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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
Master The Orderの中芯
110/217

Master The Orderの先頭位置

時は戻り、モトキが10日間、生徒会の手伝いをさせられる事となった日の早朝であった

学園がある街とはまた別の大都市、その外れに建てられた巨大な屋敷からは時間帯関係なく、敷地内から門外にまで人がごった返している

ここは商会や商人を束ねる元締め、マウラウド家の屋敷である。各地区や地域、土地での商業許可や出資、必要とあらば場所の提供、違法商業の取り締まり、その他諸々等を行う名門

こんな朝早くから人が蔓延るのは常日頃ではなく、ある問題が起きたからだ

一室で、橙色の髪を持つ男性が「次の方」とまだ終わりそうになさそうな雰囲気を覚悟しながら手と視線は書類の整理。派手な服を着た男の次に入ってきたのは膨よかな体型に布にまとめ包んだ大荷物を背負う男、身なりから旅商人だろう


「発言を許可する」


1枚の書類に、自身のサインを書いてからペンを一度置く

部屋の外は長蛇の列、その列を尻目に橙色の髪を持つ2人の男女が部屋に迫って来ていた。女性の方が並ぶ扉前の先頭から3人を乱暴めに蹴り、割り込む

扉をノックせず、怒り口調で「お父様!!」と呼びながら跳び膝蹴りで突き破り入室

旅商人の男は目を丸くし、驚いた表情。そんな男に出ていくよう指をさした。商人の男はビクリと身体を震わせると、逃げるように慌て部屋を出る

彼女の鋭い視線が、再度ペンを取ろうとする男に向けられた


「ネフウィネ、父にその視線を向けるな。反抗期となるまでの歳になったかと成長を悦ぶべきか、娘の蔑む目に親として落ち込むべきか」


「好きに捉えてなさいよ!」


歯軋りしながら、怒りを露わにする彼女に遅れて男の方も最後に外で待つ人々に一礼してから入室

ネフウィネの頭に手を置き、落ち着かせようとするも彼の視線もまた、男に向けられていた


「ハマーよ、貴様もワシに物申したい事があるのだろう」


「はい、仰るとうりですお父様。しかし、この場で長々と申しても解決となり、動きに発展するのかどうか、それはNOです」


ネフウィネの頭に置く手は、父へ刺すように指を向ける形へ。そのまま扉前へ移動し、ノックを4回

それを合図に扉は開き、ぞろぞろと人が入ってくる。最後に入室した2人だけは、顔を伏せていた


「幹部達か・・・」


「はい。早朝より訪れていただいた、かの者達の話を受け答えする時間を取るぐらいならば、役職の者達と手短だろうと議論すべきと判断して呼び寄せました。計9名、ここに」


「余計な真似を、馬鹿やそこそこに優秀な商人ばかりを相手にしておけば楽に流せたものを」


父の言葉にこれ以上の受け答えの投げ合いは不要。9人全員へ向け礼を述べ、ハマーは「さて・・・」と呟き、顔を伏せていた2人に声を掛ける


「父の前へ、どうぞ。心配なさらず」


見た目からして中年の男と若い男は悔み、申し訳なさそうな顔であるが、僅かながら怒りと憎悪すら感じ取れる顔をしていた

ハマーとネフウィネに頭を下げ、2人の父の前へ


「この場にいる者達だけだろうな?耳打ちしてる者はおらぬか外を見ろ」


「聞かれてもいいんじゃないの?お父様。仮に盗み聞きされて拡まる事態になったとしても、今件、さっきみたいに訪れた1人1人に言い訳がましい事をするよりずっとあり」


父へ強気な態度を突きつけるネフウィネの発言に、ハマーも「私も妹に賛成です」と賛同

我が子2人の気迫に押され、反論できず、深く溜息


「端を発する原因は、この2人が移住者と偽った者に商業許可を出してしまい、それが革命軍の工作員。保護対象となる希少生物の毛皮や角を売り密売、それを目当てに買った貴族や大商人をワザと国の上層に報告して逮捕に動かさせる。そして、その家の差し押さえされる一部財産を搔っ払い逃走。おかげで名門のラベージ家、名ある布や衣服素材の商人だったサオナギ家は事実上没落寸前の危険位置、その他諸々」


彼女は今件、被害にあった者のリストに目を通す。革命軍も悪いが、富豪に芽生えやすい珍しいや希少を欲する欲に走ったのも自業自得だと呆れ口調

そして問題はまた別に。許可して事態を起こす原因をつくってしまった2人は、事の説明と謝罪文を新聞社に送るつもりでいたのだが、静観の命令と脅迫を受け、動けずに日にちが過ぎてしまい、もはや徹底的に処分される覚悟で発表したところ、静観命令と脅迫して抑えた上層部にも批難が集まったのだ

多少なり事態は終息し始めてはいるが、連日商業関連者が訪ねる毎日は続く。多すぎるのもあるが、繰り返し来ている人もいる


「言わしてもらうけどお父様、この2人に謹慎を言い渡したのはまだいいとして、辞職させるのはお兄様と私は納得してないから。あっ、どうせ謹慎中のやつらを連れてくるなって逸らす口実を言う寸前でしょ。そうはさせない、処罰状況はいったん無視!」


「無視!無視!」を一言毎に、強く一歩ずつ踏み進み、今件の問題の原因となった2人の間を無理矢理押し退け、父に迫る

仰け反りそうなっている父は「わかったから」と、娘の顔面を手で押し返す顔は面倒臭そうだ

ハマーが妹の後襟を掴み、父から離れさせると自分の隣に


「お父様、問題の原因は確かにこの御二方です。しかし数ある人の中からそういった企みや革命軍であったり、敵国のスパイを見抜くのは不可能ではありませんか?まさかそれを見極めるのがプロとでも?そしてですが、何故お2人の言い分と謝罪の申し出を受けずして静観の命令を?」


「・・・ふぅ」


「黙りですか。もう1つ、勝手に謝罪への動きと告発する真似をすればこのお2人の部下全員も解雇すると仰られたようですね。脅されたと変えましょうか?」


今度はハマーが迫り、机をに右手を置きながら少し乗り出す姿勢で指をさす。反論する様子のない父の姿、それを見かねてか古株であろう男が割って入る


「あれは、冗談のおつもりで!」


「あなたはその場におられなかっただろうが!」


彼が声をあげ、口調が変化してしまうのは珍しかったのだろう。ネフウィネも、他も、驚いた表情


「こほん。失礼、戻します。動きに出ようとした者を抑制する行為に、内部メンバーからお父様への不満もあります。特に、この御二方の部下達から。悔しいのでしょうね、御二方の部下はお父様にではなく、この2人に付いていき、そして立場の事情、何もできずに・・・」


発言を途中、まだ言いたいことはあるが途切れさせる。幹部の1人が顔を歪ませ、声を発しようとしているのを察したからだ


「気に入らなかったらやめろ!あいつらふぜいが言うか!」


それに1匹の犬が吠え、別の犬も吠え始めるのと同じように、そこそこ歳を重ねている幹部が続けて発言


「悔しいなら這い上がってこいよ!」


「そうよね。昔は文句を言わず、黙って上の指示に疑問があっても従って、プロ根性で乗り切ったもの・・・」


その言葉に続いて坊主頭をした中年の男が頷くが、直後にネフウィネは書類の積まれた父の机を蹴り飛ばし、窓を突き破る

殺して黙らしてやりたい衝動を、声にしてぶつけ始めた


「はぁ?この2人にあった問題と、お父様の問題とは別じゃない!なに関係ないこと言ってるの!?馬鹿!?組織内の原住民とはこのこと!」


ハマーが落ち着けと彼女を羽交い締めながら宥める横で、複数の内、男3人女1人の計4人の幹部は縮こまってしまっていた

落ち着いたネフウィネは深く、溜息のように息を吐いてから、次は父へ突きつける


「今回の騒動で、お父様には失脚してもらうから。お母様と仲良く、静かな所で余生を過ごして。ついでにこの4人もクビ、どちらかを擁護するならまだしも・・・長きに渡りお勤めご苦労様の労いすらしたくない」


扉を開けず、掌を当て、周りの壁ごと木っ端微塵に崩壊させ、部屋を去ろうとするが兄が呼び止める

「何処へ?」の問いに、彼女は「学園」とだけ返答

取り残された者達は、しばしの静寂


「ネフウィネが学園に顔を出すのは、久しぶりになるか・・・」


ハマーが1人、静かに呟いた

彼の声が耳を通り抜け、ハッとすぐさま先程について尋ねたのは「あれは、冗談のおつもりで!」と嘘をついてしまった者


「あれは、ネフウィネ様が場の勢いで口走った冗談ですよね?」


再び、今度は1秒も経過しない静寂。それはとても長く感じ、早くこの空気が終われと思わず念じてしまいそうだ

ハマーの視線は、尋ねてきた人にではなく、まず父を一睨みしてから答えた


「いえ、妹が言わなければ自分が宣告していたでしょう。御二方の謹慎は解除、貴方が嘘をついたのは許しますが、お父様には失脚を、そしてかの4名は解雇とさせていただきます。よろしいですね、お父様?まさか、ここにきて足掻く無様を晒して終わりになるはずがありませんよね?」


息子から、父への口調は冷たく感じるものだった。男はただ、力が抜けたように椅子にもたれ、息を長めに吐くだけ


「では本日を持ち、お父様の席に座らせていただきます」


拒否する仕草もなく、席から立ちあがると息子へ一言も声をかけずに崩壊した扉とその周りの壁の残骸を踏み、部屋を去るが見せるのは背中だけ。一切振りかえることもなく、背からは心境も読み取れない

そして、父のベネサス・マウラウドの座っていた椅子にハマーは腰を下ろす

幹部達は茫然としていたが、すぐに彼へ頭を下げるタイミングで制服に着替えたネフウィネが戻ってきた


「さっきすれ違ったお父様の顔真似をしてほしい?」


「いや、よしておこう。それよりもネフウィネ、今から学園に顔を出すつもりならば当主が代替わりなさったと、一応学園長に伝えておいてください。あなたは人見知りですから、必要ないと自己判断なされたならばわざわざ学園長室に足を運ぶのは結構です」


「通ってもう5年くらいよ、学園長の顔ぐらい見飽きてきてるから」


念の為、文を書いて渡しておこうかとハマーは提案したが、彼女は断る。「あんなの大丈夫以前」と残し、自分が崩壊させた扉ではなく、窓から飛び降りた

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