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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
107/217

チームF 12

今朝は髭を剃ってみた。昨日(さくじつ)の夕刻、5歳の孫に、伸ばしていた髭が気持ち悪いと心無く言われてしまったからだ

しかし、髭を剃った顔は孫にいつものお髭じゃないと言われてしまい、今朝の間はショックを隠せず

眼鏡を拭き、日中の陽射しが照りつける中である報告を待つ。ポケットに入れていた懐中時計を確認し、「時間か」と呟いた

聖帝兵数人、Master The Orderのタイガとベルガヨル、そして喋る気力も動く元気もほとんどなく、座りこんだり、ヘタっている生徒数名

場所は今回の行事にあたり、スタート地点となった場所。生徒の数は最初より、過半数以上に減ってしまっていた


「学園長、最終日までに残った人数表記と個人名の一覧表です」


「どうも・・・」


兵士から僅かに土汚れが付着した木製ボードを下敷きにした書類を渡され、目を通す

少ないと軽蔑する溜息か、残った方だなと安堵にすら遠い気持ち整理の溜息か。眼鏡をかけてから一息


「他に耳に入れておくべき報せはあるか?ないだろ?生徒の行事に兵士達を使ってまで監視を徹底していたのだから」


「あります」


「あるのか!?」と、落胆する。眼鏡を外し、眉間にシワを寄せ、そこを摘む

起きた問題を訊ねた。兵士の本心は一学園の学園長なだけのくせに偉そうに思いながらも、伝える


「実はリタイアした者、最終日までに残った者を合わせての生徒人数が2名足りず、調べたところオーベール・ボラントルと姓名登録無しのモトキという者が行方知らずとなっております」


学園長は数いる生徒の中でオーベールの名を覚えてるはずもないが、モトキの名を聞いて「あいつか」と意識せず口から溢した

名を聞いて近くにいたタイガは首を傾げ、何故か薄汚れているベルガヨルは中指と薬指を使った指笛を鳴らす

指笛を鳴らしてすぐ、メイソンとライリーが現れた。ヒナトもついでに


「お呼びですか?ベルガヨル様」


「あ?誰だその女は?まあいい。メイソン、ライリー、もう1人行方不明らしいがそいつは死のうがどうでもいいとしてモトキはどうした?一緒だったのだろ?」


「はい、2日目の朝までは一緒でした。ですが、食料調達に赴いてから一向に戻らず、その内に帰ってくるや大丈夫でしょうと余裕こいてたら5日目になってまして。捜索も考えましたが、行き違いをして、私達を捜しに向かわれ、また行き違いとなる可能性もありましたし、今回のモトキ殿の技量から無事と信じ判断して、拠点から動かずに過ごす決断を」


「うーむ、モトキの技量を信じてお前とライリーはお前達なりに判断したのだな、それなら良し。その良しを完璧にする為にタイガ、お前に問うけどよー!地区担当を決める際に平等にコイントスで決めたのにお前はサボってたのか?」


「モトキのところは初日だけだ。1日ごとに他のチームへも巡回しなくちゃならなかったからな。もしもがあっても、遭難ぐらいじゃ死なねーよ、あいつは。もう1人の安否は知らぬだけど」


オロオロするヒナト、理由は2つある。1つは、Master The Orderの2人にこうも接近して会話に巻き込まれている事。もう1つは、この2人はモトキなら無事であると信頼しているがオーベールの安否は眼中無しな事。一応、彼は同郷の幼馴染である


「放っておいても2日ぐらいしたら帰ってくるだろうけど、捜しに行ってみるか」


捜索開始のつもりのタイガだったが、聞いていた学園長が止めに入る

そんなことは御構い無しに「どけ」と彼ではなく、ベルガヨルが学園長を蹴り飛ばしてしまった

ヒナトはうつ伏せに倒れ動かなくなった学園長と勝手に捜しに行こうとする2人を交互に見ながら慌てふためく

どこから?まずは拠点となっていた場所から?と思考していたタイガの耳に突然、遠くから「おーい!」と叫ぶ声が聞こえた

聞き馴染みのある声、しかし声主は1人。オーベールという者は死んだか?と早計したが、声主であるモトキは誰かを背負っている。ぐったりしているようにも見え、もしかしたら死んでいるのかもしれない


「ようモトキ、5日ぶりだな」


「おー、タイガ。お前がいたら迷子にならなかったのになーって何度も嘆いたぞ」


モトキの女性みたいな長さのミディアムヘアーは、酷くボサボサであった

「無事でしたか!?」等の心配する言葉もなく、メイソンは「2日目の朝以来ですね」と、行方不明になっていた者への態度ではない普通


「あ、悪かったな。行き道帰り道もわかんなくなってさ、毎日あっちこっち行ってた。今日偶然にもここへの道に出れたから戻ってこれたんだ」


「災難でしたねー」とメイソンは他人事。ライリーも呆れ気味だが大した心配はしておらず、ヒナトだけは動悸速度が上昇し、モトキに背負われてる者について訊ねてきた


「そ、それオーベールよね?じゃなかったら問題だけど・・・」


「大丈夫だ。疲れてたから背負ってあげてたら、途中寝てしまってな。ほら、オーベール、着いたぞ」


「ムッタ!バルバドドヘポピネータ!」


「おい、山で数日迷子になって野生化してしまうネタにしても方向性が別にいってるぞ。熱帯雨林近くに住む外部に攻撃的な先住民族みたいだな」


タイガはツッコミ、両頬に赤と白の点線を左右対象に彩り化粧をしているオーベールをどうしようか力技しかない方法の選択肢を巡らしていると、ヒナトが彼に無慈悲な容赦ない強めの往復ビンタ


「いてーーーっっ!!ぎゃああああああああ!!いてえええええ!!あれ?俺はいったい?」


どうやら元に戻ったようだ。両頬は腫れてしまったが

オーベールは今いる場所と、現状整理ができず混乱してしまう。あれ?としか言わない

モトキが終わったことを教え、それを聞いた彼は安心からか力が抜け、背負ってくれているモトキの背で上半身を後方へたらけさせる

まさか、自分がこんな目に遭うとは。素人の参加にしては危険に踏み入れた体験

ヒナトにメイソン、ライリーにも迷惑をかけてしまった。迷ってから過酷だったけど、モトキがいてくれたおかげで・・・


「って、お前のせいじゃねーか!」


「あいてっ!」


上半身を起こし、モトキの後頭部へチョップ。棒倒しへの不満と罵声を浴びせたいところだが、疲れで気力もなく、生きてるから良しと片付けた


「学園長がくたばってるから、もう終わりに解散でいいだろ。最初より人が半数以上も減っているのに終わりの挨拶や、閉会式類はやるすら無意味。現地解散、現地解散」


聖帝からの兵士達もタイガの発言に賛成のようだ。この兵士達は、主に聖帝の親族、特に御子息周りの警護に勤める者ばかり

現聖帝の御子息はよく、長い挨拶や説教はただの自己満足だと若い新人に長く説教しているベテランやしているので、タイガの言葉に頷けれる

ボサボサ髪になったモトキは、とりあえずまずはお風呂に入りたい


「そういえばタイガ、ミナールやキハネは?他のMaster The Orderは?」


「俺とベルガヨル以外、全員最終日だからって理由でサボりだ。そもそも、特に上位3名が来るはずもないしな」


「それもそうか。基本、同士仲悪いしなら。あまり鉢合わせもしなきないんだろ」


ライリーは薄汚れているベルガヨルの顔を優しく濡れハンカチで拭いてあげていた。何故こうなったのかの原因は、5日間2人がいなかったからである

部屋は散らかり、今朝それが原因で躓き、驚いてまた躓きの連鎖で転び、中身がまだ入ったスナック菓子やハンバーガーのケチャップやソースが付いた包装紙等で汚れてしまい、脱ぎ捨てられた服で拭いただけ

まさか、2人がいないだけでこうなるとは。ベルガヨル自身、生活力の無さを実感


「すげぇ変な終わり方になったけどよ、リタイアはしなかったから景品か何かあるだろ?過半数以上がリタイアした中での最後まで遂行した人には労い賞ぐらいは欲しい」


「そんなものは、ない」


オーベールの問いにタイガが答える。「な、なにぃ!?」と叫び、横たわる学園長に追撃のリンチ

モトキと参加する必要のなかったベルガヨルも悪ノリで


「最終日までリタイアせずに成し遂げても何もくれず、休めば成績を大きくマイナスされ進級すら危うい。学生行事の悪い部分だー!」


声を大にして不満を挙げるオーベールに、ヒナトはやれやれと首を左右に振る

そんな彼に触れず、メイソンはモトキに声をかけた


「御褒美というわけではありませんが、終わったら赴こうとしていた店がございまして。今回のチームメンバーで行きませんか?」


「おー。メイソンがプライベートに赴く店、興味あるな。全く想像できねぇから」


「では、身体に身なりを綺麗にしてから。学園校門前が我々には1番わかりやすいでしょう」


「わかった。タイガはどうする?」


「いや、俺はお前とチームじゃなけりゃ参加もしてねえ。お前のチームだったやつらとだけ行ってこい」


主のベルガヨルに数時間のお暇をいただく許可を申し、彼は指でOKサイン

ライリーは行くつもりなかったが、主である彼に行くことを勧められ、2つ返事で


「特に服装の決まりはありませんが念の為、スーツやタキシード、ドレス類がよろしいかと。モトキ殿は、いつもの私服で大丈夫でしょう。見飽きるぐらいに毎日同じの服で」


「うるせーよ」


現地解散、モトキはオーベールと行動。学園へ向かい、施設内にあるシャワー室で5日分の汚れを洗い流してから私服に着替えた

今回の行事で支給された服はいらなければ返却するよう伝えられているので、リュックと共に無断で学園長室へ放り込んでおく

再度集まったのは2時間過ぎた程。学園の校門前に1台の馬車が停まっており、モトキに人の事が言えないようないつものバトラー服のメイソンがお辞儀でお出迎え。「最後の御到着ですね」と揶揄い混じりに、馬車の扉を白い手袋を嵌めた手で開く

御者は知らない初老の男性だった。モトキは一応頭を下げて挨拶、向こうもシルクハットを軽く上げ、挨拶を返す

馬車に乗るのはオーベールは初めて、モトキはエトワリング家の件で2度目

馬車内には女性陣が先におり、ライリーがヒナトの爪を鑢で整えてあげていた。ライリーはメイソンと変わらぬ服装だが、ヒナトは紺を基調とした派手さは無いが好印象を与えてくれるドレスを着ている。左胸には白薔薇の飾り


「お、お前そんなドレス持っていたのか!?」


オーベールは言葉が詰まり、噛みそうだ。ヒナトは着慣れておらず恥ずかしいのか頬を染めて2人に顔を合わせようとしないのでライリーが説明


「そういった場の服やドレスは1着も持っておりませんでしたので、私から用意させました。無論、私の物ではありません。ベルガヨルのお祖父様からお借りしてきました」


曰く、いつか女の子が生まれた時に着させたく大量に購入していた物の1つ。しかし、自分の子は一人息子、3人の孫も全員が男。このまま持っていても、持ち腐れになりそうだったので捨てるか、寄付するか悩んでいたところだった

なんなら譲るつもりでいるらしい

ヒナトが申し訳なさそうに、こちらで所有している方が持ち腐れだと謙遜しながら慌てふためく中、馬車は動き出す


「おら、もっとスピード出しなさい」


メイソンが扉を開き、屋根に移ると上から手綱を操る御者にシルクハットの頂きから足で小突く

彼はムカっとしたのか、スピードを緩めてから急発進の急ブレーキでメイソンを屋根から落とす。自業自得である

馬車に揺られること1時間近く、予想よりも時間を要した。場所は前回、ベルガヨルと初接触してジョーカーと戦った地域とはまさに真逆の方向

馬車から下りて広がる世界は、いかにも、金持ちの為の店が並ぶ都市の一部。モトキは、チセチノと共にパトロールさせられた所との違いに唖然としそうだ

同じ都市内に、こうも差があるのかと

オーベールは緊張して固まりかけてしまっていた。こいつだけ、学園の制服である

制服ぐらいでいいだろうの認識の甘さ、この場所ではかなり浮く


「すぐそこですので・・・」


案内する必要もなく、指で示すだけでこの店だと視界に映る距離。店の外見は白の素材と木製造り部分が目立つ3階建。外見は解りやすく表現するならば、ミルクレープの層のようになっており、頂きが平らの半分に切った台形型

店内へ入ろうと、扉を2名のウェイターが引き開かせ、「いらっしゃいませ、お客様」と予行練習でもしてきたかのような声合わせ

1人のウェイターがメイソンに「いつもご利用ありがとうございます」と丁寧に頭を下げる

席の方へ案内される最中、店内を見渡す。食事に来ている客は気品溢れるが、どこか渋い雰囲気のある大人ばかり

奥の西陽の当たらない席、全員がそれぞれ、余分に1スペース空けて座る

ウェイターは5人にメニュー表を、赤に金糸が刺繍されている。全員同時にメニュー表を開く

1ページ毎に記されているメニュー数が少ない。横文字で縦に並び、他は余白だらけだ

モトキとオーベールは「少なっ!」と内心叫び、物足りなさがある。豊富にあるメニューの中から決めるから楽しいのに、そして悩むのに結局はいつもの料理になりがち


「私はいつものコースでお願いします」


メイソンの注文にライリーも同じのを、続き「俺も」、「私も」と注文。初めての店、メニューを決め、ハズレを引くリスクから逃れるには行きつけの人と同じものを頼むのが1番


「ライリーがこの店に訪れるのは2年ぶりですかね?」


「えぇ、ベルガヨル様と3人で来たのが初めてで最後でした。食後にベルガヨル様が口に合わないと仰られ、以降二度と赴いたり話題にはしなかったので。メイソンはよくプライベートで来てたのですね」


「好物にお気に召す味付けでしたからね」


「好物?フォカッチャのサンドイッチですか?牛と豚の合挽きで作られたサラミと紫キャベツが具の。そのようなもの、メニューにありました?」


「それではありませんが、今教えるのは楽しみの1つを奪いますからねぇ。必ず最初に出されるメニューで来ますから」


「ですよね、モトキ殿」と同調を求めてきた。つい「そうだね」と返事をしてしまう

だが、正直こういった場所、メイソンの好きな味付けだった好物である料理には興味がある。他者への興味は趣味や好物からとも言うし

お冷の入ったコップに手を伸ばしたところで、料理が運ばれてきた。注文から1品目の提供までが早い

皿には2つのゆで卵に白いソースがかけられ、胡椒だろうか?黒い粒に刻みパセリの緑

モトキもオーベールもヒナトも、料理名がわからない。ゆで卵のホワイトソースかけとしか浮かばず


「メイソン、これは?」


「ウッフ・マヨネーズですよ。ご存知ありません?」


「聞いたことないな」


知らない料理だが、ともあれまずは食べてみてほしいとメイソンが促す。フォークで軽く押さえ、ナイフでゆで卵を切ると中のとろりとした半熟の黄身が白いソースと混じろうとし始める

押さえに使ったフォークを切ったゆで卵へ刺し、口へ運んだ

学園毎年恒例行事 野外活動

リタイア数 過半数越え

欠席者 4名

死亡者 0名

行方不明者 2名(生存確認)

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