寒気呟く白き橋にて 5
左手に持つ独鈷杵の刃に、水の力を施す。
元より光の力を施してある右手に持つ得物と同じ形状にすると、身を低めて一瞬にしてモトキの懐へと入り、猛攻を仕掛ける。
だが、水の刃から放った最初の一撃を両手剣で防がれてしまった。
鍔迫り合いから両者は弾かれあい、互いに大きく後退して距離をとる。
「さっきまでとは・・・やっぱり違うようになったじゃない」
彼の変わり様に関心が芽生え、少し舐めて油断した自分に反省する。
ならば、もう1段階実力を出す。
ミナールは、その場から高所まで跳び上がり、左手に持つ独鈷杵に纏う水の刃を4回続けて鉄骨の外側へ向けて射出すれば、谷底より再び水柱が、今度は数を4つに増やして噴き出した。
「水竜舞・現象噛み」
先程みたいに正面から仕掛けるのではなく、4つの水柱は昇り上がると方向を変え、上空より4体の翼を生やしたドラゴンの姿となって襲いかかる。
モトキは防御の姿勢はとらず、左手に握る両手剣を斬り上げる体勢へ。
「天斬りぃぃっっ!!」
瞬時に跳び上がり、4体の水の竜を浮かんだ巨大な天の文字ごとまとめて一刀両断した。
だが、これはミナールにとっては想定内。モトキが着地したタイミングに攻め込み、右手に握る独鈷杵の光刃で突の連撃を放つ。
「貫かれまくってジョウロの口になりなさい!」
その攻撃に対し、モトキも剣の先端で同様に連続突きを行い、両手剣と独鈷杵がぶつかり合う。
しかし、突如としてミナールは突きから、モトキの持つ剣の刀身に重い一撃を叩き込むとそのまま得物を押しつけ支点とし、身体に捻りを加えると衝突する力と力を流すように回転しながら抜け出した。
その際、左手に持つ独鈷杵の水刃がモトキの左肩から胸にかけて斬りつけ、水と血液の水滴は冷たい橋へと落ちる。
「浅かったわ!」
斬り抜けて、背後に降り立つミナールを今度はこちらから着地したところを狙おうとした。
しかし、彼女は強く着地することで着地地点の足場を踏み砕き、舞い上がった金属の破片を掴むとモトキに向けて投げつける。
彼女の手から放たれた幾つもの金属の破片は赤熱し、猛スピードで迫ってきた。
「む!高熱!?」
金属が赤熱しているのは、高温によるものであるのは明白。
あれを対処するのは剣でも盾でもなく、己が拳。
盾を右手から消し、拳を握りしめて光を生む。
そして、光の力を得た右拳を突き放った。
「逆鱗パンチ!放出!」
拳から放たれた光の属性エネルギーは、赤熱する金属の破片を呑み込み、消滅させる。
そのままミナールへ到達するが、彼女の独鈷杵に施された光の刃が斬り裂いた。
しかし、裂けた光の先よりモトキが現れる。
「2発目!逆鱗パンチ!!!」
思わず「速い!」と、口から溢れたミナールの頬に、光が纏った右拳が撃ち込まれた。
一撃をくらい、彼女は大きく殴り飛ばされてしまう。
「うっ!」
取り巻き達の悲鳴が聞こえ、咄嗟に両手の独鈷杵を鉄橋に刺すことでブレーキをかけ、すぐさま体勢を整える。
「やってくれるじゃない!」
今の技といい、水の竜を斬った天斬りといい、タイガと同じ時を育ったのだろうと実感した。
殴られた左頬を撫で、少し笑みを見せる。
「こちらからも攻めていくぞ・・・」
そう言いモトキは、盾を再び右手に。
剣刃を盾に1度擦りつけ、火花を散らせると橋へ両手剣を突き刺し、振り上げる。
「フラッシュ!ウェーブ!」
森の木々など容易に越える規模をほこる波の如く光の斬撃が放たれ、橋を斬り進む。
「いいわよ!受けて立つわ!」
ミナールは迫り到達する光の斬撃を独鈷杵の刃をクロスさせ、真っ向から受け止めた。
押され、靴底が橋を削り、少し後退させられるが踏み止まる。
取り巻き達が、自分の名前を口々に叫ぶのが聞こえてきた。
「うぐっ・・・!ぐうぅっ!うれぇっ!!」
力を絞りだし、己の得物と斬撃との間に僅かな隙間をつくると。一気に対となる独鈷杵の光と水の刃で光の斬撃を斬り裂き、消滅させる。
「ここまで噛まれるなんてね・・・!!」
彼は今年、高等部からの入学者の中では飛び抜けてると言っても過言ではないだろう。
「いいわ!あんたを私は認める!」
モトキとミナールは、同時に笑みを向け合った。
タイガもまた、静かに笑う。
その異様ともとれる光景に、ミナールの取り巻き達は彼女のプライドを知っているが、それでも加勢しようとするもミナールは「やめなさい!」と、怒鳴りつける。
「ふぅ・・・!さてさて、では・・・!さっそくあんたに幕切れを!」
指先を、ゆっくり相手に向ける。
放出された光の細い一線は、薙ぎ払う時と同じく膨大化。
それに対しモトキは、盾を投げ、その面より光の波動を放出。
「なっ!!」
光の波動とビーム光が接触すると同時にモトキは両手剣の柄を両手で握り、ぶつかり合う光へと飛び込んだ。
光の力をその身に受けるが、力を込めた剣の一振りで斬り払えば、男はミナールの目前へ迫っていた。
互いの瞳が互いの姿を映し、そして光を纏った右拳が彼女の腹部へと撃ち込まれる。
彼女の瞳が縮小し、背から光の力が突き抜け、口から透明の液体を吐き出す。
「がはっっ!!」
「入った!」と、モトキは思った。
このまま、殴り飛ばしてトドメとしようとしたその時、ミナールは自分の両手を握り合わせる。
その手に得物の独鈷杵はなく、手からの水の属性エネルギーに、高温が触れさせた。
本当に咄嗟な行いだった為、あまり力を使えずに小規模ながら、威力を凝縮させた水蒸気爆発を誘発する。
凄まじい轟音と共に鉄橋は完全に崩壊し、モトキも吹き飛ばされ、意識が途絶えた。




