チームF 6
最後の1チームだから、兵士は最後までの案内をやめたのだ。大凡の場所を指し「無事を祈る」の言葉だけを残して去ってしまう
呼び止める真似はせず、意識はこの斜面先の河原に。オーベールは下の河原への道は無いかを探すが、ここからの見渡せる景色内には無い
ここを下るのが早そうだ。距離は30メートルちょっとだろう。木が下まで立ち塞がらない場所を身体を少し反らし、上手くバランスを取りながら下りるのは難しい事ではない。幼少時に夕飯のおつかいを頼まれ、行きに登り帰りに通る少し急な坂道を下るのと同じ感覚だろう
「先に見てくる。熊とかがいたら面倒だしな」
そう言い、モトキは斜面を普通に走り一気に下っていった。砂利を踏み、辺りを確認してから大丈夫のサインを送る
続けてライリーが素早く滑り、メイソンは何故か斜面に生える木々を蹴り移りながら下っていった
「下りないの?」
「るせーな、今からだ」
「あっそ」と態度に慣れている様子の返事をして、ヒナトは一呼吸整えてから踏み出し、斜面を一気に滑っていく。最後にバランスを崩してしまっが、ライリーが受け止めた
残されて、怖いの?と揶揄われ、この状況で頑張れと言われるのがすごく嫌なので勇気を絞り出さず、呼吸を整えず、モトキと同じく走り下る
「うおぉほぉーーっ!!誰か受け止めてくれーーっ!!」
ブレーキをかれず、爪先が土に沈んでいた岩に引っかかり身体が大きく飛んだ
ヒナトみたいに誰かが受け止めて、少し笑い合いながら無事に下りれたで終わるだろうと理想していたが誰も動いてくれず、落ちて川砂利を舞い上がらせながら顔面で滑り進む
オーベールはうつ伏せに、尻を突き上げた状態で止まっていた
「このヤローっ!!お前ら私の胸に飛び込んでこいの包容力と優しさはないのか!?」
むくりと起き上がり、顔の縦中央を真っ赤にし、鼻血を両穴から噴き出させながら怒鳴り、モトキに押し寄せる
「すまん」と、モトキは素直に謝ったが、その次に突然態度を変えた
「全員が全員を受け止めてくれると思うな!」
「なに開き直ってんだよ!」
開き直ってからすぐ、落ち着いた様子で顔でも洗ったら?と勧めてきた。それもそうだなと、すんなりオーベールは川へ向かう。感情の波が変動している
川で顔を洗い、そのまま水を飲もうとするが手が止まった。濾過してから飲んだ方がよさそうだ
家にある父の本をただの好奇心で手当たり次第読んだ記憶に水溜りの水や尿を飲めるようにする方法があったのを思い出す
曖昧な記憶で、実行しようとするが手頃な筒状の物がない。一先ず置いておこう
「移動が終わってから、かいた汗が乾いたおかげか涼しさがあって、今はそこまで何か飲みたい衝動が無いぜ」
よくあるひと段落からの一安心。オーベールはその場に座り込み、川を眺めながら一息つく
その後方でライリーは河原の砂利石を手に持ち上げた
「川砂利が大きめですね。ここで寝るのは辛く、調理の為に鍋を置こうにも安定はしません。この辺を拠点にするなら、まずは削れあって丸まった石ころ達をどかしましょう」
砂利下の土が湿気っていても構わない、火を焚いて焼べれる程度あれば良い。モトキとライリーが位置を決めて、石をどかし始めた
メイソンは支給された鍋を小指の先に乗せ、回して遊んでいたらライリーより石が飛んできて頭部に直撃
2人の行動を見ながら、辺りを見回したヒナトは1度息が詰まりながらも、声をかける
「モトキ君にライリーさん・・・で、いいかな?私にできることがあれば遠慮なく言って。こういったのは初めてで、右も左もわからないからあなた達の指示に従う」
「モトキでいい」
「ライリーで構いません。今はこれといった仕事や準備もありませんので、気を張らずにリラックスしておいてください」
「は、はいぃ・・・」
川砂利をどかし、半径50センチの円ができた。下から現れた若干白っぽさが混ざる土に水気は無く、とりあえずそこにメイソンが指で回していた鍋を置く
ヒナトはリラックスしておいてもいいと言われたが、流れる川の前でしゃがみ、ぼーっとしているオーベールを尻目にできそうな事を自分で探し始める
まずは辺りを見回していたら、メイソンが鉛筆を指で回しながら広げた地図に目を通していた
「現在の位置を地図で確認中?」
「そうですよー。川付近であり地図にFとエリア範囲の円が予め書かれてますので大まかな特定に苦労はしませんね」
鉛筆で今いる場所であろうポイントに小さくバツ印
地図を見てヒナトにはある疑問が、もしこの地図に記されている円から出て、自分達が引いたアルファベット以外の円内に入ったらどうしまったらどうなるのだろうか?
そこまで広範囲に移動する用事も事態も好奇心もないので、深く考える必要はなさそうだ
うんうんと独りでに頷いていると、モトキが近づいてきた。メイソンに尋ねる
「なぁ、この付近に小さな竹林があるから1本か2本採りにいかないか?竹は色々便利だし」
「そうなのですか?ぜひ赴いてみましょう」
モトキ、此処いらの山々にはそこそこ詳しい。見慣れ、記憶に覚えがある場所も始まりからここに来るまでの移動中、そしてこの場と幾つかあった
懐かしいとは別の感情。頻繁に山でタイガの戦闘相手をしたり、時折夜遅くに1人で鍛錬しているので
モトキがオーベールに「いくぞ」と声を送り、訪れる変化に彼は立ち上がる
「やっぱりサバイバルらしく、現地調達しないとな!」
やる気が沸き立つオーベールをよそに、留守番、見張りの要否をメイソンに訊ねると要らないと返答
盗まれるのは鍋ぐらいだ、鍋ではなかった他のアルファベットのチームと一緒になるだけ
「モトキ殿がここの地理に詳しそうですので、案内をお願いできますか?」
「わかった。もし記憶違いだったり、途中道に迷ったらリンチぐらいまでなら許すからな」
折り畳み、置かれた鍋にでも入れておこうと投げられた地図はライリーの頭に角が刺さった。「あ・・・」とやってしまった顔、謝る暇もなく俊足に距離を詰められ、メイソンは顎下より蹴り上げられる
溢れる鼻血を流したままうつ伏せに倒れるメイソンに、「いきましょう」と頭からピュッと血が噴き出しているライリーの光景はどちらから処理対応をすべき悩むものであった
「よっしゃっ!もう場所移動までの退屈さは勘弁だぜ!猛獣でもドラゴンでも出てこいや!」
「どちらも普通にいるぞ」
野生の獣やドラゴンが怒り、怯え防衛本能に駆られたり、獲物と定めて襲ってきた時の恐ろしさはよく知っている
幼き頃、モトキは巨大な猪に腕を噛まれた状態のまま引き摺り回され、タイガは100を超える狼の群れと戦い、その兄は翼の持たぬ四足歩行のドラゴンに丸のみにされてしまったことがある
思い返してみると、よく生きてたなーと苦笑いしてしまう話だ
「やっぱり、自然豊かな山々には当たり前にいるんだなあ」
動物は人の匂いや気配、物音で自ずと逃げる認識があり、どうせそう簡単に出会すはずがなかろうとオーベールには余裕がある
襲われた経験のあるモトキは、猛獣か何かが現れて腰を抜かす彼のリアクションを見てみたい本心が芽生えていた
「では、参りましょう。モトキ殿、案内をお願いします」
ライリーはメイソンの右足を掴み引きずってきた。砂利で痛そうだ
「いたっ!いてててっ!ライリー!もっと優しく引っ張ってください!」
川砂利の踏む音から、森の土を踏む音へ
オーベールは、らしくなってきた状況に楽しみが背筋に走ったらしく、身震いした。拠点地への案内での移動とは違う
「ここから2キロ程先に短い木橋がある。そこを渡り、崖下を通ったところだ」
「おいモトキ、お前は遅刻ギリギリで慌てたり焦ると方向音痴になるから常に落ち着けよ。今でも学園内を迷ってる時があるくせに」
「あれは無駄に広い学園が悪い。在学中に行かない所も絶対にある」
メイソンは地図を置いてきてしまったが、彼に迷う不安など微塵もあらず。なにしろ、モトキを信じ切っているからである
ライリーもそうである。戻って取りに行くのも面倒であり、もし迷う事態になろうとも対策はあるのだ
ここで、メイソンが思い出したように声を漏らす
「あ、そういえば支給品にある食料についての説明をするはずでしたね。この移動の最中、しておきましょう」
リュックから銀紙に包まれた食料を取り出す。改めて目にすると、やはり数日過ごすにおいては小さすぎる
「モトキ殿とライリーは薄々察しておりますでしょう」
包装する銀紙を剥がす。茶色に乾いたような緑が混じったそれは、あまり素直に美味しそうだという感想は出てこないだろう
「まるでお腹の調子が悪い時のうん・・・」
ライリーに張り手された。モトキとオーベールもそう思ったが、同調して頷いたり、「そうだな」とかを言えばメイソンと同じ目に遭いそうなので内心に収めた
「そ、素材は栄養価の低い植物と穀物ですね。それを湯煎して、乾かし、また湯煎を繰り返して乾かしてから固めたのでしょう。栄養を逃し、カロリーを捨て、味気を無に近くしています」
「それにこの小ささ。切り詰めて切り詰めて、なんとか2食分は厳しいか」
「1食分すら厳しいどころか明白です。つまみ食いレベルですよモトキ殿」
本当に命の危機に立たされているわけではなく、どこかで所詮は学園での行事だろうと余裕があるせいで緊張感が一歩抜けている
メイソンは、何故か突然その食料を普通に食べてしまった。誰もツッコミを入れず
あまりにも急すぎた行動だったので遅れたのだ
「やはり味も腹持ちも皆無ですねこれは。思春期成長期の私達には辛い量です」
「そっか、食料だが腹持ちに期待はしない方がいいか。無いよりマシの心持ちでいよう」
「この山々から食料を調達するしかありませんね」
モトキとメイソンの会話終わりに、ライリーが「つい先程、1人分が消失しましたけどね」と入ってきた
食料を調達、ヒナトには不安がある
「食料調達って、経験もないのにいきなり動物を狩るのはちょっと・・・」
「その方法もありますが、森に自生する木の実類、食べれる植物の根を採るのが楽です。私も食料を得るには楽な方を選びますよ」
それぐらいならと、ヒナトは胸をなでおろす。オーベールはつまらなそうな表情だ
メイソンは次に、食料調達以外の方法の選択肢をライリーに任せる。彼女とモトキにも、支給された食料を見て鼻から頭に浮かんでいたであろう
「では私の脳裏に訪れた他の方法2つを、メイソンとモトキ殿と一致する考えだとは限りませんが簡単に説明させていただきます」
「お堅いそうだな。いかにもの雰囲気」
「よーし、もっと言ってやってください」
彼女は2人を睨む。オーベールは怖気付いてしまい黙り、メイソンは視線を逸らす
「コホン、邪魔が入りました。まず1つ、支給されたこの食料を普通に食べて残りは我慢をする手段。行事の期間は5日、我慢すれば死に至る日数ではありません」
「敵は空腹と気力だな、寝てばかりになりそうだ。もう1つは?」
「2つ目、他をリタイアさせて食料を独占する手段。これをしたら馬鹿ですね。本番さながらにするのも結構ですが、学園行事とお忘れなく。独占しても大した量にはならず、終了後には人と人との関係に亀裂が入るでしょう」
メイソンが自分のを今ここで食べてしまったので全て独占は不可となってしまったが
「学園生活にて人付き合いが面倒な方は溝を作る為のきっかけに是非」
「普段から他の生徒に避けられている雰囲気あるのになあ、俺」
クラスで浮き気味のモトキ、接してくれるのはオーベールぐらいである。彼がそっと肩を叩いてくれた
「改めてこの3つの中から、どれにいたしますか?」
「普通に!普通に調達するでお願いします!次点で我慢かな?」
ヒナトが慌て気味に、独占は論外だと訴える。ライリーは「そうですか・・・」と優しく静かに一言
他は?と1人1人に視線を配り、モトキとメイソンもヒナトに同意。オーベールは、彼女の視線がやっぱり怖いので口が固まってしまっていた
「それではモトキ殿、引き続き案内をお願い致します」
この話している間に道は逸れ、間違っていないかはモトキ以外わからない
間違ってたら間違ってたで、リアクションして教えてくれるだろう