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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
104/217

チームF 9

起きているのか寝ているのか、火の見張りをしているライリーの瞼は閉じていた

本当にやることがなく、焚火を隔て彼女の向かいで体育座りをしているヒナトは少し前後に揺れている。なんでもいいから起きているのか判らない彼女に言葉をかけてみたかったが、どうも話かけずらい

オーベールは退屈すぎて横たわっていた


「モトキー、早く帰ってこーい」


さっきからずっとこの調子である。「おせーぞー」や、「退屈だー」の小声ばかりを繰り返し、ヒナトは腹が立ってきた

あと3回その類いを言ったら、石でも投げつけてみようと企む。呆れる程ある川砂利を1つ手に取ったところで気づいた

ライリーがこちらを見つめている


「あ、あのー・・・ライリー?」


手に持つ石に指をさし、次に向こうで横になっているオーベールをさした。ヒナトは頷く

彼女は拳で口を押さえ、肩で笑い始めた。どうぞやってみてくださいと、もう片方は水平を切るように動かしながらオーベールの方へと


「はーやーくーぅ・・・帰ってこい!」


ヒナトの指が2を示す。どこにぶつけてやろうと考え始めた。頭部さすがに可哀想で冷酷さが滲むので、けっこう痛がるレベルの威力で背中にしよう

あと2回、指を見て察したライリーも同じように指を2本立てる


「戻りましたよ」


暇で次の愚痴を溢す前に、モトキとメイソンが戻ってきた

戻ってきたか!と勢いよく起き上がったオーベールの目に飛び込んできたのは、立派な角を持つが、歩む際の揺れでしか動かなくなった鹿を背負うモトキの姿であった

ヒナトも絶句している。ライリーは「お疲れ様です」と2人を労い、モトキの背から鹿を降ろすのを手伝う


「モトキ殿、服に赤が広がってますよ」


「狼にでも臭いを察知されたら大変だな。軽く水洗いすべきか」


川へ向かうモトキを尻目に、置かれた鹿にオーベールとヒナトは恐る恐る近づく

確実に死んでいるはずだが、こうして現実に狩られてすぐの動物を見るのは初めてで、何故か怖い

メイソンがナイフを手にした時、捌き始めるんだと思わずオーベールが叫んだ


「うわーーっ!待って!待って!まだ心の準備が!」


「まだしませんよ」


ライリーは鹿の全体を一度だけ目を通してから、メイソンに訊ねる


「激しく大きな外傷や、消化器官の損傷はありませんか?」


「ありませんでした。帰りの途中、一度放血をしてから腐敗部分、化膿に水疱、ダニ等の寄生虫を確認しましたが問題はクリアでした」


彼女は「よし・・・」と呟いてから鹿を持ち上げ、川へと足を進める

あれをどうするのか、オーベールが何度も訊いてきそうな雰囲気だったので、先に教えておく


「洗うのですよ。体表に付着した泥や血を取り、なるべく綺麗にしてから解体するんです」


ヒナトは「へぇー」と関心するも、オーベールはまさか自分達のチームがここまでやって、それができるメンバーだったとはと改めて茫然する

モトキが戻ってきた。つなぎの上半身だけ脱いでいる。服の色味が強くなっているので、洗い絞ってから自然乾燥に任しているのだろう


「モトキ殿ほど汚れてませんが、私も簡単に服の汚れを洗ってきますかね」


メイソンも同じように上だけを脱ぐ。下に着ている黒い肌着には、鍛え抜かれた筋肉がうっすらと浮き出ていた

見た目では想像できなかった。彼の「では」に、「おお」と返事するモトキと逞しい鍛えられた身体が並んだ

それを見てヒナトは、オーベールの腰を指で突き呼ぶ


「オーベールも、ああなるように頑張ってみたら?」


「ええっ!?無理だろ!」


この前、教室で上着を脱いで腹筋割れたと自慢していた男性生徒がいたが、薄い腹筋であった

それとは比べものにならない、戦闘や鍛練で培われた魅せたり自慢する為の筋肉とは違う。違いすぎる

ヒナトが2人のどちらかに鍛えてもらえば?とオーベールに提案するが、モトキに鍛えてもらうということは、もれなくタイガが付いてきそうなので、彼を相手に生きれる自信がない


「俺よりタイガに鍛えてもらった方がいいぞ。あいつの元で1ヶ月過ごしたらクラスの身体なんてすぐ追い抜くぞ」


「ほらぁっ!絶対にタイガが付くだろうって思ったんだよ!」


鹿を洗ってきたライリーが騒がしさに「喧嘩ですか?」と問う。返答は求めず、鹿を置き、川砂利を拾うとそれでナイフの刃を研き、切れ味をワザと悪くする


「誰かナイフを貸していただきませんか?」


ヒナトが自分のリュックからナイフを彼女に渡し、そのナイフで解体を開始

最初は中腹から股の付け根まで刃を入れ、腹膜を破らないで、尿道を傷つけないように

手際良く解体していき、内臓を取り出し、ワザと切れ味を悪くしたナイフで皮を剥ぐ

あっという間に解体を終え、彼女は2本のナイフを手に再び川へそのナイフと手を洗いに向かう


「ライリーさんすてき〜」


ヒナトは物静かで、冷静で動じず、解体も臆せずに行なったライリーに尊敬の眼差しを

女性から見て、かっこいい女性として映っていた


「はっはっはっ。趣味がお悪いですねえ」


メイソンがモトキと同じように、濡れて服の色味が濃くなって戻ってきた。長い付き合いだからこそ、趣味が悪いと言えるのだ


「ライリーの各自評価は置いておき、調理に移りましょう。鹿肉はシンプルに焼きにで、1番安全に食べれますからね」


「鹿の他に何かあるのか?」


オーベールの問いに、モトキとメイソンはリュックからモチイモ、本名山茶土芋を取り出した

ライリーが目を輝かせながら、懐かしむ


「山茶土芋だー!わぁー懐かしい!よくおばあちゃんがお餅みたいにして、砂糖と混ぜ込んで作ってくれたなー」


「やっぱりみなさん山茶土芋なのですね、モトキ殿」


「いつかモチイモと呼んでるやつらを集めて世間浸透運動してやる」


調理は至ってシンプル、好きな部位を縦に細く切って棒状にした竹に刺して火に炙るだけ

山茶土芋は磨り潰し、固めて餅みたいにしてから同じように焼くだけのお手軽料理

ヒナトが山茶土芋を調理しようと1つを手に


「山茶土芋はちょっとデコボコした石で簡単に擦りおろせるから楽ね。えーと、ナイフは・・・ライリーさんに貸したんだっけ」


ちょうどのタイミングで、彼女は洗い終わったナイフを返しに来てくれた。刃の部分を持ち、刃先をヒナトへ向けないようにして

モトキは黙々と、本能任せに肉を刺していく。気づいたら持つ場所すら無くなってしまうほどに刺していた。「欲張りだなぁ」とオーベールは馬鹿にするも、ふと急にその刺され、今にも炙りが開始される寸前の肉を見て味について不安が芽生えた


「味付けはどうすんだ?塩も醤油も、マヨネーズもありゃしないけど、まさか、味付けなしで食うのか?」


「なにか問題でも?必要なのは栄養です。味など二の次ですよ」


「せめて風味ぐらいは欲しいぜ」


メイソンに返す言葉は文句。しょうがないなと彼はライリーのリュックを漁る


「本当はルール上、違反となりダメなのですが今回の行事開始前に、ベルガヨル様より賜った物が。なんとベルガヨル様ご本人が好物とされるタルタルソースが!ない!」


「ああ、あれですか。ルール違反になりますし、今の季節の暑さと湿気だと痛んで腐りやすそうなのでベルガヨル様に突き返しておきましたよ」


「なにやってんだー!」とライリーに怒鳴るオーベールに、「いや、あんたは正しい」と褒めるモトキ


「改めて考え直してみたら?自分の発言がおかしいってことに」


ヒナトに諭され、がっくしと肩を落とし、オーベールは落ち込んでしまった

その様子を見かねたのか、モトキが


「5分待ってろ」


彼はそう言い残し、どこかへ走り去ってしまった


「おい?モトキ!?」


「モトキ殿に任せておきましょう。騒ぎを起こすタイミングではありませんからね」


と、この次の瞬間、なにやら獣らしき遠吠えが山々全体に響いた。オーベールは手が止まってしまうが、ヒナトは平気そうに作業を続けていた


「お前、怖くないのかよ?今夜ここで寝るんだぜ」


「この数時間でわかったけど、夜獣に震えて眠るより、私達のチーム内のこの3人といる方が危険だって」


磨りおろした芋を手で丸め、餅みたいにしてから竹に刺し、火で少し焼き色をつける

横で鹿の肉を焼いていたライリーが、焼かれている餅みたいになった芋を見て「海苔が欲しい」と呟く


「海苔、ですか?ライリーさん」


頬を赤らめている。メイソンはその呟きを聞き逃さず、ここぞとばかりに「食べかけてた海苔せんべいが恋しくなってきたのですかー?」と揶揄う

川砂利が顔面目掛けて飛んできたが、ヒョイと頭だけを動かし、躱した


「数種類のおかきが入ったものでも、海苔が巻かれたやつを最後に残して、特に海苔の佃煮が大好きらしくてですねー。あれでご飯をずっと食べてる時がありますから」


「へー。ライリーさん、渋いですね。ちょうど実家近くに、トワオダマキの旅館とかからも注文がくる海苔の老舗店があるので、贈るように両親へ頼んでおきましょうか?」


「あった、あった。俺、あそこのババアに箒で叩かれたことあるぞ」


さらに頬の赤みが増してきたところで、モトキが帰ってきた

土汚れがついており、手には数本の植物が握られている。メイソンがその正体にすぐ気づく


「ほぉ、ハーブ類ですか。ギョウジャニンニクもありますね」


「ギョウジャニンニクは運が良かった。季節過ぎてギリギリだったから」


メイソンとライリーに渡し、手で揉み細かくすると炙り中の肉にふりかけていく

香りは良くなるが味は人によっては大差ないかもしれない。しかし、ないよりマシである


「よく自生しているものを。山茶土芋の時といい・・・」


「昔教えてもらったのが活きたな」


昔を懐かしみ、肉にしっかり火を通す。香りは焼いた肉特有の芳醇へ、良い具合に焼けてきた

食欲を誘う色に匂い、堪らないとオーベールだが、その近くで瞳孔が変化しているモトキに驚いてしまう。獲物を狙い、身を潜める猛獣のようである

陽の傾きが夕暮れとなる前に、火が弱まり始めたところで調理は終了

火が切れないよう、肉を刺して焼くのに作った竹の棒の余りを使って火力を戻す

ヒナトは芋で作った餅のような物を1人1個ずつ配り、肉は自分で焼いたのを各自自由に


「いただきます」


モトキは手を合わせて、口に出しながら。メイソンとライリーは無言で、瞳を閉じながら心で食への感謝を。ヒナトは周りを待てから静かに言う。オーベールは1人先に食べ始めていた

ようやく食べ物にありつけるが、ほとんど食わずの胃が驚かないように少しずつ、ゆっくりとよく噛んで、飲み込みたいところだが、成長期の食欲に勝てないモトキとオーベールの2人は勢いある早食いをしてしまっている


「もっと落ち着いて食べれないの?」


ヒナトの言葉は届いておらず、特にモトキの食事スピードが早い。片手で肉を口へ運び、もう片方の手は次の肉を焼いている

途中から、完全に焼けてなくとも御構い無しに食べだす。オーベールはちょっと引いていた

幻だろうか?獰猛なる気配とモトキの全身よりドス黒い影が映ったような。ただ普通に、他より食べているだけというのに

黙々と、焼いては食べてを繰り返し、モノノフギザシカに残ったのは骨と皮だけである


「骨と皮を燃やしてから埋葬してあげましょう。そのまま埋めると、野犬や熊等が掘りおこしに来るかもしれませんので」


メイソンに言われたとおりに、焚火に毛の付く皮ともう肉を余すとこなく軟骨すら残ってない骨だけを入れる

数分燃やし、焼かれた骨と焦げ炭になりかけている黒ずんだ毛皮を半分に切った竹をスコップ代わりに使い、鍋に入れ、運ぶ

なるべく土と緑のある場所に埋葬

命をありがとうの感謝を込めて

鍋を洗い、あとは寝るまで何もないので全員が焚火周りに再度集合した


「こうして、このメンバーが揃って再度集まる機会はこの先なさそうですし、この際に身の上話なりしてみます?」


メイソンから切り出す。「ではこういった場で、10代の私達には普遍的な将来の夢でも?」と、提案

誰から行くか、誰が突然挙手するか、そのせいで沈黙が数秒だけ起こった


「はいはい、言い出しっぺの私から」


ライリーは目を細めていた。もしここで彼が、実は牧場を経営したいなどをカミングアウトしたら、どういったリアクションをとればよいのだろう?と

主であるベルガヨルに伝えるべきなのか、それとも時まで心内に隠しておくべきなのか、頭を悩ませる


「まぁライリーとたぶん一緒ですが、変わらずベルガヨル様のお側でお仕えしてるでしょう。変わらずが私には最も良い将来ですから」


それを聞いて彼女はどこか安心していた。カバーしあえる真柄の人が欠けるのはこれからの自信の欠損に等しい。それぐらいの信頼はある


「おや、ライリー。もしや私が違う将来を望むかもと不安がありましたか?」


「一応は。以前、牧場経営の指南書を読んでいましたので」


「ああっ!あれは最近、ある牧場が立退きをさせる為に嫌がらせや脅迫を受けているのを見かねたベルガヨル様のお祖父様が、その牧場と周辺の土地ごと買収して、配下という形で経営を続けさせるようでして。もし、赴く事があった際に最低限の知識は欲しくてですね」


「あっそ」と、彼女の素っ気ない返事。次にヒナトが「じゃあ、ライリーさんは?」と訊くも、彼女の将来とメイソンの将来に望むものはほとんど同じであろう


「語るにしてはつまらないですけど、メイソンと同じく、今と変わらずに、ベルガヨル様にお仕えできていればよいのですけどね」


オーベールもライリーも、Master The Orderのベルガヨルの評判は知っている。他者に対して噛みつく態度、関わるのは避けるべきとまで広まっているが、この2人と今回の行事に、共にチームとして行動し、その主であるベルガヨルは噂ほど悪い人ではないのでは?と思えてきた

しかし、以前より若干は柔和はしたが、この2人とモトキ以外への態度は以前変化なしであるのが現状


「私達のは大方予想できていたでしょう。ただ単純に、せっかくチームとして活動しているのですから、学園の生徒としてあなた方の将来の夢に興味があります」


ライリーの笑みは焚き火の炎に照らされ、魅力的なものであった。今回の活動で、彼女への憧れを抱いたヒナトが「じゃあ、私が」と手を挙げる


「私、特殊捜査官になりたいです」


オーベールは驚いた顔に、開いた口が塞がらない。初耳であり、まさか特殊捜査官を夢見ていたとは

身近にいた者の夢を語られ、胸に来るのは驚きと自分への少しの不安


「恥ずかしくなってきた。みんな、将来に夢を持ったり、見越しているのに俺はただ学園に入って、夢めなく卒業だけに一直線でヘラヘラ毎日過ごしてるだけ」


どんよりと、悪い空気がオーベールより流れ始めたのでモトキがフォローに入る


「俺も将来なんて今は考えてないぞ。それが学生である今の俺達の歳では当たり前なんじゃないのか?」


「そうか!そうだよな!」


あっさり気持ちを切り替え、嬉しそうにモトキの肩を叩く。だが、ここで引っかかる部分が


「今はってことは、前まではあったのか?」


「うーん、将来の夢というには単なる個人の恨み、みたいなものだったから。それと併行できると考え、他にも将来自分が望むものがある。それは今も根は変わってないが、まだボヤけた霞で形だから将来の夢と語るにはハッキリさせてからにしたい」


変わらぬ根とは自分がいるこの大国を、この大陸を守り、人々の未来に繋げれる数ある足場の1つになれれば良いと望んでいる

それと併行できると持っていた信念は、ただの恨みの一言。親友の仇を討つつもりで、敵国である全てにその念をぶつけるつもりでいた

だがある日、自分の前にとんでもないやつが現れたのだ。こいつには向けるべきではない、親友の死と関係ないはずなのに、自らの私情で簡単に恨みをぶつけた攻撃をしていいものかと考えさせられてしまう。敵対して戦闘となるも、全員にその恨みを含んだ念を向けても仕方がないと

考えを改めさせた者はあまりにも純粋、誰かの為に生きることができている。それが羨ましい

本当は解っている。自分の数ある足場の1つになれれば良いという夢は、単に自分のいる意味が欲しいだけであるのを


「卒業してもハッキリと形が完成されていなければ、見つかるまでテナード家の元で働いてみませんか?使用人の募集は私達一族が滅ばぬかぎり金輪際ありませんけど、ボディーガードならばベルガヨル様もお父上様やお祖父様に推薦してくれるでしょう」


「い、一応覚えておく」


メイソンの誘い、いきなりお願いしますはできないので保留という形に。エトワリング家でも似たようなことを言われたような

一区切りと判断したのか、ライリーが立ち上がる。喉が渇いたのか川の方へ歩み、そこの水を竹を切るだけで簡易に作られた器で掬い上げ直飲み

「ふぅ!」の一呼吸、次にうがい。水を吐き出し、「よし!」と大きめの声を発して戻ってきた


「話を変えて悪いけどさ、夜が近づくにつれて今夜の寝床について心配が・・・」


オーベール、彼女の行動に歯磨きを連想し、そこから今夜寝る場所はどうするんだ?の疑問へ到達

毛布も無ければ、敷く布すらなく、この川砂利の上で横になって寝るのか?と

モトキが大丈夫だろと、問題でもあるのか?といった顔


「リュックを枕にできるだけまだマシだろ、川砂利を整えればそれなりに安定も見込めるし。本当に寝れないのは煩いだぞ」


「同感です」


「私も」


メイソンとライリーも、頷く。立って寝る日も度々あるので、信じられないぐらい尖りのある地面じゃない限りこんな川砂利でボコボコしているぐらいな場所でなら快眠すらできそうだ


「枕にするならリュックの中身は出してまとめておいた方がいいよね」


この1日ですっかり環境に慣れ、適応してしまった幼馴染に取り残された気分でちょっと寂しい

虫が鳴き始め、後はただ他愛もない談笑が続いた。ヒナト以外、モトキ関連で今日知り合ったので、彼との初接触時の話。メイソンとライリーはジョーカーの件をうまく誤魔化しながら話す

止むことのない無数の虫達の鳴き声。多すぎて虫達の素敵な演奏会には遠く、モトキはこれが全て繁殖の為だと考えると急に生々しくなってきた

オーベールが大きなあくびをし、膝をつき、少し斜めに体を倒し、リュックを逆さまにして中身を全て出すとそれを折り畳み、枕にして横になる

半目を閉じ、無言で焚き火だけを見つめる。このまま、寝てしまいそうだ。疲れてたのだろう


「今日は慣れないことだらけだったもんな。心身の疲れは眠気に誘うっていうし、火は見ておくからもう寝てろ」


「そーする・・・悪い、モトキ・・・」


すぐに落ちた。こんな不安定な場所で寝れるか不安でいたのに、普通に眠ってしまう

モトキ、ここで野外における夜にそわそわしてきた。テンションが湧き上がってきたのだ

動きたい、動き回りたい。野山を走り回りたいが抑える

とりあえず何か飲みたい。川へ行き、水を手で掬い上げ、口へ運ぶ。それを5回繰り返す


「私も、明日に備えて寝ておこ。体力が皆さんに比べて差がありすぎますので。自己管理ぐらいはしっかりしないと」


ヒナトは「おやすみなさい」と頭を下げて、少し離れた位置で横になる。背はこちらに向けていた

残された3人は焚き火を囲んで無言になってしまう。しばらくして、座った姿勢のままメイソンとライリーも瞳を閉じていた。いつの間かであり、モトキは2人の顔に視線を向けてから立ち上がる


「よし・・・」


川砂利の踏む音を最小限に、川へ移動。浅瀬に立ち、足首にまで浸かる川の水は冷たく涼しい

一呼吸置き、手に剣と盾を出現させる


(まずは精神を無にしよう。足から伝わる川流れの感触を忘れるぐらいに集中)


集中の仕方はどうする?シンプルに目を閉じて視界を消すか、ボケーっとしてみるか

頭を空っぽにして、ボーっとしてみる。その直後、自分の名を呼ぶ声。間抜けな返事をしてしまった

そこには寝ていたはずのメイソンのライリーの姿が


「寝静まりを見計らって鍛練ですか・・・」


「まぁな。単に、体を動かしたかったもある」


メイソンは返しの言葉も無しに、手には先端にかえしのついた三日月みたいに反る刃を持つナイフが。ライリーの手には主に警察が携帯している黒い警棒なる物が出現


「どういうつもりだ?暗殺なら逃げるぞ」


「否定させていただきます。あなた様に死なれたら、ベルガヨル様がショックを受けてしまいますので。鍛練なら、1人より相手がいた方が効率も経験値も違いますでしょ」


「・・・そうだな」


2人とも川へ、表に出させてないが、3人共心臓の動悸が異常に速くなっていた

それぞれ、興味がある。


「属性エネルギーや魔法類い等は無しにしよう。素の肉弾戦と持つ武器の力だけで」


「けっこう。ライリーは?」


「私もそれで異論はありません」


3人はそれぞれ距離を置き、一切に喋らず、川の流れる音だけが耳に入る

誰から?自分から?いつまでこの状態?あと3カウントで仕掛けてみよう。ほんの数秒が、とても長い

季節にはありがたい、涼しい風が吹く。ライリーの髪が特に靡き、それが止んだ瞬間に彼女が動いた

メイソンに攻撃しても仕方がないので、狙いはモトキへ

水が弾き、粒が空間に舞う中で警棒による一撃。その一撃は、一歩も動かずに盾が受け止める

音がしない。さらに水飛沫が増え、モトキは衝撃に押され後退していた。音はその後に発生

予想以上の威力、盾から肉体にまで伝わる。まともに喰らったら、骨が粉々になっていただろう

盾を彼女めがけ投げた。それと同時にライリーは片膝を付きながら頭を下げ、後方よりメイソンが彼女の背を踏み台に飛び越える


「ご覚悟!モトキ殿!」


「おりゃああああっ!」


ライリーは片膝を付いた姿勢から、回転を加え警棒で盾を遠くへ弾き飛ばす

その間に、メイソンによる上からの蹴りにモトキも蹴りを放ち、迎え撃つ

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