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光ある概念の終日  作者: 茶三朗
野外に過ごして
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チームF 5

各アルファベット1文字が書かれた看板を持つ兵士が、それと同じアルファベットが書かれた紙を引いた複数のチームを先導し、鬱蒼する森林が人に睨みを効かせる中を移動

他よりも、この移動での空気は最悪であった。誰しもが無言、移動の暇でくる無駄な雑談が一言も無く

ピリついている。モトキに対する敵意のせいで

その本人であるモトキとベルガヨルの付人である2人は重い空気に呑まれずにいる。個人の勝手に、周りが勝手に意識しすぎているだけ

先導する兵士はそれにすら気づいてなさそうだ


「オーベール、オーベール・・・」


「んだよ?今はくだらなく話せる空気じゃないだろ」


ヒナトが小声でオーベールの名を呼び、肩を揺する。唐突だったので彼の全身が少しビクッと反応した

適当な返事で終わらせようとしたが、彼女が1つの方向に指をさす。その先には同じようなものが呆れる程ある変哲も無い1本の木の枝部分。だがそこには何も無く、根元から全体を見てみるがやはり怪しい気配がない


「何もないじゃねーか。妖精でも幻に見たか?」


「嘘・・・指向けて教えた時にはまだ人影があったのに」


「葉の影を見間違えたんじゃねーの?それともよくあるじゃん、1つの物をずっと凝視してから他を見たらその形だけは一瞬ぐらい視界に残るってやつ」


そうなのかな?と本心納得できず、残像効果にしてはその影がハッキリであった。あれは見間違いでないと確かな意思もあるが、鍋底には見間違いであって欲しいという芽生えも若干ある

森林で、あんな位置から人を観察している者がマトモなはずがない。山に潜んでいた不審者か、そういった趣味のある見張りをしている兵士、実はただの猿で人が現れたから逃げた可能性も残る


「見間違いにしとこ」


「それがいい」


彼女は見間違いで片付けた。もはや誰であったか事実であったかなど、どうでもよくなってしまった

今から誰かいた!と騒ぎ立ててもしょうがない

ヒナトとオーベールは真実を知る事はなくなったが、彼女が見たものは見間違いではなく、ちゃんとそこには人はいたのだ

人がいたと指さした樹木、その裏でタイガが張り付いている


(危なかった。状況が状況なら、つい反動で女子に石を投げ脳天を潰し、黙らせているところだった)


背中で木の幹を滑り下り、足を地に着かせすぐに退散。様子を一目見に来ただけ

前から自分の元に置いて欲しいと何度も訪ねてくるやつらもいたが興味は皆無に近い

揉めていたのは知っている


(俺がいるのをバレて、進行妨害にでもなったらマズイから離れるか。また数時間後に様子を見に来よう)


タイガは歩く音を抑え、普通に徒歩でその場から去っていく


「まだ着かねーのかよ。移動だけで体力消耗しちまうぜ」


もう夜からの青み空の果てに太陽が昇りかけた時刻から陽は昼へと刻んでいる。暑さも出てきて、余計に体力を奪っていた

兵士は愚痴を無視、モトキとメイソンだけが反応


「そうか?俺は正直、こういった森や緑の中で過ごすのが好きだから楽しさが脳内から身体全体を刺激して疲れなんて全然だ」


「私も、幼少時にライリーや他の使用人共とこういった訓練という名のキャンプに参加させられた頃が懐かしくてアドレナリンがドッパドパです」


「アドレナリン以前に、お前達と俺じゃ素の体力や丈夫さが違いすぎるだろ」


息切れしてきた。他のチーム数名にも見られるが、モトキとメイソンは楽しそうであり、ライリーは平気に顔色に変化無し

ここで突然兵士がストップをかけ、この場で待機を命ずる。Fに5のチームだけは自分と来るように聞かせ、そのチームは質問せずに移動を再開した兵士の後を追う


「休憩休憩!服は暑苦しいし、荷物も空気も重くて体に悪いぜ!」


数名が座り込む。何か飲みたいが水が無い

無意味だとわかっており、期待薄いけど一応モトキに訊いてみる


「水とか持ってないか?」


「ない。リュックの中は確認しただろ」


「そうなんだけどさ、今欲しい物が無いのはわかっていても訊きたくなるものなんだよ」


鼻下を指で擦り、それ以降はジッとしていた

この数日、水無しでは辛いだろう。確保する方法は手っ取り早く川か植物の葉に残る雨水であるが、モトキはある手段でオーベールに水を飲ませようと考えてしまう

幼少時に教えてもらった記憶、動物の糞を布で包み絞って水分を出す方法。普通に前述の2つでいいのに、それではなく糞を絞る手段でオーベールに水を提供しようとしている


「ちょっと探す物があるから行ってくる」


「は?どうしたモトキ?探し物は建前で本当は野糞か?」


「いや、草食動物の糞が適してる。人や肉喰う動物の糞は危ないっていうし」


話が噛み合わず、こいつは何を言っているのだろうか?とオーベールは首を傾げた

モトキの言葉に察したのか、ライリーは足底で滑るように行手を阻み、目でメイソンにサインを送る。なんでもいいから彼の独断行動を阻止せよと

メイソン自身は任せろと親指を立て、返す


「お待ちくださいモトキ殿。この場で待機と告げられた今、勝手な行動はやめておきましょう。水を確保する方法はあります、雨乞いをするのです」


ライリーはずっこける。顔からいったので、ぶつけた鼻を撫でながら違うを訴える目つきで睨む

メイソンには伝わらず、「雨乞できるのか?」と訊ねるモトキに「たぶんできます!」とやけに自信有り気


「雨乞いの儀礼は祈雨とも言われております。日照りの続く熱帯乾燥地域ではよく行われており、そういった場所では神からの恵み物であると考える者が多いですね」


「降らなきゃ神からの罰ってわけか。で、雨乞いするにしても儀式に必要そうな供物や道具はどうする?他にも賢者とか巫女とか尊敬を集めるやつがとり行うイメージがある。この限られた道具で可能なのか?」


「なぁに、大丈夫ですよ。太古より、どの時代にもあった悪しき風習でもすれば。雨乞いだけでなく、豊作や災害防止の為に使われましたからね」


「すごーく嫌な予感がするんですけど。まさか、生贄とか言わないだろな?」


「正解ですよモトキ殿!いわゆる人身御供です」


野外用ナイフを掌で回転させながら、今いる1人1人に指をさしていき「だーれーにーしーまーしょーうーかーなー」と口遊む

モトキは慌てて止めた


「待てーい!藪から棒に物騒で血生臭くなったぞ!」


「野外用刃物で事足ります。生贄となる人も選び放題」


「前向きに進める方向で行くな!」


最後の言う通りで、指は別チームの名も知らぬ男をさしていた。顔を少し伏せ、引きつった笑顔の口元を不気味に晒しながら掌で回転させていたナイフを握り、男にじりじり近づく

その間、考えてみるとメイソンは引きつる笑顔から、少し不満そうな顔に変わった


「本心は女性でやるのが古文の記述のように絵になるのですが・・・」


「いやいや!共感して頷けれるかよ!」


ナイフを振り上げた。モトキはその手首を掴み阻止

それと同じタイミングで兵士だけが戻ってきた。生徒達に「移動を再開します」を叫び渡らせる

オーベールが2人に「行こうぜ」と声をかけてきた。 モトキは手首を握る自身の手を放し、メイソンはナイフを納める


「あー、危なかった。どこまで本気だった?俺がお前の手首を掴んで正解だったか?」


「ふふふ・・・冗談ですよ、冗談」


どこまでが冗談だったのだろう?誰が、どういったリアクションをして、止めてくれるのか催促してくれるのか楽しんでいる節がある


「結局、野糞はできなかったなモトキ」


「また時間を見つけて、ひっそり肥料にしてくるさ」


移動を再開。その後はしばらく進み、待機を言われ、1チーム減ってからまた進むの繰り返し

ライリー曰く、5キロから10キロの距離を移動する毎に待機を言い渡されているようだ

ペースも早められ、途中から明らかな疲れが見え始めている者の割合がほとんどとなっていた


「疲れた・・・」


本当に心から漏れた言葉だろう。それが漏れたオーベールに対し、ヒナトは表情を見られたくないのか無言だった

自分達以外、最後のチームが兵士に連れてかれる。待機中、あった会話はメイソンの「あとは私達だけですね」の一言だけ

兵士が戻ってきた。数回目となるのでもう行くぞと告げず、モトキ達も返事や他へ行こうと促すのをやめている

そこから、静かだった。最後は自分達のチーム、これは神か運命かの悪戯ではなく単なるたまたま

自分達でなかったら、他がなっていただけの話

最後は感覚的に、そこまで距離を移動しなかった気がする

兵士の「ストップ」という一言、続けて親指で左の方向を指す。モトキ達から見て、右側は斜面であった

そのずっと先に、斜面に生える木々の間より川がある


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