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ifルート《あおい空から始まる物語》  作者: 三角
本編《あおかったあの頃の思い出》
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《2日目》勉強合宿チーズ大盛りで

 朝起きるとルーシーはいなかった。大きな欠伸をした後、朝食等の日課をすませるとまた部屋に戻った。

 ケータイを見ると恵美からメールがきていた。


『電話ありがとう! すっごく元気出た!! 二人とも勉強合宿OKだって! お昼過ぎに行きまーす!!』


 元気溢れるメール(通常運転)に安心しながら僕は今日の準備を始めた。と言っても昨日の内にやれる事はやっていたので国語の復習をしたり、みんなが分からなさそうな所の教え方を考えたりしながら時間を潰すだけなのだが。


 ピンポーン


 十二時を過ぎた頃、チャイムがなった。玄関まで迎えに行くと恵美と鈴奈がいた。


「「おじゃましまーす」」


 恵美は髪の毛を短く切っていた。女の子は気分転換に髪の毛を切ることが多いらしい。女の子がイメチェンしたときは褒めた方がいいと思った。


「髪切ったんだ、似合ってるよ」

「うんうん、短い髪の方が恵美ちゃんには似合うと思うよ」

「二人ともありがとう」


 確かに僕も短い方が似合っていると思った。元々は背中の中間ぐらいまでの長さだったが髪を切った後は肩にギリギリ届かないぐらいの長さだった。


「恵美は知ってると思うけど僕の部屋は二階だからそこで待ってて。僕はお茶とか適当に持って行くから」

「「ハーイ!」」


 例によって優輝は遅刻だった。優輝は学校等の集合は絶対遅刻しないが(ただしギリギリ)プライベートはかなり時間にルーズだった。

 女性二人の中に一人だけの寂しさも考えて欲しいものだ……ちょっと嬉しかったのは内緒。

 お茶とか菓子とか色々持って自室に戻った。


「お待たせ〜」

「あっ! いい所に帰ってきた! ちょっと聞きたいことあるんだけどね」

「なに?」


 鈴奈が僕に質問をしてきた。国語が得意と言っていた鈴奈にキッチリ教える事ができるか少し心配になった。

 だが鈴奈の質問は僕の想像の斜め上をいくものだった。


「パルメザンチーズってかっこよくない?」


 おっと、聞き間違えた。


「ごめん、もう一回言ってみてくれる?」

「パルメザンチーズってかっこよくない?」


 聞き間違えたと思っていた時期が僕にもありました。

 全くもってなんて答えたらいいのか分からなかった。いや、今も分からないが。しかも目をキラキラ輝かして聞いてくるもんだからガッカリさせるわけにもいかない。

 助け舟を求める為に恵美を見たが返ってきたのは苦笑いだった。まあ、誰だってこんな質問どう答えたらいいかわからないよな。

 とりあえず話の成り行きを知りたかったので訊いて見ることにした。


「う〜ん……どうしてこんな話になったの?」

「えと、私と恵美ちゃんで国語の課題やっててふと思ったのパルメザンチーズってかっこいいなって」

「なるほど」


 いや、なにがなるほどなんだよ、と自分にツッコミながら考えてみた。いや真面目に。

 まず鈴奈は十中十、十割、百パーセントで天然だと思った。ドが付くぐらいの逸材だ。

 さてここからが問題だ。彼女のキラキラした青い瞳の輝きを損なわせる事なく質問に答えられるのか。満足させることが出来るのか、だ。必死に考えた僕の選択肢はこれだ。


 ①パルメザンチーズを普通に褒める。褒めちぎる。


 ②他のチーズを出してみる。モッツァレラもイカすよね。


 ③かっこよくないと素直に言う。チーズハカッコヨクナイヨ。


 どうするか。①が無難か。しかし適当考えているんじゃないかと勘ぐられる気がしていやだった。

 では②か。しかし僕はかっこいいチーズがなんなのか分からない。チーズの格好良さを理解しないとボロが出てしまうかもしれない。

 じゃあ③ならどうだろう。いや、否定されたくはないはずだ。


「うーん……」

「やっぱりかっこ良くないかな……」


 まずい、このままではあのキラキラした青い瞳を失望させてしまう! そう思った僕に奇跡の作戦が舞い降りた。これならいける! そんな確信を持てる作戦だった。


『これならいける!』

「確かにパルメザンチーズって無茶苦茶かっこいいよな」

「かっこいいよね!」

「え……えぇ!?」


 鈴奈はその青い瞳をガンギラギンに輝かして喜んでいた。その笑顔、プライスレス。

 恵美は驚愕していた。手に持ったペンを落とすぐらいだったので、僕の台詞に相当驚いたんだな。だが驚くのはまだ早い! ここからが本番だ。


「だけど、僕はモッツァレラもかっこいいと思う!」


 ④パルメザンを褒めた後に他のチーズを突撃させる。パルメザンもいいけどモッツァレラもイイよね。


 ドヤァ。言ってやった。①と②を混ぜた究極の作戦だ。相手の意見を尊重しさりげなくフォローしつつ、尚且つ自分の意見を言うことの出来た。


「いや、モッツァレラはないよ。ないない」

「なん……だと……」

「ブフッ!」


 鈴奈に否定された挙句恵美に笑われた。そんなにモッツァレラがダメだったのか。だがここでひいたら男の名が廃るってもんだ! 僕はモッツァレラの良さを語った。


「いや、でもパスタとかピザとかグラタンとか色々な料理に使われてるし、かっこよくない?」

「いや、モッツァレラって響きが許せない」

「でも水牛の牛乳から作られるんだよ。かっこいいじゃん!」

「でもモッツァレラって響きが許せない」

「グッ……!」

「……! ……くっ……ふっ!」


 迂闊だった。鈴奈はチーズの使い方がかっこいいと思っていたわけじゃなかった。パルメザンチーズの名前の響きがかっこいいと思っていたんだ。こうなるとどうやってもモッツァレラの格好良さは伝えれない。何故なら僕もかっこいいと思わないからだ。

 恵美は笑いを堪えるのに必死だ。笑ってくれたのは嬉しかったが、このままだと僕はモッツァレラの使い方と製法をかっこいいと思ってる奴になってしまう所だ。


 ピンポーン


 ここで救世主、優輝が来てくれた。そこで僕は鈴奈に提案を持ち出した。


「優輝にモッツァレラとパルメザン、どっちがかっこいいか決めてもらおう」

「いい考えだね。わかった」

「なんの勝負なの……コレ」


 恵美の言うことは至極真っ当だがここまで来て引くのは男じゃない。優輝を連れて自室に戻ったら鈴奈が質問した。


「ねえテルくん、パルメザンチーズとモッツァレラチーズ、どっちがかっこいい?」

『たのむ! 神様仏様優輝様!』


僕と鈴奈は真剣な眼差しで答えを待っていた。うーん……と唸った審判長は答えたのだった。


「いや、どっちもカッコ良くないだろ」


 そらそうだ。




 しばらく三人で勉強していると鈴奈が歌を口ずさみ出した。その様子はすごく楽しそうだった。僕は何処かで聴いたことあるな、と思いながら聴いていた。次第に何処で聴いたのか気になり始めた僕は勉強をやめて思い出すことに専念した。

 しばらくして優輝が鈴奈と会話をし始めた。


「鈴奈、楽しそうだな」

「うん! テルくんやみんなと一緒に勉強出来て嬉しい!」

「そういえばさ、鈴奈ちゃん」

「なに?」

「どうして優輝の事をテルくんって呼ぶの?何処から来たあだ名?」

「ん? それはね優輝の輝を訓読みするとテルになるの」

「ああ! なるほど」

「それにね……」


「他の《世界》の私が彼の事をそう呼んでたから私もそうしたかったの」


 そう言った鈴奈の子供なのか大人なのか分からない雰囲気は本当に彼女(ルーシー)に似ていた。

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