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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
102/217

チームF 7

ぬかるんだ土を踏んだ。泥色の水がブーツ内に入り、靴下を濡らして気持ちが悪い

昼過ぎだというのに、まだ残る朝露により湿度が高く、うっすらと霧が漂う場所へと来ていた

少しぬかるんでいる土を踏む音、水の流れる音、カコーンとゆっくり溶けて消えていく木を叩いた音


「じめっとしてるのに涼しい」


水の匂いがはっきりとする。ヒナトはこの匂いが好きで堪らない

浅く長い呼吸を何度も繰り返している


「滝が近いですね」


「滝が近いなら橋はもうすぐさ」


徐々に徐々に、声が水の流れ落ちる音に遮られ始めた

そして短い緩い傾斜を進み、そこから真っ直ぐ先には道が無かった。道は右の方向に続いており、その先には向こう岸へ渡る為の木で作られた橋と、橋よりちっぴり奥、すぐ近くで落ちる滝

規模は大きくはないが、迫力は充分にある


「おぉーっ!ちゃんとした滝だ!ちょろっと一本線みたいなしょぼいのを滝だと言い張ってたジジイの戯言のものとは比べる必要のない、まごう事なきの滝だ!しっかりこの目で見るのは初めてだぜ!何故か感動してきた!」


「タイガはここの滝壺へ2回落ちたことあるぞ」


「いきなり何だよモトキ!Master The Orderの1人が2回も落ちて注意不足か?」


「ただの不運」


ふと思い出しただけ。何故か滝上より岩石がタイガの頭に落ちてきて橋から倒れるように落下

真っ逆さまに落ちたが普通にピンピンしており、下の滝壺から崖を登り上がってきているところにもう1個落下してきてまた頭に直撃、そして再び落ちる


「運ならどうしようもねえな」


橋にモトキの足が一歩踏む。太い丸太を数本並べて造られた橋からミシッの音

オーベールとヒナトに不安の霧が訪れ始める

長年、滝の水飛沫や湿気に晒されたせいか緑に変色している部分が。それがより不安を駆り立て、滑ってしまうのでは?数人で乗れば崩れるのではないか?

モトキは全く気にしている様子もなく、渡りきっていた

メイソンとライリーも同様に


「立ち止まってどうした?滝からの飛沫で濡れるのが嫌か?」


「きっと吐きそうなのですよ。ベルガヨル様も、大好きなチキン南蛮を調子こいて食べ過ぎた日はほとんど無言で、突然足が止まりブチまける時ありますからね。黄白だったタルタルソースも、吐けば別色別物ですよ」


滝の音で向こうには聞こえず、ライリーも先の道を覗きに行ってるので誰も違うの否定をしない

モトキはまだ橋を渡らずにいる2人が、崩れるかもしれない可能性に怯えがあるのに薄々気づいている


「絶対に違うだろう」


「でしょうね。吐いた物をライリーと2人で片付けて、その汚物が入った袋を振り回しながらこーれ!だーれか!いーり!まーせんか!?って口に出しながら走り回ると通行人皆々様は道を開けてくれますよ」


「お前、その行動で主人の世間体落としてないか?」


ヒナトは1回だけ、短く速めの息を吐いた。その直後、一気に橋を小走りで渡りきる

渡ってみると、不安などさっぱり消えていた。見た目以上の丈夫さが足底より伝わり、老朽化により不安とさせる音もモタモタしなければ出ない


「オーベール!いける!たぶん同じ、お約束みたいに崩れる心配をしてるだろうけど全然よ。滑らなければ」


「滑らなければは余計だぞ」


自分のせいで時間を無駄にするのが嫌になったのか、オーベールは一切下を向かず、橋を渡りきる

橋が終わり向こう岸に着いた時、体中から何かが抜けたような感触が走り、胸がスッとした

1度超えることでの意識変化、これで帰りも大丈夫だろう

彼が渡ったタイミングで、ライリーが戻ってきた


「先を少し見てきましたが、複雑そうな場所はありませんでした。このまま進んで宜しいでしょうか?モトキ殿」


「ああ、もうすぐだ」


橋を渡った先はしばらく一本道らしい。なら道を知らない自分でも先に進んで問題なかろう

オーベールはそう考えていた。しかし滝を後にしてすぐ、その先に道は見当たらない

広大な景色が広がり、「いい景色だ、空気がうめ・・・って言えるかーーっ!!」と叫んだ


「行き止まりだぞ!飛び降りろってか!?」


「あるぞ、右だ右」


滝が視界に入ってくる時と同じ、また右。そこには絶壁に、人1人がギリギリ通れる道

油断して少しでもバランスを崩したら最期の広大な景色を眺めながら真っ逆さまに転落してしまう

絶壁に背を付けて進むか、ぶら下がって進むのどちらか


「なにが複雑そうな場所はありませんじゃーーっ!!」


「進むだけですから」


最初から落ちるかもの不安は取り除かれているのだろう。メイソンが先に絶壁に背を付け、スムーズに進み始めた

途中で飛び降り、足場となる場所に掴まりぶら下がると懸垂を開始。無駄な行動である

ライリーが後に続き、懸垂を始めた彼の手を連続で蹴る。「はははっ!冗談にしては痛めの蹴りですね」と笑っているが、見ているこっちは笑えない


「モトキ、途中で極端に幅が狭くなったりしないよな?足がはみ出るギリギリだってのに、そうなったら爪先立ちするも動けなくなる自信がある。いずれ体力の限界に達して落ちるだろ」


「動けなくなったら背負ってやるよ」


ヒナトが行った。彼女は歯を噛み締めた顔をしているが、勇気あるなぁとオーベールは感心

その次にモトキが行き、オーベールも後を追う


「ひえぇ・・・っ!あ、でもけっこう辛い体制を強いられるわけじゃねえな。横歩き強制だけど、崖からの幅がギリギリで踵を少し浮かせる必要もないし余裕もまだある」


「落ちるなよー」


モトキの一言に「安心しろ」とヘラヘラした雰囲気が出始めた直後、オーベールの足元が崩れた

景色がスローになる。こちらと目が合うモトキと、他の3人が離れていく

叫ぶより先にあ、死んだが最初に過ぎる。ヒナトが自分の名前を通る声で呼んだ

短い、振り返れば歩んだ道が短すぎる。1年が1歩だとするなら、まだ15歩越えての16歩目

何もしていないとこうも狭くて短く錯覚してしまう道なのか?と巡らせていると、モトキの手がオーベールの手を掴んだ


「うわっっ!?ととっ!!」


「おぉ、よかった。手を伸ばして届かなかったら俺も飛び降りるつもりでいたぞ」


「モ、モトキ!ダメだ!お前まで落ちる!」


「え?いやいや、そんな悲しい別れの結末になりそうな気遣いをされるほど辛い顔をしてるように見えるか?お前1人ぐらい、普通に引っ張り上げられるし、なんならこれぐらいなら落ちても平気だぞ」


メイソンとライリーは頷いた。後ろの2人とオーベールを引き上げるモトキにヒナトが言葉を刺す


「あなた達どんな体してるのよ!?」


これは元からの才能ではなく、幼少からの環境や積み重ねによるもの

このぐらいの高所から落ちるより、戦闘時に殴られたりする方が遥かに痛い

こんな場所とかに一歩踏み出す前は怖くは無いのか?とヒナトが尋ねてきた


「野山で今以上に駆け回っていた幼い頃は怖さなんて二の次にして置き忘ればかり、慣れてしまっている。怖さでいったら、この前めちゃくちゃ怖いのに遭遇してな」


またメイソンとライリーは頷いた。数ヶ月前にジョーカーと接触したからである

ここ最近では最も色濃く残り、時の経過を待たなければ色褪せず、もしかすれば一生刻まれたままで初接触時のあの風景が夢見を悪くしてしまうだろう

それに比べれば、やれ獰猛な猛獣や、不安定な橋や足場など不運であったり油断しても落ちるだけであり、実力差や苦戦は別として革命軍の一員を前にしても足底から指先へ臆する震えが流れてこない


「Master The OrderのFirstに睨まれたか?」


「それが記憶だったら、もしかしたらマシだったのかもな」


聞こえないように呟いた。オーベールが「は?何て言った?」と問うが、それ以上の返事はなかった

この後は誰もが無言でこの場を抜け、モトキの案内に戻る


(む?空気が変わりましたね・・・)


メイソンにライリーも目を細めた。滝に絶壁の狭き道と絶景を過ぎ、外の世界を遮る程の緑が迎えた密林

変わり映えはほとんどなかったが、ここで空気の変化が起こる

地に虫やバクテリアに分解され土となる前の枯葉の中には竹の葉がちらほら混ざり始めていた

それは進めは進むほどに増え、ついには一面に枯れた竹の葉が広がる

オーベールの頬に1枚の竹の葉が触れた。汗で張り付く


「なんだよこれ。人の気配すら察せれない俺でもわかるぞ、なんて蹲って己を抱きしめたくなるような優しい空気なんだ」


森を抜けた。まるでここからは別世界の如く、すぐに広がるは密集率の高い竹林

竹だけではない、もう1つ目がいくもの。竹林前の地に突き刺さる錆びた刀身となってしまった刀

どういった意図で突き立てられているのだろうか?


「刀・・・?」


刀の存在に気づいた瞬間、手に取りたい衝動が訪れる。誰かに耳元で囁かれ、誘われてしまったかのように体が動いてしまっていた


「その刀に触れるなオーベール!」


モトキが飛び込み右膝撃ちでオーベールを突き飛ばした。軽くやったつもりだったが、彼は木に背中を撃ちつけ、ヘタリ込む

メイソンが「おや、死にましたか?」と笑っていた


「っってえぇぇーっ!!ぎゃああああっ!!いってええええっ!!」


何が起こったのか理解できずにいた。そして痛みが一気にきたのか、足をバタつかせのたうちまわる


「あ、ごめん・・・そこまで飛ぶとは」


ついさっきまで、ここの空気で擽ったくなり蹲って自身を抱き締めたい感情でいたが、痛みにより蹲ってしまうことになるとは

ヒナトがオーベールの背中を優しく叩く


「にすんだよ!!モトキ!!俺に恨みでもあるのか!?あの刀に触ろうとしただけだろ!!大切な思い出の品だから触れられたくない理由にしろ声で怒るだけかもっと優しくできただろ!!」


「色々と危険と事情があったんでな」


そう言うと、モトキは突き刺さる刀を右手で抜く

刀身と右腕を水平にやると、刀より黒紫色をした煙のようなものが溢れ掴む右手から侵食を始めた

やがて右腕を全て覆ったところで手から落とすと刀は独りでに動き、元の場所へ刺さる


「ふんっ!」


右腕に力を入れ、内からの光の力により右腕を覆う黒紫が弾き消された

覆っていた部分の箇所は少し焼き焦げている


「お前はこれを見てからでも、手にする勇気があるか?」


右腕の焦げ汚れを左手で払い、火傷と変わりない傷を負うところであった

あと数十秒、手に握っていれば全身に行き渡りあの黒紫に全身を焼き爛れ、溶かされてしまっていたであろう


「なんだよそれ。なんだよその刀は!?」


「俺も知らない。いつからあったのか、誰の所有物で誰に作られたかも。だが1つだけ確かなのは、まがい物にある元の主以外に触れて欲しくなかったり、持ち主に相応しくないから発動したんじゃなくて、精神に手にしろと誘わさせ、それに乗り刀を引き抜いた者をさっきので原形を無くさせようと故意でやってくる」


「まるでモトキ殿にも経験ある言い草ですね」


「ああ。俺にもあったさ、昔。手にした時、あの黒いのが刀身から溢れるのを一緒にいたタイガが気づいて咄嗟に俺がオーベールにしたのと同じことをされたな」


モトキは元の場所へ刺さった刀の前に行き、しゃがむと手を合わせた。「すみませんが竹を1本か2本いただきます」と、返事が返されることのない許可を申す

道端の地蔵にお祈りでもしているかのようだ


「ここへ辿り着いたり、通り過ぎようとした人の何人かは絶対好奇心であの刀を抜くだろ?モトキが言った、ワザと誘わせて手にさせる刀なら」


「その辺は大丈夫だ。ここへは普通だと絶対に辿り着けないから。今日来た道を後日、また行ってみたらあれ?って首を傾げるだろうな」


「じゃあどうして、お前は辿り着けるんだよ?」


「一度偶然にもここへ来て以降、内心念じれば道を開いて迎えてくれるようになった。よほどあの刀の機嫌を損なわずにいれば顔を見せに行くぐらいは許してくれるさ」


あの刀には意思があるのだろうか?オーベールは刀の前まで行くと、指先で突こうとするがギリギリのところで引っ込める。それをもう一度、嫌いや苦手なものに触れようとする度胸試しみたいなことをする中、モトキはどの竹にしようか選別を開始した

竹は選び放題である。なるべく綺麗な緑で硬く、節の多い物を選びたい

どれも立派な竹、大した変わりはないので近くにある1本に決めた


「これにしよう」


「お、竹を頂戴するのか?でもナイフだけで斬れるか?」


モトキ、手刀で竹をなるべく根元から切断。倒れてきたところをライリーが中央部あたりの節を蹴り上げ、2本へ

1本は彼女の手に、もう1本はメイソンの手に

ヒナトは単純に「凄い」と呟きながら小さく拍手を贈る


「ん〜、良い香りのする真竹ですね。かなりの上物。このような学園行事ごときには勿体無いですね」


更にそれを切断し3本へ。1本の長い竹から6本となった竹をリュックの口に挿しておく

もう1本いるか?と尋ねるモトキに、メイソンは十分だと答えた


「はい、1人2本。担当しましょうね」


メイソンはオーベールとヒナトのリュックにも2本ずつ挿していく。けっこうずっしりくる竹だ

モトキはまた刀の前でしゃがみ、「ありがとね」と一言礼を述べる。そのままで、振り向いた


「一旦戻るかい?」


全員に訊いてみる。誰も反対せず、賛成と異議なしの一言。他にこうしたい意見もなかった

一旦拠点に戻ることにした。思い出したようにオーベールはまたあの道を戻るはめになるのかと内心愚痴る

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