Master The Orderの先頭位置 4
夢だと自覚はあるものの、魘される夢であった。暗闇に燃える街、積み上げられるはあの時に目にしたのと同じ、憲兵の制服に身を包んだ者の死体。それらを背景に、ガスマスクを被り、ネクタイを揺らす者がモトキの先で待ち構える
ジョーカーがそこにいた。四方八方より、彼の不気味な笑い声が聴こえてくる。襲うのは脳みそを指で直接触れられ、突き刺さし、掻き回されているような痛みのない感覚
まさに夢であってほしかった現実の悪夢
夢にまで現れ、彼は足元より闇を生ませながら歩み寄り、動けないでいるモトキに左手を近づけてきた
「うわああああっ!!」
「びっくりするじゃないか!」
寸前で慌て起きた直後、頭に蹴りを入れられてしまった。モトキは「す、すみません」と謝り、蹴られた箇所を撫で、起きたがやはり少しまだ眠たくボーっと目先の何もない一点をただ見つめる
(アオバの話を聞き、影響が夢に現れるとは・・・どれだけあの日をトラウマに・・・)
「魘されてたけど、巨漢デブの豚みたいな女数人に抱き挟まれる夢でも見たのかい?」
「それだったら笑い話にできるからどれだけマシか・・・ん?」
声主がアオバでないことに今気づいた。彼女が寝ていた囲炉裏を挟んだ向かいには橙色の髪を持つ、ショートヘアーの少女が胡座をかく
「どちら様で?」とモトキが尋ね、彼女は立ち上がり「そうね・・・」と溜めてから
「貴様こそどちら様じゃーーーっ!!」
低い天井にぶつかるギリギリを、宙返りからの踵落としをモトキの脳天に落とした
白刃どりで止めようとしたが、失敗し鼻の両アナから鼻血が噴き出す
「な、何事!?」
騒ぎを聞きつけ、アオバが茶の淹れた湯呑みを3つ乗せたトレーを手に、慌て滑り込んできた
少女はトレーに乗る湯呑みを手に取り、茶を一気に飲み干す
「アオバ!あたしの海老煎餅!」
「ありません」
「なんで?なんで!なんで!?」の一言毎にアオバに攻め寄り、両肩を掴み揺すり始めた
鼻血を拭い、モトキは「すまん。食べたのは俺だ」と挙手
「ほぉほぉ・・・つまり貴様の仕業と。もしアオバを庇う形ならそれでけっこう。彼女は同じ生徒会の者として、キビキビ働くから居なくなったら困る事柄が多そう。なので、たとえアオバだったとしても、一般生徒の1人に犠牲になってもらいスカッとさせていただこう」
湯呑みを握り砕き、その破片の1つ1つに指をさしながら「どれにしようかな・・・」と選び
最後の言う通りで止まった破片を摘み、モトキ目掛け投げようとした寸前でアオバが彼女に耳打ち
「ふんふん?ふーん・・・貴様がね。あのベルガヨルとつるんで仲良しこよししてる人タラシは」
湯呑みの破片を他のまだ茶の入った湯呑みに落とし、指を洗う。アオバの目が点になった
「ようこそ生徒会へみたいに歓迎ムードを醸し出しはしない。あるのはそう、海老煎餅の恨みと男女一夜共にした昨夜から今朝にかけての疑惑に生徒会室で貴様は何をしとんじゃ?の問い詰め」
彼女は残り2つの湯呑みを手に取り、交互に茶を飲む横で、モトキが生徒会室にいる理由をアオバが説明してくれた。くだらなさすぎる事情を聞いた顔に変貌
「ふん、窓ガラス1枚ごときにこの生徒会を罰の利用目的にされるとは。つい先程、学園長の元へ訪れたのに一言もそのような事情説明はなかった。ま、ま、どうにこうにせよ、10日間奴隷が加わるのはメリットデメリット、影響は皆無ね。おい下僕、あたしは今からモーニングを食べに行くから荷物持ちしろ。特に荷物はないけど、心の負荷や肩の重荷を運べ」
湯呑みを囲炉裏の灰へ投入。割れず、優しく、2つを灰は砂塵すら舞い上げず受け止めてくれた
以上の言葉の最後、「運べ」の部分で彼女はモトキに指をさしながら、アオバの膝を枕に横になる
「ごめんなさい、モトキ君」
「いや、罵られるなり、馬鹿にされるのは慣れている」
寝返りをうち、天井を見つめるも視線の途中、お山がチラつく。自分の胸を触り、段々と不機嫌な顔に変わると突然アオバの胸を掴み握った
「いたたたたたたたぁっ!」
「アオバぁ!その乳寄越せよ。大切にするからさ」
やりとりを目の当たりにし、「人間の性か」と口が滑った。アオバの胸を揉む彼女はモトキの方へ無表情な顔を向け、ゆっくり上半身を起こした
その体勢、その場からモトキへ飛びかかり強襲。両手は胸ぐらを掴み、揺する
「ないものを求めるのが人間の性だとでも!?」
「正解だからそうですとしか・・・」
アオバが彼女の背後から胴へ手を回し「やめてください」と抑制させようとするが、ちょっぴりその気になれば簡単に振り解かれそうだ
「よし、落ち着いてやろう」と、掴むモトキの胸ぐらより手を離し、横座に座る。不機嫌そうな表情に変わりなく
「モトキ君、大丈夫?」
「あれが彼女なりの歓迎だと捉えとくさ。で、起きて早々、その歓迎をしてくれた彼女は一体?」
拍子抜けた顔に「え・・・?」の後、アオバは彼女の方を確認。彼女は横目でこちらを睨み、溜息
「知らないの!あの方はネフウィネ・マウラウドさん。マウラウド家の御息女であり、当学園の生徒会長でもあり、Master The OrderのFirst、つまり学園内におけるMaster The Order内のトップ」
「へぇ、ミナールやキハネと一緒か」
「モトキ君、学園内情報に乏しいのね」
一緒にされたその言葉はネフウィネの癪に触ったのか、アオバの頭をグイッと押さえ、身を乗り出してきた。頭突きを喰らわす寸前にて、彼女はモトキに物申す
「あんなカス共と一緒にすんじゃない!言わせてもらうけど!キハネなり、ミナールなり、ベルガヨルなり、そいつらと関わり学園生活を送れてるからって虚勢を張らないことね!あたしからすれば、一般生徒も他のMaster The Orderも大差なし!」
指でモトキの額を連続して突くも、突然その指は止まった
「Master The Orderなんて、あたし以外どんぐりの背比べ。ま、せいぜいタイガぐらいかな?あの面々の中で少なくとも認めざるを得ないのは。まさかSecondもThirdも飛び越え最後尾の者とは」
握り拳を口に当て、「くししし・・・」と怪しく笑う。彼女の中でのランク付けはどうでもいい、ネフウィネ自身もその話はどうでもよくなった
アオバに自分のローファーを持ってくるよう頼み、彼女もまた二つ返事でそれを取りに
持ってきたローファーは踵部分が踏まれた後、やはりと言うべきか靴の踵を踏んだ履き方
「さぁ!朝ご飯!朝ご飯!学園には久々だし、ここに来るに時間を要しあまり食事しなかったから胃袋が限界!あたしの海老煎餅を食べ者と提供した者のお二人も付き合うよね!もちろん!」
アオバは控えめな「はい・・・」の返事、モトキもしょうがないと返事しようとした次の瞬間、突然ネフウィネに顔面を殴られ、足を掴まれると引き摺り運ばれる
断りは、鼻から無理だったようだ
(Master The Orderはこんなのばかりかよ)
興味本位で果たし状を丁寧に突きつけるやつ、モトキをMaster The Orderに入れようと力づくで連れて行こうとするやつ、ミナールの取り巻きを拐い戦線布告を仕掛けるやつ。唐突に何かを行う者ばかり
段差等で頭を何度もぶつけられながらの移動
「自分で歩けぇっ!」
校庭に、学園長が長年世話をしている見事な一本松の木にモトキを投げぶつける。彼女の手に残るのは、モトキが履いていたブーツの右足だけ
頭から松の幹にぶっ刺さり、的に刺さったダーツのようにピンと真っ直ぐな姿勢である
戸惑うアオバの横で、ネフウィネは彼のブーツを数回リフティングし、次の落下のタイミングで蹴り飛ばすと、元の右足に嵌めた
モトキに片方のなくなっていたブーツの感触が戻ったのが分かると、両足で松の幹を踏み押し、刺さった頭を引き抜く
「ふぅっ!」
髪に絡まる木屑や虫を払い落とす。落ちた小さな虫を指で摘み拾い、松の木を見つめた
「モトキー?打ちどころが悪かったかい?それとも、投げらた恨みを松木に八つ当たりしようと?」
「違う、投げられ松の木にぶっ刺されたぐらいじゃあ恨みはしねえよ。シロアリだ。全体まで侵食はしてないが、所々シロアリの住処と化し腐敗していたのでな」
「シロアリかぁ。校庭内の他の木々や木造物に被害が現れる前に・・・ぶっ壊しちゃおう」
「それがいい」
モトキは両手剣を、ネフウィネは三又の細い刀身、その間に伸びる二又の刃より少し長めだが、同じく細い刃の持つ剣を手に
2人で松の木を一振り、両者共力技で斜めに三等分にする
切り捨て、両手剣は鞘に納まり光と化して消えたが、ネフウィネは自身の剣を鞘に納めるとアオバへ投げ渡す
「アオバ、貴様に預けとく」
「わ、私に任せ、いいのですか?ネフウィネさんの大切な愛剣なのでしょう?」
「街内で暴漢に襲われたり、事件に巻き込まれる可能性も歪めない。けど出しっぱなしにしたいのに持つのも面倒。だから結構。それに、カスみたいなMaster The Order共やただの生徒よりかは信用できるから」
アオバは彼女の剣を背に装備。鞘のベルトの留め具を調整している間、モトキとネフウィネは松の木を踏み砕き、夕方ぐらいに燃やし、その炭を花壇等の肥料にするつもりでいる
「学園長が長ったらしい松を植えた経緯話と大切にしてるとぬかしてたような記憶もあったけどまぁいっか!学園長の思い出よりあたしの食事よ!朝食を目指し、行くよアオバ!モトキ!遅れたら眉間突きね眉間突き!」
このMaster The OrderのFirst、朝から元気である。これがミナールやベルガヨルよりも上、しかもトップである風格は今のところ感じられない
怒らせたら隠れていたものが露わになるのだろうか?