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ifルート《あおい空から始まる物語》  作者: 三角
本編《あおかったあの頃の思い出》
9/48

《2日目》世界の記憶を持つ者

「他の《世界》の私が彼の事をそう呼んでたから私もそうしたかったの」

「なんだって……?」


 僕の声は掠れていた。なぜ普通の人間には感知できない《世界》の存在を鈴奈は知っているのか。仮に鈴奈が他の《世界》の事を知っているとして何処まで知っているのか。僕の頭は混乱を極めた。


「信じてもらえないかも知れないけど、今いるこの《世界》の他にも沢山《世界》があるの。もう数えられないぐらい」

「俺は前に聞いたよ。俺は信じてるぜ!面白そうだしな」


 優輝は知っていたようだった。しかしよく信じる事ができるな。普通なら中二病患者なんじゃないかと疑ってしまうところだ。一応言っておくが鈴奈は天然なだけで中二病じゃないぞ。


「うーん。そんなに沢山《世界》があったら面白いのにね」


 どうやら恵美は鈴奈の言葉を冗談だと思ったらしかった。これが普通の人の反応だ。

 僕は鈴奈の台詞から本当に彼女が《世界》の事を知っていると推測した。だとするとこのまま鈴奈に《世界》の事を訊いていくべきか。それともここは誤魔化しておくか。

 前者なら恵美と優輝に《世界》の事がばれてしまうが情報収集はしやすくなる。後者なら二人には《世界》の事を知られることは無いだだし情報は手に入らない。


『ここで鈴奈に《世界》の事を訊くと遅かれ早かれ僕が《元の世界》の人間である事は露見するだろう。いや、今訊かなくても他の《世界》の事を知る鈴奈にはバレるか? それとも既にバレてるのか? そもそも鈴奈が何処まで知ってるのかも分からないし……クソ、頭こんがらがってきた』


 とにかく鈴奈のことを知らないとどうしようもない。そう考えた僕は鈴奈に《世界》の事を訊く事にした。


「……実は僕も《世界》について知ってることがある」

「ウソ!? 私以外に《世界》の事を知ってる人初めて! 嬉しいな!」


 アホ毛(金製)をユラユラ揺らしながら鈴奈は喜んでいた。笑顔が眩しかった。優輝は僕の台詞に驚いたようだった。


「お前マジか! なんで隠してたんだよ」

「いや、最近気付いたんだ。それに信じてもらえるか分からなかったし」

「えっ? えっ?」


 恵美はこの状況について来れなかったようだった。いや、ついて来れていた優輝がイレギュラーなだけだが。


「ヤッター! 仲間が出来たー! ワーイ!」

「なんだこの超展開! オラワクワクすっぞ!」

「わけがわからないよ!」

「みんな落ち着け。近所迷惑だ」

「「「すみません」」」


 ふう、とみんなで一息ついてから改めて話をする事にした。


「鈴奈、いくつか質問さしてくれないか?」

「いいよ、なんでもドンと来いだよ!」


 僕は鈴奈に質問する事にした。彼女は謎が多すぎた。


「どうして《世界》の存在を知っているんだ?」

「わからないけど、生まれた頃から知ってるの」


 なぜ知ってるのかは本人は分からないようだった。


『なんで鈴奈だけ知ってるんだ? ここら辺はルーシーに訊いた方が手っ取り早いか』

「なるほど。じゃあこの《世界》に似たような《世界》は知ってるか?」

「うん。知ってる」

『よし! これで《ifルート》と《元の世界》の違いがより明確にわかる』


 《元の世界》の事は知っているようだっだ。まあ他にも似たような《世界》がある確率もあったが。

僕が喜んでいたら鈴奈が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「だけどその《世界》の記憶は質問されてもあまり期待通りの返答は出来ないかも」

「どうして?」

「その《世界》の私はテルくん以外には会ってないし、テルくんともあんまり仲良くないの。私はその《世界》でもテルくんが好きだけど一方通行みたいだから……それに時が止まってるみたいなの」

「そんな事までわかるのか」


 僕はまた驚いた。これで何度目だろうか、彼女に驚かされるのは。なんでも分かってそうで少し怖いと思っていたが、そこで僕は違和感を感じた。

 《元の世界》の優輝も鈴奈の事が好きだから彼女の思いは一方通行ではないはずだ。もし鈴奈が《世界》の全てを知っているならその話は矛盾している。そこに気付いた僕は確証を得るための質問をした。


「鈴奈は《世界》の情報全ての持っているのか?」

「そういうわけじゃないよ。わかるのは《私のいる世界》の《私視点の記憶》、それと《私の強い感情》だけ。当然私のいない《世界》はなにも分からないし、弱い感情は感じ取れないの」

「そうなんだ」


 これで辻褄が合う。《元の世界》の時が止まっているのが分かったのはおそらく記憶の更新がされないからだろう。多分他にも何回かこんな事があったんじゃなかろうか。


『この分だと優輝が事故にあったのは知らないな。しかし鈴奈には《世界の記憶》があるんだ。いつか優輝の事を言わないと。いや、この事は二人にも言うべきだ……だけど今はまだ……』

「ありがとう、だいたい合点がいったよ」


 僕は無理やり感情を飲み込んで話を続けた。


「どういたしまして〜。じゃあ私からの質問いい?」

「ああ、いいよ」

「なんてカオスなトークなの……」


 恵美は全くついて来れないようだ。この中で常識人はもはや彼女だけでだった。


「あなたはどうやって《世界》の事を知ったの?さっきの口振りだと私みたいに生まれた時から知ってたわけじゃなさそうだけど」

「あ、俺も気になってた」

「私も」

「う、うーん……」


 なんとも返答に困る質問だ。僕も生まれた時から知ってたことにすれば良かったなどと思いながら、返答を考えた。

 取り敢えず本当の事は言いたくなかった。どうしても優輝の事故に繋がるし、何よりまだ自分が《元の世界》の住人であることを知られたくない。ルーシーの事もそうだ。《世界》を創った神様っぽい人とか、言いにくい。

 とにかく誤魔化そうと決断した。


「最近になってここに似たような《世界》の記憶が浮かぶっていうか……僕は鈴奈と違って一つしか《世界》を認識出来ないんだけどね」

「そうだったの……小さい時の私は《世界の記憶》が混線して少し困ったんだけど、その辺は大丈夫なの?」


 鈴奈は《世界の記憶》の事で苦労したようだった。もちろん僕はそんな事無かったがここは便乗しておいた。


「う、うん。たまにね。どっちの《世界》の出来事か分からなくなった事もあった。今もたまにあるかな」

『こんな感じで誤魔化しておけば僕が多少のボロを出しても許容範囲内に収まるかな』


 僕の言葉を聞いた恵美が合点がいったように手を合わせた。


「じゃあ、この前電話で優輝の事を訊いてきたのもそのせいだったのね」

「あ、うん」

「……」


 優輝は黙って僕を見ていた。恐らく僕の様子を見て嘘だと思ったのだろうが黙っていてくれたみたいだった。少し心が痛かった。


「とりあえずこれからも《世界》を認識できる者同士仲良くしようね!」

「ああ!」

「あっもうこんな時間だ。とりあえずご飯にしない?」


 恵美の言った通り時計も腹時計もいい時間なので晩飯を食べることにした。


本当はもっと長かったんでけど、長すぎたので二話に分ける事にしました。

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