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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
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チームF 10

何時間寝たのだろう?起きる直前まで、いつもの寮部屋で寝ているような感覚だったが、石の感触で外で寝ていたことを思い出す

しばらくは目を閉じて、何も考えず横になったままだったが、「起きるか」と意識の中で自分に問いかけ、オーベールは起き上がる

首から肩にかけて、小さくパキッと数回音が鳴った

最初に寝た位置から1メートル程、移動している。焚き火越しの向かいにはモトキが座り、黙々と焚き火を見つめていた

その姿がどこかおかしい。モトキがモトキでないように映ってしまう


「モ、モトキ?」


「んんっ?起きたか。朝の陽射しを浴びるにはまだ早い時間だけどな」


いつもの感じであった。あれは起きてすぐだったので、寝ぼけて普段とは違うように見えたと信じたい

メイソンとライリーも起きており、メイソンはモチイモの皮を剥き、ライリーは体を伸ばしてストレッチ。焚き火近くに、ヒナトの姿だけがない


「あいつが1番のお寝坊さんだぜ」


彼女はまだ焚き火から離れた位置で寝ていた。「お寝坊にしてはまだ朝が早すぎる」とモトキは呟きながら、昨夜肉と磨り固めた芋を焼くのに刺して使った細く切った竹に、川魚を口から刺していく

この魚は昨夜、3人が戦闘後に獲ったのである。血抜きをして、内臓とエラを取り、先程まで川水にさらして保存していた

焼く、これだけはしっかりと火を通さなければならない。モトキは竹に刺された人数分の魚1匹1匹に念を押す


「うーん・・・」


メイソン、痛みはないが違和感はあるのか握った拳で背を叩く。まさかモトキの肘打ちを真正面から腕で受け止めた直後、背後からライリーから跳び膝突きされるとは

前後からの挟み撃ち。「あ、ごめん」と軽く流すように、彼女は謝っていた

そんなことはどうでもいいとして、ここでヒナトが起きた。体を起こし、手櫛で髪を掻く

ゆっくりとまだ残っていた眠たさが薄れていき、目をこすり、眉間を摘む

焚き火に背を向け寝ていたので、自分以外の皆が起きていることにまだ気づかない


「オースッ!お前が最後だったなヒナト!」


くだらなくも、揶揄うネタができたのかオーベールは意気揚々としていた。彼女は慌てる気力はまだ起きず、申し訳なさそうな顔をするだけ


「数人いれば誰かが最後になる。お前も起きたの2、3分前だろ、そう変わらない。この2人なんか、交代で火番してたから2時間も寝てないぞ。寝坊にしては早すぎる最後に起きたのを笑うより、長く起きて番をしてくれていた人に礼を言え」


それはモトキも同じである。もしかしたら彼が1番寝ていない。メイソンとライリーは仮眠ぐらいはしたが、モトキは数回うたた寝したぐらい


「礼は結構です。全員起きたので朝食にしましょう。ライリー、お配りお願いします」


魚はしっかり火を通す。その間はゆっくり、モチイモを胃に入れよう

昨日と変わらず、餅みたいな見た目になった芋。微妙に薄い寝起きすぐの食欲の中、オーベールは小さく一口

昨夜も食べたのに、好物でもないのにスッと体が受け入れ、美味い


「これが今日含めてあと4日続くのか。終わり頃に、俺は生きて綺麗な身体でいられたらいいなぁ・・・」


「お風呂に入れないから綺麗は望めないけど大丈夫よ。私達のチームは恵まれてる方だから」


ヒナトはこの人達と、このチームでいれたのが幸運であり、中々以上に行事を楽しめている

自分の通う学園には、こんな人達もいるのだと


「魚焼けたぞ。いいか、食べて少しでも生焼けだと疑ったら躊躇いなく吐き出して焼き直せよ。なんなら焦げたなーぐらい焼こう」


モトキから、もの凄く強い意志を感じる。魚の焼き方にこうもこだわりを見せるとは、老舗旅館の料理長かな?とオーベールは思いながらも、焼かれた魚を受け取った

味付けは無し、文句はもう言わずにかぶりつく

感想も言わず、半目びらきでしっかり噛む。多少の小骨も、飲み込む際の喉からくるチクリとした痛みも気にせず食べる


「何人、初日からリタイアしたのでしょう?」


ふと、メイソンが魚の尾部分を齧ってから呟いた。確かに、多少は気になる。こんなのが5日も続くのは耐えきれないと、まだほとんど汚れても疲れてもいないのにリタイアした者はいるだろう


「それを今知る方法はないけどな」


モトキはもう食べ終えていた。魚は骨も頭も残さず、刺していた竹を噛み咥え、それを吹き出すと川砂利の敷かれた地に突き立てる

モトキの食事が早いのは周知のしている。食べながらも暇なので、オーベールは改めて今いる場所の周り景色を眺めてみることにしたが、遠くに見えた何かで固まってしまった

巨大な熊が、こちらに視線を向けている。まだ遠くだが、遠くからでも巨体さに唖然


「モトキーーっ!!熊!!くまーーーっ!!」


「熊?山だから熊ぐらい居るだろ」


「なんでそんな悠長なんだよ!!」


熊は口周りを舌でベロリと舐め回し、猛スピードでこちらに向かい走り出す

巨体からは想像できないスピード。慌てるオーベールにメイソンが「熊は時速60キロぐらいで走れますからねー」と、他人事であった

オーベールは、過去に熊が起こした獣害による被害を何かで目にした覚えがある。そのほとんどが、熊に喰われてしまい、身体の一部を持ち帰って保存食に

人の味を覚えた熊は恐ろしいと

恐ろしく頭の回転が速くなっていた。覚えのある獣害が次々に脳裏に浮かぶ


「せめて即死できるところに噛みついてーーーっ!!」


頭部を手で覆い、うずくまる。しかし、熊の川砂利を蹴る重く速い足音がすぐ間近まで迫ったところで、急に足音も、蹴り上げれ落ちる川砂利の音も止まってしまった

捕食開始に止まったか?にしては噛みつかれも腕と爪で息の根を止めようともしてこず、もしや他から?と恐る恐る目を開けると、うずくまっていた自分の真横でモトキに顎と頭を撫でられながら、彼の顔を舐めまわすあの大熊の姿が


「おぉっ!?」


間近で見ると、改めてその大きさに驚く。記録にある最大種となる熊など優に超えるその巨体は、動物写真家や研究者が1度は写真に納めたくなるだろう

片目に縦に入った傷、長年研がれた爪と牙はまさに百戦練磨が似合う風貌


「モ、モトキ?お、お知り合いですか?」


「10日前に出会ったばかりだけどな。山中でタイガと殴り合いしてたら現れてさ、何故かあいつにお腹見せて撫でて欲しそうにしてたから、俺も撫でてみたんだ。そしたらこうして接してくれるようになって」


微笑ましい光景なのだが、これは懐いているのではなく、服従しているように映るのは何故だろう?メイソンとライリーは首を傾げた

数ヶ月前に、街に巨大な熊が現れたと小なり騒ぎがあったらしいが、まさかこの熊では?


「えと、モ、モトキ。私も触って大丈夫かしら?」


ヒナトが尋ねた。「大丈夫だろ、たぶん」と100%安全でなさそうな言い草の返答だったが、彼女は恐れなく、最初は触れる程度に撫でてみる

少し鼻息が大きいだけで、噛み付いたり威嚇する素振りもなかったので、彼女は実家にいる犬みたいに撫で始めた


「お前よく触れるよな」


「きっと、モトキがいなかったらこの子の朝食になってただろうけどね」


じゃあ自分もと、オーベールは食料確保に心配はないと見越してリュックから支給された食料を熊に食べさせようとするが、モトキに殴り飛ばされてしまった


「バカヤロー!人間が手を加えた物を与えるな!人間の悪い部分が出たぞ!それいらないなら炭にしてから捨てろ!」


「ぐわあぁぁっ!!いてぇーーーっ!!骨身にくるーーっ!!」


痛がり、苦しむオーベールに指をさしながらメイソンは、「本気でやられなくてよかったですねぇー」と笑う


「ぐおぉー・・・モトキめー、今度お前の筆記用具をとろろ芋に漬け込んでおいてやる」


そんなできそうもないがその気になればできる仕返し宣言をよそに、モトキは熊に帰るよう指示する

人間の勝手で今回の行事の件を謝罪し、見つからないように、人を襲うなり理由で人前へ出ないよう言い聞かせ、背を軽く撫でてから行かせた

今回はどこからより、聖帝の兵の監視とMaster The Order数名の目配りがある。人を襲う形で現れれば、駆除されてしまうかもしれない

もし、さっきの光景を見られており、あの熊がいるだけで危険と判断されてしまったら、どのように説明と反論をすべきだろうか?最悪、力技で黙らせる方法もある

自分達を監視しているのが、今はMaster The Orderの誰か顔見知りであってほしい


「では、今日の調達は誰にいたします?」


ジャンケンで決めようとメイソンは提案。勝ち残った2人が今日の調達担当

5人のじゃんけんは、最初はあいこ、次に決着。勝ったのはモトキとオーベールのパーであった

2日連続となったモトキ、「またか」と「まぁいい」の二言

ヒナトはどこか安堵した。もし、勝ったのが自分とオーベールの2人ならとてもじゃないが不安だったであろう

それはそれで、この3人がいないチームと一緒になるだけだが


「もう昨日みたいに落ちやすそうな場所はごめんだぜ、モトキ」


「それはそっちの運動能力次第だな」


いつ行く?今から行こう。簡単なやり取りから即決

リュックを背負い、まだ朝になりたての空の下、2人は川砂利の踏む音を立てながら昨日と同じ山道の入口となるポイントへ

地図を忘れている。ライリーが折り畳んだ地図を円盤投げの要領で投げ、それをモトキが背を向けた状態のまま指で挟み捕らえた

ヒナトは小さく拍手

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