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異世界の天下布武  作者: big bear
第一章、ある森よりの始まり
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4、あるいは士(さむらい)として

 アイラからの要請を魔女は快諾した。

 彼女はすぐに弥三郎を連れて、森の小屋へと駆け戻った。盗賊たちと戦うための準備を整えるためだ。


 その最中も、弥三郎は自分の恩人の行動に心底感じ入っていた。全くの誤解ではあるものの、弥三郎の目には彼女の行動が義に厚く、仁を心得た清廉潔白のさむらいに見えていた。


 彼の生まれた乱世にあって、義や仁などはその場によって使い分ける道具に過ぎない。時によればそんなものは路傍にうち捨て、卑怯と謗られるような行いすらも善しとされてきた。

 弥三郎とて、そうする事を良しとしてきたし、そういう生き方を自ら選んできた。そこには悔いも、後ろめたさもない。それが彼の、いや、戦国の武士の在り方だ。


 だからこそ、あの村娘の求めに応じた彼女の姿が弥三郎には尊いものに映った。縁も所縁もない民草に応え、義をもって身を捨てる。人たるものが目指すべき形の一つが彼女の姿だとさえ思えた。

 最初に彼が捨てた、捨てざるをえなかった在り方、そこに未練はないものの憧れは残っている。


 ならばこそ甲冑の帯を閉める手に力も篭ろうというものだ。死した後に誉ある義戦の機会を得られる僥倖を天に感謝し、刀を差した。


 一方、魔女の方は弥三郎の行動が理解できずにいた。

 確かにあの村娘の求めに応じることにはしたが、彼女はそれを弥三郎には強要していない。付いてこいとも、手伝って欲しいとも口にはしていない。

 だというのに、弥三郎は義務を履行しているだけの彼女よりも遥かに、この無謀な助太刀に乗り気だった。

 彼女の目には、小屋まで駆け戻り、黙々と甲冑を身につける彼の姿が無邪気な子供のようにさえ映っていた。先程盗賊六人を皆殺しにしたような残虐さや凶暴さはまるで感じられない。


 奇妙でしかない。彼はネモフィ村のおかれた状況を理解できないほど愚昧ではないはずだ。

 状況は正直言って絶望的だ。すでに村の総人口を越える数の賊が近隣まで迫っている。逃げようにも手遅れで、戦おうにも武器すらない。

 だというのに、彼は愉快そうに戦支度を終えた。まるで死ぬことを望んでいるかのようだった。


 それに、彼のまなざしから伝わってくる感情も彼女のしらないものだった。

 求められるのなら応える、それが古来より彼女達が続けてきた在り方だ。

 弥三郎にとって主のために一命をささげるのが当然であるように、彼女にとって至極当然のことなのだ。そこに尊敬や賞賛が伴うなど考えたこともなかった。

 


 だが、悪くはない。少なくとも魔女は弥三郎の態度を不快なものとは思っていなかった。

 何の言葉を交わすまでもなく、彼女と共に戦う決めた弥三郎。御伽噺の騎士達とは似ても似つかないと思っていたが、その実、この男は現代のどんな騎士達よりも古の英雄達に近しいのかもしれない。そんな思いさえよぎるほどに彼の背中は大きく見えていた。


 だからだろうか、例え自分がほとんど詞を手繰れない身であっても、この男ならばもしや、そんならしくもない楽観が彼女の頭をよぎった。


 続いて、一度は否定した仮説にも満たない空想が頭を擡げる。

 弥三郎が彼女の元にやってきたのは奇しくも戦を司るマルス神の祭りごとの日だった。

 そのことから最初、彼女は彼を神の使徒ではないかと考えた。この世界に一人残された己を迎えに来たのではないかと。


 当然、その考えはすぐに否定された。

 使徒とは現世に降りたつ神の写し身だ。それがこのオリンピアの事を何一つ知らないなどありえない。

 

 だが、今はこの時のためだったのではないかとも思える。いずれ降りかかる試練を払うための剣がこの異邦人なのではないか、そんな幻想おとぎばなしを彼女は信じかけていた。



◇   


 アイラからの一報を耳にしたときの村人たちの取り乱しようは目を覆わんばかりのものだった。


 臨時の話し合いの場となった村長の家では、村の顔役達の怒鳴り声が響いている。なにも身のある話し合いなど行われてはいない。そんなことがかれこれ一刻もの間続いていた。


 アイラが襲われたのは昼間、魔女と弥三郎から分かれてからは二刻が経っている。その間も盗賊たちは村に迫っていた。


「逃げるしかあるまい! 我々だけで何ができるというのだ!!」


「逃げる? 馬鹿を言うな! この村は二百年間、我々の先祖が守り抜いてきた土地ぞ! みすみす盗賊などに渡せるか! こんなときのためにあのごろつき共を雇っているのだろうが!」


「馬鹿はお前のほうだ! 連中は精々十数人、相手は五百とも聞くぞ! それで一体何ができる! 我々全員、殺されてお終いだ! そんなことになる前に村を捨ててでも逃げ出すべきだ!」


「だが、逃げたところで……」


 村長の家に集った村の顔役達の意見は真っ向から二つに割れていた。

 

 村を捨てて早々に逃げ出すべきという派閥と、戦力を掻き集め街へ向かった急使が援軍を連れて戻るのを待つべきだという派閥だ。

 盗賊に降伏したところで、皆殺しにされたあげく田畑を焼き払われ、村の物資は全て略奪されるのは分かっている。現実的に取り得る方策はその二つしかなかった。


「逃げるしかあるまい……もはや税を払うことも叶わぬかも知れぬが、それでも殺されるよりはましであろう」


「そうだ、領主様も鬼ではない。特別にご赦免くださるかも知れぬ。しかし、それも生きておればの話よ……」


 その言葉に賛同の声が上がる。

 大勢は逃散派に傾きかけていた。例えそのあとにどういう結果が待ち受けていようとも差し迫った死を回避する。ただの村人に過ぎない彼等にとってはそれが最善の選択ではあった。


 最寄の街に早馬が辿り着くのはどれだけ早くても明日の朝。それから、駐在の騎士団が出立して村に辿り着くまでには二日はかかる。その間に、村は焼き払われ、皆殺しになるというのが現実的なものの見方だった。


 そもそも戦おうと主張しているのは道理の分からぬ女子供か、血気に逸った若者ばかりだ。

 確かな勝算や目論見があって抗戦を主張するの者は皆無に等しい。用心棒として雇われた傭兵団の面々すらも村からの逃亡に傾いていた。

 しかし、その中にあって一人、確かな確信をもって抗戦を主張するものもいた。


「――逃げるべきではありません! 逃げたところで追いつかれて殺されるだけ、打って出れば勝機はあります、戦うべきだ!!」


 村長の娘、アイラだけが頑なにそう主張していた。

 アイラはほかの若いだけの若衆とは違い、村内政治を取り仕切ってきた顔役の一人だ。すでに逃散と腹を決めているほかの顔役達にしても、彼女の言葉を無視してしまうわけにはいかなかった。


 それに、件の盗賊たちを直接見た唯一の生き証人でもある。彼女が村に戻ってこなければ、盗賊が迫っていることも知らずに村祭りを続け、むざむざ殺されていただろう。その点において、彼女はこの村全体の恩人ともいえた。


「しかし戦うというても、アイラ、こちらにはあのぼんくら共しかおらんのだぞ。勝ち目などどこにあるというのだ」


「戦うのは傭兵団の皆さんだけではありません。村の若衆に武器を持たせればいい、武器が無いなら鉞でも鋤でも鎌でも何でも結構。合わせて五十人でも、ただ逃げるよりはいい」


「アイラ殿の言葉とは思えぬ……いつもの聡明さはどこへ行かれたのだ! 逃げれば皆殺しにはならぬのだぞ!」


「もはや、逃げられぬといっているのです! 連中はすぐそこまで迫ってきているはず。この村は身体も満足に動かない老人ばかり、馬も荷車もたりない! 逃げたところですぐに追いつかれて殺されてしまいます!」


「い、いくら盗賊とてそこまでは…………」


「言い切れますか? 連中がドレイア村で何をしたか、皆聞き及んでいるはずです!」


 彼女の言葉に顔役達も考え込む。


 半年前、ドレイア村で起こった悲劇については彼らとて良く知っている。

 村を明け渡すも村人の大半が殺され、生き残りはすべて奴隷として売り払われたいくら盗賊とはいえ降ったものまで殺すなどとても人間の所業とは思えない。


 そのような非道を平然と行うような輩である。逃げる背中を切りつけるくらいのことはやりかねない。

 もしそうなれば、この場で武器を取り戦うよりもなお悲惨な結末を迎えることになる。

 

 甘んじてそんな結末を受け入れるよりも、誇り高く戦うべきだと彼女は主張していた。


「しかしだな。多少の犠牲を払ってでも、街へと逃げるほうが……」


「女子供や老人を見捨ててですか? 私にはそんなことはできません、せめて彼らを逃がす時間だけでも戦って稼ぐべきです。それに――」


 静かに、だが怒りさえ感じさせる厳しい口調で彼女は言葉を紡ぐ。


 逃げ出すのは現実的な手段だ、魅力的にさえ思える。少なくとも、ここでこうして方針を決定している彼らは生き残ることができるだろう。


 彼女にはそれが我慢できなかった。無論彼らが自己保身や悪意を持って逃散を主張しているのではないのは百も承知している。だが、それでも自分を安全な場所において誰かに犠牲を強いることは彼女には許せなかった。

 

「勝算はあります! 私達には――」


「――なんだ!? 何事だ!?」


 にわかに村長宅の前のざわめきがより一層大きなものへと変わった。

 家の前には村人の大半が集まって顔役達の話し合いの結果を今か今かと待っていた。この話し合いの結果が彼らの運命を決定することになるのだからそれも当然だろう。


 その喧騒を押し割るようにして、奇妙な二人組が姿を現した。


「――夜分失礼仕る。某は織田家家中下方弥三郎忠弘ともうす」


 弥三郎の声は朗々と響いた。顔役だけでなく村人たちまでも彼に注目することを余儀なくされた。それほどまでに堂々とした名乗りだった。


「そして、こなたにおわすは、森の魔女どのであらせられる。我ら二名、義によって助太刀に参った!!」


「…………初めまして」

 

 驚きに言葉を失った顔役達を尻目に弥三郎は高らかにそう宣言する。まさしく奇襲のごとき登場だった。

どうも、みなさん、big bearです。

今回は久々のアクションシーン、腕が落ちていないといいのですが……

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

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