荒前
この作品に目を通していただきありがとうございます
作者はあまり鬱展開が好きでないけど、もしかしたらがあるかもしれません
都合いいなことばかりですがご了承ください
少年は16歳、孤児として施設で育ち
ドタバタでワクワクな学園生活をおくるなど夢見過ぎかもしれない浮かれ気分にはなっていないが
正直、楽しみである。施設での生活も、そこまで不自由ではなかったけど・・・
いずれはこの大国を守護できるように
人外種族、魔王、組織、人間。全てが敵となり得る
筆が折れた。特別に大切にしていたものではなく、頻繁に使われてはいない、備えにある筆。
それは朝の刻。濃いめの茶髪をした少年は、早足で移動し、折れてしまった筆をまだ肌寒い外のゴミ置場へ投げ捨てた。
しばらく、その場を見つめる。今日まで、何度ここへ紙くずや、生ごみ等のゴミを捨てに訪れたか。悪ふざけをして、割れた壺や皿を黙って深夜に捨てたこともある。
去る前に、ふと1つ1つの記憶が脳内で、掠れた風景として巡る。しょうもなく、くだらないもあり、けど嫌でも好きでも思い出すものだ。
荷物はほとんど持たずに、物心ついた頃より育った施設の門を一歩踏み出た所で、振り返り深く一礼。
「お世話になりました・・・と」
朝陽が昇る寸前の青みがかった空の下、誰にも見送られずに男は去る。
別れが寂しいからそういった理由ではなく、ただ単に照れ臭いだけなのだ。
本日は入学式の予定である。この歳まで過ごした施設から、入学する学園から用意される寮部屋で生活することとなる。
秘める想いはどのような位でもいい、この大陸、大国で、存在する意味のある者になりたい。
育った施設で習ったことを生かすのも、これから習うことを生かすのも、努力でも才能でもいい。
まずは、学園に入学し、卒業だ。
そして、もう1つの想いもある。
「あれ?迷っちゃった」
この男、初日にしてさっそくやらかしてしまった。
道を間違えてしまい、学園までの道のりにはあるはずのない森に今いる。
施設を去ってから駅まで行き、そこから列車に乗り、目的地の駅で降りたところまでは覚えているのだが。
そこで、他の入学者であろう生徒は駅でちらほらとおり、ただそれについていくだけでもよかったのに。
「近道になると思ったんだけどなぁ・・・」
学園は遠くに見えていたのに、それを目指せばいいだけだったのに、近道しようと方向を急に変えてしまったのが、どう考えても原因である。
「とりあえず、駅に戻ってみるか」
草や土に残る僅かな足跡で元来た道を戻ったりしてみるが、全然違う森林を一望できる断崖絶壁場所に出しまう。
あれは、自分の足跡ではなかったのか?と疑問。
すぐにまた森に入ると木にのぼり、少しの間だけ周囲を見渡し、飛び降りてあっちかと方向を確認。
空振りをしている自信のまま、全速力で走る。
しかし、一直線に進んだはずなのに、遠目に学園が見えたはずなのに、着いたのはまた断崖絶壁から、今度は海景色が眺めれる場所であった。
もう全てを忘れ、海でも眺め、ぼーっとしていたい気分だが、そうもいかない。来た道をまた戻り、学園を目指す。
「よ、ようやく着いた!最初から普通に駅から、普通に行けば良かった。この馬鹿野郎め!」
入学式は、当たり前だがとっくに始まってしまっている時刻。
ボロボロであり、少し荒い息を吐く男の髪や服には葉や、植物のツル、虫の脱け殻などがくっ付き、小枝が刺さっている。
彼の周りにいる数名の生徒は、どうしてこいつはこんなことになっているのだろう?と、大して興味もないが、一応近くにいるので気にはなる視線を向けてきた。
服にくっ付いていた小枝や葉、虫の脱け殻等を払い落とす。
今、新入生に向け、祝いの言葉を述べている二十歳ぐらいの青年の声など耳に入っていない。
祝いの言葉を述べている男のことは、よく知っている。
「あいつ・・・一丁前に」
そう小さく呟き、全くと言っていい程に聞かずして学園長の挨拶へ。
一体どれほどの期間、手入れを無視をすればあんなに髭が伸びて束にできるのだろうか?という風貌を持つ、丸メガネを掛けた中老の男であった。
しかし、ほとんどの学生の視線は学園長ではなく、少し距離を置いた後方にて、用意された椅子に腰をかけている4人の在学生達へ向けられている。
自分もまた、その人達に視線を向けた。周りに合わせたつもりはない。
この4人をわかりやすく説明するなら、学園にいる最高クラスの実力者達である。
だが、ここにいるのは全員ではなく、今回来れた者達だけ。
4人は真面目に背筋を伸ばして椅子に腰かける着物姿の女性もいれば、イラつきを残した顔のまま寝ていた紫髪の男、この場にいるのが退屈そうな少女と各々が好き勝手な様子の中で、1人の黒髪を持つ男と目が合った。
そいつに、僅かに覗かせた笑みで会釈をすれば、相手は歯を覗かせて声を出さずに笑い、椅子に深くもたれる。
「あとで向こうから来るだろな・・・」
しばらく何もせず、上の空の様に学園長の言葉を聞き流していたら、突然万年筆が飛んできて、後頭部に当たった。
振り向くと、先程挨拶をしていた青年が、生徒達の後方へと移動しており、前を見ろと言いたげに指をさす。
万年筆は、後頭部に当たるも床には落ちず、手に握られており、胸ポケットに入れた。
あとは終わりまで、夕方辺りの予定でも立てる。
「俺のクラスはっと・・・」
入学式が終わり、自分の名前と右端に「2」の数字が書かれた紙を手に、学園内を歩き回っていた。
今回は、他の入学した生徒に並んで行動しているので、迷子になることはないはずである。
「あ・・・っ!クラス2の札。ここでいいんだよな?入っていっているやつもいるし」
次の流れでは教室に入り、自分の席を探し座るだけ。
他の生徒同様に教室に入ろうとした次の瞬間、強く右肩を叩き掴まれた。
全身に痺れが走り、おもわず「うぎっ!」と声を漏らしてしまう。
誰だ?と顔を確認するより先に、男の声が届いた。
「よう!先の入学式じゃあ、ずいぶんと汚れていたな!無邪気に昔を懐かしみながら遊んできたのか?」
入学式際に祝いの言葉を述べ、万年筆を投げてきた青年がそこにいた。
他の生徒がざわついているが、自分からしてみれば顔馴染みの存在。
「最初に自分のクラスに入るのもいいだろうが、まずは面白いところへ連れていってやる」
「いや、いいです・・・はい・・・どうせ」
「お前に睨まれたと告げ口をしてきたぞ。なら謝るのは大切なことのはずだ!わざわざ、式後の聖帝様からのお呼びを1人だけ行かずに待ってくれているのだからな!」
決して遠回しの脅しではない。あの目が合ったというより、笑みで会釈したやつのこともよく知っている。
男は抵抗する理由もなく、従うことにした。
その者に引っ張られ、わざわざ遠い学園長室前まで連れてこられると、青年はノックもせず勝手に入室。
部屋に学園長はいなかったが、先に自分の会釈に反応した黒髪黒瞳の男がソファーではなく、床で胡座をかいていた。
「ようやく来たのか」
「久しぶり・・・!2日前にも顔を合わせたけどな」
「じゃあ2日ぶり、モトキ」
「2日ぶり、タイガ」
この物語の一応、主人公である男はモトキである。
対して相手は、歳が1つ下のタイガという名で呼ばれている少年であり、2人の関係は一応、幼馴染の間柄。
2人に姓はない。タイガは同じ施設で物心ついた頃より過ごした仲であり、1番共に過ごしてくれた者。
1つ下であるはずなのに先に在学しているのは、モトキのように入学が最も一般的な高等部からではなく、推薦で中等部から学園に通っている為。
「よかったのか?聖帝様に呼ばれていたはずだろ?」
「いいだろ?どうせな。行っても入学式が終わりましたと、必要のない人数と必要のない赴きで告げに行くだけだ」
「それだけじゃないと思うけどな。本心は?」
「遠くまで赴くはめになるからな。単に面倒くさくてモトキを理由に使っただけだ」
モトキをここへ連れてきた男は「聞かなかったことにしておく」と、呆れていた。
彼も昔から施設を訪れていたので、2人のことはよく知ってる。
2人からすれば彼は、兄のような存在ともなりうるはずなのだが、ちょっと違う。
本来なら無礼であるのだが、近しい周りの者らからあまり良くない印象を持たれるだけで、聖帝様自身は、呼んでも来ないことは大目に見ているというよりは、余程の重要な件でない限りは気にしていないようである。
単に、タイガを気に入っているのか、彼と面会した際はちょっぴり饒舌になるので、なるべくは足を運んでほしいものだと、つい溜め息が出そうになった。
「おっと、あまり長居している場合じゃぁなかった。俺は少し港の方へ出かける。なんでも・・・ちょいとトラブルがあったみたいでよ」
「あぁ、どうも。無理矢理に連れてこられた感が拭えないけどさ」
「生意気な口を・・・!」
男は握り拳を、モトキの頭に押しつけるように落とし、グリグリと動かす。