念の為である
現時刻は朝陽の午前の4時30分前、人気はからっきし、早朝から営業している店は限られるだろう。なんなら、昨夜2人でいった店は朝の5時まで営業している。リミットが迫るがネフウィネの食事は重要な会食ではないかぎり軽く、早くなのは承知しているのでノープロブレム
「メモは取ったけど、必要なかったかも。その店嫌とか言われた時の為に一応は・・・」
千切ったメモ用紙を折り畳み、制服の胸ポケットにしまったその時、彼女の耳に空を切るようなブォンッ!!という音が耳を突き抜けた
何の音?と反応する前に危険察知が先に巡った。今立つ位置から右へ跳び回避を行った直後、立っていた位置を中心に硬い地は砕かれ、破片と摩擦により生じた火花の散る中で、彼女の目は捉えていた。落ちてきたのは片手で持てる短めの柄、頭部はドス黒く、木殺し面の片方は捻り尖り、側面には小さな虫の羽を模した装飾が施された槌
「つ、槌!?」
砕かれ地の破片、大きめの1つが彼女の右腕に。腕は大きくヘコみ、へし折られたかのように見えたが、破片は少量の血を付着させ落ち、腕は刺さり傷を負っただけ
痛みを少しでも和らげる気休めのつもりで、傷口を手で押さえ僅かに動かし擦る
落ちてきた槌は地に刺さっていたが、独りでに抜け、一瞬にして消える炎を撒き散らせながら誰かの手に戻り、その手から真上へ放り投げられ、開いたバックパックへ入った
「あなた・・・昨日の!」
見覚えがあった。昨夜に夜食をとった店の前で、モトキに声をかけてきた女性
あの時、自分は先に帰り後のことは知らない。まさか、モトキが何か彼女に恨みを買う真似をして外堀から埋める理由として一緒にいた自分を襲いにきたのでは?と考えたが、それなら昨夜の時点で即発していそうだ。昨夜の街は静かだった
「私に用?用にしろ、危なっかしいご挨拶よ」
「挨拶のつもりじゃなかった。躱されたなら話す時間と理由ぐらいくれてやる。その背に携える得物をよこせ!」
その説明後、彼女は走り迫る。アオバは逃げる選択肢が出ず、身構えてしまった
そんな事が起こる予想などまったく想像つくはずもないモトキは、トイレ前でただ大人しく待つ。頭や胡座をかく膝に鳩が止まる
「鳩か・・・鳩な・・・昔目撃した猫が鳩群れに飛び込み狩に成功した際に、喉笛を噛み付かれた鳩の鳴き声真似をしてみるか」
どうして思い立ったのかは不明、たぶん鳩で連想して幼少時の記憶を思い出したのだろう
くだらない真似事かもしれないが、鳩に向けワザとらしく声真似を今からまさに行う寸前であった
地響きに似た凄まじい音、モトキに止まっていた鳩が一斉に飛び立ち、音が耳と脳に響く
「なんだ!?なんだ!?なんだ!?」
戸惑いはあった。しかし、すぐにモトキは冷静になり音のした方角と状況の確認を行おうとしたが、不意に背後から爆発音。気がついたら自身の体は低空飛行で吹き飛び、トイレを利用させてもらった自然公園内の記念樹に突き刺さった
公衆トイレは半壊、主に向かい立って右の女子トイレ部分を主に瓦礫と化す
瓦礫の砂塵と煙よりネフウィネが現れる。片手にはトイレットペーパー1ロールを手に持ちながら
「モトキ、なに樹木に刺さってる?カミキリムシの幼虫がいたの?さっさと参上しに行くよ!」
走り、スピードは緩めず、記念樹に刺さるモトキの左足首を掴み引き抜くとそのまま引き摺り現場へ急行
跳ね、叩きつけられ、引き摺られ、また樹木に刺さるわ引き摺られるわで今日は早朝から散々だなとひっそり呟いた
「手間取らせやがってよぉ・・・」
時刻、午前4時32分。余計な抵抗をされ、腹ただしい顔をする。彼女の目の前にはアオバが地に顔を付け倒れており、髪は乱れ、瓦礫の小さな破片が絡み、制服も切られ、破れ、擦られた等により状態も酷い
そんな彼女の背より、鞘に納まる剣を力任せにベルトを引き千切り、回収
鞘から刃を覗かせ、思わず「おぉ・・・っ!」と恍惚する
「二の刃と、その間で主張する一の刃。鞘から間違いなく、これは世に二振りあるとされる宝剣・神触之三葉。もう一振りの入手は諦めざるをえないのに、まさかこんな簡単に、この街に、こんな女の手にあったとは。これは、あたいに手に入れさせるが為の運命・・・」
剣を抱き締める。とても嬉しい、とても喜ばしい、飛び跳ねて喜びたい気分
うっとりとしていた。静かな所で、じっくり全体を舐め回すように眺めたい
だが、そんな彼女の心地良い気分を邪魔するのは、自分の足首を掴む叩きのめした女の手
「あー、あぁー、あー。かわいそうになる」
指で耳穴をほじくり、乱暴に足を動かし振り解くとアオバの背に右足を置き、動けないよう力を入れ押さえつけた。鈍い音がする
押さえつけたはいいが、ここからどうしようか悩む。名のある剣を手に入れたので、この街に長居は本当に無用となった
「素直に二つ返事で渡してくれたら、こうも痛い目を見ずに済んだのに・・・」
もう起き上がれないはずだが、もしもの場合となり追われるのは嫌なので手足に何か刺しておこうかと考え、バックパックを開く
「魔撃を使おう。手足に撃つは銀の弾丸ではなく純白なる楔」
バックパックより取り出され、手にしたのは銀製の回転式拳銃。銃口も、銃身も、大きくどっしり重さを感じさせる見た目だが手のサイズがよほど小さくなければ片手だけで扱えるぐらいに重さはない
使われるのは弾丸、だが銃口から分かるように市販されている一般の物は使えない。引き金に指を掛けられた際に反応し、銀製の弾丸が自動生成、装填される
銀製の弾丸をそのまま撃つのが主な攻撃手段だが、他にも相手を拘束や張り付けに使う魔力の楔、牽制用が主の火炎放射とそれが燃え移った場合や花壇の水やりに使える放水、魔力の刃が銃口より飛び出し、近接武器として切り替え可能
弾丸発射から、別の機能への変更は何か特殊な手段や仕掛けで変えれるのではなく、これができるのを「知っている」必要がある
数多ものヴァンパイアや獣人種と死闘を繰り広げた人間ながらも魔法使いと称され別名魔物狩り、ブラトネス・フォート作、愛銃
「打ち込まれた楔、悔しがり震え、傷口を広がせな」
引き金が引かれた。まずは右手の甲、どちらからでもよかったが、利き手だろうと適当に信じて
しかし、楔はアオバの手甲に打ち込まれる事は無かった
楔は、割り込んできたトイレットペーパーに刺さった。落ちて、数回跳ね、転がっていくトイレットペーパーは楔が刺さったおかげで、地に薄く脆い白き絨毯が敷かれることはなかった




